遺言執行者とは|権限と選任の方法

遺言執行者とは|権限と選任の方法

遺産の分配内容を、予め遺言書で、具体的かつ適正に定めておくことは、相続に関するトラブルの防止に大きな効果を持ちます。もっとも、遺言書を作成した場合でも、その内容に従った分配を実現するためには、預金の解約や不動産登記の名義変更等、具体的な手続が不可欠であり、権限の所在が明確でなければ手続は難航してしまいます。

遺言執行者は、遺言内容の実現について法律上の義務と権限を与えられた者として、これら手続を行う者です。以下、詳しく説明していきます。遺言執行者の制度は、遺言の内容や相続人の関係性等の実情に合わせて用いることで、無用なトラブルの防止や円滑な手続等が期待される場合のあるものですので、参考にしていただければ幸いです。

遺言執行者とは

遺言執行者とは、一言で言えば、遺言内容の実現に必要な手続を行う権限やこれらを行うための責任を、法律上与えられた者のことです。その権限について、法律上は、「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な権利義務を有する(1012条1項)」ものと規定されています。

家庭裁判所に選任を申し立てる方法(1010条)の他、予め遺言執行者となる者を遺言で指定することもできますが(1006条1項)、遺言執行者は広範な権限を持つ反面、義務や責任を負いますので、その制度の活用には正しい知識が不可欠です。まずはその職務の内容について説明します。

遺言執行者がやるべきこと

遺言執行者は、遺言の内容を実現することを職務とするものです。遺言内容を実現するための具体的な手続の他にも、相続人に対する遺言の執行状況の報告(1012条3項、645条)、相続人に対する遺言内容の通知(1007条)、財産目録の作成・交付義務(1011条)等、行うべき内容は多岐にわたりますので、それぞれ紹介していきます。

相続人の確定

遺言執行者となった場合、最初に行うべき職務が「相続人に対する遺言内容の通知(1007条)」です。これは、遺言執行者に対し、法律上課せられた職務の一つです。通知の方法は法律上規定されていませんが、通常は遺言書の写しとともに、遺言執行者に就任した旨の通知を併せて送付します。 重要なのは、この遺言内容の通知は、相続人全員に対して行う必要があるという点です。 そのため、まずは、誰が相続人なのかを確定させるための調査を行います。相続人であることが明らかになった者等、相続人の範囲を確定させて、順次通知を行います。

相続財産の調査

遺言執行者の重要な職務の一つに、「財産目録の作成・交付」がありますが(1011条)、これを作成するには相続財産を調査しなければなりません。遺言執行者は職務を行うにつき、善良なる管理者の注意義務をもって行うことが求められますし、その重要な職務の一つである財産目録の作成について、具体的な内容を記載するのに、相応の調査は不可欠だからです。具体的には、預貯金や金融資産等の残高証明書や不動産の関係書類等を取り寄せるなど、相続財産の調査を行った上で、その結果を踏まえて作成することになります。

財産目録の作成

遺言執行者は、任務を開始したとき(≒就職を承諾したとき)は遅滞なく、財産目録を作成して、相続人に交付しなければならない(1011条1項)と規定されています。その作成につき、相応の調査を尽くすべきことは上記のとおりですが、例外もあります。 遺言執行者はあくまで遺言内容の実現を職務とするものですので、遺言の内容がそもそも財産に関連するものではない場合には、財産目録の作成・交付義務は課されないものと解されています。また、特定の財産に対する遺贈や特定財産の承継のみを内容とする遺言の場合、財産目録は当該財産についてのみ記載すれば良いとされています(1014条1項)。

その他

遺言執行者については、民法の委任の規定が準用されており、その職務を行うについては、善良なる管理者の注意義務をもってあたらなければなりません(1012条3項、644条)。相続人に対しては、上記の遺言内容の通知や財産目録の作成・交付義務を負う他、委任の規定の準用によって、遺言の執行状況等の報告義務を負います(1012条3項、645条)。

