相続放棄の期限は3ヶ月。過ぎてしまったらどうなる?延長方法は?

コラム

福岡法律事務所 所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 所長 弁護士

相続が発生したときに、いざ財産を確認してみたら、借金が多すぎた(債務超過)ということがあります。このようなとき、相続の効果をなかったことにするのが相続放棄という手続です。
最も注意しなければならないのは、「相続放棄の手続は、家庭裁判所に対する申述により行わなければならない」ということです。相続人間で文書を交わして、「相続放棄をした」と誤解されていることがあります。相続人間の合意では、民法上の相続放棄にはなりません。このような合意だけでは、負債の相続は免れないことになります。
本稿では、誤解も多い相続放棄の手続について解説します。

相続放棄の期限はいつから3ヶ月?期間の数え方

相続の承認又は放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」にしなければならないとされています(民法915条1項)。
この3か月の期間を、熟慮期間といいます。

期限が迫っているからと、焦って手続をすると後悔する場合も…

熟慮期間があるため、焦って相続放棄の手続をしてしまった、という方も中にはいらっしゃいます。相続放棄は、一度、手続をしてしまうと、撤回できないのが原則です(民法919条1項)。
ただし、相続放棄をした後、その意思表示の瑕疵(詐欺、強迫、錯誤など)を理由とする無効、取消しが可能なことはあります。裁判例では、相続放棄の錯誤無効(債権法改正後は、錯誤取消)を認めたものもあります(福岡高等裁判所平成10年8月26日判例時報1698号83頁)。相続放棄の無効、取消しは、裁判手続の中で主張することになりますが、確実なものではありません。
相続放棄は、一度すると撤回できないと考えて、慎重に手続を行うことが懸命といえます。

理由があれば相続放棄の期限は延長可能、ただし必ず認められるわけではありません

遺産が多く、債務超過なのかどうかわからない場合には、家庭裁判所に申し立てることで、熟慮期間の延長をすることも可能です。
ただし、必ず認められるわけではありません。また、あまりに長期間、延長が認められるわけでもありません。遺産の分量等、遺産調査と相続の承認・放棄の判断にかかる工数を踏まえて、3か月から半年程度の延長が認められることが多いようです。

相続放棄の期限を延長する方法

熟慮期間の延長は、家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てることにより行います。申立権を持つ者(申立人)は、利害関係人(相続人を含みます。)、検察官です。通常は、相続人が申立人となります。
相続人が申し立てる場合、申立てに必要な書類は、申立書、被相続人の住民票除票又は戸籍の附票、相続関係の分かる戸籍全部事項証明書等です。
申立てに必要な費用は、相続人1人あたり、収入印紙800円と、連絡用の郵便切手代です。郵便切手代は、裁判所により異なります。

相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
相続問題ご相談受付 24時間予約受付・年中無休・通話無料

3ヶ月の期限を過ぎてしまったらどうなる?

熟慮期間が経過してしまうと、単純承認の効力が発生します(民法921条2号。法定単純承認。)。
そのため、「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月」が経過してしまうと、原則として、相続の効力が生じます。つまり、資産も負債も無限に相続することになります。

3ヶ月が過ぎても相続放棄が認められるケース

3か月経過した後でも、負債があることを全く知らなかったような場合には、相続放棄が認められることがあります。裁判例でも、『相続人が相続財産の一部の存在を知っていた場合でも、自己が取得すべき相続財産がなく、通常人がその存在を知っていれば当然相続放棄をしたであろう相続債務が存在しないと信じており、かつ、そのように信じたことについて相当の理由があると認められる場合には、上記最高裁判例の趣旨が妥当するというべきであるから、熟慮期間は、相続債務の存在を認識した時又は通常これを認識し得べき時から起算すべきものと解するのが相当である』としたものがあります(福岡高裁決定平成27年2月16日判時2259号58)。

相続放棄が認められないケース

上記とは異なり、負債があることを認識していた場合には、相続放棄が認められないことが一般です。具体的には、「相続放棄という手続を知らなかった」「相続放棄の手続に期限があることを知らなかった」といった場合には、相続放棄は認められないと考えておいた方がいいでしょう。

3ヶ月経過していたら弁護士にご相談ください

熟慮期間が経過した後、相続放棄をするには、「どうして熟慮期間が経過するまで手続を採らなかったのか」を、被相続人との関係性などを踏まえて、証拠を基に具体的に説明する必要があります。このような説明は、法的知識がなければ適切にできません。
熟慮期間が経過している場合には、ぜひとも弁護士にご相談ください。

相続放棄の期限に関するQ&A

相続放棄の期限内に手続き完了までいかないといけないのでしょうか?

熟慮期間が経過する前に、裁判所に申述書、印紙、郵便切手、添付書類が到着する必要があります。戸籍が間に合わない場合には、追完できないか、申述先の家庭裁判所に相談しましょう。

相続後に借金が判明しました。まだ3ヶ月経っていないのですが、相続放棄可能ですか?

相続放棄の申述をすることは可能です。もっとも、借金を返済できるだけの資産があるかもしれません。まずは、家庭裁判所に、相続の承認又は放棄の期間の伸長を申し立てることが懸命なこともあります。

亡くなってから4か月後に借金の督促が来ました。借金を知らなかったのですが、相続放棄できないでしょうか?

負債の存在を一切知らなかったのであれば、相続放棄ができる可能性があります。弁護士にご相談ください。

先日相続人であることが判明したのですが、知った日の証明なんてどうしたらいいんでしょうか?相続放棄したいのですが、すでに半年経過しているんです…。

被相続人と疎遠であったことを、戸籍の附票等や、連絡の電話、メール等の履歴から証明できることがあります。弁護士にご相談ください。

相続放棄の3ヶ月まで、残り10日ほどしかありません。消印が3ヶ月以内なら間に合うでしょうか?それともその日までに裁判所に到着していなければならないでしょうか。

家庭裁判所に到達することが必要です。

相続放棄の期限は3ヶ月と聞きましたが、第2順位の人の期限は、第1順位の人が放棄後3ヶ月で合っていますか?

第2順位の相続人の熟慮期間も、「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」となります。具体的には、先順位の相続人が、相続放棄をし、受理されたことを知った時から3か月以内となります。

相続放棄の期限に関するお悩みは弁護士にご相談ください

相続放棄は、誰にでもできるような手続に思えます。しかし、相続放棄の要件効果をよく理解して行わないと、思いもよらない不利益が生じることになりかねなせん。相続の手続について判断に迷ったら、まず弁護士にご相談ください。

寄与分は、自ら主張立証をしないと認めてもらうことができません。もちろん、他の相続人が素直に納得してくれれば、それに越したことはないのですが、遺産の価値が高額であればあるほど、各自の利害関係の対立は先鋭化しがちですし、そもそも感情的に対立しているような相手の場合、理解を得るのは困難でしょう。
そこで、寄与分を主張する方法について解説していきたいと思います。

寄与分の主張に必要な要件

寄与分が認められるためには、寄与した者が共同相続人であること、寄与行為が相続開始前に行われていること、単なる寄与ではなく「特別の寄与」と認められるものであること、その寄与によって、被相続人の財産が維持・増加した、という関係が認められることが必要です。
例えば介護についても、単に身の回りの世話をした、お見舞いに行ったというだけでは、財産の維持増加に対する貢献としては寡少で、親族間の扶養義務を超えるようなものではないと判断される可能性が高いです。
「要介護度2以上で、本来なら介護施設に入所する等、費用を支出しなければならない状況にあった方に対し、自宅で自身が介護を無償で行うことにより、これら費用の支出をなくし、その分遺産が減らないようにした」というように、財産の維持増加に対する貢献が必要です。

特別寄与料について

寄与分は、共同相続人間における各自の取り分の問題ですので、全く関係のない他人がいくら貢献しても、寄与分はありませんが、法改正により、相続人でない者による寄与行為についても、被相続人の一定範囲の親族の場合は、「特別寄与料」の請求が可能になりました(1050条)。
被相続人の息子の嫁が、無償で寄与分が認められるようなレベルの介護をしていたという場合等が典型です。寄与分そのものを認めるものではなく、相続人に対して請求するものです。

寄与分はどう主張したらいい?

寄与分の主張は、自分から行う必要があります。他の相続人が事情を全て理解し、自分から譲ってくれるような場合は多くないからです。どのような行為をしたのか、その結果遺産がどのように維持・増加したのか等を具体的に説明しないと、理解を得ることは困難でしょうし、具体的な金額の話し合いにもつながらないと思いますので、きちんと資料を揃えておくことがとても重要です。

証拠がないと寄与分の主張は認められにくい

寄与分を認めるということは、他の相続人にとっては自分の取り分が減らされるようなものです。寄与によって維持増加した分は、寄与行為がなければ本来遺産として存在しなかったという点を理解してもらうにも、現に存在する遺産と、その人物が主張する寄与行為によって維持増加されたものの区別は必ずしも容易ではありませんし、納得を得るのはとても難しいものです。

相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
相続問題ご相談受付 24時間予約受付・年中無休・通話無料

寄与分の証拠になるもの

寄与分を請求しようと考えるなら、その証拠となる資料の確保は、他の相続人の理解を得るにも、裁判所に審判を求めるにも極めて重要です。具体的な資料の内容は事案により異なりますが、典型的なものについては以下に記載しておきます。

介護していた場合(療養看護型)

療養看護型では、要介護認定が2以上であることがまず大前提となりますし、その認定資料には、どのような生活動作に介助が必要か等も記載されている場合が多いので、これらの資料は保管しておくべきです。無償で行っているきたことや、財産の維持増加に貢献したことを示すには、被相続人の預貯金の推移を示す必要もあるでしょう。被相続人のための買い物等で、被相続人の預金から出金する場合は、被相続人のために使ったものであることを証明するために、レシートなどをとっておくことも重要です。自身が行ってきた介護の内容等については、日記などで日々記録をつけておくことも有益です。

事業を手伝っていた場合(家事従事型)

