
監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
養子がいると、相続人が支払う相続税を抑えられる可能性があります。そのため、相続税対策として、養子縁組により法定相続人を増やすこと増やすことも相続税の支払いを軽減する一案になり得ます。 しかし、養子縁組は法律上の親子関係になる制度であるため、メリットとデメリットを理解して、慎重に判断する必要があります。
この記事では、相続税対策としての養子縁組について解説します。
養子は相続税対策になる?
養子縁組をすると、養子は養親の法定相続人となり、養親が遺した相続財産を相続できます。相続において、実子と養子の間に取り扱いの差はないため、養子であったとしても実子と同様に扱います。
そして、養子縁組をすることにより、相続税の基礎控除が増えるため、相続税対策となります。
ただし、養子縁組による基礎控除の増加は、実子がいる場合には一人まで、実子がいない場合には二人までと制限があります。
相続税対策として行われる養子縁組にはどんなものがある?
孫と養子縁組
孫にまとまった財産を遺すために生前にできる方法としては、110万円までの生前贈与をよく耳にするのではないでしょうか。しかし、生前贈与では年間110万円を超えると贈与税がかかってしまいますし、法改正により生前贈与は7年まで遡って生前贈与加算をされて計算されるため、相続税対策として行うのが難しくなりました。
そのようなとき、養子縁組をすることによって確実にまとまった財産を遺しつつ、相続税対策をすることができます。
また、孫と養子縁組をすることによって、親子間一代を飛ばして相続させることができるため、相続税の支払い回数を削減することができます。
子の配偶者と養子縁組
被相続人の子の配偶者は、相続人ではないため、被相続人が死亡しても相続をさせることはできません。しかし、養子縁組をすれば、子の配偶者にも相続させることは可能です。
例えば、子の配偶者による献身的な介護を受けたため、その感謝として、遺産を相続してもらうために養子縁組をすることが考えられます。
なお、被相続人の親族が無償で介護等を行った場合には、相続人に対して「特別寄与料」という金額を請求することができる制度があります。しかし、特別寄与料を受け取るのは簡単ではなく、金額も十分でないことが多いため、まとまった財産を遺したい場合には、養子縁組が有益です。
相続税対策に養子縁組することのメリット
-
① 基礎控除額の増加
相続税の基礎控除額は、
「3000万円+(600万円×法定相続人の人数)」
というように計算します。
そのため、養子縁組により法定相続人の数を増やせば、相続税対策となる場合があります。
- ② 累進課税の緩和
基礎控除額の場合と同様に、法定相続人が増えることにより、各法定相続人の法定相続分が減少し、適用税率の区分が下がる場合があります。
- ③ 非課税金額の増加
生命保険金や死亡退職金の非課税金額は、
「500万円×法定相続人の人数」
というように計算します。
そのため、養子が1人増えると非課税金額も500万円増える可能性があります。
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④ 遺留分の減少
これは、相続税負担の話ではありませんが、養子が増えることで各相続人の遺留分が減少することになります。そのため、特定の相続人になるべく多くの相続財産を遺したい場合には、あえて養子を増やしておくという方法がとられることがあります。
相続税対策のために養子縁組することの注意点
他の相続人とトラブルになることがある
養子縁組をすると、養子は養親の法定相続人となり、実子と同等の法定相続分を有することになります。何の相談もなく、相続が開始されたときに養子縁組の事実を知り、自らの法定相続分が減ったことを知れば、取り分が減ることに反発する実子もいるでしょう。
そのため、養子縁組をする際には、事前に、被相続人と実子関係にある人等の了承を得るのが望ましいと言えます。
基礎控除の枠として有効な養子の数には制限がある
民法上は、養子の数に制限はなく、何人でも養子縁組をすることはできます。
しかし、相続税法上においては、実子がいる場合には1人、実子がいない場合には2人までしか養子をカウントしません。
これは、養子縁組制度を利用した、行き過ぎた節税対策を防止するためのものです。
さらに、相続税を抑えることだけを目的として養子縁組をしたとみなされれば、養子を法定相続人の数に加えない措置を受ける可能性があります。
相続税が2割加算されるケースもある
孫と養子縁組をした場合には、原則、相続税が2割加算されます(ただし、孫が代襲相続をした場合を除きます)。
これは、通常は、親から子、子から孫へと2回の相続でそれぞれ相続税を支払うはずが、孫を養子にして直接相続することにより相続税の支払いを減らそうとすることを防止するための規定です。
また、相続人が配偶者または親子以外である場合も、同様に相続税が2割加算されます。これは、相続する可能性が低かった者には、相続財産を生活のために必要とする予定であったとは考え難いため、相続税を重くしても問題ないと考えられるからです。
節税目的の養子縁組は否認されることがある
税務署の判断により、制限人数内であっても、相続税の計算上の法定相続人であるとは認められない場合があります。
(例)養子の中に全く財産を相続しない者がいる場合
相続発生の直前に養子縁組し、相続してすぐに死後離縁した場合
これらの場合には、節税対策のみを目的とした養子縁組として、相続税法上は有効な養子縁組として認められない可能性があります。
なお、これらは相続税を計算する時の話であり、養子縁組自体の効果が否定されるわけではありません。そのため、税務署に否定されても、法定相続人となり相続財産を相続することは可能です。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
相続税対策として養子縁組する方法
養子縁組には、2つの方法があります。
- ① 普通養子縁組
養子が養親と法律上の親子となる一方で、実親との親子関係が存続する制度です。
成年者を養子とする場合には、婚姻の場合と同様に、当事者の合意と届出のみによって成立します。
なお、未成年者等を養子とするには、家庭裁判所の許可が必要な場合があります。
- ② 特別養子縁組
法律上の実親子関係を終了させて、新たな法律上の親子関係を創造する制度です。
特別養子縁組は、普通養子縁組よりも要件が厳しくなっており、実父母の同意や、実父母による看護ができないような特別の事情がある場合においてこの利益のため特に必要がある場合に認められます。また、家庭裁判所の審判を経る必要があります。
以上のように、特別養子縁組はその要件が厳しいため、相続税対策を考える場合には、普通養子縁組をするのが一般的と言えるでしょう。
相続についてのお悩みは弁護士にご相談ください
養子縁組により法定相続人を増やせば、相続税を抑えられる可能性があります。
しかし、相続は、血のつながった親族間でもトラブルになりやすいものです。養子縁組によって新たな家族関係を形成することで、トラブルを引き起こす原因になりかねません。
また、場合によっては、節税対策とならないことや、生前贈与や遺言の方法を取った方が良いこともあります。
弁護士であれば、どのような方法を用いるべきか、相談者様の状況に応じたアドバイスが可能です。
まずはご気軽にご相談ください。
被相続人が借金を残したまま死亡した場合や特定の相続人に相続財産を集中させる場合等には、相続人が「相続放棄」を選ぶことがあります。
もっとも、相続放棄の手続きをしたとしても、それだけで全ての負担から逃れられるわけではありません。相続しなくても管理が必要な財産がある等、注意すべき点があります。
以下では、相続放棄後の相続人の管理義務について説明します。
相続放棄をしても残る管理義務とは
民法940条より、相続の放棄をした者は、相続放棄時に現実に占有している相続財産がある場合は、その財産を相続人または清算人に引き渡すまで、自己の財産におけると同一の注意をもってその財産の管理を継続しなければならない義務を負います。
相続放棄しても管理費用と労力はかかる
例えば、相続財産が実家だが、相続人が遠方に引っ越すため誰も住まない空き家となる場合、相続放棄者は空き家の管理を行う必要があります。空き家は周囲から家の中が見えにくいため、犯罪の温床となるおそれなどがあり、周辺の生活環境に影響を及ぼしかねません。他にも、建物が老朽化している場合は倒壊など事故のおそれもあります。
そのため、相続放棄をしても、相続放棄者は建物の解体や修繕、立木竹の伐採など、周辺の住民に迷惑をかけないよう対策を講じる必要があります。
なお、相続放棄者が管理しているときに空き家が倒壊する等で第三者に損害を与えてしまった場合には、相続放棄者は損害賠償責任を負いうる点にも注意が必要です。
管理義務の対象となる遺産
空き家、空き地、農地、山林等の不動産類に加え、貴金属等の動産、預貯金等、全ての相続財産が管理義務の対象となります。
管理って何をすればいい?管理不行き届きとされるのはどんなケース?
