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離婚問題

熟年離婚の原因と、離婚前にしておくべき準備

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士

熟年離婚という言葉について、明確な定義はありません。おそらく、「婚姻期間が長いこと」及び「中高年齢層に属すること」をいずれも満たす夫婦が離婚する場合を、熟年離婚というものと思われます。
平成・令和期においては、離婚率が昭和期より高いことや、中高年齢層の人口が昭和期より増えていることから、熟年離婚も増えています。それで、熟年離婚という言葉を耳にする機会も増えたと考えられます。
以下の記事では、熟年離婚について詳しく解説します。

熟年離婚の原因

夫婦が離婚する原因は、様々です。代表的な原因は、夫婦間の心理的な問題や、夫婦が生活する上での経済的な事情などが挙げられます。そのほかに、熟年離婚に特有の原因としては、子供が自立したことが離婚のきっかけとなったり、夫婦のいずれか又は家族の介護問題が離婚の引き金となったりすることがあります。

以下において、具体的に説明します。

相手の顔を見ることがストレス
夫婦は、日常生活を送る上で、様々な言い争いをしたり、感情的な行き違いを起こしたりすることが珍しくありません。特に、婚姻期間が長い中高年齢層の夫婦の場合、長年にわたる感情的な行き違いが積み重なり、相手の顔を見ることすらストレスだと感じるようになることもあります。
このような状態に陥ると、離婚という選択肢も、検討した方がよいかもしれません。

裁判上の離婚原因としては、「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(民法770条1項5号)が定められており、ただ単に相手の顔を見ることがストレスだというだけでは、これに該当しないと思われますが、夫婦の合意による協議離婚であれば、成立させられる可能性があります。
ですから、相手の顔を見ることすらストレスだと感じるほどに至った場合には、離婚という選択肢を真剣に検討することをお勧めします。

価値観の違い、性格の不一致
夫婦の価値観の違いや、性格の不一致は、しばしば見られます。
これも、直ちに「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するわけではないと考えられますが、婚姻期間が長い中高年齢層の夫婦の場合、もはや埋められないほどの価値観の違いや性格の不一致は、大きな苦痛というほかありません。

このような場合には、離婚という選択肢を真剣に検討することをお勧めします。裁判離婚は困難かもしれませんが、夫婦の合意による協議離婚であれば、成立させられる可能性があります。

夫婦の会話がない
婚姻期間が長い中高年齢層の夫婦の場合、お互いの価値観や性格の違いを埋めることができず、会話すらない状態が続いてしまうことがあります。
言い争いの後に数日くらい会話がないという程度ならばともかく、ずっと会話がない状態が続く場合には、離婚という選択肢を検討した方がよいかもしれません。
ただ単に会話がないというだけでは、「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当しないと思われますので、裁判離婚は困難と思われますが、夫婦の合意による協議離婚であれば、成立させられる可能性があります。

子供の自立
夫婦間の感情的なすれ違いが続く場合であっても、子供が幼いうちや、就職が決まらないうちは、離婚にまでは踏み出すことができない、というケースは多いと考えられます。
しかし、婚姻期間が長い中高年齢層の夫婦の場合、子供の就職や結婚による自立が実現した後で、夫婦の離婚について真剣に検討する、という選択肢があり得ます。
離婚の原因は様々ですが、気持ちの面で、子供の自立が離婚のきっかけとなったという例は多いようです。
また、子供が自立した後であれば、養育費の分担という問題が生じなくなるため、離婚について検討しやすくなるという事情もあります。

借金、浪費癖
配偶者の借金問題、浪費癖は、離婚原因の代表例の一つです。
これは、若い夫婦にとっても切実なテーマですが、婚姻期間が長い中高年齢層の夫婦の場合、家計に及ぼされる経済的なダメージが多額になるため、更に切実という面があります。
配偶者の借金問題、浪費癖を理由として離婚を検討する場合、まずはその全貌を把握する必要がありますし、法律的に有利な(少なくとも不利ではない)条件で離婚を成立させることが望ましいと考えられます。

