遺言無効確認訴訟とは | 訴訟の準備や流れ

相続問題

遺言無効確認訴訟とは | 訴訟の準備や流れ

福岡法律事務所 所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 所長 弁護士

被相続人が亡くなった後、相続人が予想しないような遺言が出てくることがあります。このような遺言が出てくる場合、そもそも相続人と被相続人との交流が希薄で、相続人が、被相続人の生前の意向を誤解していたというようなケースもあれば、被相続人の意思が歪められ遺言が作成された場合や、遺言がまったくの偽造であったようなケースもあります。後二者の場合、遺言無効確認訴訟により、遺言の効力を争うことになります。

遺言無効確認訴訟(遺言無効確認の訴え)とは

遺言無効確認訴訟は、その名のとおり、裁判所から、遺言の効力がない(=無効である)ことの判断を得るための訴訟です。遺言無効確認訴訟において、請求が認容された場合、原則として、遺言によらずに遺産分割手続を行うことになります。ただし、無効とされた遺言の前に、有効な遺言がなされていた場合、前の遺言の効力が復活することもあります。

遺言無効確認訴訟にかかる期間

「遺言無効確認訴訟」のみの審理期間に関する統計はありません。「裁判の迅速化に関する報告書」における報告では、遺言無効確認訴訟を含めた相続関係の訴訟を含む事件類型については、審理期間が長期化し、2年を超える事件が多数に上ることが報告されています。その原因として、古くからの長期間にわたる事実経過が問題となることや、争点が多数に上ることなどが指摘されています。

遺言無効確認訴訟の時効

遺言無効確認訴訟には、時効はありません。もっとも、一般的に、遺言無効確認訴訟で敗訴した場合に備えて、遺留分侵害額請求を予備的に併合することが多くあります。遺留分侵害額請求は、『遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間』の時効にかかるため(民法1048条)、結果として、相続開始からあまり時間をかけずに提訴することになります。
また、被相続人の意思能力の低下を理由として、遺言無効を主張する場合、早期に診療録等の証拠収集を行わなければ、診療録等の保存期間(5年。保険医療機関及び保険医療養担当規則9条)を経過してしまうことがあります。
そのため、相続開始から、そう時間をあけずに、遺言無効確認訴訟を提起することが望ましいです。
なお、民法等の一部を改正する法律(令和三年法律第二十四号)の法改正により、遺産分割の期間制限が設けられることになりました。まだ明確な法解釈は示されていませんが、遺言無効確認訴訟により遺産分割が必要となった場合にも、この期間制限がかかるとすると、間接的に遺言無効確認訴訟の提訴期間も制限されるように思われます。

遺言無効確認訴訟の準備~訴訟終了までの流れ

遺言無効確認訴訟は、難易度の高い訴訟類型の一つです。極論、相続人を特定する戸籍と遺言さえあれば、遺言無効確認訴訟の提起は可能ですが、それだけでは到底勝訴はおぼつきません。適切な証拠の準備が不可欠です。

証拠を準備する

まず、遺言(自筆証書、公正証書他)が必須です。また、被相続人、相続人の戸籍も必要となります。
これらの他、遺言作成時の被相続人の意思無能力等を主張するのであれば、当時の被相続人の診療録その他の被相続人の健康状態、精神状態の分かる記録の収集が必要となります。また、遺言が偽造されたことを主張する場合、被相続人の真実の筆跡の分かる書類(手紙その他の手書きにより作成された文書)の収集が必要となります。