空き家を例に挙げると、老朽化した建物を修繕しないまま放置し、その結果建物が倒壊して周囲にいた第三者に損害を与えた場合は、管理不行き届きとなります。この場合、相続放棄者は、その第三者から損害賠償を請求されるおそれがあります。
このような事態を避けるため、相続放棄者は定期的に建物等の状態を確認し、必要に応じて修繕や補強、瓦礫の撤去をする必要があります。また、空き家内に人が入らないように敷地にフェンスを設置したり「立ち入り禁止」等の看板を用意することも考えられます。
管理義務は誰にいつまであるの?
改正民法940条1項は、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」と規定しています。
そのため、相続人はたとえ相続放棄をしたとしても、放棄時に相続財産に当たる物を現実に占有している場合は、他の相続人または相続財産清算人に対し当該物を引き渡すまでの間、管理義務を負うことになります。
民法改正の2023年4月1日以降は誰に管理義務があるのか明確になる
相続放棄者の管理義務について、改正前民法では、相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者がその相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続する義務を負うと規定されていました。
しかし、改正民法により、2023年4月1日以降は、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九五二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」と規定されました。
改正民法では相続放棄時に「現に占有」している相続放棄者であることが要件となるため、相続人が実際に占有していない相続財産については、管理義務の対象外となります。
民法改正以前に起きた相続でも適用される?
改正民法の適用開始時期は、2023年(令和5年)4月1日です。施行日後に相続放棄された場合に適用されます。
管理義務のある人が未成年、または認知症などで判断能力に欠ける場合
相続人が未成年者や重度の認知症で判断能力に欠ける場合、親権者や成年後見人といった法定代理人が本人に代わって相続放棄の手続きをする必要があります。
相続放棄者の管理義務については、相続人が未成年者や重度の認知症等で判断能力に欠ける場合、現実には自身で管理を行えない者であっても、相続放棄者である以上、本人が管理義務を負う可能性が高いです。
管理義務のある人が亡くなった場合
相続放棄後は、相続財産が相続放棄者の相続人に相続されることはありません。相続放棄者は、はじめから相続人とならなかったとみなされるからです。
相続放棄後の管理義務は、「相続を放棄した者」が、他の相続人等に対して負う保存義務であるため、相続放棄者の相続人が、管理義務だけを相続することはありません。
ただし、相続財産を他の相続人等に未だ引き渡さず占有しているような場合は、別途、土地工作物等の占有者としての責任を負うといったことはあり得ます。そのような場合は、損害賠償責任を問われないよう管理をする必要があります。
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遺産の管理をしたくないなら相続財産清算人を選任しましょう
これまで述べたように、相続放棄した元相続人は、相続財産に関して損害賠償義務を負わされてしまう可能性があります。こうした負担から解放されるためには、家庭裁判所に相続財産清算人の選任申立てをする必要があります。相続財産清算人に相続財産を引き渡すことで、相続放棄者は相続財産の管理から解放されます。
相続財産清算人とは
相続財産清算人とは、相続人がいない場合に、被相続人の相続財産の管理をする人です。
相続人がいるのかが明らかでない場合や、すべての相続人が相続する権利を放棄して相続人がいなくなった場合等に、相続に関して利害関係がある人や検察官の申立てによって家庭裁判所で審理され、選任されます。
一般的には、弁護士や司法書士などの専門職に委嘱されることが多くあります。
選任に必要な費用
相続財産清算人選任を申立てる際は、収入印紙800円と連絡用の郵便切手数千円程度がかかるほか、相続財産の存在が明確でない場合は、「予納金」を支払う必要があります。
予納金は、相続財産清算人が遺産の清算を進めるのに必要な経費や相続財産清算人の報酬に充てられるお金です。予納金の額は、裁判所が事案の内容に応じて決めますが、概ね、30万円から100万円程度です。
相続財産が十分にあれば、最終的には、相続財産の中から予納金も返還されます。
選任の申立・費用の負担は誰がする?
選任の申立は、利害関係人がすることができます。
利害関係人とは、相続財産の保全につき法律上の利益を有する者をいいます。具体的には、特別縁故者や相続債権者、受遺者などが挙げられます。もっとも、相続財産の無管理状態が継続することを避けるため、利害関係人に当たるかは柔軟に考えられる傾向にあるようです。
そして、費用の負担は申立をした者がすることになります。
相続財産清算人の選任方法
相続財産清算人を選任したいときには、相続財産清算人選任の申立書を作成し、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所へ提出することで、相続財産清算人選任の申立てを行います。
相続財産清算人選任の申し立てがなされると、家庭裁判所は審理を行い、被相続人との関係や利害関係の有無、相続財産の内容などを考慮して、相続財産を管理するのに最も適任と認められる人を選任します。
相続財産清算人となる人に特段の資格は必要なく、申立人が候補者をあげることもできます。
相続放棄をした財産に価値がない場合、相続財産清算人が選任されないことがある
相続財産が少ない、または借金などの消極財産しかないときに、相続財産清算人を選任した場合、相続財産清算人が選任されないことがあります。
申立人は費用に加えて予納金を支払いますが、予納金は相続財産の中から返還されることになっています。しかし、相続財産が少ない、または消極財産しかない場合は、予納金を返還するための原資がないことになり、申立人が費用を自ら負担せざるを得ない結果となるため、金銭的な負担を避けるため、相続財産清算人が選任されないことがあります。
管理義務に関するQ&A
相続放棄した土地に建つ家がぼろぼろで崩れそうです。自治体からは解体を求められていますが、せっかく相続放棄したのにお金がかかるなんて…。どうしたらいいですか?
家の解体は処分行為に当たり、相続を承認したとみなされて相続放棄が無効になる可能性があるため、相続放棄者が解体を行うことは避けるべきです。
自治体から命令を受けた場合であっても、これに従うことができない正当な理由がありますから、行政代執行にかかる空き家の解体費用などを負担しないですむ可能性があります。
なお、この管理義務は、後に相続人となる者に対する義務であって、地域住民などの第三者に対する義務ではありませんが、空き家の倒壊や放火等により第三者に損害を与えた場合には、損害賠償責任を負うこともあり得ます。
他方で、相続財産清算人を選任した場合、場合によっては100万円程度の予納金が必要となり、相続財産の財産価値によっては予納金が返還されないという金銭的負担を負う可能性もあります。しかし、相続財産清算人は、相続財産清算人に対する報酬は初めに納付した予納金の範囲内で認められ、追加の費用納付を命じられることは考え難いといえます。
以上からすると、本件のような場合、金銭的な負担を負うことも承知の上で、損害賠償責任等のリスクを回避するために、相続財産清算人の選任の申立てをすることも選択肢の1つとして考えられます。
全員相続放棄しました。管理義務があるなんて誰も知らなかったのですが、この場合の管理義務は誰にあるのでしょうか?
法定相続人が全員放棄した場合であっても特に変わるところはありません。つまり、放棄した者のうち、相続放棄時に現実に相続財産を占有していた者については、相続財産清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、管理義務があります。
相続放棄したので管理をお願いしたいと叔父に伝えたところ、「自分も相続放棄するので管理はしない」と言われてしまいました。私が管理しなければならないのでしょうか?
この場合であっても、相続放棄時に現実に相続財産を占有していた者が誰かによって管理すべき人が異なります。
つまり、相談者が相続放棄の時に相続財産を現に占有していて、叔父が相続放棄時に占有していなかった場合には相談者が相続財産を管理しなければなりません。
他方、相談者が相続放棄の時に相続財産を現に占有していなかった又は占有していたとしても、叔父が相続放棄時に占有していた場合には叔父が相続財産を管理しなければなりません。
相続放棄したのに固定資産税の通知が届きました。相続しないのだから、払わなくても良いですよね?
