監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
離婚について考えるとき、「協議離婚」という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。
以下では、まず協議離婚とそのメリット・デメリットについて解説した上、その流れや進め方、決めておいた方が良いこと(財産分与、親権、養育費、面会交流、離婚慰謝料など)、離婚協議にかかる期間について具体的に説明し、更に協議離婚が成立しない場合の対処法についてもお伝えします。
目次
協議離婚とは
協議離婚とは、夫婦で協議して離婚を合意した上(民法763条)、離婚の届出をして離婚を成立させること(同法764条、739条1項)をいいます。このように、日本の法律の下では、家庭裁判所の離婚調停や離婚訴訟によらなくても、夫婦で合意して届け出ることによって、協議離婚を成立させることが可能です。 実際に、日本で成立する離婚の大部分は、協議離婚です。 おそらく、「離婚=夫婦で離婚届を書いて提出すること」というイメージをお持ちの方が多いと思われますが、それは協議離婚のイメージをほぼ正確に捉えています。
協議離婚のメリット、デメリット
メリットについて
夫婦間の合意さえあれば、後は離婚届を提出するだけでよいという、簡易性・迅速性が、最大のメリットです。このメリットがあるため、離婚の大部分は協議離婚として成立しています。
夫婦間の様々な事情により、離婚を決意する場合があります。そして、夫婦の話合いによって、離婚の合意に達する場合も多いでしょう。このような場合、わざわざ家庭裁判所の離婚調停や離婚訴訟を行う必要はなく、協議離婚を成立させることが最適です。
デメリットについて
協議離婚を強制することはできませんので、もし夫婦のどちらかが拒む場合、協議離婚は成立しません。これが、最大のデメリットです。
また、協議離婚を成立させるための期間・方法などは定められていないため、話合いに長期間がかかって精神的に疲れてしまったり、経済的に弱い立場の側や法的知識が乏しい側が不利な離婚条件を押し付けられたりする危険もあります。これらも、協議離婚のデメリットといえるでしょう。
協議離婚の流れや進め方
離婚を切り出し合意を得る
離婚の切り出し方については、同居しているか否か、相手方の性格、扶養すべき親族(特に未成年の子)の有無、過去に離婚について話し合ったことの有無などの種々の事情を考慮して、適切な切り出し方を選ぶべきでしょう。
離婚について話し合う過程では、精神的に疲れてしまうことも多いと思われます。何事も、スタートが大事ですので、離婚を切り出す場所・タイミング・方法については、慎重に検討することをお勧めします。
離婚条件についての話し合い
離婚条件については、様々なものが挙げられます。
第1に、必ず定めておく必要があるのは、未成年の子の親権者です。未成年の子がいる場合、親権者の記載がない離婚届は受理されず(戸籍法76条)、そもそも協議離婚が成立しません。
第2に、後日のトラブルを回避するために定めておいた方が望ましいのは、財産分与、養育費、慰謝料などの経済的条件です。特に、財産分与については離婚から2年間という期間制限があり(民法768条2項)、慰謝料については時効消滅の可能性がありますので、注意が必要です。
第3に、子との面会交流について定める場合がありますが、夫婦の都合を優先させるのではなく、子の福祉を尊重することが望ましいです。
話合いをメールで済ませることは可能?
「話合い」は、方法が決まっているわけではありません。面と向かい合うことなく、メールで行うことも可能です。特に、感情的になってしまうことを避けるために、メールによる方がよい場合もあるかもしれません。 ただし、メールで離婚について合意した場合にも、それだけでは離婚は成立せず、離婚届の提出によって初めて協議離婚が成立します(民法764条、739条1項)。この点は、御注意ください。
離婚協議書の作成
離婚条件を記載した協議書(離婚協議書)を作成するという方法は、しばしば採られます。そして、離婚協議書を公正証書に残すという方法が、しばしば見られます。 特に、養育費については、後々に未払が発生するという危険を避けるため、公正証書を作成しておくことがしばしばあります。 公正証書を作成する際、公証役場で支払う費用が発生しますが、特に養育費の支払を確保する上で、公正証書の実益が大きいといえます。
離婚届の提出
離婚届は、夫婦の双方及び成年の証人二人以上が届け出る必要があります(民法764条、739条2項)。口頭で行うことも可能ですが、実際には市区町村の窓口に置かれた離婚届用紙を使うことが通常です。
ところで、離婚届が一旦受理された場合、後日その「無効」又は「取消し」を主張することは、非常に大きな困難が伴います。ですから、離婚条件について納得できない点が残る場合、そもそも離婚届に署名・押印してはなりません。
協議離婚の証人になれる人
協議離婚を成立させるためには、離婚の届出が必要です。そして、離婚の届出については、二人以上の証人が必要です。 この証人については、法律上、「成年の証人二人以上」という要件しかありませんので(民法764条、739条2項)、例えば、見ず知らずの第三者が証人となることさえ可能です。 しかし、実際上は、親族や知人に証人を依頼することが多いでしょう。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
協議離婚で決めておいた方が良いこと