遺言無効確認訴訟を提起する

遺言無効確認訴訟の原告は、相続人及びその承継者です。被告は、他の相続人、受遺者、遺言執行者などです。遺産確認の訴えと異なり、法定相続人全員が当事者となる必要はない(=固有必要的共同訴訟ではない。)とされています(最判昭和56年9月11日最高裁判所民事判例集35巻6号1013頁)が、共同相続人の一部を除外した場合、除外された者に判決の効力が及びません。一部の共同相続人を除いて遺言無効確認訴訟に勝訴しても、後々、遺産分割手続で紛糾することが確実ですので、遺産分割手続等に関与が必要な者全員を被告とすることが通常といえます。
提訴先(管轄裁判所)は、被告の住所地及び相続開始時における被相続人の住所地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所です。
建前上、遺言無効確認訴訟では、調停前置主義(まず家庭裁判所の調停手続を経なければ裁判できないこと。)がとられています。もっとも、遺言により利益を受ける者が、遺言を無効と認めること自体稀なため、遺言無効確認訴訟がいきなり提起された場合でも、却下判決とならずに、手続が進むことが一般のようです。

遺言無効確認訴訟で勝訴した場合、訴訟の対象となった遺言が無効となります。その遺言の前に有効な遺言がされているときは、前の遺言を基に遺産の帰属が決まります。前の遺言がないときには、遺産分割協議、調停、審判へと進むことになります。

遺産分割協議とは|揉めやすいケースと注意点

遺言無効確認訴訟で敗訴した場合

遺言無効確認訴訟で敗訴した場合、当事者間で遺言が有効であることが確定します。そのため、その遺言を基に、法的手続を進めていくことになります。遺言の内容が、遺産全体に対する相続分の指定の場合には遺産分割が必要となります。また、遺言の内容が、遺留分を侵害するような場合には、遺留分侵害額請求をするか検討することになります。

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遺言が無効だと主張されやすいケース

遺言無効確認訴訟に至りやすいケースは、「あの人があんな遺言を書くわけない」と相続人の誰かが思うようなものです。

認知症等で遺言能力がない(遺言能力の欠如)

遺言無効確認訴訟に至るケースとして代表的なものが、遺言者の判断能力が衰えた状態で遺言が作成されたケースです。認知症の高齢者や、重度の精神疾患の場合がこれにあたります。もっとも、認知症だからといって直ちに遺言が無効になるわけではありません。裁判例をみると、遺言者の自己決定権の尊重等も考慮して、遺言の内容と遺言者の判断能力との相関関係で、有効な遺言かどうか判断されているようです。

遺言書の様式に違反している(方式違背)

民法上、遺言の方式に反している遺言は無効となります(民法968条以下)。
この方式違反の場合も、遺言無効確認訴訟として争われることがあります。珍しい裁判例として、花押は、自筆証書遺言の方式の一つである「押印」にあたらないとした最高裁判例があります(最判平成28年6月3日)。

相続人に強迫された、または騙されて書いた遺言書(詐欺・強迫による遺言)

詐欺、強迫による遺言は、取り消しうるものと解されます。もっとも、当の遺言者が亡くなっているため、「詐欺された」「脅迫された」との事実の立証自体、困難なことが多いです。
そもそも、一度、詐欺、強迫により遺言が作成されたとしても、後の遺言で撤回してしまえばよいのです(民法1022条)。遺言者の死亡まで、大事に保管されているような遺言が、詐欺又は脅迫によるものだと認められるハードルは、極めて高いといえます。

遺言者が勘違いをしていた(錯誤による無効・要素の錯誤)

遺言に錯誤があった場合、その遺言は、無効(令和2年3月31日以前にされた遺言)又は取り消しうるもの(同年4月1日以後された遺言)となります。
遺言に錯誤を認めた重要裁判例として、『錯誤により遺言が無効とされる場合とは、当該遺言における遺言者の真意が確定された上で、それについて遺言者に錯誤が存するとともに、遺言者が遺言の内容となった事実についての真実を知っていたならば、かかる遺言をしなかったといえることが必要である』との規範を示したさいたま地裁熊谷支部平成27年3月23日があります。

共同遺言

民法975条は、『二人以上の者が同一の証書でする』遺言を禁止しています(いわゆる「共同遺言の禁止」)。一つの書面で遺言をすると、お互いがお互いの意向に干渉されて、遺言者の真意が示されない可能性がある、というのがその理由です。