固定資産税の課税では、課税者等を決定する期日に登記簿等に登録されていた人を土地の所有者として扱います。そのため、相続放棄をしても、課税者等を決定する期日に登記簿等に登録されていた人には、固定資産税の納税通知が届きます。
相続放棄をしたからといって固定資産税の支払いをしない場合は、思わぬトラブルにつながるおそれがあります。通知を無視することは避け、相続放棄をしたことを証明する書面を役所に提出するなど、手続きをする必要があります。
相続放棄後の管理義務についての不安は弁護士へご相談ください
相続放棄の管理業務は、これまでに述べたように複雑なことがあります。その仕組みや内容、具体的な手続き等について、しっかりと把握して判断するためにも、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
相続放棄後の管理義務について、ご不明点や不安なこと等、どうぞ気軽にご相談ください。
「有責配偶者」とは、離婚原因を専ら作り、婚姻関係を破綻させた責任のある配偶者のことです。代表的なものとして、「不倫」や「家庭内暴力(DV)」などの行為により、夫婦間の信頼関係を破綻させた配偶者が挙げられます。
有責配偶者からの離婚請求としては、例えば、「不倫した配偶者が、不倫相手と一緒になりたいから、離婚するように言ってきた」などの場合があります。本稿では、このような場合に、離婚を拒否することができるのかについて解説していきます。
有責配偶者からの離婚請求は認められるのか
本来離婚は、夫婦が互いに離婚することに合意すれば、離婚することができます(これを「協議離婚」といいます)。また、裁判所を使った手続きとして「離婚調停」(裁判所を通じた話し合いのことをいいます)において、離婚の合意に至っても同様です。そのため、有責配偶者から離婚を切り出したとしても、もう一方の配偶者がこれに同意すれば離婚することができます。
これに対し、相手に離婚を拒否された場合には、離婚訴訟を申し立てる必要があります。もっとも、自ら離婚の原因を作っておいて離婚したいというのは、身勝手な行動といえます。そのため、有責配偶者から離婚裁判を申し立てても、原則として有責配偶者からの離婚請求は認められません。
有責配偶者からの離婚請求が認められる3つの要件
有責配偶者からの離婚請求は、原則として認められません。その理由は、有責配偶者が婚姻関係を破綻させながら、相手に離婚を求める行為は、信義に反するものだからです。
ただし、次の要件を満たした場合には、例外的に有責配偶者からの離婚請求が認められる場合があります。
長期間別居していること
有責配偶者からの離婚請求であっても、長期にわたる別居が続いていれば、離婚を切り出すのはやむをえないとも考えられるため、離婚が認められやすくなります。
別居期間が相当の長期間にあたるかを判断するにあたり、夫婦の年齢や、同居期間と別居期間の対比をして総合的に判断されます。
もっとも、夫婦によって、別居・同居期間や年齢は様々ですから、具体的に何年の別居期間が必要かは断言することはできません。目安としては、7~10年程度別居していれば、長期間の別居と判断される可能性が高くなるといわれています。
未成熟子がいないこと
「未成熟子」とは、年齢だけで判断されるものではありません。経済的・社会的に自立して生活することができない子どものことをいいます(例:18歳の大学生)。
夫婦間に未成熟子がいなければ、離婚による子どもへの影響はない又は少ないため、離婚が認められやすくなります。
ただし、未成熟子がいる場合であっても、そのことのみをもって有責配偶者からの離婚請求が否定されるわけではありません。あくまで、有責配偶者からの離婚請求が信義に反するかを判断するための一つの考慮要素となります。
離婚しても過酷な状況に陥らないこと
他方の配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状況に置かれる場合には、有責配偶者からの離婚請求は信義に反すると判断されやすくなります。
例えば、有責配偶者の収入によって生活が支えられている場合や、障害のある子どもの介護をし続けることが予定されている場合には、離婚により、精神的・社会的・経済的に極めて厳しい状況に置かれると考えられます。そのため、このような状況がない場合には、有責配偶者からの離婚請求が認められる方向に傾きます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
有責配偶者の離婚請求を拒否したい場合の対応
- 離婚に合意しない
離婚に双方が合意して、離婚届けを役所に提出した場合には、離婚が成立してしまいます。話し合いの段階では、離婚を一貫して拒否しましょう。 - 別居しない
別居期間が継続すると婚姻関係が破綻しているとみられるため、別居しないようにしましょう。ただし、DVを受けている等の危険がある場合には、この限りではありません。 - 配偶者が有責配偶者である証拠を集めておく
相手が有責配偶者であると裁判所に認められるには証拠が必要です。そのためには、相手の有責性を証明する客観的な証拠を用意しておく必要があります。 - 役所に離婚届不受理申出をしておく
離婚届けが提出された場合、役所は形式的審査しかしないため、そのまま受理されます。勝手に離婚届けを出されるといった事態を防ぐために、離婚届不受理申出をしておきましょう。 - 裁判を欠席しない
調停は話し合いの場であるため、一方が欠席し続ければ不成立で終了します。しかし、調停が不成立となると、相手が離婚裁判を提訴してくる可能性があります。裁判では、欠席を続け、答弁書を提出していなければ、原告の主張が全面的に認められてしまう場合があります。
有責配偶者からの離婚請求を認めなかった裁判例
●東京高等裁判所平成9年11月19日判決
家族構成:夫、妻、長男(高校3年生)、次男(中学2年生)
同居期間:約6年間
別居期間:約13年間
【事案の概要】
夫が他の女性と親密になり、別居をしたのち、離婚訴訟を提起した事案。夫は、会社に勤務して月額約80万円を得ているほか、相当額の賞与を得ているが、妻には毎月25万円を送金するのみであり、それから家賃負担を控除すると残額は10万円に満たず、実家から月20数万円の援助をうけている状況であった。
このような状況で、裁判所は、有責配偶者である夫からの離婚請求は信義誠実の原則に照らし、認められないと判断した。
【解説】
約6年間の同居期間に対して、別居期間が約13年間にも及ぶため、別居期間が相当長期に及んでいると言い得る事案です。もっとも、毎月の婚姻費用の支払いは十分でないことや、養育費負担の観点から子供たちに対する影響等を考慮して、未成熟の二人の子供たちを残す現段階においては、有責配偶者からの離婚請求は信義誠実に反するとの判断をしました。
別居期間中の婚姻費用の支払い状況から、今後の子供たちへの心理的影響や養育費負担を考慮しており、有責配偶者からの離婚請求について参考になる事案です。
有責配偶者から離婚請求されたら弁護士にご相談ください
有責配偶者から離婚請求には、離婚が認められない場合があること、慰謝料の請求ができる場合があるなど、一般的な離婚事案と異なるため慎重な対応が求められます。また、有責配偶者からの離婚請求が認められるハードルは高いため、有責配偶者側が弁護士をつけてくる可能性があります。その場合には、自分一人で対応するのは難しくなるでしょう。
有責配偶者から離婚を求められた場合や、逆に有責配偶者と離婚したい場合には、ぜひお気軽に弁護士にご相談ください。弁護士は、あなたの状況に沿って全力でサポートします。
「DV」とは、ドメスティックバイオレンスの略称であり、日本では「配偶者や恋人など親密な関係にある、又はあった者から振るわれる暴力」という意味で使用されることが多いです。
DVといえば「加害者は夫で、被害者は妻」というイメージがありませんか?しかし、DVは妻から夫へされることもあり、その数は年々増加しています。
本記事では、DV妻と離婚する際のポイントや他の離婚方法との違い、取り決めるべき内容などを詳しく解説していきます。離婚を検討中の方は、ぜひご覧ください。
妻から夫へのDVは増加している
昨今、妻から夫へのDVの数は増加傾向にあります。配偶者からDV被害を受けたことのある男性は、内閣府男女共同参画局による男女間における暴力に関する調査によると、平成17年度時点では17.4%であったのに対し、令和2年度の調査では19.9%、令和5年度の調査では22.0%と増加していることがわかります。
令和5年度では結婚したことのある男性の5人に1人が配偶者からDVを受けたことがあることが判明しており、今後も妻から夫へのDV被害は増え続ける可能性があります。
妻からのDVを理由に離婚できる?
