交通事故
死亡事故の逸失利益とは。慰謝料との違いは?
監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
ある日、突然、家族を交通事故で失ってしまったら。残された家族は深い悲しみに包まれるとともに、今後の生活に大きな不安を抱えることになります。大切な人を失ったという計り知れない精神的ショックともに、経済的な問題や生活環境の変化に直面しなければならないからです。
そこで、このサイトでは、遺された方の不安を少しでも解消できるよう、死亡事故における逸失利益について説明をしていきたいと思います。
目次
逸失利益とは
逸失利益とは、被害者が将来、得られたであろう利益を得られなくなった、その利益を指します。例えば、ある会社員が交通事故で死亡した場合、その人は、事故がなければ将来働いて得られたであろう収入を得られなくなります。この場合、その失った収入相当額を死亡逸失利益というのです。
逸失利益と慰謝料の違い
この点、逸失利益が、事故によって失った利益を言うのに対し、慰謝料は精神的損害を指すものです。
したがって、逸失利益と慰謝料は全く別の損害項目となります。
もっとも、慰謝料には、他の損害項目が認定できない場合や、控えめな算定にとどまらざるを得ない場合に、慰謝料に組み入れて調整をはかる機能があるとされています(慰謝料の補完的機能)。したがって、被害者の逸失利益の算定が困難な事情等がある場合は、別途、慰謝料が増額される等して、実質的に損害が填補される可能性があります。
死亡事故の逸失利益は生活費が除外される
この点、交通事故の被害者が、後遺症を残した場合でも、亡くなった場合でも、逸失利益に関する多くの論点は共通しています。
しかし、死亡事故の場合は、その後の生活費を控除するという点で、怪我をした場合と計算方法が大きく異なります。
生活費控除とは、被害者が死亡することによって、その人が生きていれば支払ったであろう住居費や食費等の生活費の支払いを免れることになるため、その生活費分は逸失利益(失った収入)から差し引くべきであるという考え方です。
もっとも、将来得られた収入のうち、生活費として消費したであろう額を特定することは実質的に不可能であると言わざるを得ません。そこで、生活費の控除は、被害者の性別や家族構成等に基づいて、基礎収入の割合で算出されます。
また、死亡した被害者が年金を受給していた場合、受給していた年金の種類によっては、年金分の逸失利益を請求することができます。しかし、年金は、現役世代と同様には働けない世代のために、生活に必要な収入を確保するものという性格上、その多くが生活費に消費されると考えられています。そのため、他の収入と比べた場合、生活費控除率は高く設定されることが多いと言えるでしょう。
なお、年金の喪失期間は、平均余命までとされています。
死亡逸失利益の計算方法
死亡逸失利益は、以下の計算式に基づき、算出されます。
① 有職者・主婦・就労可能者の場合基礎収入×(1-生活費控除率)×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
基礎収入は、給与所得者(ただし30歳未満の若年労働者を除く)の場合は、原則として事故前年度の収入額となります。
30歳未満の若い労働者や学生・主婦の場合は、男女計・学歴計の違いはありますが、原則として全年齢の平均賃金額が用いられます。
自営業者の場合は、事故前年度の確定申告所得額が基準となります。
次に、生活費控除率は 、女性の場合、女性の基礎収入の方が低額になりやすい点にかんがみ、公平を図る観点から控除率が低く設定されています。また、一家の支柱の場合でも、遺された家族の生活保障の観点から、被扶養者が多いほど、生活費控除率が低く設定されています。
年金受給額×(1-生活費控除率)×平均余命に対応するライプニッツ係数
年金のうち、老齢年金や老齢厚生年金、障害基礎年金等は逸失利益性が認められていますが、遺族年金については否定されています。逸失利益性が認められるか否かは年金の種類によって判断されますので、一度、ご相談ください。
また、年金は、生活費に充てられる割合が多いと考えられています。そのため、生活費控除率は、収入額のものよりも高めに設定されることが多いでしょう。
以上が計算式の説明になります。しかし、金額を算出するには、ライプニッツ係数や生活費控除率の設定が必要ですので、具体的な金額はわかりづらいと思います。そこで、計算ツールを準備しましたので、計算してみてください。
賠償額計算ツールへ逸失利益は増額できるのか
死亡逸失利益を計算する大きなポイントは①基礎収入の額、②生活費控除率の2点です。
①基礎収入額については、例えば、一口に平均賃額といっても、高卒平均、大卒平均では金額が異なるため、いかなる平均賃金額を用いるべきかが問題になります。また、被害者が事故当時、無職だった場合や会社役員だった場合も基礎収入額が争われやすいといえるでしょう。
②生活費控除率については、例えば、事故当時独身だったとしても、近々結婚して被扶養者が増える予定があった場合は、生活費控除率を下げる主張をしていくことになります 。一方、女性であっても高収入の場合には、高い生活費控除率を主張される可能性があるため、具体的な家族構成を聴取したうえで、適切な反論をしていかなければなりません。
以上のように、基礎収入や生活費控除率は形式的に算出できないケースがあります。この点、弁護士にご依頼いただければ、具体的な事情に応じて、詳細な検討を重ねることが可能であるため、最終的に大幅な増額につながる可能性があります。
死亡逸失利益の増額事例
死亡逸失利益のうち、生活費控除率が争点となった裁判例として、大阪地裁平成17年3月11日判決を紹介します 。
被害者である(A)は、深夜、横断歩道先の車道上で寝入ってしまった(B)を起こそうとしていたところ、車に轢かれて死亡したという事案です。
事故当時、Aは35歳独身男性でしたが、Bと婚約しており、1週間後に結婚式を挙げる予定でした。また、Bは、事故当時、Aの子どもを妊娠していました。
裁判において、被告は、事故当時、Aが独身であった事から、一家の支柱とは認められないと主張しました。もし、Aが独身男性と判断されるならば、一般的な生活費控除率は50%になります。しかし、裁判所は、Aの生活費控除率を被扶養者2人以上の場合とされる30%と判断しました。これは、Aが近々Bと結婚する予定であったこと、BがAとの子どもを懐妊していたことが考慮されたものと思われます。
適切な死亡逸失利益を手に入れるために
交通事故によって大切な人を奪われたご家族の悲しみは、推し量ることができないほど大きなものだと思います。
そのような中、相手方保険会社から一方的に提示された賠償額が適切なのか判断することは困難なことでしょう。
しかし、ご遺族が受け取られる賠償金は、遺された者の今後の生活を支える大切なものです。少しでも悩まれたり、疑問に感じられたりすることがありましたら、ぜひ、弁護士にご相談ください。
-
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)