協議離婚を成立させる際、未成年の子の親権者を必ず定めなければいけませんが、それ以外の事柄は決めずにおくことも可能です。例えば、財産分与、養育費、慰謝料について、何も定めないまま協議離婚を成立させることすら可能です。
しかし、後日のトラブルを回避するため、やはり、離婚条件について具体的に定めておくことが望ましいでしょう。離婚条件の内容については、お互いに納得さえすれば、自由に決めることができます。
財産分与
財産分与とは、離婚をした一方が、他方に対して財産の分与を請求することができるという制度です(民法768条1項)。 財産分与の範囲は、法律で明確に定められておらず、まずは夫婦間でよく話し合うことが望ましいでしょう。 なお、協議が調わない場合、家庭裁判所への請求が可能ですが、離婚の時から2年間という期間制限があります。特に、財産分与について定めないまま協議離婚した場合、この期間制限には注意が必要です。
子供がいる場合
親権
親権とは、未成年の子を監護養育する権利のことをいいます。未成年の子は、心身が未成熟であり、保護が必要な存在ですので、親権に服するのです。 そして、未成年の子がいる場合、親権者の記載がない離婚届は受理されません。 ですから、未成年の子がいる場合、協議離婚を成立させるためには、必ず親権者を定める必要があります。
養育費
養育費とは、子の世話をしていない親が、実際に子の世話をしている親に対して支払う金銭のことです。 養育費について、互いの収入、子の数と年齢に応じて、1か月ごとの金額を定める「標準算定方式」があり、裁判所のウェブサイトでも公開されています。 これは、法律上の強制力はありませんが、例えば協議離婚において養育費を定めようとする場合、一つの参考となります。
面会交流
面会交流とは、子と別居している親が、子と会うことをいいます。 子の年齢にもよりますが、子と同居している親の協力が必要になることが多いため、協議離婚をする際、面会交流についても話し合っておいた方が望ましいでしょう。
ただし、子の成長、転居、進学等に伴い、面会交流の場所・方法・連絡手段が変化することが多いため、実際には、面会交流について詳細な取り決めをしないまま協議離婚をする場合も多いようです。離婚慰謝料は請求できるのか
慰謝料とは、精神的苦痛の代償として支払われる金銭のことです。 離婚慰謝料とは、離婚に伴い発生する慰謝料をいい、その典型例は、不貞行為を行った側が支払うものです。 離婚慰謝料の発生原因があるか否かは、事案によって左右されます。 また、協議離婚を目指す場合、相手方との合意が必要ですので、離婚慰謝料請求をするか否か、その金額をどうするかという点については、特に慎重な検討が必要です。
協議離婚にかかる期間
協議離婚は、「話合い」によって離婚を成立させるものであり、法律上は条件や期限が定められているわけではありませんので、協議離婚に要する期間の目安をいうことは、非常に困難です。例えば、何年もかけて話し合った末に協議離婚が成立する、という場合すらあります。
しかし、実際上、あまりに長い期間が過ぎた場合、離婚を求める側が家庭裁判所に離婚調停を申し立てるか、又は離婚自体をあきらめることが多いでしょう。
協議離婚で成立しない場合
協議離婚は、お互いが合意しなければ成立しませんので、夫婦の一方が離婚を拒む場合には、成立しません。 離婚を拒む理由は様々ですが、感情的な対立があったり、親権についての争いがあったり、経済的条件(財産分与、養育費、慰謝料)で折り合いがつかなかったり、という場合が典型例です。 協議離婚が成立するか否かを見極めるためには、相手方が離婚を拒む真の理由を理解することが重要です。
別居する
別居は、夫婦関係の破綻の現れであり、その期間が長いほど、夫婦関係の破綻の度合いが強いといえます。 そして、離婚訴訟においては、夫婦関係の破綻の度合いが重要な要素となりますので、離婚訴訟を見据えると、別居するという選択肢は、あり得ます。 ただし、相手方が離婚を拒む態度が頑なになる可能性はありますし、別居の期間が長いからといって裁判離婚が必ず認められるというわけではありませんので、御注意ください。
離婚調停へ
離婚調停とは、家庭裁判所において、離婚について話し合う手続のことです。離婚調停は、強制的に離婚を成立させることはできず、「話合い」の場であるという点においては、夫婦間の離婚協議と同じです。 しかし、離婚協議とは異なり、調停委員という第三者を介することによって、話合いが進む場合があります。 そして、日本の法律の下では、いきなり離婚訴訟を提起するのではなく、まず離婚調停の申立てを行うこととされています。
夫婦だけでのやりとりとなる協議離婚は難航する場合が多くあります。不安なことがあれば弁護士に依頼してみましょう
協議離婚は、夫婦のやり取りだけで成立させることができるという制度です。簡易・迅速に離婚を成立さえせることができるというメリットがあるため、実際上、大部分の離婚は協議離婚として成立しています。
しかし、取り決めておくべき離婚条件は、財産分与、親権、養育費、面会交流、離婚慰謝料など多岐にわたりますので、夫婦のやり取りだけでは難航する場合が多くあります。また、法律的な知識が乏しいが故に不都合が生じてしまう場合もあります。
弁護士が代理人としてお手伝いすることにより、離婚協議が円滑に進んだり、双方が納得できる条件で協議離婚が成立したりする可能性が高まります。不安があれば、弁護士に御相談ください。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)