家事従事型の場合、業種にもよりますが、自身が被相続人に代わって事業を行ってきたことを示す資料はもちろんのこと、帳簿や確定申告書類等、自身が代わって従事したことによる利益等を示す資料が必要不可欠です。

お金を出していた場合(金銭出資型)

金銭出資型の場合、自身の口座からの出金や被相続人のための支出に充てた金銭の流れ等を示すことが何より重要です。その他、金銭の流れや、被相続人のための支出に充てたことを示す資料として、例えば不動産の購入であれば購入日や入金予定日との整合性等の確認のため、売買契約書等の資料を併せて示すことが有益な場合もあります。

生活費を負担していた場合(扶養型)

扶養型の場合、生活費を直接負担している場合もあれば、仕送りをしている場合もあるでしょうが、いずれにせよ、その金銭の流れを具体的に示すことは重要です。扶養型の場合、被相続人との関係性から通常期待されるような扶養義務の範囲を超えるレベルでなければ寄与分としては認定されないので、具体的な支出やその金額の大きさ等を示すためには、被相続人の生活費に関するレシート等を保管しておくや家計簿などをつけておくことも有益な場合があります。

寄与分主張の流れ

遺産分割協議での主張

寄与分は、主張すること自体は口頭でも可能ですので、遺産分割協議の場などで主張するという方法もありうるところです。具体的な寄与分の額も含めて、他の相続人全員が納得してくれるなら、これに沿った遺産分割協議を行うということになりますが、遺産分割協議は全員の合意が必要ですので、一人でも反対されると成立しません。

合意が得られない場合は調停で主張する

当事者間の話し合いが困難な場合等は、家庭裁判所の調停手続を用いることになります。寄与分の主張自体は、遺産分割調停の中でも行うことが出来ますが、別途「寄与分を定める処分調停」を併せて申し立てておかないと、調停が不成立となった場合に寄与分について判断する審判手続が行われません。また、寄与分を定める処分調停のみを申し立てることについて、それ自体は可能ですが、遺産分割調停が併せて申し立てられていないと、審判移行時に不適法却下とされます。

調停不成立の場合は審判に移行する

遺産分割調停と寄与分を定める処分調停を併せて申し立てておくと、調停が不成立となった場合に、審判手続に移行し、後者の審判において、寄与分の存否等について裁判所が判断を下すことになります。

寄与分の主張は認められにくいので弁護士にご相談ください

寄与分は、資料の確保や、何をどのように主張すべきかという点はもちろんのこと、その計算方法や資料を整理して相手にわかりやすく提示する場面等でも、専門的なスキルが要求されます。
また、寄与分は立証のハードルも高い反面、当時者間の対立も先鋭化し、早期円満が解決だった事案が長期複雑化するといった場合もありますので、事前に見通しをたてておくことがとても重要ですので、まずは早期段階で弁護士に相談しておくことを強くお勧めします。

離婚慰謝料を請求できる条件

夫婦の一方が婚姻関係の破綻原因を作って離婚せざるを得なくなった場合、その配偶者(有責配偶者)は他方に対して、離婚することに対する慰謝料を支払う必要が生じます。これを離婚慰謝料といい、その法的性質は不法行為に基づく損害賠償です。
離婚慰謝料の発生原因である婚姻の破綻原因は、例えば不貞・悪意の遺棄・暴力・暴言等があります。

性格の不一致でも慰謝料請求は可能?

夫婦生活を続ける中で、次第に意思疎通を欠き、これが長期かするような場合のことを「性格の不一致」というならば、夫婦の一方が婚姻関係の破綻原因を作ったとは言えません。このような場合には破綻原因について、どちらか一方に責任があるとは言えませんので、慰謝料の支払いを求めることはできません。

離婚慰謝料を請求する前にすべきこと

時効が成立していないかを確認する

上記のとおり、慰謝料の法的性質は不法行為に基づく損害賠償請求権なので、離婚慰謝料の請求権は、原則として離婚した日から3年間で時効にかかります。

請求に必要な証拠を集める

裁判を含め、法的手続きを前提にした場合、証拠の有無が何よりも重要であることは言うまでもありません。例えば、不貞の場合には探偵による調査報告書、DVであれば暴力や暴言を証明するための録音・録画等の証拠が考えられます。

離婚慰謝料を請求する方法

離婚するにあたって、いきなり調停・訴訟等の法的手続に着手するケースはそう多くはありません。まずは当事者で話し合い、それでも折り合いがつかない場合には、調停・訴訟の順に手続きが進んでいきます。
なお、慰謝料に関しては、不法行為に基づく損害賠償請求ですので、離婚とは独立した手続きをとることもできます。しかし、離婚事件と争点が共通することも多く、一般的には離婚の手続と同じ手続きの中で解決を目指すことが多いと思われます。

話し合いによる協議離婚で請求

離婚をしたいと思った時には、まずは相手方配偶者に離婚の意向を伝えなければなりません。話し合いにより、離婚や慰謝料等の合意ができたら、必ず合意の内容を書面(離婚協議書)にしましょう。

離婚協議書の作成

離婚協議書も契約書の一つであることに変わりありません。慰謝料にフォーカスすると、誰が誰に対し(夫婦のどちらがどちらに対し)、何を(何に関する慰謝料をいくら)、いつ(支払日・期限)、どうやって(一括なのか分割なのか、現金なのか振込なのか)等を決める必要があります。

話し合いで決まらない場合は離婚調停で請求

協議で離婚条件の折り合いが付かなかった場合には、夫婦関係調整調停を申し立てる必要があります。3人で構成される調停機関を通じて話し合いをする手続きです。あくまで話し合いによる解決を目指す手続きですので、条件の折り合いがつかなければ調停は成立しません。

それでも解決しなければ離婚裁判へ

調停が不成立で終了した場合には、訴訟を申し立てる必要があります。訴訟では証拠の有無によって、事実が認定され、認定された事実に法律を適用することによって終局的な結論を導き出す手続きです。上でも述べましたが、離婚の原因となる事実を立証するための証拠が重要になります。

あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚問題ご相談受付 24時間予約受付・年中無休・通話無料

内容証明郵便での請求について

内容証明郵便自体に法的な意味はありませんが、どのような請求も相手方に伝わらなければ意味がありません。請求した内容が相手方に届いた事実を証拠化するために、配達証明付きの内容証明郵便がよく使われます。

内容証明郵便に記載する内容

後に裁判所に証拠として提出する可能性があることを踏まえた記載を心がける必要があります。色々なスタンスがあるとは思いますが、私個人としては、請求の内容を特定するに足りる記載で十分だと考え、紛争の背景事情等について詳細に記載する必要はないと考えています。言うまでもありませんが、相手方の誹謗中傷となるような内容は厳として慎むべきです。

相手が離婚慰謝料を支払わないときの対処法

債務名義(公正証書・調停調書・判決書)等に記載された債務を履行しない場合には、強制執行手続を執ることができます。しかしながら、強制執行手続自体が煩雑で時間もかかることから、相手方の支払能力も考慮した上で分割での支払や、支払可能額で解決することも検討するべきでしょう。

よくある質問

子供がいる場合、離婚慰謝料の相場より多く請求することはできますか?

未成年の子供がいる等、有責ではない配偶者にとって負担が著しい場合や不利益の程度が著しい場合には、慰謝料が増額する傾向にあります。

不倫の慰謝料は離婚しないと配偶者に請求できませんか?

不倫の慰謝料の法的性質は不法行為に基づく損害賠償ですので、離婚とは切り離して請求することができます。但し、離婚という損害が生じていないので、受け取れる慰謝料の額が低くなる傾向にあります。

モラハラを理由に離婚した場合、慰謝料の相場より高く請求する方法はありますか?

一般的に、有責の程度が大きければ慰謝料の金額は高くなります。モラハラの場合、モラハラの内容やモラハラの期間等を考慮して、悪質だと言えれば高い慰謝料が認められ得ると思われます。

離婚の慰謝料請求の時効が迫っているのですが、時効を止める方法はありますか?

今すぐ時効の完成猶予及び更新の手続(民法147条以下)をする必要があります。状況によって取るべき手段が異なりますので、専門家に相談することを勧めます。

離婚時の慰謝料請求についてわからないことがあれば弁護士に相談しましょう。

離婚慰謝料は、離婚原因やこれまでの婚姻生活の状況、有責配偶者の支払い能力といった要素によって金額が大きく変わってくるため、専門家ですら適正な金額を判断するのは難しいといえるでしょう。それでも、弁護士は過去の裁判例や経験から慰謝料の金額の妥当性を検討することができますし、何より依頼者の精神的な負担や、離婚問題に費やす時間を減らすことができます。不明・不安なことがあればまずは弁護士に相談してみましょう。

養育費は子の監護養育のために重要な金銭ですが、支払が長期間にわたるため、途中で支払が滞るというトラブルは珍しくありません。
そこで、養育費について取り決める際、「公正証書」を作成しておくと、合意内容を明確にすることができる上、支払が滞った場合には強制執行を申し立てやすくなります。
この記事では、公正証書のメリット・デメリット、公正証書を作成する際の具体的な書き方、公正証書作成後の注意点などについて、詳しく解説します。

養育費を公正証書に残すべき理由とは?