その他にも、事務処理に際し受け取った物や取得した権利の引渡義務、金銭消費に関する利息や賠償責任、必要と認められる費用の償還等、委任の規定が多く準用されていますが(1012条3項、646条、647条、650条)、報酬については別の取扱いがされています。 委任契約の場合、報酬に関する定めがない場合は無報酬と推定されますが、遺言執行者の報酬は、遺言に定めがない場合も、無報酬が推認されるような特段の事情がない限り、遺言執行者は報酬付与の請求を家庭裁判所に申し立てることができます。その場合、家庭裁判所が相続財産の状況等を考慮して定めることができます。遺言者が遺言で定めている場合はその意志が優先します(1018条1項)。

遺言執行者の権限でできること

遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理、その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します(1012条1項)。金融機関等も、遺言執行者からの請求に備えた書式を備えている場合が大半です。預金の解約や不動産の登記の名義変更手続といった事実行為を行うことはもちろん、遺言執行に関する事件については訴訟追行権も有しています。遺言認知の届出や、遺言による相続人廃除の申立て等は遺言執行者が行うべきものと明記されていますし、遺言執行の妨害も排除されますので、遺言執行者がある場合は、相続人であっても、遺言の執行を妨げる行為は禁止され、これに反する行為は無効とされます(1013条)。

ただし、その権限の範囲や内容は、具体的な遺言内容の解釈に左右されるものです。あくまで遺言の執行に必要な範囲で認められる権限ですので、遺言に全く関係のない預金の解約等はできません。

遺言執行者が必要になるケース

遺言内容を実現するための手続は、遺言執行者の選任・指定が不可欠なものと、遺言執行者を選任しなくても相続人が自ら行うことができるものに大別されます。遺言による認知(781条2項)、遺言による相続人の廃除(893条)、遺言で意思表示をした一般社団法人設立のための定款作成(一般法人法152条2項)等は、遺言執行者による執行が必要不可欠です。 これに対し、預金の解約や株式等の引継、不動産の名義変更等の手続等の事実行為は、遺言執行者がいなくても、相続人らで行うことのできるものです。もっとも、手続きを円滑にするためには、遺言執行者を指定しておくほうが良い場合もあります。

例えば、「全ての預金を相続させる」という遺言があったとして、自筆証書遺言の場合、金融機関は相続人全員の印鑑を求めてくることが通常です。そうすると、実際に預金を解約するには相続人全員の協力を得なければなりませんが、全ての預金を自身が取得するという内容について、他の相続人全員の協力を得るのは困難ではないでしょうか。 このように、遺言執行者の必要性は、遺言の内容や相続人らの関係性に応じて変わりうるものですので、遺言作成の段階で考慮しておくべきところです。

遺言執行者になれるのは誰?

遺言執行者は、欠格事由に該当する場合を除いては、特に資格の制限はありません(1009条)。相続人の一人や受贈者自身を指定することも可能ですし、親族以外の第三者や弁護士等の専門職を指定することもできます。法人でもかまいませんし、複数の者を指定することもできます。 遺言執行者に指定された者は、就職を拒否することもできます。これらの意味では適当な人選を行うべきところですが、遺言内容の実現に適当な人物と、予め協議の上指定することが望ましいでしょう。

遺言執行者になれない人

未成年者と破産者は、遺言執行者になることができません(1009条)。遺言執行者の欠格事由とされているのは、法律上、未成年者と破産者だけです。成年被後見人のように、事理弁識能力に問題のあるおそれが大きい者であっても、そのことだけで欠格事由とはされていません。ただし、実際に職務を遂行する能力がない場合には、解任事由とされるリスクが高いでしょう。

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遺言執行者の選任について

遺言執行者は、遺言書等で指定(1006条)された者が、その就職を受諾することで就任するというケースが一般的です。もっとも、必ずしも遺言等で指定されているとは限りませんし、指定された者が就職を拒絶する場合や、すでに死亡しているという場合もあります。そのような場合、利害関係人の申立てにより、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらうことができます(1010条)。