介護問題
婚姻期間が長い中高年齢層の夫婦の場合、その一方が介護を必要とする場合があります。また、一方の親が存命である場合、その介護が必要となるケースが多いでしょう。
介護は、肉体的にも、精神的にも、経済的にも、非常に大きな問題です。
もちろん、親族は助け合うことが望ましいといえますが、もし特定の誰かが介護による過剰な負担を抱え込んでいて、離婚によってその負担を解消できる場合には、離婚という選択肢も真剣に検討すべきです。
ただし、介護問題が離婚原因となっている場合、介護に関する法律関係や金銭的な問題を整理しておく必要がありますので、慎重な検討が望ましいといえます。

熟年離婚に必要な準備

婚姻期間が長い中高年齢層の夫婦が離婚をする場合、離婚それ自体に伴う金銭的な問題を解決する必要がありますし、離婚後の生活設計も整えておくことが望ましいでしょう。
このように、熟年離婚については、計画的な準備が必要ですので、以下において具体的に説明します。

就職活動を行う

もし、あなたが熟年離婚を考える場合、離婚後の生活について、金銭面での具体的な準備ができているでしょうか?

離婚をすると、配偶者からお金をもらえなくなったり、勤務先の扶養手当などが支給されなくなったりすることにより、収入が減ることはしばしば見られます。特に、専業主婦(専業主夫)の場合、婚姻費用(生活費)を支払ってもらえなくなるため、これを補うだけの収入を確保しておくことが、非常に重要です。

もし、あなたが特別な資格や技術を持っておらず、親族や知人に雇ってもらうことができる見込みもない場合には、まず就職活動を行うことによって、離婚後の生活を金銭的に維持できるだけの準備を整えておくことをお勧めします。

味方を作る

離婚は、それ自体がエネルギーを奪われやすいものですし、離婚後は生活環境が変わりますので、精神的に動揺しやすくなるかもしれません。
そんな時に、気軽に相談したり、アドバイスを求めたり、愚痴を言ったりすることができる相手がいれば、心強いことでしょう。
離婚について、法律的なアドバイスや代理交渉や調停への同席ができるのは弁護士だけですが、弁護士とは別に、プライベートな「味方」を作っておくことをお勧めします。
それは、子供や親族でも構いませんし、友人・知人でも構いません。

住居を確保する

もし、あなたが熟年離婚を考える場合、離婚後の住居を確保することはできるでしょうか?

現在の自宅が相手方の所有である場合、離婚後に退去を求められることが通常ですし、夫婦で住んでいる賃貸住宅の場合、離婚後はより狭い賃貸住宅に引っ越す方が経済的と考えられます。
このように、離婚をする上で、住居を確保しておくことは重要です。もし、離婚を実行するまでに時間的な余裕がある場合には、まず離婚後の住居をしっかり確保しておくことをお勧めします。

財産分与について調べる

夫婦が離婚をする場合、財産分与について検討する必要があります。
特に、婚姻期間が長い中高年齢層の夫婦の場合、夫婦共有財産が多く形成されている場合が多い一方で、親からの相続で取得した特有財産があることも珍しくありません。
そのため、熟年離婚に伴う財産分与については、財産分与の方法について見解が対立したり、そもそも夫婦それぞれの財産を調査することが困難だったりするなど、様々な法的問題を伴うことがしばしばあります。
ですから、熟年離婚における財産分与については、慎重な検討をお勧めします。

専業主婦(専業主夫)の場合は年金分割制度について調べておく

年金分割とは、婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録を分割する制度のことであり、「合意分割」と「3号分割」があります。

特に、専業主婦(専業主夫)が熟年離婚をする場合、そもそも保険料納付期間が長いと考えられる上、離婚後の生活において年金収入が重要となる場合が多いことから、年金分割が果たす役割は大きいと思われます。

年金分割の請求期限は、離婚をした日の翌日から2年です。
もし、専業主婦(専業主夫)が熟年離婚をする場合、事前に年金分割についても調べておくことをお勧めします。

退職金について把握しておく

熟年離婚は、中高年齢層が行うものであるため、勤務先の定年退職が近かったり、定年退職から間がないうちに行われたりすることが多いです。
そして、退職金は、財産分与の対象となる可能性が高いです。

ですから、自ら退職金をもらう場合も、配偶者が退職金をもらう場合も、退職金の金額についてきちんと把握しておくことが望ましいでしょう。財産分与として金銭を支払う側も、金銭を受け取る側も、前提となる退職金の金額を事前に把握することができれば、スムーズに熟年離婚を成立させられる可能性が高まります。