公正証書は、公証人が、当事者間の合意内容を記載して作成する書面です。
公正証書は、公証人のみが作成することができる文書であり、当事者間に合意が成立したことの有力な証拠となります。
さらに、「強制執行認諾文言」がある場合、裁判所の調停・審判・訴訟の手続を経ずに、公正証書に基づいて強制執行を申し立てることができるという強い法的効力があります。
これらが、養育費を公正証書に残すべき理由です。

養育費に関することを公正証書に残すことのメリット

以下の記事では、養育費の公正証書を作成するメリットについて、詳しく解説します。

合意した条件について争いにくくなる

公正証書は、原則として当事者双方が公証役場に出頭した上、公証人が当事者双方に内容を確認しながら作成します。そして、公証人は、元裁判官や元検察官などの法律家が大半です。
このように作成された公正証書は、その記載どおりの合意が当事者間に成立したということの有力な証拠となります。
さらに、作成された公正証書の原本は、長期間保管されるため、改ざんされたり破棄されたりする心配もありません。

養育費の支払が滞ったときに強制執行ができる

養育費を公正証書に残しておくと、将来において支払が滞った場合、裁判所の調停・審判・訴訟の手続を経ずに、そのまま強制執行(相手方の預貯金や給与の差押え等)を申し立てることができます。
このように、速やかに強制執行を申し立てることができるという点が、公正証書の大きなメリットです。
ただし、強制執行を申し立てるためには、公正証書自体に「強制執行認諾文言」が設けられていることが必要です。

財産開示手続きが利用できる

強制執行を行う場合、相手方の財産を特定する必要があります。
そのために利用できる制度が「財産開示手続」であり、民事執行法改正により、公正証書に基づく財産開示手続の申立てができるようになりました。
具体的な手続は、相手方を裁判所に呼び出し、どんな財産を持っているのか開示させるというものです。

養育費に関することを公正証書に残すことのデメリット

養育費の公正証書のデメリットは、以下のとおりです。

作成費用がかかる

公正証書の作成には費用がかかります。その金額は、目的の価額により算定されますが、養育費については、支払が長期にわたる場合、10年分の金額のみが目的価額になります。
そのほか、正本・謄本の交付や送達について、数千円程度の実費を要します。
なお、弁護士に依頼する場合、弁護士費用が別途かかりますが、その金額は依頼内容によって異なります。

目的の金額(養育費の合計金額) 公正証書作成の手数料
100万円以下 5,000円
100万円超、200万円以下 7,000円
200万円超、500万円以下 11,000円
500万円超、1,000万円以下 17,000円
1000万円超、3,000万円以下 23,000円
3000万円超、5000万円以下 29,000円
5000万円超、1億円以下 43,000円

作成するのに時間がかかる

公正証書は、即日で完成できるものではありません。
公正証書の内容について事前に公証人の確認を受けたり、公証人から求められた必要書類を用意するなどした上、最終的には当事者双方が公証役場に出頭することを原則とします。
これらの事前準備期間を考慮すると、2週間程度を見込んでおいた方がよいでしょう。

作成するのは夫婦で協力しなくてはいけない

公正証書の作成は、当事者双方が公証役場に出頭することを原則としますが、公証役場は平日の日中のみ開いています。
ですから、相手方から公証役場への出頭を拒否されたり、日程調整がつかなかったりした場合、公正証書を作成することができないということになりかねません。

あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚問題ご相談受付 24時間予約受付・年中無休・通話無料

養育費と公正証書の書き方

養育費の公正証書を作成する場合、合意内容を明確化するとともに、支払がない場合には強制執行の申立てができるようにするため、以下の点に留意してください。

毎月の支払額

養育費は、「毎月○円」と月額で定めることを基本とします。
具体的な金額は、当事者双方で話し合って決めることが原則ですが、家庭裁判所の調停や審判においては養育費算定表が用いられており、この表は裁判所のウェブサイトで公開されていますので、話合いの参考にすることができます。
養育費算定表は、まず子どもの人数に応じた表を選んだ上、当事者双方の「自営業/給与所得者」の区別に応じた年収を当てはめて、養育費を計算します。

年収500万、専業主婦、14歳以下の子供1人 夫の年収300万円、妻の年収200万円、14歳以下の子供2人

養育費の支払日

養育費は、月額で定めることが基本であり、毎月の支払日も決めておくことが通常です。
法律上の明確なルールはありませんが、毎月末日までと定める例が多いほか、給料日を考慮した定め方をする例も散見されます。
いずれにせよ、将来において強制執行を申し立てることを見越すと、毎月の支払日をきちんと定めておくことが必要です。

支払開始日

養育費については、「いつから支払うか」という点も定めておくことが通常です。
例えば、離婚前の夫婦であれば、離婚が成立した月の当月又は翌月からとするのが一般的です。離婚後である場合は、「○年○月から」の養育費を支払うという点を明確に定めておきましょう。

支払終了日

養育費は、子が経済的に自立するまで支払う金銭であるため、成人年齢である「20歳まで」支払うケースが多いです。
ただし、家庭の事情によっては、20歳より後である「大学卒業まで」としたり、20歳より前である「高校卒業まで」として当事者間で合意するケースも散見されます。
なお、特に「大学卒業まで」とする場合、年月を明確にするため、例えば「22歳に達した後の最初の3月まで」などと定めておく方がよいでしょう。

支払方法

養育費の支払方法は、口座振込にすることが一般的です。特に、養育費であることが分かりやすいようにするため、子ども名義の口座を振込先に指定することも多いです。
なお、口座振込の振込手数料をどちらかが負担するかという点についても、明確に定めておいた方がよいです。一般的には、義務者が負担することが多いでしょう。

養育費の変更について

離婚後は、義務者の失業、義務者又は子の病気、子の進学といった「事情の変化」が起こる可能性があります。
そのため、「離婚後に事情の変化があった場合、改めて協議する」などという条項を公正証書に設ける方がよいでしょう。
ただし、公正証書にこのような条項がなくても、家庭裁判所に養育費の変更の調停を申し立てることは可能です(詳しくは後述します。)。

強制執行について

養育費が後日支払われなくなった場合、公正証書を根拠として強制執行の申立てを検討することとなります。
ただし、公正証書により強制執行を申し立てるためには、公正証書に「強制執行認諾文言」が設けられている必要がありますので(民事執行法22条5号)、公正証書を作成する際に、必ず確認しておいてください。

一度公正証書に養育費のことを残したら、金額は変更できない?

養育費の公正証書を作成した場合であっても、当事者双方が合意すれば、養育費の金額を変更することは可能です。この場合、きちんと書面を作成することが望ましいでしょう。
また、公正証書の作成後に以下のような「事情の変化」が生じた場合、金額を変更できる可能性がありますが、相手方が応じない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります。

  • 義務者、権利者の収入が大きく変動したこと
  • 子の進学や病気により、著しく高額な出費が必要となったこと
  • 義務者が再婚し、扶養家族が増えたこと
  • 権利者が再婚し、子と再婚相手が養子縁組をしたこと

よくある質問

養育費について公正証書を作成したいのですが、相手に拒否された場合はどうしたらいいですか?

公正証書は、あくまで双方の合意の下で作成するものですので、相手方から拒否された場合には、公正証書を作成することができません。
その場合の対処法は、以下のとおりです。
まだ離婚が成立していないときは、①先に協議離婚を成立させた上、養育費請求調停を申し立てるか、②離婚調停を申し立てて、その調停において養育費についても話し合うか、いずれかによることが現実的です
次に、既に離婚は成立している場合には、そのまま養育費請求調停を申し立てることが現実的です。
いずれにせよ、相手方から拒否された場合、公正証書を作成することができませんので、次のステップとして、家庭裁判所の調停手続を利用することが現実的です。

養育費の公正証書はどこで作成することができますか?

公証役場は各都道府県に複数あり、どの公証役場においても、養育費の公正証書を作成することはできます。
しかし、公正証書の作成の際に当事者双方が公証役場に出頭するのが原則であることを考慮すると、住居や職場から近い公証役場を選択することが現実的です。
さらに、将来において養育費の支払が途絶えた場合に強制執行を申し立てることを見越すと、正本・謄本の交付を受けたり、送達証明書を発行してもらったり、執行文の付与を受けたりするために再度公証役場に出頭しなければならない可能性がありますので、やはり住居や職場から近い公証役場をあらかじめ選択する方がよいでしょう。

離婚の際に公正証書を作成したいのですが、養育費に関して書けないことなどありますか?

公正証書には、法令に違反した事項や、法的に無効な事項を記載することはできません(公証人法26条)。また、公正証書は日本語を用いる必要があります(同法27条)。
養育費の場合、例えばその支払額が義務者の収入・資産と比較して極めて高額だったり、遅延利息又は違約金の定めが著しく高利又は高額だった場合、法的に無効なものとして公正証書には記載できないという可能性があります。
実際上、公証人の事前確認を受ける際に、法的に無効ではないかという点も相談した方がよいでしょう。

公正証書がないと養育費がもらえませんか?

公正証書がなくとも、養育費を請求することは可能です。
具体的には、まず相手方に連絡を取り、養育費を支払ってほしいということを伝えます。その連絡手段は、電話、メール、手紙など何でもかまいませんが、例えば内容証明郵便を用いることによって、「いつ請求したか」という記録が残るようにすることが望ましいでしょう。
次に、相手方が応じてくれない場合、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てることとなります。調停は、飽くまで話合いの手続ですが、調停が不成立に終わった場合、自動的に審判に移行し、最終的には裁判所が一切の事情を考慮して判断することとなります。

養育費の公正証書を作成する際は弁護士にご相談ください

養育費の公正証書を作成することは、弁護士に依頼しなくても可能です。
しかし、養育費の支払条件について相手方と合意できなかったり、強制執行ができないような不十分な公正証書しか作成されなかったりする危険があります。また、公正証書が完成するまでに、時間と手間がかかる可能性があります。
弁護士は、代理人として相手方と交渉したり、公正証書案を作成した上で公証人の事前確認を受けたり、代理人として公正証書の作成に立ち会ったりすることができます。また、公正証書の内容に問題がないかという事後確認や、公正証書どおりに養育費が支払われなかった場合の対処法についても、法的なアドバイスをすることができます。
養育費は、お子様の監護養育のために重要なものであり、公正証書は、その適切な支払を受けられるようにするために役立つものです。養育費の公正証書の作成については、弁護士にご相談ください。

遺産分割は相続人全員で行わなければ有効なものと認められません。法定相続人の範囲に含まれている場合、未成年者であっても相続人には変わりありませんし、遺産相続を受ける権利がありますので、遺産分割を行う場合はその未成年者も含めて手続を行わなければなりません。もっとも、未成年者は自身で法律行為を行うにつき制限があるため、通常とは異なる注意点も存在しています。

未成年者は原則、遺産分割協議ができない

未成年者は、原則として、法定代理人の同意なくして有効な法律行為をすることができません(民法5条1項参照)。同条但し書きには、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為(※贈与を受けること等)はその限りでないとも規定されていますが、遺産分割は自分の取り分について、割合や取得する財産の具体的内容等を取り決め合う複雑な法律行為ですので、単独で行うことはできません。

成年年齢の引き下げについて(2022年4月1日以降)

平成30年6月13日の改正により、成人年齢は20歳から18歳に引き下げられました。この改正は,令和4年4月1日から施行されています。成人年齢の引き下げによって、以前は20歳からとされていたものの一部は18歳から行うことができるようになり、遺産分割も18才から自身で行えるようになりました。成年年齢引き下げに伴う変更の詳細については、以下の法務省の記事もご参照ください。

民法改正 成年年齢の引下げ

成人になるのを待って遺産分割協議してもいい?

