労務

フレックスタイム制の留意点

働き方改革は、労働者自身が、それぞれの事情に合わせて、様々な選択肢の中から働き方を選べるようにすることで、より働きやすい社会を実現していくための改革と言われています。そして、労働者の側が出退勤時刻等をある程度自由に決定できる「フレックスタイム制」は、この“多様な働き方”を実現する方法の1つとして見直されています。
しかし、フレックスタイム制を導入するためには、大幅な制度変更が必要になります。ここでは、フレックスタイム制を導入する際の留意点等について、順を追って説明します。

フレックスタイム制における留意点

フレックスタイム制といえども、労働時間の管理をしなくて良いというものではなく、雇用主は、労働時間等の労務管理を行わなければなりません。
また、対象とする従業員の範囲や出退勤時刻の選択の幅、コアタイムの有無や清算期間、清算期間内の総労働時間等について、従業員のニーズや自社の業務に適応するように、適切な制度設計を行う必要があります。そのためにも、まずはメリットやデメリット等も含め、正しく制度を理解することが肝要です。

フレックスタイム制とは

フレックスタイム制は、一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることができるという制度です。
1日単位で出退勤の時刻を前後にずらすというだけではなく、「今週は1日の所定時間よりも多く働き、その分来週は所定時間よりも短く働く」というように、働く時間の長さもある程度自由に選択することができます。

そのため、1日単位、週単位で法定労働時間を超えても、直ちに時間外労働とはならず、労働時間の長短は、清算期間内において融通・清算されます(※この点は例外もあります)。
つまり清算期間の総労働時間と実際の労働時間に過不足がなければ残業代等の問題は生じませんが、過不足があればこれに応じた賃金の清算を行うことになります。

フレックスタイム制のメリット・デメリット

フレックスタイム制の最大のメリットは、労働者が仕事とプライベートを両立しやすくなるという点にあります。
通勤時間をずらして満員電車のストレスから解放されたいという要望や、保育園の送迎等の子育てとの両立、社会人向け大学院や資格取得に向けた学校への通学との両立等、個々の実情に合わせた働き方を選択できるということです。
雇用主にとっても、従業員のモチベーションや生産性の向上の他、これまでは子育てのために仕事を諦めていた優秀な人材を確保すること等が期待できます。

もっとも、制度設計を誤ると、肝心な時に従業員が出勤していない等、人員配置や業務の遂行に支障をきたしてしまうおそれがあります。対面での報告を重視していた場合、従業員が顔を合わせる時間が減少することで、情報共有等に支障をきたすことも想定されます。
制度の導入前に、労務管理の徹底や業務計画の共有方法等について、きちんと整備しておくことが必要です。

フレックスタイム制の導入にあたっての留意点

フレックスタイム制の導入には、就業規則に規定を設けることと、労使協定で所定事項を定めることが必要です。清算期間が1ヶ月を超える場合は、所轄の労働基準監督署長に労使協定の届出を行うことも必要となります。

労使協定の締結

フレックスタイム制を導入する際の労使協定には、①対象となる労働者の範囲、②清算期間、③清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)、④標準となる1日の労働時間を定めなければなりません。また、⑤コアタイム、⑥フレキシブルタイムの定めは任意とされていますが、通常想定されるのは、これらの定めを置くケースでしょう。
コアタイムを定めないものは、スーパーフレックスタイム制とも呼ばれています。より自由な働き方を認めるということは、従業員の自主性に任せることが増えるということであり、勤怠管理を徹底することや、業務計画を作成すること等が必要となります。
しかし、これを導入する企業の中には、出退勤の時間帯だけではなく、就業日や就業場所等も労働者が自由に選択可能というように、さらに柔軟な働き方を認めるものも現れています。

就業規則の規定と従業員への周知

フレックスタイム制を導入するためには、就業規則に「始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる」旨を定めなければなりません。対象労働者の範囲や、清算期間、総労働時間、標準労働時間、始業終業時刻やコアタイムに関する事項等も規定しておくべきでしょう。
就業規則を変更した場合、従業員にその内容を周知する必要があります(労基法106条1項)。
労働条件に関わる就業規則の変更ですので、周知しなければ効力を生じません(労契法10条)。所轄の労働基準監督署への届け出も必要です。

労働時間の管理における留意点

フレックスタイム制を導入した場合でも、雇用主が労働者の労働時間等を管理しなければなりません。休憩、休日等の労基法の定め(労基法34条、35条)についても、フレックスタイム制だからといって除外されるものではないことは注意が必要です。

