
監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
「DV」とは、ドメスティックバイオレンスの略称であり、日本では「配偶者や恋人など親密な関係にある、又はあった者から振るわれる暴力」という意味で使用されることが多いです。
DVといえば「加害者は夫で、被害者は妻」というイメージがありませんか?しかし、DVは妻から夫へされることもあり、その数は年々増加しています。
本記事では、DV妻と離婚する際のポイントや他の離婚方法との違い、取り決めるべき内容などを詳しく解説していきます。離婚を検討中の方は、ぜひご覧ください。
目次
妻から夫へのDVは増加している
昨今、妻から夫へのDVの数は増加傾向にあります。配偶者からDV被害を受けたことのある男性は、内閣府男女共同参画局による男女間における暴力に関する調査によると、平成17年度時点では17.4%であったのに対し、令和2年度の調査では19.9%、令和5年度の調査では22.0%と増加していることがわかります。
令和5年度では結婚したことのある男性の5人に1人が配偶者からDVを受けたことがあることが判明しており、今後も妻から夫へのDV被害は増え続ける可能性があります。
妻からのDVを理由に離婚できる?
離婚する方法には、主に「協議」「調停」「裁判」があります。
「協議」「調停」は、相手方(妻)との間で離婚することについて合意することで離婚することができます。
これに対し、「裁判」で離婚をするためには法定の離婚事由が必要となります(民法770条1項)。
妻からのDVは、法定の離婚事由である「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(同項5号)に当たる可能性があります。
妻からのDVは、話し合いで解決する「協議」「調停」の場合はもちろん、裁判所が判断する「裁判」であっても離婚できる可能性があります。
妻から夫へのDVでよくある事例
妻から夫へのDVでは、女性と男性で体格差が生じるため、身体的暴力よりも精神的暴力を受けるというのがよくあるケースです。
具体的な例としては、夫の人格を否定するような暴言を吐く、夫の母親に夫の文句を言う、子供に夫の悪口を吹き込む、細かなことを指摘して謝罪や土下座を強要するといったことが挙げられます。その他、お小遣いを制限する等の経済的暴力も、妻からのDVでよくあるケースといえます。ただし、身体的暴力が全くないわけではなく、直接蹴る・殴るのほか、椅子や包丁といった道具を持ち出してくることもあります。
また、夫としても、妻との間には体格差があることから、妻へ反撃をすることなくじっと我慢をしていることが多く、妻からの身体的・精神的・経済的な暴力が一方的なものになることも少なくありません。
DV妻と離婚したい場合の対処法
DVの証拠を集める
DVはその名のとおり家庭内で起こるものであるため、DVを原因とする離婚を裁判所に認めてもらうためには、DVがあったことを示す客観的な証拠が不可欠です。
具体的には、DVを受けた際の怪我の写真や診断書(精神障害も含みます)、 DVを受けている状況の録音・録画であったり、DVを受けたことを記載している日記、警察や配偶者支援センター等へ相談をした記録などがDVの証拠となり得ます。
子供の親権は父親が得られる?
本記事作成時では、夫婦が離婚する場合には、どちらか一方が子供の親権者となります。離婚時に妻が子供の親権者に夫がなることを合意すれば、子供の親権を父親が持つことができます。
もし妻が親権を夫が得ることに合意しなければ、裁判所が親権者を決めることになりますが、裁判所が親権者を決める際には、子供の幸せ(子供の福祉)が判断基準となります。そのため、DV妻(母親)が子供に対して暴力や虐待のようなことをしていたり、子供が母親より父親になついている・父親と一緒に暮らしたいと思っている等、母親よりも父親と主に暮らす方が子供にとって幸せであると裁判所が判断した場合には、子供の親権を父親が得ることができます。
なお、2026年5月までに共同親権の施行が予定されており、共同親権が施行されると離婚後も妻と共同して子供の親権者となることができるようになります。詳しくは、以下の記事をご覧ください。
DV妻からの被害に遭っている場合の注意点
夫婦喧嘩で妻から暴力を振るわれてもやり返さない
夫婦喧嘩で妻から暴力を振るわれたとしても、やり返さないように注意してください。もしやり返してしまうと、さらなる暴力を振るわれる可能性があり、身体の安全が脅かされる可能性があるからです。
また、夫がやり返したことを契機に、妻がDVの被害者であると主張して通報してしまうことが考えられます。DV被害者であったはずの夫が、DV加害者になってしまう可能性があります。
威嚇として暴力を振るうような仕草をすることも避けた方がよいでしょう。威嚇であったとしても、やり返してしまった場合と同様に、妻が、夫からDVを受けたとして通報する可能性があるからです。
安易な別居を行わない
妻のDVから逃れるためであっても、安易な別居には注意が必要です。
別居により、妻から婚姻費用を請求されるおそれや、一方的な別居であった場合には法定離婚事由の一つである「悪意の遺棄」にあたるとして、慰謝料を請求されるおそれがあります。「悪意の遺棄」ではなく別居に正当な理由があると認められるためには、妻のDVを立証する必要があります。
ただし、DVにより自身や子供に身の危険を感じる程度であれば、すぐに警察や弁護士に相談し、別居を勧めていく必要があるでしょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
妻からのDVで離婚したら慰謝料はいくらもらえる?