相続人の一部に未成年者が含まれているという場合、法定代理人や特別代理人選任の問題がありますので、その者が成人するまで遺産分割は行わないというのも選択肢の一つではあります。もっとも、相続税の申告期限と納税の問題や、改正法による特別受益や寄与分の主張に対する期間制限の問題もありますので、その判断は早期段階で専門家に相談の上、慎重に行うことをお勧めします。

相続人に未成年者がいる場合は法定代理人が必要

遺産分割を行う相続人の中に未成年者がいる場合、未成年者単独では有効な法律行為ができませんので、その法定代理人(又は特別代理人)を手続に関与させることが必要になります。

法定代理人になれるのは親権者(親)

未成年者の法定代理人は親権者というのが通常です。両親ともに健在という場合、共同親権者である両親の同意が必要になります。離婚等で単独親権の状況となっている場合は、その親の同意が必要です。死亡等で親権者が全て欠けてしまった場合は、未成年後見人の選任が必要になります。

親も相続人の場合は特別代理人の選任が必要

親権者が法定代理人の場合、未成年者が相続人となっている相続について、親権者自身も相続人というケースがありうるところです。遺産分割は被相続人の遺産を相続人でどのような割合で、どの財産をだれた取得するのかを話し合う、いわば限られたパイを分け合うようなものですので、相続人同士の利害は対立する関係にあります。法定代理人自身と未成年者の利害が対立するような場合は、法定代理人の同意ではなく、特別代理人の選任が必要です。

未成年の相続人が複数いる場合は、人数分の代理人が必要

相続人となる未成年者が複数という場合、特別代理人は各自にそれぞれ選任されなければなりません。遺産分割は相続人同士で利害が対立する関係にあるのですから、一人の人間が複数の未成年者の特別代理人となるのでは、未成年者同士の利害対立が生じてしまうからです。

特別代理人の選任について

特別代理人の選任は、家庭裁判所への申立てが必要です。その手続きについて解説します。

特別代理人とは

特別代理人というのは、親権者等の法定代理人が、自身の利害とその未成年者の利害が対立(利益相反行為)する場合に、法定代理人に代わって未成年者の立場で手続に関与する者のことです。選任には、家庭裁判所に申立書や各種資料、手数料等を納付して選任を申し立てることが必要です。

申立てに必要な費用

特別代理人の選任には、裁判所に納める収入印紙(800円)と予納郵券(裁判所によって異なりますが、概ね500~1000円前後です)が必要です。さらに、特別代理人の報酬も必要な場合があります(専門職の特別代理人が選任される場合は必須です)。

必要な書類

申立書の他、申立ての標準的な添付書類として、以下のものが挙げられます。
①未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
②親権者又は未成年後見人の戸籍謄本(全部事項証明書)
③特別代理人候補者がいる場合、その者の住民票又は戸籍附票
④利益相反に関する資料
⑤利害関係人からの申立ての場合は、利害関係を証する資料

相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
相続問題ご相談受付 24時間予約受付・年中無休・通話無料

未成年後見人の選任について

死亡等の事情により、親権者が全て欠けてしまった場合、その未成年者には法定代理人がいないという状態になります。現実の監護は親戚等が事実上行っているという場合もあると思いますが、未成年者自身が当事者となる法律行為を行う場合には、法定代理人が欠けたままでは支障があります。そのための制度として、未成年後見人というものがありますので、以下説明していきます。

未成年後見人とは

未成年後見人は、親権者を欠いた状態にある未成年者に選任され、法定代理人として活動する者です。申立ては未成年者自身(※意思能力が必要です)の他、未成年者の親族やその他利害関係人も行うことができます。

申立てに必要な費用

未成年後見人の選任も、家庭裁判所に申し立てる必要があります。そのための費用として、少なくとも裁判所に納める印紙代(800円)と予納郵券(裁判所により異なりますが、概ね3000円前後)が必要です。

必要な書類

申立書の他、申立ての標準的な添付書類として、以下のものが挙げられます。
①未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
②未成年者の住民票又は戸籍附票
③未成年後見人候補者がいる場合、その者の戸籍謄本(法人の場合は商業登記簿)
④親権を行うものがないこと等を証する書面(親権者の死亡の記載された戸籍等の謄本等)
⑤未成年者の財産に関する資料
⑥利害関係人からの申立ての場合,利害関係を証する資料
⑦親族からの申立ての場合,自身と未成年者の親族関係を証する戸籍謄本等

未成年の相続人が既婚者の場合は代理人が不要

改正前の民法では、成年年齢よりも婚姻可能年齢が異なっていたため、未成年者を成年とみなす、いわゆる成年擬制という制度がありました。改正後は、どちらも18才に統一されているため、もはや成年擬制という場面自体がなくなり、条文も削除されました。

親が未成年の相続人の法定代理人になれるケース

親権者が存在する事案でも、常に特別代理人の選任が必要というわけではなく、選任が必要なのは自身の相続人の一人であるというような利害対立(利益相反)が存する場合だけです。

親が相続放棄をした場合

親権者が未成年者とともに法定相続人という事案でも、すでに親権者自身は相続放棄をしているという場合には、もはや利害対立はありません。相続放棄は撤回できませんし、放棄後は相続開始時にさかのぼって相続人の地位を失うからです。

片方の親がすでに亡くなっており、未成年者が代襲相続人になった場合

下の図のような代襲相続の事案では、被相続人(父A)と血縁関係にない親権者(長男の妻E)は、Aの相続について相続人の地位を有しません。したがって、長男Cの地位を代襲相続した孫Fが父Aの相続について遺産分割協議等を行うに際し、Eが法定代理人として活動することができます。

未成年者を含む遺産分割協議を弁護士に依頼するメリット

相続人に未成年者を含む相続の事案では、誰と話し合いをするべきか、特別代理人等の選任は不要か等、判断に迷う場面も多いと思います。また、親権者の立場からみても、法定代理人として活動すると言っても、子供にとっての最善を求めようにも、親族同士の話し合いにどのように主張していけばよいのか等の判断は容易ではないと思います。いずれの立場からも、専門家の関与は不可欠に近いものと思いますので、早期に弁護士に相談されることを強くお勧め致します。

被相続人が亡くなった後、相続人が予想しないような遺言が出てくることがあります。このような遺言が出てくる場合、そもそも相続人と被相続人との交流が希薄で、相続人が、被相続人の生前の意向を誤解していたというようなケースもあれば、被相続人の意思が歪められ遺言が作成された場合や、遺言がまったくの偽造であったようなケースもあります。後二者の場合、遺言無効確認訴訟により、遺言の効力を争うことになります。

遺言無効確認訴訟(遺言無効確認の訴え)とは

遺言無効確認訴訟は、その名のとおり、裁判所から、遺言の効力がない(=無効である)ことの判断を得るための訴訟です。遺言無効確認訴訟において、請求が認容された場合、原則として、遺言によらずに遺産分割手続を行うことになります。ただし、無効とされた遺言の前に、有効な遺言がなされていた場合、前の遺言の効力が復活することもあります。

遺言無効確認訴訟にかかる期間

「遺言無効確認訴訟」のみの審理期間に関する統計はありません。「裁判の迅速化に関する報告書」における報告では、遺言無効確認訴訟を含めた相続関係の訴訟を含む事件類型については、審理期間が長期化し、2年を超える事件が多数に上ることが報告されています。その原因として、古くからの長期間にわたる事実経過が問題となることや、争点が多数に上ることなどが指摘されています。

遺言無効確認訴訟の時効

遺言無効確認訴訟には、時効はありません。もっとも、一般的に、遺言無効確認訴訟で敗訴した場合に備えて、遺留分侵害額請求を予備的に併合することが多くあります。遺留分侵害額請求は、『遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間』の時効にかかるため(民法1048条)、結果として、相続開始からあまり時間をかけずに提訴することになります。
また、被相続人の意思能力の低下を理由として、遺言無効を主張する場合、早期に診療録等の証拠収集を行わなければ、診療録等の保存期間(5年。保険医療機関及び保険医療養担当規則9条)を経過してしまうことがあります。
そのため、相続開始から、そう時間をあけずに、遺言無効確認訴訟を提起することが望ましいです。
なお、民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第二十四号)の法改正により、遺産分割の期間制限が設けられることになりました。まだ明確な法解釈は示されていませんが、遺言無効確認訴訟により遺産分割が必要となった場合にも、この期間制限がかかるとすると、間接的に遺言無効確認訴訟の提訴期間も制限されるように思われます。

遺言無効確認訴訟の準備~訴訟終了までの流れ

遺言無効確認訴訟は、難易度の高い訴訟類型の一つです。極論、相続人を特定する戸籍と遺言さえあれば、遺言無効確認訴訟の提起は可能ですが、それだけでは到底勝訴はおぼつきません。適切な証拠の準備が不可欠です。

証拠を準備する

まず、遺言(自筆証書、公正証書他)が必須です。また、被相続人、相続人の戸籍も必要となります。
これらの他、遺言作成時の被相続人の意思無能力等を主張するのであれば、当時の被相続人の診療録その他の被相続人の健康状態、精神状態の分かる記録の収集が必要となります。また、遺言が偽造されたことを主張する場合、被相続人の真実の筆跡の分かる書類(手紙その他の手書きにより作成された文書)の収集が必要となります。