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熟年離婚の手続き

熟年離婚をする場合、まず夫婦で話合いを行い、協議離婚の成立を目指すことが第一歩です。もし、合意に達することができれば、離婚届の提出によって、協議離婚を成立させることができます。

協議離婚の見込みがない場合、離婚調停を申し立てて、家庭裁判所で話合いを行うこととなります。第三者である調停委員が介在することによって、離婚協議が進む可能性があります。そして、離婚条件について合意に達することができた場合、調停離婚を成立させることができます。

最後に、調停が不成立となった場合の手段としては、離婚訴訟を提起することができます。そして、裁判所が判決で離婚請求を認容すれば、裁判離婚が成立します。

熟年離婚で慰謝料はもらえるのか

熟年離婚に至る原因は様々ですが、慰謝料が発生する場合があります。
その代表例は、身体的な暴力などの虐待行為があった場合や、不貞行為があった場合などです。

ただし、そもそも慰謝料が発生するか否かや、その金額をどのように算定すべきかという点について、夫婦間で見解が対立することが珍しくありませんし、財産分与と慰謝料の関係をどのように整理しておくかという点は、法的な問題となる可能性があります。

このように、慰謝料については慎重な検討が必要ですので、事前に十分な検討が必要ですし、夫婦間で慰謝料について合意ができた場合には、書面を作成しておくことが望ましいでしょう。

退職金は必ず財産分与できるわけではない

熟年離婚の場合、勤務先の定年退職が近かったり、定年退職から間がないうちに行われたりすることが多いです。そのため、熟年離婚に伴う財産分与においては、退職金の取扱いを検討することが必要です。

退職金は、「賃金の後払い」としての性質を有しており、勤務期間の長短に応じて算定されることが一般的です。そのため、退職金全額が財産分与の対象となるとは限らず、婚姻期間に応じた分だけが財産分与の対象となることが一般的ですので、注意が必要です。

以下において、退職金が既に支払われている場合と、まだ支払われていない場合とに分けて、説明します。

退職金が既に支払われている場合

退職金が既に支払われている場合、預貯金口座に振り込まれることが一般的です。そして、退職金については、婚姻期間に応じた分の金額を財産分与の対象とすることが一般的です。ですから、まず預貯金口座の通帳や取引明細によって、退職金の金額を明らかにすることが必要不可欠ですし、退職金の計算方法に関する資料を取り寄せておくことが望ましいでしょう。

ただし、財産分与は、夫婦が別居した時点において存在した夫婦共有財産を対象とすることが一般的です。もし、「退職金が支払われた後、別居を開始するまでの間」に退職金を使ってしまった場合には、その退職金を財産分与の対象とすることはできないと考えられますので、注意する必要があります。

退職金がまだ支払われていない場合

退職金がまだ支払われていない場合、離婚に伴う財産分与において退職金をどのように取り扱うかという問題については、見解が対立することがしばしばあります。

この点について、家庭裁判所の実務における取扱いにも変遷が見られましたが、近年の傾向としては、「将来において退職金が支給されることがほぼ確実といえる場合」に、「基準日(原則として夫婦が別居した日)において退職したと仮定した場合に支給される退職金の額」を財産分与の対象とすることが多いです。

熟年離婚の場合、定年までの期間が短いと考えられますので、上記の要件をいずれも満たすことが多いでしょう。ですから、熟年離婚の場合は、まだ支払われていない退職金についても、財産分与を検討することが望ましいと思われます。

熟年離婚したいと思ったら弁護士にご相談ください

熟年離婚は、婚姻期間が長い中高年齢層の夫婦が行うものです。
長い婚姻期間中に、心理的な対立や葛藤が積み重なることは珍しくありませんし、慰謝料の根拠となるような事情が生じる場合もあります。また、長い婚姻期間中に形成された夫婦共有財産については、離婚に際して財産分与として清算することが望ましいでしょう。

このように、熟年離婚については、法律的に困難な問題が伴うことが多いですので、法的観点からの検討は必要不可欠です。さらに、熟年離婚をしようとする中高年齢層の方々は、離婚後の生活設計を整えておくことが望ましいですので、離婚前に準備しておくことが多くあります。

弁護士は、離婚前の準備事項、検討事項についてアドバイスをすることができますし、離婚協議の代理人となったり、離婚調停に同席したりすることができます。
熟年離婚をお考えの方は、弁護士に相談することをお勧めします。

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
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