離婚する方法には、主に「協議」「調停」「裁判」があります。
「協議」「調停」は、相手方(妻)との間で離婚することについて合意することで離婚することができます。
これに対し、「裁判」で離婚をするためには法定の離婚事由が必要となります(民法770条1項)。
妻からのDVは、法定の離婚事由である「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(同項5号)に当たる可能性があります。
妻からのDVは、話し合いで解決する「協議」「調停」の場合はもちろん、裁判所が判断する「裁判」であっても離婚できる可能性があります。
妻から夫へのDVでよくある事例
妻から夫へのDVでは、女性と男性で体格差が生じるため、身体的暴力よりも精神的暴力を受けるというのがよくあるケースです。
具体的な例としては、夫の人格を否定するような暴言を吐く、夫の母親に夫の文句を言う、子供に夫の悪口を吹き込む、細かなことを指摘して謝罪や土下座を強要するといったことが挙げられます。その他、お小遣いを制限する等の経済的暴力も、妻からのDVでよくあるケースといえます。ただし、身体的暴力が全くないわけではなく、直接蹴る・殴るのほか、椅子や包丁といった道具を持ち出してくることもあります。
また、夫としても、妻との間には体格差があることから、妻へ反撃をすることなくじっと我慢をしていることが多く、妻からの身体的・精神的・経済的な暴力が一方的なものになることも少なくありません。
DV妻と離婚したい場合の対処法
DVの証拠を集める
DVはその名のとおり家庭内で起こるものであるため、DVを原因とする離婚を裁判所に認めてもらうためには、DVがあったことを示す客観的な証拠が不可欠です。
具体的には、DVを受けた際の怪我の写真や診断書(精神障害も含みます)、 DVを受けている状況の録音・録画であったり、DVを受けたことを記載している日記、警察や配偶者支援センター等へ相談をした記録などがDVの証拠となり得ます。
子供の親権は父親が得られる?
本記事作成時では、夫婦が離婚する場合には、どちらか一方が子供の親権者となります。離婚時に妻が子供の親権者に夫がなることを合意すれば、子供の親権を父親が持つことができます。
もし妻が親権を夫が得ることに合意しなければ、裁判所が親権者を決めることになりますが、裁判所が親権者を決める際には、子供の幸せ(子供の福祉)が判断基準となります。そのため、DV妻(母親)が子供に対して暴力や虐待のようなことをしていたり、子供が母親より父親になついている・父親と一緒に暮らしたいと思っている等、母親よりも父親と主に暮らす方が子供にとって幸せであると裁判所が判断した場合には、子供の親権を父親が得ることができます。
なお、2026年5月までに共同親権の施行が予定されており、共同親権が施行されると離婚後も妻と共同して子供の親権者となることができるようになります。詳しくは、以下の記事をご覧ください。
DV妻からの被害に遭っている場合の注意点
夫婦喧嘩で妻から暴力を振るわれてもやり返さない
夫婦喧嘩で妻から暴力を振るわれたとしても、やり返さないように注意してください。もしやり返してしまうと、さらなる暴力を振るわれる可能性があり、身体の安全が脅かされる可能性があるからです。
また、夫がやり返したことを契機に、妻がDVの被害者であると主張して通報してしまうことが考えられます。DV被害者であったはずの夫が、DV加害者になってしまう可能性があります。
威嚇として暴力を振るうような仕草をすることも避けた方がよいでしょう。威嚇であったとしても、やり返してしまった場合と同様に、妻が、夫からDVを受けたとして通報する可能性があるからです。
安易な別居を行わない
妻のDVから逃れるためであっても、安易な別居には注意が必要です。
別居により、妻から婚姻費用を請求されるおそれや、一方的な別居であった場合には法定離婚事由の一つである「悪意の遺棄」にあたるとして、慰謝料を請求されるおそれがあります。「悪意の遺棄」ではなく別居に正当な理由があると認められるためには、妻のDVを立証する必要があります。
ただし、DVにより自身や子供に身の危険を感じる程度であれば、すぐに警察や弁護士に相談し、別居を勧めていく必要があるでしょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
妻からのDVで離婚したら慰謝料はいくらもらえる?
離婚の慰謝料の相場は、50万円~300万円だといわれています。これは、DVによる離婚であっても例外ではありません。
慰謝料の判断では、婚姻期間の長さやDVの継続年数、DVの頻度・程度、妻からのDVによる夫の心身への影響、子供の有無等の個別事情を考慮して額が決められるため、金額に幅があります。
もっとも、上記の相場は裁判上の相場であり、協議などで相手方と合意をすることにより慰謝料を増額できる可能性があります。
DV妻に関するALGの解決事例
離婚に消極的なDV妻を説得して離婚調停を成立させた事例
(事案概要)
依頼者の方は夫で、相手方は妻でした。依頼者は相手方のDVを原因として、約3年ほど前に自宅を出る形で別居を開始し、両名の間には幼少の子がおりました。依頼者は相当な別居期間が経過したことから早期の離婚を希望していた事案です。
(結果)
相手方が離婚に消極的だった理由としては、離婚後の生活不安でした。そこで、依頼者の方にある程度資力があったことから、解決金としてある程度の金額、養育費としても算定表以上の数字を相手方に提示し、離婚しても生活不安がないようにケアすることで離婚に応じることができないかと調停委員を通じ説得してもらうことにしました。そして、最終的には相手方も当方の合意案に応じ、調停離婚に至りました。
妻からのDVに関するQ&A
妻のDVから逃げたいのですが、男性でも使えるシェルターはありますか?
DVシェルターは女性のDV被害者向けのものが多く、男性用のシェルターの数は少ないのが現状です。そこで、一度、行政の相談窓口へ相談していただき、利用できるシェルターを紹介してもらうことをおすすめします。具体的な相談窓口は、各地方自治体の配偶者暴力相談支援センター等です。地方自治体によっては、DV被害者男性専用の相談窓口がある場合もあります。
dv妻が離婚してくれないのですが、どうしたらいいでしょうか?
話し合いでDV妻が離婚に合意してくれない場合、離婚調停を申し立てる方法があります。
離婚調停が不成立で終わった場合、離婚訴訟を提起するべきです。DVの立証ができれば法定の離婚事由が存在することになり、判決によって離婚することができます。
また、弁護士に相談をして弁護士にDV妻とのやりとりを対応してもらう方法もあります。
妻からのDVでお悩みなら、一度弁護士に相談してみましょう
妻からのDVで離婚しようとお考えの方は、弁護士に相談することをおすすめします。離婚時には、慰謝料や財産分与等、決めることが多くあり、子供がいる場合には親権や養育費等、さらに取り決める事柄が増えます。当事者間の話し合いがうまくまとまらなければ、裁判にまで発展する場合もあります。
そこで、弁護士に相談することで、ご自身の状況に合わせ、どのように離婚を進めていけば良いのか、適切なアドバイスを受けることができます。また、DVをする妻との交渉はもちろん、裁判所の手続も弁護士に任せられます。
DV被害で苦しんでいるのは、女性ばかりではありません。男性がDVの被害者になることもあります。お辛い状況から一刻も早く解放されるよう、妻からのDVで離婚を考え、お悩みの場合には、一度弁護士にご相談ください。
相続は、必ずしもプラスの資産のみならず、債務等のマイナスについても包括的に引き継ぐという性質のものです。相続する対象が不動産のみだったとして、その内容によっては、管理等の負担の方が大きく、相続を放棄してしまいたいという場合もあるかと思います。
不要な農地だけを相続放棄することはできない
相続は、被相続人の全ての資産と債務を包括的に引き継ぐものです。預金は相続するが土地は放棄する、というような選択はできません。
遺産分割で個々の資産の帰属を決定することと混同されるかたもいるかもしれませんが、これは全ての資産・債務を一旦相続人の共有とした上で、個別の帰属を決定するようなものです。
相続放棄をしても農地の管理義務は残る
相続放棄をした財産についても、放棄によって相続人となったものが管理を始めることができるまでの間は、自己の財産を管理するのと同一の注意義務をもって管理しなければならない、とされていました。
この点については、法改正により、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」との内容に改められました。
相続土地国庫帰属制度を利用できれば国に引き取ってもらえる
相続人全員が放棄した財産は、最終的には国庫に帰属すると規定されていますが、実際には相続財産管理人の選任等を経てからとなりますので、容易ではありませんし、そもそも、全ての遺産についての放棄が前提でした。
令和5年4月から導入された、「相続土地国庫帰属制度」は、一定の要件を充たす「相続した土地」について、国庫への帰属を可能とする制度です。ただし、利用するための要件は限定されていますし、負担金の支払いも必要となる点には注意が必要です。
放置すると「耕作放棄地」となり、処分が難しくなる
農地は、放置すると雑草や害虫などで荒れ果ててしまいます。荒廃した土地は資産価値が減少し、売買や寄附、国庫帰属等の処理にも支障を来す結果につながりかねませんので、相続放棄ではなく、承認することを選択するならば、速やかに行動するほうが賢明です。
借り手のいる農地を相続放棄したらどうなる?