遺言無効確認訴訟を提起する

遺言無効確認訴訟の原告は、相続人及びその承継者です。被告は、他の相続人、受遺者、遺言執行者などです。遺産確認の訴えと異なり、法定相続人全員が当事者となる必要はない(=固有必要的共同訴訟ではない。)とされています(最判昭和56年9月11日最高裁判所民事判例集35巻6号1013頁)が、共同相続人の一部を除外した場合、除外された者に判決の効力が及びません。一部の共同相続人を除いて遺言無効確認訴訟に勝訴しても、後々、遺産分割手続で紛糾することが確実ですので、遺産分割手続等に関与が必要な者全員を被告とすることが通常といえます。
提訴先(管轄裁判所)は、被告の住所地及び相続開始時における被相続人の住所地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所です。
建前上、遺言無効確認訴訟では、調停前置主義(まず家庭裁判所の調停手続を経なければ裁判できないこと。)がとられています。もっとも、遺言により利益を受ける者が、遺言を無効と認めること自体稀なため、遺言無効確認訴訟がいきなり提起された場合でも、却下判決とならずに、手続が進むことが一般のようです。

遺言無効確認訴訟で勝訴した場合、訴訟の対象となった遺言が無効となります。その遺言の前に有効な遺言がされているときは、前の遺言を基に遺産の帰属が決まります。前の遺言がないときには、遺産分割協議、調停、審判へと進むことになります。

遺産分割協議とは|揉めやすいケースと注意点

遺言無効確認訴訟で敗訴した場合

遺言無効確認訴訟で敗訴した場合、当事者間で遺言が有効であることが確定します。そのため、その遺言を基に、法的手続を進めていくことになります。遺言の内容が、遺産全体に対する相続分の指定の場合には遺産分割が必要となります。また、遺言の内容が、遺留分を侵害するような場合には、遺留分侵害額請求をするか検討することになります。

相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
相続問題ご相談受付 24時間予約受付・年中無休・通話無料

遺言が無効だと主張されやすいケース

遺言無効確認訴訟に至りやすいケースは、「あの人があんな遺言を書くわけない」と相続人の誰かが思うようなものです。

認知症等で遺言能力がない(遺言能力の欠如)

遺言無効確認訴訟に至るケースとして代表的なものが、遺言者の判断能力が衰えた状態で遺言が作成されたケースです。認知症の高齢者や、重度の精神疾患の場合がこれにあたります。もっとも、認知症だからといって直ちに遺言が無効になるわけではありません。裁判例をみると、遺言者の自己決定権の尊重等も考慮して、遺言の内容と遺言者の判断能力との相関関係で、有効な遺言かどうか判断されているようです。

遺言書の様式に違反している(方式違背)

民法上、遺言の方式に反している遺言は無効となります(民法968条以下)。
この方式違反の場合も、遺言無効確認訴訟として争われることがあります。珍しい裁判例として、花押は、自筆証書遺言の方式の一つである「押印」にあたらないとした最高裁判例があります(最判平成28年6月3日)。

相続人に強迫された、または騙されて書いた遺言書(詐欺・強迫による遺言)

詐欺、強迫による遺言は、取り消しうるものと解されます。もっとも、当の遺言者が亡くなっているため、「詐欺された」「脅迫された」との事実の立証自体、困難なことが多いです。
そもそも、一度、詐欺、強迫により遺言が作成されたとしても、後の遺言で撤回してしまえばよいのです(民法1022条)。遺言者の死亡まで、大事に保管されているような遺言が、詐欺又は脅迫によるものだと認められるハードルは、極めて高いといえます。

遺言者が勘違いをしていた(錯誤による無効・要素の錯誤)

遺言に錯誤があった場合、その遺言は、無効(令和2年3月31日以前にされた遺言)又は取り消しうるもの(同年4月1日以後された遺言)となります。
遺言に錯誤を認めた重要裁判例として、『錯誤により遺言が無効とされる場合とは、当該遺言における遺言者の真意が確定された上で、それについて遺言者に錯誤が存するとともに、遺言者が遺言の内容となった事実についての真実を知っていたならば、かかる遺言をしなかったといえることが必要である』との規範を示したさいたま地裁熊谷支部平成27年3月23日があります。

共同遺言

民法975条は、『二人以上の者が同一の証書でする』遺言を禁止しています(いわゆる「共同遺言の禁止」)。一つの書面で遺言をすると、お互いがお互いの意向に干渉されて、遺言者の真意が示されない可能性がある、というのがその理由です。

公序良俗・強行法規に反する場合

公序良俗や強行放棄に反する遺言は、無効となります。愛人との交際維持を目的に、正妻が居住する不動産を含めた全財産を遺贈するとの遺言が無効とした裁判例などがあります(東京地判昭和58年7月20日、東京地判昭和63年11月14日他)。

遺言の「撤回の撤回」

遺言は、自由に撤回することができます(民法1022条)。では、「撤回を撤回」して、元の遺言を復活させることはできるのでしょうか。この場合、撤回された遺言の効力は、原則として復活しません(民法1035条)。一度、撤回した遺言を復活させたいのであれば、再度、同一内容の遺言を作成する必要があります。

偽造の遺言書

偽造された遺言書は、もちろん無効です。無効の立証には、被相続人が遺言を作成していないことを示す被相続人の筆跡や、公証役場に出頭した自称被相続人が、赤の他人であること等を裏付ける証拠が必要になってきます。

遺言が無効だと認められた裁判例

遺言が無効であると認められた裁判例は複数あります。そのうち、遺言が偽造であることを理由として、遺言が無効であるとした裁判例(大阪高判平成20年11月27日)をご紹介します。
この事案は、第1遺言がされた後に、第2遺言がされたものです。第1遺言により株式の死因贈与を受けた控訴人(原告)は、第2遺言は偽造により無効であると主張して、遺言無効確認訴訟の他、控訴人が同株式を有することの確認、株主総会決議の取消しを求めた事案です。原審は、第2遺言を有効としたため、原告が控訴しました。
この裁判では、複数の筆跡鑑定が提出されており、第2遺言が被相続人の筆跡であるとした筆跡鑑定も複数あります。しかし、大阪高裁は、以下の理由により、第2遺言を偽造と判断しました。

①第2遺言に使用された印鑑の不自然さ
第1遺言には、被相続人の実印が押印されていました。一方、第2遺言には、実印ではなく、認印が押印されており、この認印は、日ごろから被控訴人の会社に保管され、容易に入手できる状態にありました。このような事情を踏まえ、第2遺言は第1遺言を大幅に書き換えるものである重要な文書であるのに、被相続人が、第2遺言に実印ではなく認印を押印したのは極めて不自然としました。

②第2遺言等の内容の不合理性
第1遺言は、それまで会社の経営に関与していた控訴人(及び控訴人の夫である訴外B)に株式の大部分を取得させるものでした。従業員及び取引先もBが会社を引き継ぐものと考えていたことを踏まえ、大阪高裁は、被相続人がこのような内容の遺言をしたのはごく自然なことと評価しています。一方、第2遺言は、それまで会社の経営に関与していない被控訴人に対して、株式の大部分を相続される内容のものであり、不自然・不合理なものでした。そして、大阪高裁は、多数の事情を検討し、被相続人が、このような不自然・不合理な遺言をする特段の事情はないと評価し、第2遺言は偽造されたものと判断しました。
大阪高裁は、被相続人の筆跡のみならず、そのような遺言をするような自然かつ合理的な事情があるかを緻密に検討しています。偽造を根拠に遺言無効確認訴訟を提起する場合に、非常に参考になる裁判例です。

遺言無効確認訴訟に関するQ&A

遺言書を無効として争う場合の管轄裁判所はどこになりますか?

遺言無効確認訴訟の管轄は、被告の住所地又は相続開始時における被相続人の住所地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所になります。遺産確認訴訟が必要となるほどの財産がある場合、管轄は地方裁判所となることが多いですし、そもそも難易度の高い訴訟のため、地方裁判所に提訴することがほとんどと思われます。

弁護士なら、遺言無効確認訴訟から遺産分割協議まで相続に幅広く対応できます

遺言無効確認訴訟は、相続のための手続の一部に過ぎません。遺言無効確認訴訟で勝訴したとしても、まだまだ法的に複雑な論点を含む手続が控えています。このような手続を適切に行うには、弁護士の関与が不可欠です。遺言が無効なのではとお考えになった場合、ぜひ弁護士にご相談ください。

夫婦間で離婚条件について合意に達し、離婚調停が成立した後、その合意内容を書面にまとめた「調停調書」が家庭裁判所によって作成されます。 調停調書には確定判決と同じ効力があり、原則として、後で調停調書の内容を変更することはできません。そのため、調停調書に記載された合意内容(調停条項)については、あらかじめきちんと確認しておかなければなりません。
以下の記事では、調停調書について、詳しく解説します。

調停調書とは

夫婦が離婚条件について合意すると、裁判官は裁判所書記官立会いの下、夫婦の前でその合意内容を読み上げます。夫婦は、読み上げられた合意内容に誤りがないかどうかを確認し、誤りがなければ合意が成立したものとされます。そして、その合意内容を記載した調停調書が作成されます。
このように、調停調書は、夫婦間で成立した合意内容を公に記載するものであり、以下の記事で述べるような法的効力が付与されます。

調停調書の効力

調停調書は確定判決と同等の法的効力を持つため、一度作成された調停調書の内容を容易に変更することはできず、調停成立後の不服申立てもできません。
ですから、調停調書の内容に誤りや記入漏れがないように、調停調書作成前だけでなく、調停調書交付後にも注意深く確認しなければなりません。
また、そもそも調停内容に納得ができない場合には、合意すべきではありません。

公正証書との違い

公正証書は、公証役場で公証人に作成してもらう公的な文書です。調停調書とは、作成場所と作成者が異なります。
また、調停調書と公正証書では、離婚において用いられる方法が異なります。
夫婦が作成した離婚届が受理されただけで協議離婚は成立しますが、更に夫婦間で合意した離婚条件について、公正証書にすることができるのです。これに対し、調停調書は、離婚調停において合意が成立した場合にのみ作成されます。

