
監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
「有責配偶者」とは、離婚原因を専ら作り、婚姻関係を破綻させた責任のある配偶者のことです。代表的なものとして、「不倫」や「家庭内暴力(DV)」などの行為により、夫婦間の信頼関係を破綻させた配偶者が挙げられます。
有責配偶者からの離婚請求としては、例えば、「不倫した配偶者が、不倫相手と一緒になりたいから、離婚するように言ってきた」などの場合があります。本稿では、このような場合に、離婚を拒否することができるのかについて解説していきます。
目次
有責配偶者からの離婚請求は認められるのか
本来離婚は、夫婦が互いに離婚することに合意すれば、離婚することができます(これを「協議離婚」といいます)。また、裁判所を使った手続きとして「離婚調停」(裁判所を通じた話し合いのことをいいます)において、離婚の合意に至っても同様です。そのため、有責配偶者から離婚を切り出したとしても、もう一方の配偶者がこれに同意すれば離婚することができます。
これに対し、相手に離婚を拒否された場合には、離婚訴訟を申し立てる必要があります。もっとも、自ら離婚の原因を作っておいて離婚したいというのは、身勝手な行動といえます。そのため、有責配偶者から離婚裁判を申し立てても、原則として有責配偶者からの離婚請求は認められません。
有責配偶者からの離婚請求が認められる3つの要件
有責配偶者からの離婚請求は、原則として認められません。その理由は、有責配偶者が婚姻関係を破綻させながら、相手に離婚を求める行為は、信義に反するものだからです。
ただし、次の要件を満たした場合には、例外的に有責配偶者からの離婚請求が認められる場合があります。
長期間別居していること
有責配偶者からの離婚請求であっても、長期にわたる別居が続いていれば、離婚を切り出すのはやむをえないとも考えられるため、離婚が認められやすくなります。
別居期間が相当の長期間にあたるかを判断するにあたり、夫婦の年齢や、同居期間と別居期間の対比をして総合的に判断されます。
もっとも、夫婦によって、別居・同居期間や年齢は様々ですから、具体的に何年の別居期間が必要かは断言することはできません。目安としては、7~10年程度別居していれば、長期間の別居と判断される可能性が高くなるといわれています。
未成熟子がいないこと
「未成熟子」とは、年齢だけで判断されるものではありません。経済的・社会的に自立して生活することができない子どものことをいいます(例:18歳の大学生)。
夫婦間に未成熟子がいなければ、離婚による子どもへの影響はない又は少ないため、離婚が認められやすくなります。
ただし、未成熟子がいる場合であっても、そのことのみをもって有責配偶者からの離婚請求が否定されるわけではありません。あくまで、有責配偶者からの離婚請求が信義に反するかを判断するための一つの考慮要素となります。
離婚しても過酷な状況に陥らないこと
他方の配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状況に置かれる場合には、有責配偶者からの離婚請求は信義に反すると判断されやすくなります。
例えば、有責配偶者の収入によって生活が支えられている場合や、障害のある子どもの介護をし続けることが予定されている場合には、離婚により、精神的・社会的・経済的に極めて厳しい状況に置かれると考えられます。そのため、このような状況がない場合には、有責配偶者からの離婚請求が認められる方向に傾きます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
有責配偶者の離婚請求を拒否したい場合の対応
- 離婚に合意しない
離婚に双方が合意して、離婚届けを役所に提出した場合には、離婚が成立してしまいます。話し合いの段階では、離婚を一貫して拒否しましょう。 - 別居しない
別居期間が継続すると婚姻関係が破綻しているとみられるため、別居しないようにしましょう。ただし、DVを受けている等の危険がある場合には、この限りではありません。 - 配偶者が有責配偶者である証拠を集めておく
相手が有責配偶者であると裁判所に認められるには証拠が必要です。そのためには、相手の有責性を証明する客観的な証拠を用意しておく必要があります。 - 役所に離婚届不受理申出をしておく
離婚届けが提出された場合、役所は形式的審査しかしないため、そのまま受理されます。勝手に離婚届けを出されるといった事態を防ぐために、離婚届不受理申出をしておきましょう。 - 裁判を欠席しない
調停は話し合いの場であるため、一方が欠席し続ければ不成立で終了します。しかし、調停が不成立となると、相手が離婚裁判を提訴してくる可能性があります。裁判では、欠席を続け、答弁書を提出していなければ、原告の主張が全面的に認められてしまう場合があります。
有責配偶者からの離婚請求を認めなかった裁判例
●東京高等裁判所平成9年11月19日判決
家族構成:夫、妻、長男(高校3年生)、次男(中学2年生)
同居期間:約6年間
別居期間:約13年間
【事案の概要】
夫が他の女性と親密になり、別居をしたのち、離婚訴訟を提起した事案。夫は、会社に勤務して月額約80万円を得ているほか、相当額の賞与を得ているが、妻には毎月25万円を送金するのみであり、それから家賃負担を控除すると残額は10万円に満たず、実家から月20数万円の援助をうけている状況であった。
このような状況で、裁判所は、有責配偶者である夫からの離婚請求は信義誠実の原則に照らし、認められないと判断した。
【解説】
約6年間の同居期間に対して、別居期間が約13年間にも及ぶため、別居期間が相当長期に及んでいると言い得る事案です。もっとも、毎月の婚姻費用の支払いは十分でないことや、養育費負担の観点から子供たちに対する影響等を考慮して、未成熟の二人の子供たちを残す現段階においては、有責配偶者からの離婚請求は信義誠実に反するとの判断をしました。
別居期間中の婚姻費用の支払い状況から、今後の子供たちへの心理的影響や養育費負担を考慮しており、有責配偶者からの離婚請求について参考になる事案です。
有責配偶者から離婚請求されたら弁護士にご相談ください
有責配偶者から離婚請求には、離婚が認められない場合があること、慰謝料の請求ができる場合があるなど、一般的な離婚事案と異なるため慎重な対応が求められます。また、有責配偶者からの離婚請求が認められるハードルは高いため、有責配偶者側が弁護士をつけてくる可能性があります。その場合には、自分一人で対応するのは難しくなるでしょう。
有責配偶者から離婚を求められた場合や、逆に有責配偶者と離婚したい場合には、ぜひお気軽に弁護士にご相談ください。弁護士は、あなたの状況に沿って全力でサポートします。
-
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)