相続人全員が放棄すると、当該資産は最終的に国庫に帰属しますが、そこに行きつく前の段階では遺産を総称して「相続財産法人」を構成する形となります。
借地として賃借されている農地の場合、賃貸人の死亡によっても、賃貸借契約は当然には終了しないのが通常です。賃貸借契約も相続財産法人に帰属し、賃料等を収受する、という関係性となります。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
農地を相続放棄する手続きの流れ
相続放棄の手続は、資産や債務の内容で変化するものではありません。資産に農地が含まれる場合も、通常と同じく、家庭裁判所の手続として、相続放棄の申述を申し立てることになります。
相続した農地の使い道
農家に売却する
農地は所在や作付面積等の諸条件に違いはあるものの、近隣で農業を営んでいる方等、一定の需要はありうるところです。相続したはいいが、使い道がないという場合には、売却等を検討されてもよいかと存じます。
農地から宅地に転用する
農地は目的外の利用が原則禁止されていますが、農業委員会又は都道府県知事の許可を得ることによって、宅地等への転用が認められる場合もあります。この許可には、当該農地の種類や所在、現況等に関する基準を充たす必要がありますので、必ずしも得られるものではありませんが、処分等を検討するにあたり、一考に値するかもしれません。
農地の相続放棄についてお悩みの方はご相談ください
農地は維持・管理の負担が大きく、その負担の大きさから相続放棄を選択するのか、それとも処分や国庫帰属等の方策を用いるのか等、多角的な検討・判断が求められるところです。相続放棄には、相続開始後三カ月以内、という期間制限もあるところですので、早い段階で専門家に相談しておくことをお勧めいたします。
離婚する際に相手が親権を持ち、面会交流を取り決めたにもかかわらず、離婚後、子供と一切会わせてもらえないケースは少なくありません。
相手に面会交流を拒否されている場合に、子供と離れて暮らす親(非監護親)は「間接強制」という手続を利用して面会交流を実現できるように働きかける方法があります。
ただし、間接強制が認められるには、要件があります。
そこで、本記事では、間接強制が認められるための要件や間接強制の手続方法と流れ、間接強制を行う際の注意点など「間接強制」について詳しく解説していきます。
面会交流の間接強制とはどんなもの?
面会交流の間接強制とは、面会交流を取り決めたにもかかわらず、面会交流に応じない子供と一緒に暮らす親(監護親)に対して、「面会交流に応じない場合は1回あたり●万円支払え」と命じて制裁金(間接強制金)を課すことによって、監護親に「お金を支払いたくない」という心理的圧迫を与えて、自発的に面会交流を促す制度です。
相手が面会交流に応じてくれない場合に面会交流を実現させる手段として、「履行勧告」、「間接強制」、「慰謝料請求」などがあります。
「間接強制」は、裁判所が、監護親に対して約束したとおりに面会交流を実施するように勧告する手続である「履行勧告」をしても面会交流に応じないときの次の手段といえます。
間接強制があるなら直接強制もある?
一般的に強制執行の方法として、「間接強制」のほかに、裁判所の執行官が直接的に権利を実現する「直接強制」という手段があります。
面会交流において、裁判所の執行官が実力行使で無理やり子供を連れ出して、子供と離れて暮らす親(非監護親)と面会交流させるような「直接強制」は日本では認められていません。
そもそも面会交流は、子供の福祉のために行われるものです。
直接強制で面会交流を実施するとなれば、子供が面会交流に対する拒否感を覚えて、父母それぞれに対しても不信感を抱くおそれがあり、子供の福祉に適わず、期待しているような面会交流が実現できないのが明らかだからです。
よって、面会交流では直接的な強制執行はできません。
間接強制が認められるための2つの要件
間接強制を申し立てたら、必ずしも認められて実施されるわけではありません。
間接強制が認められるには次の2つの要件があります。
- ①調停や審判で取り決めているか
- ②面会交流の内容が特定されているか
次項で、それぞれ詳しく解説していきましょう。
①調停や審判で面会交流の取り決めがあること
間接強制を申し立てるためには、面会交流の取り決めを家庭裁判所の調停や審判など裁判所の手続で決定しており、裁判所が作成した調停調書や審判書などの「債務名義」があることが必要です。
裁判所を通さずに当事者間での話し合いで合意していて公正証書を作成している場合は、間接強制は求められません。
当事者の話し合いで面会交流について取り決めていて、面会交流に応じず間接強制を申し立てたい場合は、まずは面会交流調停を行って債務名義を取得する必要があります。
②面会交流の内容が具体的に特定されていること
裁判所が間接強制の決定を出すためには、面会交流の内容が具体的に決められている必要があります。具体的には次の点が特定されているかどうかが重視されます。
- 面会交流の頻度
- 面会交流の日時
- 面会交流の時間や長さ
- 子供との待ち合わせ方法(待ち合わせ場所、面会交流の場所、子供の送迎の有無など)
例えば、次のような内容で取り決めておくと間接強制が認められる可能性は高いです。
「1ヶ月に2回、第1・3日曜日の10時から16時までの6時間、面会交流の場所は長女の福祉を考慮して元夫の自宅以外の元夫が定めた場所とし、JR甲駅の改札付近で長女を引き渡す」というような内容です。
一方で、次のような曖昧な内容で取り決めておくと、間接強制が認められません。
「1ヶ月に2回、休日に1回につき6時間程度、面会交流を実施する」というような内容です。
理由としては、面会交流の曜日や面会交流の場所、待ち合わせ場所などが抽象的で特定されていないからです。
取り決める際は、面会交流を拒否された場合に備えて、監護親が履行すべき義務の内容を明確に取り決めておくことが大切です。
子供が面会交流を拒否している場合、間接強制は認められないのか?
基本的に、面会交流の内容が具体的に取り決められていれば、子供が嫌がっているという理由で間接強制を免れることはできません。
むしろ、一度取り決められた面会交流の内容は、監護親が子供に対して適切な指導・助言をすることによって面会交流が図れるよう努力すべきであると考えられています。
現在取り決めている面会交流の内容が実施できないのであれば、面会交流のあり方自体について、再度面会交流調停で話し合うべきであるとされています。
ただし、子供がある程度の年齢(15歳以上)に達しており、判断能力が十分にあると認められた際に、子供が明確に面会交流を嫌だという意思を示した場合には、間接強制が認められないケースもあり得ます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
間接強制の手続き方法と流れ
申し立ての流れ
間接強制は次のような手続や流れで行っていきます。
1.家庭裁判所に申し立て
調停や審判をした裁判所に必要書類を提出して間接強制の申立てをします。
2.審尋を実施
申立書が受理されたら、監護親に対して審尋という意見を聞く手続を行います。裁判所によっては、監護親の意見などを書面の提出により確認する手続である書面審尋を行っている場合もあります。
3.家庭裁判所の決定
裁判所が間接強制の申立てを容認する決定を出す場合は、「面会交流をさせなかった場合は1回あたり●万円支払え」という内容の制裁金を課す命令を言い渡します。
申し立てに必要な書類・費用
間接強制を申し立てるにあたって、必要な書類や費用は次のとおりです。
●必要書類
- 申立書
- 執行力のある債務名義の正本(調停調書、審判書、判決書)
- 債務名義の正本送達証明書
※事案によっては、このほかの資料の提出が必要な場合があります。
●費用
- 収入印紙:2000円
- 連絡用の郵便切手:裁判所ごとに異なる
間接強制の申立書の書式や書式の詳しい記入例は、裁判所のホームページで確認できますので、ぜひご参考ください。
間接強制しても面会交流が実現するとは限らない点に注意
関節強制は、子供との面会交流を実現する直接的な効力はありません。
そのため、関節強制を行って制裁金を課せられても監護親が面会交流に応じなければ、子供の面会交流は実現しません。
面会交流を実現するためには、戦略を立てて、間接強制と相手との交渉を取り交ぜて行うのが良いでしょう。
もっとも、当事者間で交渉をすると感情的になって有益な話し合いができないことが多いので、弁護士を立てて交渉を行う方法が効果的です。
離婚問題や面会交流に詳しい弁護士が、親身になってあなたをサポートいたします
面会交流を取り決める際は、約束した面会交流が守られなかったときに備えて間接強制を意識した面会交流の内容を具体的に決めておくことが得策です。しかし、面会交流を取り決めるにあたって、父母双方において感情的な対立が激しくなるケースも少なくありません。よって、面会交流の取り決め段階から弁護士に相談して進めることをお勧めします。
弁護士であれば、代わりに相手と面会交流について交渉できますし、調停や審判などの裁判所の手続も一任できます。
また、面会交流が実現しなかったときに、間接強制の手続はもちろんですが、直接相手に約束どおりに面会交流を実施するよう働きかけることもできます。
弁護士法人ALGでは、面会交流をはじめとする離婚問題を多数解決してきた経験と実績があります。
まずは、面会交流について一人で抱え込まずに、弁護士法人ALGへお気軽にご相談ください。
離婚訴訟を提起する場合、または提起されたという場合に、弁護士を付けるのとそうでないのとでどのような違いがあるのか、また、その方法はどのようなものかについて解説します。
離婚裁判は弁護士なしでも対応できる?