和解調書との違い

裁判所によって作成される、という点は共通しますが、前提となる手続が違います。
離婚に関する和解調書は、離婚訴訟になった後で、訴訟上の和解が成立した場合に限り作成されるものです。訴訟上の和解により成立した離婚を和解離婚といい、和解離婚の際に作成されるのが和解調書です。
これに対し、調停手続において和解調書が作成されることはありません。調停手続において作成されるのが調停調書です。

調停調書の内容を確認する際のポイント

調停調書には、離婚調停における合意内容が記載されます。そして、原則として、後でその記載内容を変更することはできませんので、間違いがないかを確認しておく必要があります。 以下の記事では、そのポイントについて解説します。

離婚成立の形態

離婚調停が成立すると直ちに離婚(調停離婚)が成立し、調停調書に「申立人と相手方は、本日、調停離婚をする」などと記載されますが、10日以内に戸籍上の届出(報告的届出)を行う必要があります。
もう一つの形態は、申立人又は相手方が離婚届を役所に届け出るという内容で合意するケースです。この場合、離婚届が受理された時点で初めて、協議離婚としての離婚が成立します。
以上のどちらであるかを確認した上、その内容に沿った届出が必要です。

離婚届出義務者

前述した離婚成立の2つの形態のうち、後者(離婚届の提出によって協議離婚を成立させるという方法)の場合、申立人と相手方のどちらが離婚届出義務者となるかを、調停調書に明示する必要があります。そして、義務者が届出をして受理されない限り、離婚(協議離婚)自体が成立しません。
なお、このような危険性があるため、後者(離婚届の提出によって協議離婚を成立させるという方法)で合意するケースは、稀であるといえます。

財産分与

離婚調停で財産分与について合意した場合、合意した金額が支払われないときには強制執行を申し立てることを見越して、財産分与の金額や支払時期をきちんと確認し、調停調書に記載してもらうべきです。
また、不動産や自動車等を受け取る場合、名義変更(登記・登録)が必要になります。調停調書の内容によっては、相手方の協力がなければ名義変更できない場合もありますので、名義変更についても、合意内容をきちんと確認してください。

慰謝料

離婚調停では、離婚と併せて慰謝料について取り決める場合もあります。慰謝料は、受けた精神的苦痛を賠償してもらうものですが、離婚に応じる代わりに慰謝料をもらう、という場合もあります。
慰謝料も金銭の支払であることは財産分与と同様ですので、離婚後の未払が生じた際に強制執行を申し立てるなどの適切な対処ができるようにするため、金額や支払時期をきちんと確認し、調停調書に記載してもらうべきです。

養育費

未成熟の子供がいる場合には、養育費について決めることになります。離婚調停において養育費についても取り決めた場合には、養育費も金銭の支払を求めるものですので、その金額や支払時期をきちんと確認しましょう。
それらを記載した調停調書は、後日に未払が生じた際には強制執行の申立ての根拠となるものですので、非常に重要です。養育費は、子供の成長のために欠かせないお金ですので、特に慎重に確認すべきでしょう。

親権、面会交流

未成年の子を持つ夫婦が離婚する際には、子の親権について定めなければなりません。調停調書に必ず記載されることになるので、夫婦のどちらを親権者とするのか、取り決めた内容が調停調書に正確に記載されるよう、必ず確認しましょう。
また、親権者とならずに子と離れて暮らすことになった非監護親については、子との面会交流を取り決める場合があります。面会交流の具体的な条件についても、正確に調停調書に記載されることが望ましいです。

あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚問題ご相談受付 24時間予約受付・年中無休・通話無料

調停によって離婚が成立した場合の離婚届提出までの流れ

離婚調停の成立によって離婚(調停離婚)は成立しますが、戸籍の届出は必要です。そこで、離婚調停の成立後10日以内に、役所に離婚届を提出する必要があります。
以下の項目では、離婚届を提出するまでの流れについて解説します。

調停調書の謄本を交付してもらう

離婚届を提出する際には、調停調書の謄本(又は省略謄本)も併せて提出しなければなりません。調停調書謄本は、調停を行った家庭裁判所に申請し、交付してもらいます。
申請方法には、郵送申請と、直接裁判所で申請する来庁申請があります。郵送申請の場合、調停調書謄本が手元に届くまでには日数がかかるので、急ぎの場合には来庁申請を行うことになるでしょう。どちらの申請方法でも収入印紙代がかかるほか、郵送申請には郵便切手代がかかります。

離婚届を役所に提出する

調停調書の謄本(又は省略謄本)が準備できたら、離婚届を役所に提出します。提出先の役所は、夫婦の本籍地の市区町村か、夫婦の一方の所在地の市区町村になりますが、後者の場合には、夫婦の戸籍謄本も提出する必要があります。
なお、離婚届の提出が離婚調停の成立後10日を過ぎてしまった場合、5万円以下の過料に処せられる可能性がありますので、ご注意ください。

調停調書の謄本が届かない場合は

調停調書の謄本(又は省略謄本)は、通常、郵送申請をしてから数日~1週間程度で届きます。1週間以上経っても届かない場合は、申請先の家庭裁判所に問い合わせるようにしましょう。このようなケースであれば、離婚調停の成立後10日以内という離婚届の提出期限を過ぎてしまっても、過料に処せられる可能性は低いといえます。

調停調書の記載内容を相手が守らないときは

相手方が調停調書の記載内容を守らない、というトラブルが生じることがあります。
これに対する対処法としては、まず「履行勧告」「履行命令」という制度があります。
履行勧告は、家庭裁判所から相手方に履行する(記載内容を守る)よう促してもらうことができます。履行命令は、期限を定めて履行するよう命じてもらうことができ、正当な理由なく命令に従わなかった者は、10万円以下の過料に処せられる可能性があります。
しかし、相手方が必ず履行勧告や履行命令に従うとは限りません。
そこで、最終的な対処法としては、「強制執行」という制度を利用することができます。強制執行を申し立てるためには、調停調書の正本が必要です。謄本しか手元にない場合は、離婚調停を行った家庭裁判所に対して正本の交付申請をしなければならないので、ご注意ください。
なお、履行勧告や履行命令を経ずに、最初から強制執行を申し立てることも可能です。

調停調書に関するQ&A

手元に届いた調停調書を確認しましたが、内容の変更や追加は可能ですか?

調停調書は、「計算違い、誤記その他これらに類する明白な誤りがあるとき」に限り、家庭裁判所の更正決定によって変更してもらうことができます(家事事件手続法269条1項)。このように、調停調書の内容を事後に変更してもらうことは非常に困難ですので、合意の内容を事前によく確認し、意に沿わない調停調書が作成されることがないように、十分気を付けましょう。
なお、家庭裁判所に更正決定をしてもらうことができる期間の制限はありません。

相手からのDVが心配で調停調書に現在の住所を載せたくない場合、何か方法はありますか?

調停調書は、相手方が家庭裁判所の許可を得ずに交付を請求することができます(家事事件手続法254条4項)。
そこで、まず調停の申立ての時点で、家庭裁判所に対して「住所等の秘匿申出」を行っておき、あなたの現在の住所が相手方に知られないように裁判所に配慮してもらう、という方法が望ましいです。
なお、秘匿申出を行うだけでなく、あなた自身が家庭裁判所に提出する書面にも、現在の住所が記載されないように注意しましょう。

裁判所での調停調書の保管期間はどれくらいですか?

法律上の明確な規定はありませんが、現在の家庭裁判所における運用によると、調停調書の保管期間は30年です。 そして、調停調書以外の記録の保管期間は5年です。
ただし、今後、法律が改正されたり、家庭裁判所の運用が変更されたりする可能性はありますので、ご注意ください。

調停調書を役所に提出しなければいけないのはなぜですか?

離婚調停の成立によって、離婚(調停離婚)は成立しますが、戸籍の記載が自動的に変更されるわけではありません。
法律上、役所に戸籍の届出を行う必要があり、その届出の際に調停調書謄本の提出が必要となります(戸籍法77条、63条1項)。この届出は、既に発生した事実又は法律関係についての届出であり、「報告的届出」といいます。
報告的届出も法律上の義務であり、これを怠った場合は過料に処される可能性がありますので、注意が必要です。

調停調書は再発行してもらえますか?

調停において合意が成立した場合、その合意を記載した調書の正本、謄本又は抄本は、裁判所書記官に対して交付を請求することができますので(家事事件手続法254条4項2号)、再発行してもらえます。
また、調停が不成立だった場合、その事件が終了した旨を記載した調書の正本、謄本又は抄本についても同様です(同号)。
なお、取下げにより終了した事件の場合、記録の閲覧又は謄写、その正本、謄本又は抄本の交付については、家庭裁判所の許可を得る必要があります(同条1項)。

調停調書に、子の親権は私と書かれています。私の扶養に入ったことになりますか?