休憩時間の付与について

労働基準法上、労働時間が6時間を超える場合45分以上、8時間を超える場合1時間以上の休憩を与えることが求められます(労基法34条1項)。これはフレックスタイム制の場合も同様です。
労基法上休憩は一斉に与えなければならないというのが原則ですが(労基法34条2項)、フレックスタイム制で一斉休憩が必要な場合はコアタイムを設けてその中間に休憩を定めるよう指導すること、一斉休憩が必要ない事業においては、各日の休憩時間の長さを定め、その時間帯を労働者にゆだねる旨を定めておくことが求められます(昭63・3・14基発第150号)。

遅刻・欠勤・早退の取扱い

フレックスタイム制は、出退勤時刻を労働者が選択することを可能とする制度ですので、基本的に遅刻や早退という概念はなくなります。
スーパーフレックスタイム制の中でも特に広い自由を認め、出勤日も自由に選択させるという場合もありますが、通常であれば、労働者が出勤日まで選択することはできません。コアタイムは労働が義務づけられている時間ですので、これに対する遅刻や早退、欠勤は不適切な行動です。
しかしながら、フレックスタイム制の下では、その労働時間の長短は清算期間内にて融通されますので、1ヶ月の総労働時間を満たしているなら、欠勤やコアタイムの遅刻・早退があっても賃金の控除はできません。

よって、コアタイムに対する遅刻、欠勤、早退は、予め就業規則に減給処分とする旨等を定めておくべきです。その上で、減給処分や考課査定における不利益を課す等の対応を検討しましょう。

フレックスタイム制の清算期間に関する留意点

フレックスタイム制では、労働者自身が日々の労働時間を選択します。1日8時間・週40時間という法定労働時間を超えて労働しても、ただちに時間外労働とはなりませんし、1日の標準の労働時間に達しない時間も遅刻や早退、欠勤となるわけではありません。

法改正による清算期間の上限延長

2019年の労働基準法改正により、清算期間の上限が従来の1ヶ月から3ヶ月に拡張されました。3ヶ月単位で総労働時間を定め、その範囲内で日々の出退勤を調整するという制度のもとでは、夏休み等の長期休暇の期間は労働時間を短くして子供との時間を増やす等、より柔軟な働き方を労働者が選択できるようになることが期待されています。

時間外労働に関する留意点

清算期間において労働者が実際に労働した時間のうち、法定労働時間の上限(総枠)を超えた時間は時間外労働として扱われます。1ヶ月を清算期間とした場合の法定労働時間の上限は、「31日 177.1時間、30日 171.4時間、29日 165.7時間、28日 160.0時間」となります。
清算期間における総労働時間は、この範囲内に収めなければならず、これを超えた分を、次期に働かなければならない時間から差し引くことはできません。超過分は時間外労働となり、残業代が発生します。

また、時間外労働を行わせる場合、36協定の締結が必要なのはフレックスタイム制を採用している場合も同じですのでご注意ください。
参考までに、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月の場合の法定労働時間の総枠を一覧にしています。

<法定労働時間の総枠>
精算期間の暦日数 精算期間の暦日数
1か月単位 31日 177.1時間
30日 171.4時間
29日 165.7時間
28日 160.0時間
2か月単位 62日 354.2時間
61日 348.5時間
60日 342.8時間
59日 337.1時間
3か月単位 93日 525.7時間
91日 520.0時間
90日 514.2時間
89日 508.5時間

時間外労働の上限規制

清算期間が1ヶ月を超える場合、「清算期間全体の労働時間が、週平均40時間を超えないことに加え、1ヶ月ごとの労働時間が、週平均50時間を超えないこと」という制限があり、これを超えた分は時間外労働として扱われます。

割増賃金の支払いについて

フレックスタイム制でも、時間外労働に対しては割増賃金(いわゆる「残業代」)の支払いが必要です。フレックスタイム制は、あくまで労働者が働き方を選択するものです。「繁忙期には長く、閑散期には短く働いてもらい、残業代は払わない」というような雇用主側の希望を叶えるものではありません。

フレックスタイム制により生じる問題の解決に向けて、弁護士がアドバイスさせていただきます。

フレックスタイム制の導入には、実際の運用面も考慮した上で綿密な制度設計を行うことが肝要です。就業規則の変更や周知、労使協定等についても労働者の真摯な同意等を形に残しておくことが望ましく、さらに、制度を導入後も適切な運用がされていないと、そもそも制度自体が無効とされてしまい、フレックスタイムであれば清算期間内で処理されたはずの労働時間が残業と評価されてしまう等のリスクも想定されます。

フレックスタイム制の導入は、専門家のアドバイスと協力の下に行うことが望ましく、まずは弁護士等にご相談されることをお勧めいたします。

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