裁判の手続に、弁護士は当事者の代理人として関与するものです。したがって、「代理人を立てずに、当事者自身が対応する」ということも理論上は可能ですが、法的な手続ですので、実際にできるかどうかは、やる気や時間、能力などの問題があるところです。
弁護士なしで離婚裁判を行うデメリット
弁護士なしで離婚裁判を行う場合、裁判の手続全てを自分で判断して行わなければならないという問題があります。
書面の用意や裁判の出席などで労力がかかる
離婚裁判も裁判手続の一種ですので、訴状や答弁書、準備書面等、主張や反論等は書面で行わなければなりません。また、訴訟期日への出廷や尋問の申し出や同手続への対応等も自身で行わなければならないというのは、容易ならざるところかと思われます。
離婚原因が主張できず、不利に進む可能性がある
訴訟では、主張や証拠は法的に整理し、的確に行うことが肝要です。法律の要件に当てはまらない主張を乱発しても、有利な結果にはつながりません。相手の主張内容への反論一つとっても、その中には極めて重要な意味を持つ主張と、結論にあまり影響しないものが含まれていることが通常ですし、記憶が曖昧な点を安易に認めてしまい、不利な結論に大きく傾くことも懸念されます。これらの見極めと的確な反論・証拠提出等は、ご自身で対応される場合に苦慮される点かと思われます。
相手に弁護士がついている場合、不利になる
上記のとおり、離婚裁判も法的手続の一種であり、主張等は法的に整理し、的確に行う必要があります。相手方だけが弁護士を入れているという状態は、法的手続に対する素養の差によって、不利な状況に陥ってしまうことが懸念されます。
弁護士に依頼するよりも長期化しやすい
主張や証拠・争点の整理等が的確に行われない場合、無意味な論戦を延々展開してしまい、手続が長期化することも懸念されます。
一人で対応することによるストレスが大きい
多くの方にとって訴訟手続は未経験の分野だと思います。裁判所の独特のルールや手続の対応だけでも、負担は少なくないと思います。相手方の主張は、事実とそうでないもの、目線の違いによって評価が異なるもの等、自身にとっては心外と思われる内容が含まれていることがあります。自身で対応する場合、これを真正面から受け止めてしまうことのストレスもあると思います。
離婚裁判を弁護士なしで進めるときの流れ
あくまで自身で離婚裁判に臨むという場合のおおまかな流れは以下のとおりです。
自分が提起する場合は訴状の作成や、添付書類等とともにこれを提出することが必要です。その際には印紙貼用や郵券の納付等も求められます。適式に訴状の提出が行われた場合、裁判所による相手方への送達・期日指定等が行われます。
その後は期日への出廷や主張や反論、証拠の提出の応酬、証人や当事者尋問等の手続に対応していくことになります。判決に不満がある場合は法定期限内に控訴等の手続をとる必要もあります。
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離婚裁判を弁護士なしで行う場合にかかる費用
離婚裁判を自分で行う場合、基本的には裁判所に納付する印紙や郵券や出廷の際の交通費等のみ、ということになります。印紙の額は請求内容によってもやや異なりますが、離婚のみの場合で13,000円、附帯処分は一件につき1200円を追加です。慰謝料を請求する場合は金額によって計算が変わります。
弁護士に依頼した場合にかかる費用
弁護士に依頼した場合は、上記の実費以外に弁護士費用が必要となります。その金額は事務所によって異なりますし、事案によっても異なるところですが、着手金は税別で30万~60万程度、成功報酬は固定報酬(税別30万~60万)と変動報酬(税別10%~16%)の組み合わせとしているところが多いのではないでしょうか。
弁護士なしでも離婚裁判を有利に進めるには?
弁護士なしで離婚裁判を少しでも有利に進めるためには、知識や情報、経験等が不可欠です。時間や労力等には限界がありますので、専門家が積み重ねてきたものに匹敵するというのは困難だと思いますが、あくまでその道を選ぶという場合は、できる範囲でやるしかないと思います。
離婚裁判を検討中であれば、法律の専門家である弁護士に依頼することをおすすめします
弁護士に依頼した場合には、少なく見積もっても70~100万円前後の手出しは必要になると思います。大きな金額ですが、当初から適切に対応していれば生じなかった不利益等は、慰謝料や財産分与等の金銭的なものだけではなく、離婚そのものは親権・養育費、面会交流等の問題にも及びうるところです。
一旦自分で対応してしまった結果、「すでに不利な内容を認めてしまっていた、当初から依頼しておくほうがよかった」というような事態も懸念されますので、まずは事前に専門家に相談することを強くお勧めいたします。
相続の場面においては、様々な問題が発生します。その中で相続人のうちの一人が、認知症になっているという場合も、近年の高齢化社会においては十分に考えられます。
本稿では、相続人の中に、認知症の人がいた場合、どのような問題が発生する可能性があるのかについて、解説していきます。
相続人が認知症になったらどうなる?
相続人が認知症となった場合、その程度にもよりますが、判断能力が低下し、意思能力(法律行為をするに際し、自身の行為の意味や結果を判断することのできる能力)が失われてしまうことがあります。
民法上は、「当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」(民法3条の2)とされています。
そのため、相続人の中に一人でも認知症の人がいる場合、以下のような問題が発生する可能性があります。
遺産分割協議ができなくなる
認知症になった場合、判断能力が低下し、意思能力が失われてしまいます。その結果、遺産分割協議において有効な意思表示ができないと判断されることとなります。
そのため、認知症のある相続人が合意をしたとしても、そのような遺産分割協議は、有効な意思表示がないものとして、無効となります。
また、遺産分割協議は、相続人全員が参加する必要がある以上、仮に、他の相続人のみで遺産分割協議書を作成したとしても、無効となります。
認知症になった相続人は相続放棄ができなくなる
相続放棄も法律行為であるため、意思能力がなければ無効となります。そのため、認知症になった相続人は、法律上、単独で、相続放棄を行うことができなくなります。
仮に、相続放棄の意思表示がなされたとしても、意思表示に欠陥があるものとして、無効であるとされる可能性があります。
相続できなくなる認知症の程度はどれくらい?
相続人が認知症であるからと言って、一律に相続ができなくなるというわけではありません。認知症と言っても、その症状の重さは様々です。
この点、相続できなくなる認知症の程度に関して、明確な判断基準は存在せず、個別の症状の重さに応じて、判断されていくことになるでしょう。
軽い認知症だったら相続手続きできる?
前述したように法律上、意思表示が無効とされるのは、意思能力を有しない場合です。
認知症の程度が軽く、意思能力がある、すなわち、法律行為をするに際し、自身の行為の意味や結果を判断することのできる能力があると判断された場合には、上記のような意思表示が有効になる可能性はあります。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
認知症の相続人がいる場合は成年後見制度を利用して相続手続を行う
認知症の相続人がいる場合には、成年後見制度を利用して、相続手続を行うことができます。
成年後見人は、認知症の相続人に代わって、法律行為を行う権限があるので、認知症の相続人が単独で行うことのできない、遺産分割協議や、相続放棄について、代理人として、行うことができます。
成年後見人は、将来認知症になった場合に備えて、事前に後見人を選任し、契約をしておく任意後見という方法と、裁判所に選任してもらう法定後見という方法の二通りで選任することができます。
認知症の人がいる場合の相続手続きに関するQ&A
認知症であることを隠して相続したらバレますか?
