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相続問題

相続放棄したのに管理義務?誰がいつまで?人に任せる方法とは

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士

被相続人が借金を残したまま死亡した場合や特定の相続人に相続財産を集中させる場合等には、相続人が「相続放棄」を選ぶことがあります。

もっとも、相続放棄の手続きをしたとしても、それだけで全ての負担から逃れられるわけではありません。相続しなくても管理が必要な財産がある等、注意すべき点があります。

以下では、相続放棄後の相続人の管理義務について説明します。

目次

相続放棄をしても残る管理義務とは

民法940条より、相続の放棄をした者は、相続放棄時に現実に占有している相続財産がある場合は、その財産を相続人または清算人に引き渡すまで、自己の財産におけると同一の注意をもってその財産の管理を継続しなければならない義務を負います。

相続放棄しても管理費用と労力はかかる

例えば、相続財産が実家だが、相続人が遠方に引っ越すため誰も住まない空き家となる場合、相続放棄者は空き家の管理を行う必要があります。空き家は周囲から家の中が見えにくいため、犯罪の温床となるおそれなどがあり、周辺の生活環境に影響を及ぼしかねません。他にも、建物が老朽化している場合は倒壊など事故のおそれもあります。

そのため、相続放棄をしても、相続放棄者は建物の解体や修繕、立木竹の伐採など、周辺の住民に迷惑をかけないよう対策を講じる必要があります。

なお、相続放棄者が管理しているときに空き家が倒壊する等で第三者に損害を与えてしまった場合には、相続放棄者は損害賠償責任を負いうる点にも注意が必要です。

管理義務の対象となる遺産

空き家、空き地、農地、山林等の不動産類に加え、貴金属等の動産、預貯金等、全ての相続財産が管理義務の対象となります。

管理って何をすればいい?管理不行き届きとされるのはどんなケース?

空き家を例に挙げると、老朽化した建物を修繕しないまま放置し、その結果建物が倒壊して周囲にいた第三者に損害を与えた場合は、管理不行き届きとなります。この場合、相続放棄者は、その第三者から損害賠償を請求されるおそれがあります。

このような事態を避けるため、相続放棄者は定期的に建物等の状態を確認し、必要に応じて修繕や補強、瓦礫の撤去をする必要があります。また、空き家内に人が入らないように敷地にフェンスを設置したり「立ち入り禁止」等の看板を用意することも考えられます。

管理義務は誰にいつまであるの?

改正民法940条1項は、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」と規定しています。

そのため、相続人はたとえ相続放棄をしたとしても、放棄時に相続財産に当たる物を現実に占有している場合は、他の相続人または相続財産清算人に対し当該物を引き渡すまでの間、管理義務を負うことになります。

民法改正の2023年4月1日以降は誰に管理義務があるのか明確になる

相続放棄者の管理義務について、改正前民法では、相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者がその相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続する義務を負うと規定されていました。

しかし、改正民法により、2023年4月1日以降は、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九五二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」と規定されました。

改正民法では相続放棄時に「現に占有」している相続放棄者であることが要件となるため、相続人が実際に占有していない相続財産については、管理義務の対象外となります。

民法改正以前に起きた相続でも適用される?

改正民法の適用開始時期は、2023年(令和5年)4月1日です。施行日後に相続放棄された場合に適用されます。

管理義務のある人が未成年、または認知症などで判断能力に欠ける場合

相続人が未成年者や重度の認知症で判断能力に欠ける場合、親権者や成年後見人といった法定代理人が本人に代わって相続放棄の手続きをする必要があります。

相続放棄者の管理義務については、相続人が未成年者や重度の認知症等で判断能力に欠ける場合、現実には自身で管理を行えない者であっても、相続放棄者である以上、本人が管理義務を負う可能性が高いです。

管理義務のある人が亡くなった場合

相続放棄後は、相続財産が相続放棄者の相続人に相続されることはありません。相続放棄者は、はじめから相続人とならなかったとみなされるからです。

相続放棄後の管理義務は、「相続を放棄した者」が、他の相続人等に対して負う保存義務であるため、相続放棄者の相続人が、管理義務だけを相続することはありません。

ただし、相続財産を他の相続人等に未だ引き渡さず占有しているような場合は、別途、土地工作物等の占有者としての責任を負うといったことはあり得ます。そのような場合は、損害賠償責任を問われないよう管理をする必要があります。

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遺産の管理をしたくないなら相続財産清算人を選任しましょう

これまで述べたように、相続放棄した元相続人は、相続財産に関して損害賠償義務を負わされてしまう可能性があります。こうした負担から解放されるためには、家庭裁判所に相続財産清算人の選任申立てをする必要があります。相続財産清算人に相続財産を引き渡すことで、相続放棄者は相続財産の管理から解放されます。

相続財産清算人とは

相続財産清算人とは、相続人がいない場合に、被相続人の相続財産の管理をする人です。
相続人がいるのかが明らかでない場合や、すべての相続人が相続する権利を放棄して相続人がいなくなった場合等に、相続に関して利害関係がある人や検察官の申立てによって家庭裁判所で審理され、選任されます。

一般的には、弁護士や司法書士などの専門職に委嘱されることが多くあります。

選任に必要な費用

相続財産清算人選任を申立てる際は、収入印紙800円と連絡用の郵便切手数千円程度がかかるほか、相続財産の存在が明確でない場合は、「予納金」を支払う必要があります。

予納金は、相続財産清算人が遺産の清算を進めるのに必要な経費や相続財産清算人の報酬に充てられるお金です。予納金の額は、裁判所が事案の内容に応じて決めますが、概ね、30万円から100万円程度です。

相続財産が十分にあれば、最終的には、相続財産の中から予納金も返還されます。

選任の申立・費用の負担は誰がする?

