監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
ある日、突然、大切な方を失うということ、それは遺された者に大きな悲しみを与えます。今までにない喪失感に襲われる中、様々な届出や手続きに追われ、戸惑われている方もいらっしゃることと思います。
そのような状況において、相手方保険会社と交渉していくことは、遺族の方にとって、心身ともに負担の大きいものになります。
そこで、このサイトでは、専門家として、少しでも、遺族の方の心身のご負担を軽減できるよう、情報を提供させていただきたいと思います。
目次
高齢者(老人)の死亡事故慰謝料の相場
自賠責保険は、公平かつ迅速な被害者の救済を実現するため、明確な支払基準が定められています。そして、死亡慰謝料の場合、亡くなられた方の死亡慰謝料のほか、請求できる遺族の数と被扶養者の有無により算出されます。
具体的には、亡くなられた方本人の死亡慰謝料400万円の他に、遺族が1人の場合は550万円、2人の場合は650万円、3人以上の場合は750万円が加算されます。また、亡くなられた方に被扶養者がいた場合は、200万円が加算されます。
なお、自賠責保険に対して死亡慰謝料を請求できる遺族は、亡くなられた方の父母、妻(又は夫)及び子どもを指し、養父母、養子のような養子縁組の親子関係も含みます。
一方、ご高齢の方が亡くなられた場合における裁判基準の死亡慰謝料額は、一定の幅があるものの、2000万円~2500万円の範囲で算定されるケースが多く見受けられます 。なお、2000万円~2500万円は近親者固有の慰謝料を含んだ額となります 。
高齢者(老人)が仕事をしていたかどうかで慰謝料額に違いが出るか
亡くなられた方にも、現役で仕事をされていた方、年金生活を送られていた方、新たな仕事を探されていた方など、様々な事情がおありだったと思います。
この点、高齢者の死亡慰謝料は、一般的に、2000万円~2500万円の範囲で認定されることが多いというのは、先ほど述べたとおりです。
しかし、仮に、亡くなられた方が仕事をしており、家族がその収入で生活をしていた場合は、一家の支柱と判断され、2700万円~3100万円の死亡慰謝料が認定される可能性があります。
また、ご高齢でも、家族のために家事に従事されていた場合は、一家の支柱に準じる者として、2400万円~2700万円の死亡慰謝料が認定される可能性があります。
さらに、慰謝料の算定にあたっては、事故態様や亡くなられた方の生活状況、加害者側の事情等が考慮されるため、個別の事情次第で、増額される可能性があります。
保険会社が提示してくる慰謝料額は適正なものではありません
慰謝料については、自賠責保険基準、裁判基準の他に、任意保険会社の独自の支払基準があり、任意保険会社はその独自の基準による金額を提示してくることがあります。
しかし、そもそも任意保険会社の基準は公表されていません。したがって、任意保険会社が提示してきた金額が本当にその基準によるものなのかすら判断することが出来ないのです。また、一般的に、任意保険会社の基準は、裁判基準よりも低額とされているため、十分な賠償額の提示がなされることは少ないと言わざるを得ないでしょう。
高齢者(老人)の主婦(夫)の場合、どういう計算になるのか
被害者が高齢主婦(夫)だった場合、高齢者という点に着目すると、一般的に慰謝料額は、2000万円~2500万円の範囲で認定されることになります。
一方、主婦(夫)に着目した場合は、一家の支柱に準じる者として、一般的に2400万円~2700万円の範囲で認定されることになります。
この点、亡くなられた方の年齢や具体的な家事労働の内容にもよりますが、主婦(夫)として、家族のために家事をしていたことが認定されるならば、一家の支柱に準じる場合の基準を用いるべきであると考えます。もっとも、年齢等を考慮して、やや減額される場合もありうるでしょう 。
高齢者の死亡事故に関する裁判例
先ほど、高齢者の死亡慰謝料は、2000万円~2500万円の範囲で認定されることが多いと述べました。しかし、裁判例上、必ずしもこの範囲にとどまっているわけではありません。
例えば、駐車場の出口に向かう通路において、当時81歳の男性が加害者の運転する車両に轢かれて死亡した事案では、2800万円の死亡慰謝料が認められています(神戸地判平成28・5・25 )。
被害者の年齢や、年金暮らしであったという生活状況を踏まえると、2000万円~2500万円の範囲で認定されうる事案でした。しかし、判決においては、事故態様や加害者の過失の内容、突然命を絶たれることになった被害者の無念さ、家族の喪失感等が考慮され、高額の死亡慰謝料が認定されています。なお、2800万円には、近親者慰謝料が含まれています。
相場以上の慰謝料が認められるのはレアケースなのか
この点、慰謝料には、他の損害項目が十分に評価・算定できない場合に、それを補う機能あるとされており、どのような事情を、どのように考慮するのかという明確な基準が定められているわけではありません。
そこで、認定された慰謝料が相場以上であるか否かは、他の損害項目も踏まえたうえで判断すべきものであるといえます。
なお、一般的に挙げられている範囲の額以上の死亡慰謝料が認定された事例としては、年金で生活をしていた82歳の男性が死亡した事案において、近親者慰謝料を含め、2600万円が認定されたものがあります(京都地判平成27・5・25 )。
弁護士にご相談ください
いままで述べたように、死亡慰謝料といっても、自賠責基準をとるか、裁判基準とるかによって金額は大きく変わります。 また、一口に裁判基準といっても、亡くなられた方の年齢や生活状況等によって、基準額が異なるため、形式的に算出できるものはありません。
さらに、たとえ、基準額の死亡慰謝料が提示されているとしても、他の損害項目も検討したうえで、最終的に適切な慰謝料額が提示されているかを判断しなければなりません。
以上、適切な慰謝料額が提示されているか否かは、亡くなられた方だけではなく、ご遺族の生活状況等、様々な事情を踏まえたうえで判断できるものであるため、一度、弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
-
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)