「扶養に入る」という言葉は、①所得税の扶養親族、②住民税の扶養親族、③社会保険の扶養親族を指すことが多いようです。また、④勤務先から扶養手当を支給される場合もあります。
①から④は、それぞれ子の年齢、収入、生計維持状況等に応じて要件に該当するか否かが異なりますし、それぞれ申告や申請を行うなどの手続が必要です。
ですから、調停調書に親権者の記載があるからといって、自動的に「扶養に入る」わけではありませんし、子の年齢、収入、生計維持状況等によっては「扶養に入る」ことができない場合もありますので、ご注意ください。

調停調書に関する疑問や不安は、弁護士に相談しましょう

調停調書には、離婚調停で合意した内容が記載されます。確定判決と同じ効力があるという重要な書類です。調停調書を作成するのは裁判所書記官ですが、その記載にミスが生じないとは言い切れません。
ですから、離婚調停の期日において合意内容を確認する際、その内容に間違いがないかという点を注意深く確認しなければなりません。さらに、調停調書謄本の交付を受けた際も、その記載内容に誤りがないかをきちんと確認すべきです。 調停調書に関する疑問や不安は、弁護士にご相談ください。

別居や離婚に際し、父母どちらが親権者となるのか、一緒に暮らしていくのか、という問題はとても気になる問題でしょう。父母間で上手く話合いができない場合、どのような方法で定めることができるのか、どのような点を重視して監護者等が定められるのか等について、説明します。

監護者指定とは

離婚した夫婦の間や別居中の夫婦の間で,どちらが子どもを監護するかを決めたい場合には,父と母の協議により子の監護者を定めることができ、これを監護者指定といいます。

親権者指定と監護者指定の違いについて

裁判上の離婚の場合、裁判所は父母の一方を親権者と定めます(民法819条2項)。離婚後は当事者の一方が親権者となるためです。他方で、監護者については、離婚後のみならず、別居中にどちらが子どもの監護を行うのかを決めることができる点で、異なります。

親権者と監護権者は分ける場合がある

親権は、身上監護権と財産管理権の2つの要素が含まれます。親権者と監護者を分離する場合、身上監護権が監護者に移ることになるため、日常的な子どもの監護養育は監護者が行い、親権者は、財産管理権により子どもの監護養育に関与することになります。
分離すると、例えば、日常的に子どもを監護している監護者が、子どもが行う法律行為について同意することができない状態になります。柔軟かつ迅速に子どものために行動できる範囲に制限がかかってしまいますので、分離することへ消極的な実態があります。

監護者指定の判断基準

監護者指定の判断の基礎となる事情として、以下大きく4つに分類されるものがあります。

①子の従前の監護状況
子の出生から父母の別居までの子の監護状況に関する事情です。

②子の現在の監護状況
父母の別居後の子の監護状況に関する事情です。

③父母の監護能力・監護態勢
父母の年齢や心身の健康、将来の監護計画の有無、監護補助者の有無等に関する事情です。

④子の事情
子どもの年齢、性格、心身の発育状況、父母との親和性、子の意思等に関する事情です。

子供の年齢によって監護者を判断する場合もある

家事法152条2項は子の監護者の指定についての裁判をするに当たり、子どもが15歳以上の場合には、子の陳述を聴かなければならないと規定しており、子どもの年齢に応じて、その意思の尊重の度合いが変わります。

離婚時・離婚後の監護者指定の流れ

離婚後は、すでに親権者が一方に定まっている状態になります。離婚の際に、監護者と親権者の分離を行っていない限り、監護者指定を行うということは、親権者から身上監護権を分離させる状態を求めることになります。

監護者の指定調停

子どもの監護者を定めるための協議が調わないとき,又は協議ができないときには,家庭裁判所の調停又は審判の手続を利用して、定めることができます。調停手続を利用する場合は、子の監護者の指定調停事件として申し立てます。

指定調停を申し立てるためには

監護者指定調停は、申立てられる側の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所に申立を行うことができます。申立てにかかる費用として、子ども1人につき、収入印紙1200円分と、連絡用の郵便切手が必要となります。詳しい金額については、申立先の家庭裁判所に確認されてください。
申立てには、申立書と未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)といった添付書類が必要となります。その他、審理のために必要な場合に、裁判所より追加資料の提出を求められることがあります。

監護者指定調停の流れ

調停は、当事者が一緒に話を聞かれるというわけではなく、申立人と相手方が交互に、調停委員(男性女性のペア)から話を聞かれます。調停委員は、裁判官にも相談のうえ、子どもの健全な成長を助けられるような監護者指定の実現を目指して、話し合いを進めていくこととなります。
期日は、1ヶ月に1回程度の頻度で、必要に応じて設けられていきますが、当事者間が合意に達しなければ、調停は不成立となり、終了します。調停不成立となったら自動的に審判手続が開始され、裁判官が一切の事情を考慮したうえで判断し、監護者を指定する審判をします。

別居中でも監護者指定することはできます

別居中に、父母のどちらが子どもの監護を行うかを定めるために、監護者指定調停を申立てることができます。

あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚問題ご相談受付 24時間予約受付・年中無休・通話無料

監護者指定審判の流れ

審判手続きでは、調停と異なり、話合いではなく、裁判官が判断を示すことになります。
父母から、審問手続きにより、状況等の聴取を行ったうえ、家庭裁判所調査官により調査が行われ、その調査結果等を基に判断が示されることが一般的です。

どのくらいの期間がかかるのか

裁判官が、父母から審問で聴取した内容や、家庭裁判所調査官による調査(子どもとの面接や家庭訪問、学校訪問等)の結果等をもとに判断を行います。
どのくらい訪問先があるのか、子どもの人数や年齢等によって、調査にかかる日数も変わります。
少なくとも数ヶ月程度要することは見込んでおきましょう。

審判後の流れについて

監護者が指定されたにもかかわらず、相手方が子どもの引渡しを行わないような場合には、以下のような方法で、子どもの引き渡しを求めることとなります。

①履行勧告
家庭裁判所から、相手方に対し、義務を履行することを勧告する制度です。

②間接強制
相手方に対し遅延の期間に応じ、又は相当と認める一定の期間内に履行しないときに直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の金額を支払うように命ずる手続きです。

③直接強制
家庭裁判所が執行官に、相手方による監護を解くために必要な行為をすべきことを命じる決定を行う手続きです。

監護者指定審判の即時抗告について

家庭裁判所が行った子の監護者指定の審判に対しては、審判の告知を受けた日から2週間以内に即時抗告を行うことができます(家事事件手続法86条1項、156条4号)。即時抗告の提起は、抗告状(審判を行った家庭裁判所を管轄する高等裁判所宛)を、原裁判所(審判を行った家庭裁判所)に提出して行います(家事事件手続法87条1項)。

監護者指定・子の引き渡しの審判前には保全処分をする

子ども等の急迫の危険を防止するために必要があるとき等には、監護者指定・子の引渡し調停又は審判と合わせて、審判前の保全処分を申立てることができます。
一般的に、保全処分に緊急性が認められるために、期日が通常の調停または審判よりも早めに指定されます。

よくある質問

監護者指定審判では父親と母親はどちらが有利ですか?

監護者指定は、①子の従前の監護状況、②子の現在の監護状況、③父母の監護能力・監護態勢、④子の事情等の事情が考慮されます。父親だから、母親だから有利不利というものはなく、実際の状況に応じて、判断されます。

子供が配偶者に連れ去られた場合、監護者はどちらになりますか?

現在誰が子どもの監護を行っているのか(②)に関わる点となりますが、この1点のみで監護者が決まるわけではありません。それまでの監護状況(①)や実際に監護を行うことができるのか(③)等も判断の基礎となりますので、連れ去った方が有利だと安易に考えることはできませんし、子どものためにも無理に連れ去るような行為をおすすめすることはできません。

監護者指定がされて面会交流後に子どもが連れ去られた場合は今後も面会交流をしないといけませんか?

連れ去られた場合、子どもの生活を守るために、従前どおりの面会交流の対応はできないと、制限や拒絶することが致し方ない場合もあるでしょう。ただ、連れ去りの態様によりますが、子どもが別居している親と会うという権利を守ることと、監護者として子どもの身の安全や生活を守ることとのバランスを考えることが重要です。連れ去りを防止するために、第三者機関である面会交流支援団体を利用したりする方法もあります。

祖父母が監護者になることはできますか?

本来は、父母が子どもの監護養育を行うことが望ましく、それが子どもの福祉に沿ったものであるとされています。そこで、祖父母といった父母以外の第三者が監護者となるのは、親権者が親権行使をできず、親権行使したとしても子どもの福祉に沿ったものとならないような特別な事情が必要ではないかとの考えもあるところです。祖父母が監護者となるのは、とても例外的なことであるといえます。

調停離婚と監護者指定の調停は同時に申立てることができますか?

離婚調停と監護者指定の調停は、同時に申し立てることができます。
監護者指定の調停の中で作成された家庭裁判所調査官による調査報告書は、離婚後の親権者を定めるときにも重要な資料となります。

離婚時の監護者指定について経験豊富な弁護士に相談してみましょう

子どもをどちらが監護するのか、離婚後どちらが親権者となるのかについて、子どもへの愛ゆえに、父母で大きな争いとなることが多々あります。また、子どもが虐待されている等、すぐに監護者を指定して、引渡しを求めなければならない場合には、保全処分を合わせて行う必要がある等、子どもの状況に応じた法的手続きが必要となります。
子どもの監護者について、どのように動いていくべきなのか不安や悩みがある方は、一度弁護士に相談されてみることをおすすめします。

相続放棄の期限はどれくらい?

相続放棄は「自己のために相続の開始を知ったときから3カ月以内(≒熟慮期間内)」に手続を行わなければなりません(民法915条1項)。手続しないままにこの期限を過ぎると、単純承認をしたものとみなされてしまい(民法921条)、原則として、相続放棄等はできなくなってしまいます。

起算日はいつから?

相続放棄の期限(熟慮期間)のカウントは、自己のために相続が開始したことを知った日から開始します。第1順位の相続人であれば、被相続人が死亡したことを知った日がこれにあたりますし、第2順位以降の者であれば、第1順位の相続人が全員相続放棄をする等、自身に相続権が回ってきたことを知った日となります。

相続放棄の期限は延長できることもある

相続放棄の期限(熟慮期間)は、家庭裁判所に期間の延長(通常3カ月程度)を申し立てることができます(民法915条1項参照)。この熟慮期間伸長の申立ては、熟慮期間内に行わなければなりません。延長の可否は家庭裁判所の判断によるところですが、延長の理由の典型としては、当初の期限の3カ月では遺産や相続人等の調査が終わらない等が挙げられます。

期限を延長する方法

相続放棄の期限(熟慮期間)を伸長するには、家庭裁判所に対し、「相続の放棄又は放棄の期間伸長」を申し立てる必要があります。申立先の家庭裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所です。申立てには、被相続人が死亡したこと、自身と被相続人の親族関係等を示すための一連の戸籍等、資料の提出も必要です。期間伸長の効果は、申立てをした人にしか生じませんので、延長を希望する人が複数いる場合は、それぞれ別個申立てなければならない点には注意です。

相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立書(裁判所)

再延長はできる?