選任の申立は、利害関係人がすることができます。

利害関係人とは、相続財産の保全につき法律上の利益を有する者をいいます。具体的には、特別縁故者や相続債権者、受遺者などが挙げられます。もっとも、相続財産の無管理状態が継続することを避けるため、利害関係人に当たるかは柔軟に考えられる傾向にあるようです。

そして、費用の負担は申立をした者がすることになります。

相続財産清算人の選任方法

相続財産清算人を選任したいときには、相続財産清算人選任の申立書を作成し、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所へ提出することで、相続財産清算人選任の申立てを行います。

相続財産清算人選任の申し立てがなされると、家庭裁判所は審理を行い、被相続人との関係や利害関係の有無、相続財産の内容などを考慮して、相続財産を管理するのに最も適任と認められる人を選任します。

相続財産清算人となる人に特段の資格は必要なく、申立人が候補者をあげることもできます。

相続放棄をした財産に価値がない場合、相続財産清算人が選任されないことがある

相続財産が少ない、または借金などの消極財産しかないときに、相続財産清算人を選任した場合、相続財産清算人が選任されないことがあります。

申立人は費用に加えて予納金を支払いますが、予納金は相続財産の中から返還されることになっています。しかし、相続財産が少ない、または消極財産しかない場合は、予納金を返還するための原資がないことになり、申立人が費用を自ら負担せざるを得ない結果となるため、金銭的な負担を避けるため、相続財産清算人が選任されないことがあります。

管理義務に関するQ&A

相続放棄した土地に建つ家がぼろぼろで崩れそうです。自治体からは解体を求められていますが、せっかく相続放棄したのにお金がかかるなんて…。どうしたらいいですか?

家の解体は処分行為に当たり、相続を承認したとみなされて相続放棄が無効になる可能性があるため、相続放棄者が解体を行うことは避けるべきです。
自治体から命令を受けた場合であっても、これに従うことができない正当な理由がありますから、行政代執行にかかる空き家の解体費用などを負担しないですむ可能性があります。

なお、この管理義務は、後に相続人となる者に対する義務であって、地域住民などの第三者に対する義務ではありませんが、空き家の倒壊や放火等により第三者に損害を与えた場合には、損害賠償責任を負うこともあり得ます。

他方で、相続財産清算人を選任した場合、場合によっては100万円程度の予納金が必要となり、相続財産の財産価値によっては予納金が返還されないという金銭的負担を負う可能性もあります。しかし、相続財産清算人は、相続財産清算人に対する報酬は初めに納付した予納金の範囲内で認められ、追加の費用納付を命じられることは考え難いといえます。

以上からすると、本件のような場合、金銭的な負担を負うことも承知の上で、損害賠償責任等のリスクを回避するために、相続財産清算人の選任の申立てをすることも選択肢の1つとして考えられます。

全員相続放棄しました。管理義務があるなんて誰も知らなかったのですが、この場合の管理義務は誰にあるのでしょうか?

法定相続人が全員放棄した場合であっても特に変わるところはありません。つまり、放棄した者のうち、相続放棄時に現実に相続財産を占有していた者については、相続財産清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、管理義務があります。

相続放棄したので管理をお願いしたいと叔父に伝えたところ、「自分も相続放棄するので管理はしない」と言われてしまいました。私が管理しなければならないのでしょうか?

この場合であっても、相続放棄時に現実に相続財産を占有していた者が誰かによって管理すべき人が異なります。

つまり、相談者が相続放棄の時に相続財産を現に占有していて、叔父が相続放棄時に占有していなかった場合には相談者が相続財産を管理しなければなりません。

他方、相談者が相続放棄の時に相続財産を現に占有していなかった又は占有していたとしても、叔父が相続放棄時に占有していた場合には叔父が相続財産を管理しなければなりません。

相続放棄したのに固定資産税の通知が届きました。相続しないのだから、払わなくても良いですよね?

固定資産税の課税では、課税者等を決定する期日に登記簿等に登録されていた人を土地の所有者として扱います。そのため、相続放棄をしても、課税者等を決定する期日に登記簿等に登録されていた人には、固定資産税の納税通知が届きます。

相続放棄をしたからといって固定資産税の支払いをしない場合は、思わぬトラブルにつながるおそれがあります。通知を無視することは避け、相続放棄をしたことを証明する書面を役所に提出するなど、手続きをする必要があります。

相続放棄後の管理義務についての不安は弁護士へご相談ください

相続放棄の管理業務は、これまでに述べたように複雑なことがあります。その仕組みや内容、具体的な手続き等について、しっかりと把握して判断するためにも、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

相続放棄後の管理義務について、ご不明点や不安なこと等、どうぞ気軽にご相談ください。

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。