公序良俗・強行法規に反する場合

公序良俗や強行放棄に反する遺言は、無効となります。愛人との交際維持を目的に、正妻が居住する不動産を含めた全財産を遺贈するとの遺言が無効とした裁判例などがあります(東京地判昭和58年7月20日、東京地判昭和63年11月14日他)。

遺言の「撤回の撤回」

遺言は、自由に撤回することができます(民法1022条)。では、「撤回を撤回」して、元の遺言を復活させることはできるのでしょうか。この場合、撤回された遺言の効力は、原則として復活しません(民法1035条)。一度、撤回した遺言を復活させたいのであれば、再度、同一内容の遺言を作成する必要があります。

偽造の遺言書

偽造された遺言書は、もちろん無効です。無効の立証には、被相続人が遺言を作成していないことを示す被相続人の筆跡や、公証役場に出頭した自称被相続人が、赤の他人であること等を裏付ける証拠が必要になってきます。

遺言が無効だと認められた裁判例

遺言が無効であると認められた裁判例は複数あります。そのうち、遺言が偽造であることを理由として、遺言が無効であるとした裁判例(大阪高判平成20年11月27日)をご紹介します。
この事案は、第1遺言がされた後に、第2遺言がされたものです。第1遺言により株式の死因贈与を受けた控訴人(原告)は、第2遺言は偽造により無効であると主張して、遺言無効確認訴訟の他、控訴人が同株式を有することの確認、株主総会決議の取消しを求めた事案です。原審は、第2遺言を有効としたため、原告が控訴しました。
この裁判では、複数の筆跡鑑定が提出されており、第2遺言が被相続人の筆跡であるとした筆跡鑑定も複数あります。しかし、大阪高裁は、以下の理由により、第2遺言を偽造と判断しました。

①第2遺言に使用された印鑑の不自然さ
第1遺言には、被相続人の実印が押印されていました。一方、第2遺言には、実印ではなく、認印が押印されており、この認印は、日ごろから被控訴人の会社に保管され、容易に入手できる状態にありました。このような事情を踏まえ、第2遺言は第1遺言を大幅に書き換えるものである重要な文書であるのに、被相続人が、第2遺言に実印ではなく認印を押印したのは極めて不自然としました。

②第2遺言等の内容の不合理性
第1遺言は、それまで会社の経営に関与していた控訴人(及び控訴人の夫である訴外B)に株式の大部分を取得させるものでした。従業員及び取引先もBが会社を引き継ぐものと考えていたことを踏まえ、大阪高裁は、被相続人がこのような内容の遺言をしたのはごく自然なことと評価しています。一方、第2遺言は、それまで会社の経営に関与していない被控訴人に対して、株式の大部分を相続される内容のものであり、不自然・不合理なものでした。そして、大阪高裁は、多数の事情を検討し、被相続人が、このような不自然・不合理な遺言をする特段の事情はないと評価し、第2遺言は偽造されたものと判断しました。
大阪高裁は、被相続人の筆跡のみならず、そのような遺言をするような自然かつ合理的な事情があるかを緻密に検討しています。偽造を根拠に遺言無効確認訴訟を提起する場合に、非常に参考になる裁判例です。

遺言無効確認訴訟に関するQ&A

遺言書を無効として争う場合の管轄裁判所はどこになりますか?

遺言無効確認訴訟の管轄は、被告の住所地又は相続開始時における被相続人の住所地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所になります。遺産確認訴訟が必要となるほどの財産がある場合、管轄は地方裁判所となることが多いですし、そもそも難易度の高い訴訟のため、地方裁判所に提訴することがほとんどと思われます。

弁護士なら、遺言無効確認訴訟から遺産分割協議まで相続に幅広く対応できます

遺言無効確認訴訟は、相続のための手続の一部に過ぎません。遺言無効確認訴訟で勝訴したとしても、まだまだ法的に複雑な論点を含む手続が控えています。このような手続を適切に行うには、弁護士の関与が不可欠です。遺言が無効なのではとお考えになった場合、ぜひ弁護士にご相談ください。

福岡法律事務所 所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 所長
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
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