熟慮期間の伸長について、民法には期間や回数の制限は規定されていません。したがって、再延長(再度の伸長)の申立ては可能ですし、認められる場合もありますが、再度の延長を希望する合理的な理由については、初回の伸長よりも具体的に述べる必要があります。

熟慮期間の伸長が必ず認められるわけではありません

熟慮期間の伸長が認められるかどうかは、家庭裁判所の判断にかかっています。熟慮期間内に適切に申立てを行えば、初回の申立ては認められる可能性が高いと思いますが、合理的な理由の有無やその内容にもよるところです。

弁護士なら、ポイントを押さえた申立てを行うことが可能です

熟慮期間の伸長(相続放棄の期限延長)は、期限内に資料を揃えた上で、伸長を希望する合理的理由についても的確に説明することが肝要です。戸籍の取得一つをとっても、ご自身で行うには時間と手間を要するところですので、相続財産の調査等と併せて、早期に弁護士に相談してみてください。

相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
相続問題ご相談受付 24時間予約受付・年中無休・通話無料

相続放棄の期限を過ぎてしまったらどうなる?

相続放棄の期限(熟慮期間)を過ぎてしまうと、単純承認をしたものとみなされますので、相続放棄はできなくなってしまうというのが原則です。もっとも、被相続人が亡くなってから3カ月を過ぎていても、場合によっては相続放棄が受理される場合もあります。

理由によっては熟慮期間後の相続放棄が認められる場合も

被相続人が亡くなったことを知って3カ月以上経っている場合、第1順位の相続人であればすでに熟慮期間を徒過したものとして相続放棄は認められないというのが原則です。もっとも、被相続人とは疎遠で、特に資産も債務もないと信じていたところ、債権者から後に連絡がきた場合等、多額の債務が後に発覚したというような場合等、例外的に相続放棄が受理される場合があります。

こんな場合は相続放棄が認められません

上記はあくまで例外的な取扱いですので、例外的な取扱いを認めるべき合理的な理由が求められます。単に法律を知らなかったとか、相続放棄に期限があるのを知らなかったというだけでは、効果的ではありません。また、多額の遺産を受け継ぎ、散財していたというような事案のように、相続を受けいれたことで多額の利益を受けていたのに、いざ借金が見つかると期限後に放棄を申し出るというような事案では苦しいでしょう。

相続放棄の期限に関するQ&A

相続放棄の期限内に全ての手続きを完了しないといけないのでしょうか?

申立てが期限内であれば大丈夫です。

相続順位が第2位、第3位の場合でも、相続放棄の期限は亡くなってから3ヶ月なのでしょうか?

第2順位以降の相続人の場合、第1順位の相続人が相続放棄をするなど、自身が相続人となり、かつそのことを知った日から期限は進行します。

相続放棄の期限に関する疑問・お悩みは弁護士にご相談ください

相続放棄は、放棄をするかどうかという判断自体も迷うところでしょうし、その前提としてどのような資産と債務があるかの調査や確認も問題となるところです。被相続人とは疎遠だったというような場合に、3カ月で調査も判断も自力で行うというのはかなりタイトなスケジュールですし、大変な手間です。相続のことは専門家である弁護士に早い段階で一度相談してみることを強くお勧めいたします。

相続人が複数いる場合、遺産分割によって遺産を分ける必要があります。
しかし、例えば建物を二つや三つに分割することは現実的ではないなど、遺産の分け方については、様々な問題が生じる可能性があります。
以下の記事では、遺産分割の方法について、詳しく解説します。

遺産分割の方法は複数ある

もし、遺産が現金だけであれば、その現金を相続人間で1円単位まで分割することは容易です。
しかし、実際の相続の場では、遺産の中に土地や建物などの不動産が含まれたり、価格が明らかに異なる複数の貴金属が含まれたりするなどして、遺産の分割方法に困るということは、珍しくありません。
具体的な分割方法としては、現物分割、換価分割、代償分割、共有分割という4つの分割方法が考えられますので、以下の記事で順に解説します。

分割方法1:現物分割とは

現物分割とは、例えば自宅は妻、銀行預金は長男、骨とう品は二男、貴金属は長女というように、遺産に属する各財産を相続人間でそのまま分けるという方法です。
まさに遺産を「分ける」という方法ですので、一目瞭然といえるでしょう。
一般的に、遺産が多くない場合には、現物分割による解決が実現された例は多いと考えられます。

現物分割のメリット

現物分割のメリットは、その分かりやすさです。
どの相続人がどの財産を取得したかということが一目瞭然ですので、例えば相続人の数が少数で、遺産も多くないというような場合には、相続人間の話合いにより、現物分割を行うことが、最も簡易で分かりやすいといえるでしょう。

現物分割のデメリット

現物分割のデメリットは、遺産に属する各財産の間に価格の大小がある場合、遺産を平等に分けることが難しいという点です。 このような理由から、そもそも現物分割を前提とした相続人間の話合いがまとまらない、というケースは珍しくないと考えられます。

分割方法2:換価分割とは

換価分割とは、遺産を第三者に売却した上、その売却代金を相続人間で分割するという方法のことです。
売却代金であれば、現金と同様に1円単位まで分割することが可能ですので、このような分割方法が採られます。
一般的に、遺産が不動産である場合には、換価分割によることが散見されます。

換価分割のメリット

換価分割のメリットは、1円単位まで分割することが可能であるため、相続人間の公平を図りやすいという点です。
したがって、換価分割であれば相続人間の不満が出ず、話合いがまとまるという可能性があります。
特に、遺産の全部又はほとんどが不動産である場合、換価分割が現実的な選択肢となり得ます。

換価分割のデメリット

換価分割のデメリットは、買主が現れなければ売却できないので、期間を要する可能性が高いという点です。
また、遺産自体は第三者に売却されるので、例えば先祖から受け継いだ土地を売ることへの抵抗感が大きい場合などには、換価分割は極めて困難です。

分割方法3:代償分割とは

代償分割とは、特定の相続人が遺産を取得する代わりに、他の相続人に金銭(代償金)を支払う、という方法のことです。
例えば、遺産は不動産1つのみで、相続人がA、B、Cの3人であるという場合に、Aが遺産を取得する代わりに、BとCに対して代償金を支払う、というケースが想定されます。
また、不動産以外に、被相続人が会社を経営しており、その株式が遺産となった場合に、相続人Xがそのまま株式を取得し、他の相続人に代償金を支払うというケースも想定されます。

代償分割のメリット

代償分割のメリットは、換価分割と同様に、1円単位まで分割することが可能であるため、相続人間の公平を図りやすいという点です。
また、遺産自体をそのまま残すことができるという点は、換価分割とは異なったメリットであるといえます。

代償分割のデメリット

代償分割のデメリットは、遺産を取得する相続人が、他の相続人らに代償金を支払わなければならないため、その金銭的負担が大きいという点です。
さらに、遺産の評価額について相続人間で争いがあり、代償金の額も決まらないため、そもそも代償分割を行うことができないという可能性もあります。

相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
相続問題ご相談受付 24時間予約受付・年中無休・通話無料

分割方法4:共有分割とは

共有分割とは、相続人全員で遺産を共有するという方法です。
例えば、遺産は不動産1つのみで、相続人がA、B、Cの3人であるという場合に、それぞれ共有持分3分の1ずつを取得する、というケースが想定されます。
このケースにおいて、もし不動産の評価額が3000万円だったとすると、A、B、Cは遺産分割により、それぞれ1000万円相当の持分を取得した、ということになります。

共有分割のメリット

共有分割のメリットは、遺産それ自体をそのまま残すことができるという点です。例えば、先祖から受け継いだ土地や、被相続人が起業した会社を手放したくないという場合に、共有分割によることが想定されます。
また、相続人間で共有状態になりますので、相続人間の公平も図られたといえるでしょう。

共有分割のデメリット

共有分割のデメリットは、共有者間の権利関係が複雑となることです。
例えば、その財産の売却、賃貸、担保設定、大改造などを行おうとする場合、他の共有者全員の同意が必要です(民法251条)。もし、共有者の一人が亡くなり、相続が発生した場合、権利関係は更に複雑となります。
他方で、後に共有物の分割請求を行うことも可能ですので(同法256条1項)、遺産をそのまま残したいという当初の目的が達成されない、という可能性もあります。

遺言書に遺産分割方法が書かれている場合は従わなければならない?

被相続人は、遺言で、遺産分割方法を定めることができます(民法908条)。
ですから、遺言書に遺産分割方法が書かれている場合、これに従った遺産分割が行われることが原則です。
しかし、遺言執行者が存在しない場合(同法1013条1項)、相続人全員の協議によって、遺言書とは異なる方法で遺産分割を行うことも可能です。このような場合には、相続人らの意思が被相続人の意思(遺言)に優先します。

なお、遺言書の内容が相続人の遺留分を侵害する場合であっても、それによって遺言書が無効になるわけではありません。この場合、遺留分を侵害された相続人が、他の相続人らに対して遺留分侵害額請求という金銭請求(同法1046条1項)を行うことができるにとどまります。

遺言書がない場合の遺産分割方法

民法906条は、「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」と規定するのみであり、遺産分割の具体的な方法については定めていません。
ですから、遺言書がない場合、まずは相続人間でよく話し合うことが必要不可欠です。
そして、もし話合いがまとまらない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。

遺産分割の方法でお困りのことがあったら、弁護士にご相談ください

遺産分割については、様々な問題が生じる可能性があります。
相続人間で不信感があり、そもそも話合いが進まない、というケースがあります。
遺産の範囲は明らかだけれども、遺産の評価額について相続人間で見解が食い違う、というケースがあります。
遺産の範囲も評価額も問題ないけれど、不動産や株式をどのように分ければよいかが分からない、というケースがあります。
遺産分割の方法でお困りの場合、弁護士にご相談ください。

福岡法律事務所 所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 所長
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。