遺言書に複数の遺言執行者が指名されていた場合

遺言執行者は複数の者を指定することができます。民法も、これを前提に、複数の者が遺言執行者に就任している場合は「その任務の執行は過半数で決する」と規定しています(1017条1項)。遺言で別の意思表示していた場合はそちらが優先しますので、遺言執行者間の決定権の割合は自由に設定しておくことが可能です(同但書)。これらの例外として、保存行為(債権の取り立て、時効完成防止措置、第三者に対する妨害排除請求等)は単独で行うことができます。

家庭裁判所で遺言執行者を選任する方法

家庭裁判所に遺言執行者の選任を求める場合、利害関係人(相続人や遺贈を受けた者、遺言者の債権者等)からの申立てが必要です。送付先(申立てを行う裁判所)は、「遺言者の最後の住所地」を管轄する家庭裁判所です。 申立ての一般的な必要書類は、①申立書、②遺言者の死亡の記載のある戸籍謄本等、③遺言執行者候補者の住民票等(こちらで候補者を立てる場合)、④遺言書又は遺言書の検認調書謄本の写し、⑤利害関係を証する資料(親族の場合は戸籍謄本等、債権者の場合は遺言者に債権を有していることの根拠資料)等が挙げられますが、必要書類の内容は、事案により異なります。

遺言執行者の仕事の流れ

①遺言者の死亡→②遺言執行者の指定or家裁の選任に対し、就職を承諾→③任務開始:相続人調査・遺言内容の通知書送付→④財産調査・財産目録の作成・交付→⑤その他遺言内容の実現に必要な行為の履践(事案により異なる)→⑥任務終了報告

遺言執行者の辞任

遺言執行者に就任した後は、辞任するには家庭裁判所の許可を得なければなりません。辞任には「正当な理由」が要求されます(1019条2項)。 正当な事由に該当するか否かの判断は裁判所の裁量によるところですが、病気や長期の不在等、やむを得ない事情がある場合には辞任を認める判断に傾くと思います。他方、専門知識の面で挫折し、遂行困難というような場合は、遺言執行者の復任権(1016条)により、専門職に依頼することで十分対応可能と判断される場合があるでしょう。

任務を怠る遺言執行者を解任できる?

遺言執行者が任務を怠った場合や、その他正当な事由がある場合、利害関係人はその解任を家庭裁判所に請求できます(1019条1項)。実際に解任の判断が下されるには、一定程度の遅延等ではなく、その任務懈怠の結果、遺言の公正な実現に期待できないような状況にあることが求められます。

その判断は、家庭裁判所の裁量によるところですが、遺言執行者は遺言者の意思を実現するために、善良なる管理者の注意義務を以て職務を遂行することが求められますので、遺言者の意思に反するような不公正が生じている場合や、心身の故障により、遺言内容を実現するために必要な職務を行うことができない場合等には、解任を認める方向に傾きやすいでしょう。

遺言執行者が亡くなってしまった場合、どうしたらいい?

遺言執行者が亡くなってしまった場合や、辞任・解任等が生じた場合等、事後的に遺言執行者を欠く状況となったときにも、利害関係人は、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることができます(1010条)。

遺言執行者についてお困りのことがあったら弁護士にご相談ください

遺言執行者は、その権限も責任も大きいものです。遺言内容によっては、遺言内容の実現に必須という場合もありますし、状況によっては裁判所への申立てや、訴訟追行が必要になるケースもあります。相続人の関係性や遺言の内容によっても、遺言執行者がいなければ円滑な手続は期待できないという場合もあるでしょう。

遺言を作成する段階で、遺言執行者の要否を判断しておくことは、遺言や相続に関するトラブルを防止し、遺言者の意思を実現することに大きく寄与する可能性の高いものですので、遺言の作成段階で弁護士等の専門家に相談・依頼しておくことをお勧めいたします。

また、遺言執行者に指定されているが、どうしたらよいか分からないという人についても、そもそも就職を承諾すべきかどうかの判断や、行うべき手続の内容等、速やかに弁護士に相談することを強くお勧めします。

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この記事の監修

福岡法律事務所 所長 弁護士 今西 眞
弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 所長弁護士 今西 眞
福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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