相続手続においては、銀行口座の移動等、本人確認を伴う場面が多々存在します。そのため、そのような本人確認の場面で、相続人が認知症であることが判明する可能性は十分にあります。
前述したとおり、認知症の方がいる場合の遺産分割協議は無効となりますし、仮に、遺産分割協議書等の書類に、認知症の方に代わって署名押印した場合には、私文書偽造罪(刑法159条1項)に問われる可能性もあります。
唯一の相続人が認知症になってしまった場合、相続手続きはどうなるのでしょうか?
相続人が一人ということであれば、遺産の分割という問題が生じることはありません。しかし、認知症となり、相続人に意思能力がないと判断される場合には、そのことから、いくつかの問題が発生します。
具体的には、本人確認の必要な口座の移動手続や、弁護士等への相続手続の委任(委任も法律行為であるため)、相続により取得した不動産についての処理(売買や賃貸借)等々です。
認知症の方がいる場合の相続はご相談ください
高齢化が進んでいる社会状況の中で、相続人の中に認知症の方がいる可能性はどんどん高まっていきます。そして、そのような場合には、前述したような問題が起こり得ます。
適切な手続の下、相続をしなければ、せっかくの手続も無駄になってしまいます。相続の際のご不安やご不明点があれば、ぜひ弁護士に一度ご相談ください。
別居や離婚に伴い、父母のどちらかは、子供と離れて暮らさなければならなくなります。
しかし、特に子供が幼い場合、面会交流を実施するためには、子供と暮らし監護養育する親(監護親)の協力が必要不可欠であり、監護親に面会交流を拒否されてしまうと、なかなか子供と会うことができないのが現実です。
では、子供との面会交流を拒否された場合、どうしたら良いのでしょうか。
面会交流を拒否されてしまうケースとその対処法について解説します。
面会交流は原則的に拒否できない
面会交流は、子供の健全な成長のために非常に重要なことであり、子供の福祉のために行われなければならないものです。
そのため、実務では、子の福祉を害するような特段の事情がない限り、面会交流の実施が認められるべきであると考えられています。
面会交流の拒否が認められてしまう正当な理由とは?
上記のとおり、原則として、面会交流の実施は認められるべきであると考えられています。
しかし、一定の場合には、面会交流の実施が認められないケースがあります。
以下例を挙げてご紹介します。
子供が面会交流を嫌がっている
面会交流を拒否される理由の一つとして、「子供本人が面会交流を嫌がっている」というものがあります。
これには、子供が非監護親から虐待を受けたり、目の前で監護親が非監護親からDVを受けたりしていたために、恐怖心があり純粋に会いたくないと思っているケースに加えて、監護親の心情を慮っていたり、監護親から非監護親の悪口を吹き込まれて悪感情を持っていたりするために、面会交流を拒否しているケースが考えられます。
難しい問題ですが、面会交流は子供のための制度という側面が大きいので、子供が自身の意思をしっかりと伝えることができるある程度の年齢(10歳程度)に達しており、面会交流を拒絶する意思が真意であると判断されるときには、子供の意思が尊重されることになります。
子供を虐待するおそれがある
面会交流時に非監護親が子供を虐待するおそれがあるケースでも、面会交流を拒否されることがあります。
別居以前に子供を虐待していた事実があり、面会交流時にも虐待する危険性が高い場合、面会交流を拒否できる正当な理由になることは明らかでしょう。
子供を連れ去るおそれがある
面会交流時に非監護親が子供を連れ去るおそれがあるケースでも、面会交流を拒否されるでしょう。たとえ親の片方である非監護親によって連れ去られるのだとしても、突然、慣れ親しんだ環境や監護親、友人等から切り離され、強制的に生活環境を変えられてしまうことは、子供にとって大きな精神的ダメージになります。
もっとも、①弁護士等の第三者を立ち合わせる、②面会交流支援団体を利用する、③建物内で面会交流を行う、④試行的面会交流から始める等、連れ去りの危険を抑えながら面会交流を実施する手段はあるため、監護親の意思のみで完全に拒否できるものではないでしょう。
配偶者や子供へのDV・モラハラがあった
被害者が監護親であった場合には、面会交流を拒否する正当な理由にはなりません。
なぜなら、監護親が非監護親からDV・モラハラを受けていたからといって、必ずしも子供が非監護親を恐れる等、悪感情を抱くとは言い切れないからです。
被害者である監護親が、非監護親と直接会うことを拒んでおり面会交流を実施できない場合は、弁護士や面会交流支援団体等、第三者を通じて面会交流を実施することを提案すると良いでしょう。
一方、子供がDV・モラハラ加害者である非監護親を恐れている場合には、面会交流が子供の福祉に資するものでないとして、面会交流を拒否される可能性が高いでしょう。
このような場合に面会交流の実施を希望するのであれば、まずは間接的な交流(間接的面会交流)から段階を踏んでいくことをお勧めします。
間接的面会交流とは、子供と対面して交流するのではなく、手紙のやり取りをしたり、誕生日や記念日等に贈り物をしたり、定期的に写真や動画等を送ってもらったりする方法で子供と交流する、面会交流のひとつの形です。
間接的面会交流を重ねることで、お子様に徐々に慣れてもらいましょう。
面会交流を拒否されたときの対処法
面会交流は、法律で定められた権利です。不当に拒否された場合には対処する方法があります。
しかし、具体的にどのような対処方法を採るべきかについては、個別の事情を考慮したうえで、専門的な判断をすることが必要です。
ここでは、面会交流を拒否された場合に採りうる手段を挙げていきます。
ご自身のケースでどの手段が使えるか分からないという場合、弁護士に相談することをご検討ください。きっと最善の手段を示してくれるでしょう。
元配偶者と話し合う
まずは、元配偶者と話し合うという方法が考えられます。話し合いをすることで、どうして面会交流を拒否するのか、面会交流にするにあたって元配偶者が何を求めているのか、ということが分かることもあります。
それが分かれば、法的手続を採らなくても、話し合いによって面会交流を実現することができる可能性があります。
面会交流調停の申立てを行う
話し合いによっても面会交流に応じてもらえなかった場合や、そもそも話し合いを拒否されてしまった場合には、裁判所に面会交流調停の申立てを行うという方法があります。
調停手続は、裁判所で調停委員を間に挟んで行われる話し合いの手続です。
両当事者がそれぞれの言い分を主張していき、調停委員がそれを調整していきます。
話し合いがまとまり、調停が成立すれば、面会交流が実現できます。
ただ、調停はあくまで話し合いの場ですので、話し合いがまとまらない場合、調停が成立せず、面会交流を実現することはできません。
調停が成立しなかった場合、審判という裁判所の判断によって、面会交流が認められる可能性があります。
間接強制の申立てを行う
面会交流の条件について合意した調停調書や、面会交流を命じる審判書には執行力があるため、監護親が任意に面会交流をしない場合には、強制執行を行うことができます。
この場合に行うことができる強制執行は、間接強制に限られます。
間接強制では、面会交流を実施する義務を負う監護親に、面会交流を実施しないことについて一定額の金銭の支払いを命じ、心理的に圧を掛けることにより、面会交流の実施を促します。
ただし、間接強制を行うためには、監護親の義務をある程度特定している必要があります。
具体的には、当初の取り決めの際に、①面会交流の日時または頻度、②各回の面会交流時間、③子供の引渡し方法を取り決めておく必要があるとされています。
親権者の変更の申立てを行う
面会交流の拒否が続いた場合、親権者の変更を申し立てるという方法が考えられます。
親権者の変更は、「子の利益のため必要があると認めるとき」、すなわち、親権者と定められた父または母が親権の行使を続けることが、子供の福祉のために不適当であることが判明した場合や、その後の事情の変更により親権者を他の一方に変更する必要が生じた場合に認められます。
事情の変更とは、親権者が病気に罹患したり、所在不明となるなどして親権者としての職責・義務を果たすことができなくなったり、子供に対する監護を放棄したりするなど、親権者を変更しないと、子供の福祉が害されるような事情が生じることを指します。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
面会交流を拒否されたら慰謝料請求は可能?