離婚の慰謝料の相場は、50万円~300万円だといわれています。これは、DVによる離婚であっても例外ではありません。
慰謝料の判断では、婚姻期間の長さやDVの継続年数、DVの頻度・程度、妻からのDVによる夫の心身への影響、子供の有無等の個別事情を考慮して額が決められるため、金額に幅があります。
もっとも、上記の相場は裁判上の相場であり、協議などで相手方と合意をすることにより慰謝料を増額できる可能性があります。
DV妻に関するALGの解決事例
離婚に消極的なDV妻を説得して離婚調停を成立させた事例
(事案概要)
依頼者の方は夫で、相手方は妻でした。依頼者は相手方のDVを原因として、約3年ほど前に自宅を出る形で別居を開始し、両名の間には幼少の子がおりました。依頼者は相当な別居期間が経過したことから早期の離婚を希望していた事案です。
(結果)
相手方が離婚に消極的だった理由としては、離婚後の生活不安でした。そこで、依頼者の方にある程度資力があったことから、解決金としてある程度の金額、養育費としても算定表以上の数字を相手方に提示し、離婚しても生活不安がないようにケアすることで離婚に応じることができないかと調停委員を通じ説得してもらうことにしました。そして、最終的には相手方も当方の合意案に応じ、調停離婚に至りました。
妻からのDVに関するQ&A
妻のDVから逃げたいのですが、男性でも使えるシェルターはありますか?
DVシェルターは女性のDV被害者向けのものが多く、男性用のシェルターの数は少ないのが現状です。そこで、一度、行政の相談窓口へ相談していただき、利用できるシェルターを紹介してもらうことをおすすめします。具体的な相談窓口は、各地方自治体の配偶者暴力相談支援センター等です。地方自治体によっては、DV被害者男性専用の相談窓口がある場合もあります。
dv妻が離婚してくれないのですが、どうしたらいいでしょうか?
話し合いでDV妻が離婚に合意してくれない場合、離婚調停を申し立てる方法があります。
離婚調停が不成立で終わった場合、離婚訴訟を提起するべきです。DVの立証ができれば法定の離婚事由が存在することになり、判決によって離婚することができます。
また、弁護士に相談をして弁護士にDV妻とのやりとりを対応してもらう方法もあります。
妻からのDVでお悩みなら、一度弁護士に相談してみましょう
妻からのDVで離婚しようとお考えの方は、弁護士に相談することをおすすめします。離婚時には、慰謝料や財産分与等、決めることが多くあり、子供がいる場合には親権や養育費等、さらに取り決める事柄が増えます。当事者間の話し合いがうまくまとまらなければ、裁判にまで発展する場合もあります。
そこで、弁護士に相談することで、ご自身の状況に合わせ、どのように離婚を進めていけば良いのか、適切なアドバイスを受けることができます。また、DVをする妻との交渉はもちろん、裁判所の手続も弁護士に任せられます。
DV被害で苦しんでいるのは、女性ばかりではありません。男性がDVの被害者になることもあります。お辛い状況から一刻も早く解放されるよう、妻からのDVで離婚を考え、お悩みの場合には、一度弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)