監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
婚姻中の夫婦はいずれも子の親権者です(共同親権)。一方の親権者の同意なく子を連れだすことは、刑事上・民事上の責任を負う可能性があることは否定できません。しかし、当否は別として、親権を希望する親が一方の親の同意なく子供を連れだして別居を始めることは少なくありません。本稿では、子供を連れて別居する際の一般的な注意点について解説をしていきます。
くれぐれも、事情に関係なく同意なき子連れ別居を推奨する趣旨ではないことはご留意ください。
目次
離婚しないで子供を連れて別居をするときの注意点
事前に相手と協議して子の監護について約束をしたうえで別居を始めることが望ましいことは言うまでもありません。しかし、それができないやむを得ない事情がある場合には、客観的に見て非難をされないような態様で子を連れて別居をする必要があると考えます。少なくとも①子供が安全な場所にいること、②今後の連絡先等を明らかにするなど、「窓口を開けた」状態にしておく必要があると思われます(配偶者暴力や虐待など連絡を取ることにリスクがある場合は別です。)。
別居後の養育環境
子供を連れて別居を始めた後は、違法に連れ戻されないように対策を取る必要が生じます。例えば、保育園に子供を通わせるのであれば、保育園に事情を話し、「自分が迎えに来ます。相手が迎えに来たとしても引き渡す前に自分に連絡をください」と伝えておくことも有効です。
婚姻費用や養育費
夫婦はお互いの生活を保持する義務を負います(民法760条参照)。婚姻費用とは、この義務から生じ、夫婦が生活する上で必要となる全ての生活費(食費・医療費・養育費等)が含まれます。ただし、実務上、実際の請求後に具体的な義務になると考えられていますので、別居後すぐに請求することが肝要です。
児童手当
児童手当は、同居中であれば原則夫婦のうちの所得が高い方に支給されます。別居後に子を養育する親に振込先を変更したい場合には、振込先の変更手続きを行う必要があります。変更に関して市区町村や担当者によって対応に差はあるものの、別居したことを証する住民票や、離婚調停の係属証明書、弁護士を介入させての離婚協議中であることを証する資料等の提出が求められることが多いです。
面会交流
子と一緒に生活をしていない親(非監護親)が、子と直接会う等の交流をすることを面会交流と言います。色々な考え方があるものの、子のための権利と位置付けられており、子の利益を最も優先して考慮されなければならないと考えられています。言い換えれば、親の権利として無条件に認められるわけではなく、非監護親と子の面会交流を行うことが、子の利益に反するような場合には面会交流が制限されることもあります。例えば、子が連れ去られる可能性があるとき、非監護親が子に暴力を振るう恐れがあるとき等がこれに当たると考えられます。
別居と子供の連れ去り
連れ去り別居に明確な定義はありませんが、一般的には共同親権者の一方が、他方の同意なく子を連れ去り、別居を始めることを意味します。子供の監護養育を行っていたなど、置いていくよりも子供を連れていくことが子供にとって負担が小さいという場合が多いですが、事情によっては他方配偶者の親権行使を妨げる違法状態を作出したと判断される場合がありますので注意は必要です。
違法な連れ去り別居と判断されないための注意点
連れ去りの目的と、手段の相当性(妥当性)の検討を要します。例えば、一方配偶者の暴力が他方配偶者および子に繰り返し振るわれ、また、振るわれる恐れがある等、子を保護するという目的のためにやむなく別居を開始するというような場合には、違法と判断されることは基本的にはないと思われます。
一方で、これまで監護をしていなかった親が特に理由もなく、子を連れて別居を始めたような場合等には、穏当な方法での連れ去りだったとしても違法と判断される可能性があります。
別居中に子供を連れ去られた場合
別居中に他方の配偶者に子供を連れ去られてしまった場合、子供の住所地を管轄する家庭裁判所に「監護者指定審判」と「子の引渡し審判」を申し立てます。違法状態を速やかに解消する必要性・緊急性がある場合には、同時に「審判前の保全処分」も申し立てます。
自力で子供を連れ戻そうとすると、違法な連れ去りであると判断され、かえって不利になるおそれもあるので、これらの裁判所を通じた法的手続きを踏んだ方が賢明です。
DV、モラハラ加害者との別居
子が配偶者からモラハラやDVを受けているような場合には、すぐにでも子の安全を確保しなければなりません。暴力行為等が酷い場合には、警察に相談したり、シェルターで保護を受ける等も検討を要します。このような状況の場合、当事者同士での話合いは困難であることが予想されますので、すぐに代理人を介入させた方がよいでしょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
別居後の子供とのかかわり方
これまで生活していた環境が変われば、子は多かれ少なかれ不安を覚え、ストレスを感じることは避けられません。同居時以上に子の精神的ケアが必要になります。
よくある質問
家庭内別居する際に子供に対して注意することはありますか?
夫婦間のトラブルが子の生活に与える影響を最小限に抑える努力をするべきです。子に対してはこれまでと変わらずに接する、他方配偶者の悪口を言わない、状況を理解できていない子に「パパとママどっちと暮らしたい」等と選択を委ねて困らせない等の注意が必要です。
別居中から自分の扶養に子供を入れておいたほうがいいですか?
扶養家族とは、主に収入における生活面で助けてもらう必要のある家族のことを指します。子の場合、「生計を一にする」親の扶養に入ることになります。したがって、別居により生計が別になった場合には、子は子と生計を一にする監護親の扶養に入ることになります。
配偶者に黙って子供を連れて別居をした場合は慰謝料請求されますか?
故意または過失によって他人に精神的損害を生じさせた場合には、その精神的損害を賠償しなければなりません(民法710条)。よって、配偶者に黙って子供を連れ出したことで他方の配偶者に精神的損害を与えた場合には慰謝料請求が認められ得ます。ここでも、連れ出しの目的や連れ出しの態様、連れ出し後の事情等の悪質性等が検討されることになると思われます。
子供を連れての別居が違法とならないためにまずは弁護士にご相談ください
親である他方配偶者の同意なく子を連れて別居を開始することは、他方配偶者の親権行使を妨げることになりますので原則違法になると考えられます。ただし、代理人が適切にアドバイスをしたり、介入して話合いの機会を確保することで、後のトラブルを未然に防いだり、連れ去りが悪質だという評価を受けにくくなることが期待できます。子供を連れての別居が違法と評価されるのを防ぐために、まずは弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)