
監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
相続は、必ずしもプラスの資産のみならず、債務等のマイナスについても包括的に引き継ぐという性質のものです。相続する対象が不動産のみだったとして、その内容によっては、管理等の負担の方が大きく、相続を放棄してしまいたいという場合もあるかと思います。
目次
不要な農地だけを相続放棄することはできない
相続は、被相続人の全ての資産と債務を包括的に引き継ぐものです。預金は相続するが土地は放棄する、というような選択はできません。
遺産分割で個々の資産の帰属を決定することと混同されるかたもいるかもしれませんが、これは全ての資産・債務を一旦相続人の共有とした上で、個別の帰属を決定するようなものです。
相続放棄をしても農地の管理義務は残る
相続放棄をした財産についても、放棄によって相続人となったものが管理を始めることができるまでの間は、自己の財産を管理するのと同一の注意義務をもって管理しなければならない、とされていました。
この点については、法改正により、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」との内容に改められました。
相続土地国庫帰属制度を利用できれば国に引き取ってもらえる
相続人全員が放棄した財産は、最終的には国庫に帰属すると規定されていますが、実際には相続財産管理人の選任等を経てからとなりますので、容易ではありませんし、そもそも、全ての遺産についての放棄が前提でした。
令和5年4月から導入された、「相続土地国庫帰属制度」は、一定の要件を充たす「相続した土地」について、国庫への帰属を可能とする制度です。ただし、利用するための要件は限定されていますし、負担金の支払いも必要となる点には注意が必要です。
放置すると「耕作放棄地」となり、処分が難しくなる
農地は、放置すると雑草や害虫などで荒れ果ててしまいます。荒廃した土地は資産価値が減少し、売買や寄附、国庫帰属等の処理にも支障を来す結果につながりかねませんので、相続放棄ではなく、承認することを選択するならば、速やかに行動するほうが賢明です。
借り手のいる農地を相続放棄したらどうなる?
相続人全員が放棄すると、当該資産は最終的に国庫に帰属しますが、そこに行きつく前の段階では遺産を総称して「相続財産法人」を構成する形となります。
借地として賃借されている農地の場合、賃貸人の死亡によっても、賃貸借契約は当然には終了しないのが通常です。賃貸借契約も相続財産法人に帰属し、賃料等を収受する、という関係性となります。
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農地を相続放棄する手続きの流れ
相続放棄の手続は、資産や債務の内容で変化するものではありません。資産に農地が含まれる場合も、通常と同じく、家庭裁判所の手続として、相続放棄の申述を申し立てることになります。
相続した農地の使い道
農家に売却する
農地は所在や作付面積等の諸条件に違いはあるものの、近隣で農業を営んでいる方等、一定の需要はありうるところです。相続したはいいが、使い道がないという場合には、売却等を検討されてもよいかと存じます。
農地から宅地に転用する
農地は目的外の利用が原則禁止されていますが、農業委員会又は都道府県知事の許可を得ることによって、宅地等への転用が認められる場合もあります。この許可には、当該農地の種類や所在、現況等に関する基準を充たす必要がありますので、必ずしも得られるものではありませんが、処分等を検討するにあたり、一考に値するかもしれません。
農地の相続放棄についてお悩みの方はご相談ください
農地は維持・管理の負担が大きく、その負担の大きさから相続放棄を選択するのか、それとも処分や国庫帰属等の方策を用いるのか等、多角的な検討・判断が求められるところです。相続放棄には、相続開始後三カ月以内、という期間制限もあるところですので、早い段階で専門家に相談しておくことをお勧めいたします。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)