親権獲得の可能性については、将来を見越した検討が必要だった事例

離婚問題

親権獲得の可能性については、将来を見越した検討が必要だった事例

依頼者の属性
夫、会社員、子供有
相手の属性
妻、自営業者
受任内容
親権・婚姻費用

事案の概要

妻が、子供を連れて自宅を出て不貞相手の下で生活を始め(妻は否定)、その後、依頼者である夫に対して、離婚調停・婚姻費用分担請求調停を申し立ててきた事案でした。夫は、離婚はやむを得ないとしても、何よりも親権者となることを望まれていました。

弁護方針・弁護士対応

◆不貞(浮気)をした人が親権者になれるのか
「不貞をしていなければ、離婚にならなかったのだから、離婚原因を作ったこと自体が親権者として相応しくないのではないでしょうか。」という質問を受けます。本件もそうでした。心情としては理解できるのですが、残念ながら、父母のどちらが親権者として相応しいかの判断に不貞の事実自体は重視されていません。なぜなら、親権者の指定は、離婚後に父母のいずれが子供を養育監護すべきか(子供の利益にかなうのか)という観点から判断されており、婚姻関係を破綻させたことと、離婚後に子供を養育監護する能力とは直結しないからです。ですから、不貞(浮気)をしたとしても親権者になれるという回答になります。相手の不貞を責めることではなく、自分が親権者となることが子供の利益にかなうということを客観的事実に基づき主張することに注力しなければいけません。

◆親権者の指定にあたって考慮される事情
親権者の指定に関しては、これまでの監護状況、現在の監護状況、生活環境の変化、子供の意思、面会交流の実施、監護補助者の有無、経済力、母性などが総合的に考慮され判断されています。意に反して生活環境が変わることが、子供にとっては一番の負担(不利益)でしょう。そこで、これらの中でも、過去・現在の監護状況や生活環境の変化、子供の意思が重視されている印象です。母が有利だといわれますが、これは母が主に子育てをするというこれまでの日本社会においては当然の結論だとさえいえます。万が一離婚になった時に親権を希望するのであれば、日ごろから子育てを主体的に行うようにして下さい。
なお、子供が不貞相手との関係が悪いにも関わらず同居しているなど、不貞行為や不貞関係が子供に不利益を与えるような場合には、そのことが親権者として相応しくない事情として考慮されることにはなりえます。

◆方針等
本件では、夫も子育てに協力的ではありましたが、妻が主として養育監護を担っており、従前の監護状況からすれば、夫が親権者と指定されることは厳しい見通しでした。遊ぶ、ごはんを食べさせる、風呂に入れる、寝かしつけるなどだけでなく、予防接種、健康診断、保育園との連絡など表に現れにくい子育ては沢山あります。
多くの場合、夫が協力的であっても、親権者に指定されるには不十分な場合が多いものです。他方で、不貞相手が責任を負いきれずにいずれ逃げ出す可能性、住居が安定していない可能性、妻が子供ではなく不貞相手を優先した生活を送っている可能性がありましたので、早急に調査官による調査をすべき事案でした。
また、子供が現在の住環境に慣れてしまうことも避けたいところでした。そこで、早期に家庭裁判所調査官による現在の監護状況の調査を実施し、現在の監護状況が明らかにすべく、急ぎで反論、主張、立証資料を準備しました。
また、婚姻費用の請求に関しては、子供の生活費を支払うことには抵抗はないものの、婚姻関係を破綻させた妻の生活費まで払うことは納得し難い状況でした。不貞をした配偶者への婚姻費用は、養育費相当額に限るなど事情に応じて減額される場合が多いため、養育費相当額ならば支払うと主張することとしました。

弁護士法人ALG&Associates

福岡法律事務所・離婚案件担当弁護士の活動及び解決結果

早期に、調査官による調査が実施されたものの、報告書では、「概ね現状の監護状況については良好と認められる。」とされていました。調査官の調査においては、当事者が準備することが多く、監護状況が悪いという調査結果は珍しいのが実情です。本件は、結果的に、親権について双方譲らず、離婚については調停が成立しませんでした。他方、婚姻費用については、養育費相当額となりました。
本件のように、妻が浮気をしたうえで子供を連れて別居する事案であっても、夫が親権を争えば離婚はできません。離婚できないということは、夫は婚姻費用を負担しなければなりません。婚姻関係が破綻した主たる原因が妻にあるとなれば、婚姻費用の額は減額さることが多いものの、不貞の主張が認められなければ、家族で暮らしていた自宅の住宅ローンや家賃の支払いに加え、子供だけでなく妻の生活費まで負担することになります。
そのため、本件のような事案では、不貞を立証できるかが重要となります。養育費相当額を支払う程度の負担であれば、夫側は経済的負担をあまり気にせず、落ち着いて今後について考えることができるからです。妻が婚姻費用を盾に、親権や慰謝料を強弁に主張し、夫が経済的負担に耐えかねて諦めるということも少なくありません。本件のような事案は多く、夫が稼いで妻が家事と子育てをするという従来の夫婦像からすればやむをえないでしょうが、夫婦ともにしっかり稼ぎ、家事育児も分担している夫婦であれば父親が親権者になれる可能性が高くなるのではないでしょうか。

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