監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
まず、アルコール依存症とは、お酒の飲み方をコントロールできず、お酒を飲まずにはいられない状態のことをいいます。単にお酒を飲む量が多いということだけでは、必ずしもアルコール依存症であるとは限りません。アルコール依存症の特徴として、は家族や仕事などよりも、飲酒を優先するようになることが挙げられます。
アルコール依存症の人は、人のいうことなどを頭から否定してかかる、嘘やごまかしが多くなる傾向があります。また、アルコール依存所の人には、何をしている時でもお酒が頭から離れない、手が震えてくるなどの症状が出てきます。
これらの症状が現れるアルコール依存症を理由に離婚をすることができるのか。アルコール依存症と離婚について解説していきます。
目次
アルコール依存症を理由に離婚できるのか
合意できればもちろん離婚できる
アルコール依存症になると配偶者よりも飲酒を優先しがちなこともあり、アルコール依存症の人の離婚率は高いと言われています。
ここで、アルコール依存症を理由に離婚できるかですが、まずは「夫婦間の話し合い(協議)」によって夫婦双方が離婚に合意すれば、離婚することが可能です。
夫婦の意見が合わなかったり、そもそも話し合いにすら応じてくれなかったりした場合には、「離婚調停」を行うことになります。離婚調停とは、家庭裁判所の調停委員を間に挟んで話し合う手続で、基本的にお互いの合意が成立すれば、離婚することができます。離婚の理由は問われないので、アルコール依存症が理由でも離婚は可能です。
合意できず裁判まで発展した場合は…
協議や調停を行っても離婚に至らない場合には、最終的な手段として「離婚裁判」を行うことになります。この場合、アルコール依存症のみを理由に離婚することは難しいでしょう。
離婚裁判では、夫婦の合意は必要ではなく、裁判所が民法の規定に従って、離婚をするかどうかを決めます。裁判所に離婚を認めてもらうには、民法770条第1項に定められている次の5つの離婚事由(法定離婚事由)のいずれかが必要です。
①配偶者に不貞な行為があったとき
②配偶者から悪意で遺棄されたとき
③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
そのため、「配偶者がアルコール依存症だから」という理由だけでは、離婚事由として認められるのは難しいです。しかし、暴力や家事育児に協力しないなどのアルコール依存症をきっかけに発生した事情によっては離婚事由に該当する可能性があります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
離婚の同意が得られなければ別居してみる
偶者のアルコール依存症による暴力・暴言や不労などで同居することに耐えられないとなった場合、配偶者と別居をすることをお勧めします。アルコール依存症による暴力等が上に挙げた①~④の離婚事由に該当しなくても、別居期間が長ければ長いほど、⑤の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当し離婚が認められる可能性が高くなります。
ただし、夫婦は民法752条により同居義務を負っているところ、無断で別居を開始してしまうと、同居義務違反として、慰謝料請求されるリスクが存在します。ですので、別居を開始するにあたっては、配偶者に手紙やメール等で理由と合わせて別居をする旨伝えておくことをお勧めします。
アルコール依存症を理由にした離婚で慰謝料請求できる?
アルコール依存症というだけでは慰謝料は認められにくい
アルコール依存症の配偶者と離婚するとき、配偶者に「不法行為」があれば慰謝料を請求できます。この点、アルコール依存症に罹患していることのみでは、不法行為とはいえませんので、「配偶者がアルコール依存症だから」という理由だけでは、慰謝料は請求できません。
ただ、お酒の購入によって家計が圧迫されているにもかかわらず、それを顧みないことや既述の通り、アルコール依存症がきっかけで暴力を振るわれている場合には、慰謝料を請求することが可能となる場合があります。
モラハラやDVを受けているなら請求できるけど証拠が必要
アルコール依存症の配偶者と離婚するためには、アルコール依存症がきっかけで法定離婚事由にあたる事情が発生していることを示す、客観的な証拠が重要になってきます。
例えば、アルコール依存症のせいで暴力を振るわれたり、暴言を吐かれたりしていることを法定離婚事由として主張するときは、次のようなものが証拠になり得ます。
- 暴力を振るわれている・暴言を吐かれている様子を録画・録音したデータ
- 暴力によって負った怪我の写真
- 診断書(怪我をした場合、精神疾患にかかった場合など)
相手が「そんなことしていない」などと事実を認めず、最終的に裁判になったとき、証拠がないと離婚を認めてもらうのは難しくなってしまいます。証拠は慰謝料を請求する際にも必要ですので、離婚を考えたときはきちんと集めておきましょう。
モラハラの証拠として有効なものアルコール依存症の配偶者に離婚慰謝料を請求する流れ
アルコール依存症の配偶者への離婚慰謝料の請求は、通常の離婚のケースと同様、次のような流れで進めていくのが一般的です。
①当事者間で話し合う(協議)
②「離婚調停」で話し合う
③「離婚裁判」で判断を下してもらう
ここに記載した流れは、離婚と併せて慰謝料を請求する流れですが、時効にかかっているなどの事情がなければ、離婚後でも慰謝料を請求することはできます。
離婚慰謝料を請求できる条件や方法についてアルコール依存症が理由の離婚に関するQ&A
アルコール依存症の妻でも、離婚時に親権を獲得する可能性はありますか?
アルコール依存症と一口に言っても、程度には個人差があります。軽度のアルコール依存症の妻で、子供の監護・養育に問題がなければ、その妻が親権を獲得することもありうるところです。
アルコール依存症の配偶者からの暴力で離婚し、慰謝料を請求しましたが支払ってもらえません。義両親に支払ってもらうことはできますか?
離婚後、当事者間で話し合っても相手が慰謝料請求に応じないときは、まずは書面を送って慰謝料を請求しましょう。それでも払ってもらえないときは、「裁判」(損害賠償請求訴訟)を起こし、裁判所に判断を求めるというのが、一般的な流れです。
裁判所に慰謝料請求が認められれば、相手が「慰謝料を払いたくない」と言ってきても、慰謝料を獲得できます。ただし、慰謝料請求が認められるのは、アルコール依存症の配偶者から暴力を受けた、配偶者のアルコール依存症が主な原因で婚姻関係が破綻したなどの事情がある場合です。
なお、裁判で慰謝料請求が認められたにもかかわらず、相手が払ってこない場合は、「強制執行」の手続をとるという方法があります。強制執行をすれば、相手の財産を差し押さえるなどして、未払いの慰謝料の回収を図れます。
損害賠償請求の相手になるのはアルコール依存症により、婚姻関係の破綻をもたらした配偶者になるので、義両親に支払ってもらうことは法的にはできません。ただ、話し合いにより義両親に支払ってもらうことはもちろん可能です。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
アルコール依存症の配偶者とスムーズに離婚するためには、弁護士にご相談ください
配偶者がアルコール依存症になってしまい、離婚したいと考えたときは、一度弁護士に相談することをおすすめします。弁護士なら、どのように離婚の手続きを進めていけばいいのか、適切に判断してアドバイスできます。また、アルコール依存症の配偶者との交渉を代わりに行うことや、裁判で代理人として主張・立証していくことも可能です。
アルコール依存症の人は、冒頭に述べた通り、自分がアルコール依存症だとは認めない傾向にあります。そのため、離婚したいと求めても、なかなか応じてくれないケースも珍しくありません。スムーズに離婚を成立させるためにも、アルコール依存症の配偶者との離婚についてお悩みの方は、まずは弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)