面会交流を拒否されたことを理由に、慰謝料を請求できる場合があります。
ただし、面会交流の拒否を根拠とする慰謝料請求が認められる場合には、ある程度強度の違法性がなくてはなりません。
例えば、面会交流に関して監護親の義務がある程度特定されているにもかかわらず、嘘をついて子供との交流を妨害していた、または正当な理由なく長年実施することを拒否し続けていたといった事実を証明することが必要となります。
慰謝料の相場としては、数十万~100万円程度でしょう。
なお、面会交流の協議に一切応じようとしなかったり、実施を拒否した理由が身勝手なものであったり、実施できなかった期間が長かったり、面会交流に関する約束を一度も守っていなかったりする等の悪質なケースでは、慰謝料が高額になりやすいと言えます。
面会交流を拒否された際のQ&A
面会交流を拒否されたので養育費の支払いを止めようと思いますが構いませんか?
面会交流は、子供の健全な成長にとって重要なことであり、子供の福祉のために行われるべきものです。
そして、養育費の支払は、親の監護義務・扶助義務の履行であり、面会交流の実施とは直接関係するものではありません。
したがって、両者は性質が異なりますので、面会交流を拒否されたとしても、養育費を支払わなくていいということにはなりません。
面会交流を子供が拒否した場合はどうしたらいいでしょうか?
子供の真意が面会交流を拒否するというものであるときは、面会交流を実施することは困難です。
このような場合に強引に面会交流を行おうとすれば、子に対して精神的苦痛を与えることになりますし、子供自身も、非監護親が自分の意向を受け入れてくれないとして、非監護親に対して不信感を抱き、非監護親と監護親及び子供との関係がさらに悪化するおそれもあります。
そのため、子供が面会交流を拒絶していて、これが、子供の年齢や発達の程度、拒否の実質的な理由やその背景事情、その他の事情により真意であるといえる場合には、面会交流を強引に行うべきではないでしょう。
他方、子供が面会交流に消極的であるものの、面会交流を実施する余地があるときにおいて、子の心身の負担が過大とならない内容や条件の下で面会交流の実施が可能な場合には、面会交流の実現へ向けて、監護親や子供への働きかけをしていくことが考えられます。
面会交流を拒否されてお困りの方は弁護士にご相談ください
ここまで、面会交流を拒否されてしまうケースやその対処法について説明してきました、面会交流は、子供の福祉のためにも積極的に実施されるべきものであり、正当な理由なく拒否することは許されません。
しかし、正当な理由の有無にかかわらず、面会交流を拒否されてしまうケースが多くあるのは事実です。
面会交流を拒否されてしまった場合の対処法は、拒否される理由によって異なるので、まずはその理由を聞き出し、適切な手立てを考える必要があります。そのためにも、専門家である弁護士への相談をご検討ください。
交渉のプロでもある弁護士は、相手方である監護親の頑なな心を解きほぐし、きっと面会交流を拒否する理由を明らかにすることができるでしょう。
そのうえで、専門知識と交渉力を活かして話し合いに臨むので、満足のいく結果をもたらしてくれることが期待できます。
面会交流を拒否されてしまったら、お一人で悩まず、ぜひ弁護士にご相談ください。
借金を残して死亡した場合、その人が残した借金はどうなるでしょうか。
相続人は借金も引き継がなければならないのか、借金を引き継がないでよい方法はないのか、借金を引き継ぐ場合、債権者にどのように対応しなければならないのか等、相続に関する借金問題は、正しく理解しておかなければ予期しない損害を被る可能性がありますので、注意する必要があります。ここでは、相続と借金の問題について、いくつか解説していきます。
親の借金は相続放棄すれば払う必要がなくなる?
相続人は、被相続人から、一切の相続財産を引き継ぎます。相続財産には、プラスの財産のみならず、マイナスの財産(借金等)も含まれます。
マイナスの財産(借金等)がある場合、相続人が、マイナスの財産を相続しないようにするためには、相続放棄が第一の選択肢です。
相続財産の範囲内でマイナスの財産を弁済する制度として、限定承認という制度もありますが、相続人全員の同意が必要なことに加え、非常に複雑なため、あまり利用されていません。
相続放棄したら借金はどうなる?誰が払うの?
相続放棄の申述が受理された場合、相続放棄をした相続人は、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
ある相続人が相続放棄をした後、同順位の相続人(配偶者を除く。)が他にいれば、その同順位の相続人が、借金を相続したままの状態となります。
一方、同順位の相続人がいなくなれば、次順位の相続人が、相続人となります。
すべての相続人が相続放棄をした場合、後記のとおり、相続財産は法人となり、相続財産清算人が管理処分することになります。
借金がある場合の相続放棄によるトラブルを防ぐための注意点
相続放棄を行うにあたって、最も注意しなければならないことは、「そもそも相続放棄をすべきかどうか」です。
仮に、借金(相続債務)があったとしても、相続債務を払っても残るような遺産がある場合もあります。
このようなときは、相続放棄をしてしまうとかえって損になってしまいます。
相続放棄をすべきかどうか、冷静に判断するために、遺産の調査が不可欠です。
また、相続放棄を検討している間は、遺産を元手に借金の返済をしないことも重要です。
遺産を処分する行為をすると、法定単純承認として、相続放棄が認められなくなってしまいます。
相続人全員が相続放棄したら借金はどうなる?
すべての相続人が相続放棄をした場合、相続財産が法人となります。
この場合、債権者その他の利害関係人の申立てにより、家庭裁判所が、相続財産清算人を選任します。
その後、相続財産清算人により、相続財産から借金が弁済されることになります。
ただし、相続人全員が相続放棄をするような事案では、借金を支払えるだけのプラスの財産がないことが通常であるため、相続財産清算人の選任が申立てられることは稀です。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
相続放棄には期限がある
相続放棄は、『自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内』(民法915条1項。「熟慮期間」といいます。)にする必要があります。
熟慮期間を過ぎた場合、原則として、相続放棄をすることはできません。
借金があることを知らなかった…期限後には相続放棄できない?
熟慮期間を過ぎた後でも、例外的に、借金があることを知らなかった等の事情があれば、相続放棄ができる場合があります(最判昭和59年4月27日判タ528号81頁など)。
借金ないと思い、相続放棄の手続を行わなかったものの、後々、借金が判明したようなケースでは、必ず弁護士に相談することをお勧めします。
熟慮期間経過後に相続放棄できた事例
熟慮期間経過後に相続放棄が受理された事例としては、以下のようなものがあります。
- 被相続人が借金をしていた形跡がなく、相続開始後数年後経ってから督促状が送付された事案
- 被相続人の死亡後長期間経って、固定資産税の納付通知が届いた事案
相続放棄後に借金の取り立てを受けた場合の対処法
相続放棄が受理された場合、「相続放棄申述受理証明書」を取得することができます。債権者に対し、「相続放棄申述受理証明書」を見せると、取立てが止まることが通常です。
極めて稀ですが、債権者が、相続放棄の効力自体を争ってくることがあります。
このような場合、相続放棄の効力は、民事訴訟で判断されることになります。
借金の相続放棄に関するQ&A
亡くなった人の借金はどうやって調べたらいいですか?
銀行や消費者金融での借金については、信用情報機関(CIC、JICC、全銀協)に対する開示請求により調べることが可能です。
また、その他の借金についても、被相続人の自宅の書類などを調べることで、借用証、請求書といったものが出てきて判明することがあります。
ただし、個人とのお金の貸し借りなどは、借用書もないことがあるため、被相続人の借金(連帯保証などを含みます。)を完全に調べ尽くすことは困難です。
実家の住宅ローンが残っていることが判明しました。相続放棄したらどうなりますか?
相続放棄をした場合、借金だけでなくプラスの財産も受け取ることができなくなります。
そのため、住宅ローンを相続しないだけでなく、実家も相続できないという結果になります。
実家での居住継続を希望する場合などは、相続放棄をせずに、住宅ローンの借換えをする方法や、相続放棄をした後、任意売却等で実家を買い取る方法などを検討することになります。
親が借金まみれなのですが、生前に相続放棄できますか?
相続放棄は、相続開始後でなければすることはできません。
したがって、被相続人となるべき方が存命の間は、相続放棄をすることはできません。
借金の相続放棄についてお困りでしたら、弁護士にご相談ください
相続放棄は、「提出すれば終わり」といった簡単なものではありません。
相続放棄をすべきかどうか、相続放棄が認められるかどうか、相続放棄が受理されるかどうかなど、様々な法的な検討が必要となります。
相続放棄をするかどうかお悩みの方は、お早めに弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)