監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
遺言書には、公証役場で作成してもらう「公正証書遺言」の他にも、遺言者自らが作成する「自筆証書遺言」というものがあります。特別な手続を経ることなく、時や場所も選ばず作成できますので、とても簡便な方式ではありますが、法定の様式(形式的要件)を充たさないと無効になる等、作成にあたっては正しい知識が求められます。以下解説していきますので、本記事を参考にしていただければ幸いです。
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は、その名が示すとおり、自分で手書きして作成する遺言書のことを指します。いつでも一人で作成することができますし、紙とペン、印鑑・朱肉等の道具さえあれば、特に費用もかかりません。公証役場に出頭して手数料等を負担しなければならない公正証書遺言と比較すると、とても簡便な方式ですが、原則として、全文手書きしなければならない等、遺言書として有効とされるためのルールを遵守しなければなりません。
自筆証書遺言が有効になるための4つの条件
自筆証書遺言の形式的要件は、①全文自筆(遺言者自身の手書きで作成)、②作成日付の明示、③署名、④押印の4つです。その他、遺言者自身の問題として、15歳未満でないことや、遺言当時に遺言能力(意思能力)を有していることも求められますが、文書の形式としては、①~④の4つをきちんと遵守することが肝要です。また、訂正や文章の削除等を行う場合にも形式を守らなければ、その訂正等は無効とされてしまう点も注意が必要です。
パソコンで作成してもOKなもの
自筆証書遺言はその全文を遺言者が自筆しなければならないというのが原則ですが、2019年の民法改正により、「自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全文又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない」との規定が新設されました。
これにより、財産目録(財産の明細を一覧にして遺言書に添付するもの)は、パソコンで作成したものや、登記全部事項証明書、通帳の写し等を添付する方法を用いることも可能となっています。
ただし、財産目録は、遺言者がその各ページに署名して、押印しなければならないというルールがありますので、この点は注意が必要です。
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自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言は、自身の財産の死後の行方について、遺言者自身が自筆で指定するものです。文面を作成するにあたっては、自身が持っている財産等の情報を踏まえた上で、どのような内容にするのかを整理しなければなりません。一般的な思考過程を記載しておきますので、頭の整理にご活用ください。
まずは全財産の情報をまとめましょう
遺言書は、財産の一部のみを対象にすることもできますし、財産の全部を対象に作成することもできます。いずれの形にするにせよ、どのような財産があるのかを洗い出すことは、誰にどれだけ分配するかという具体的な記述内容の前提となるものですので、プラスの資産だけではなく、借金等のマイナスも含めて、まずは総財産の情報を簡潔にまとめてみることをお勧めします。
誰に何を渡すのか決めます
遺言書に記載する内容は、どの財産を誰に引き継がせるかという内容が中心です。
誰に何を渡したいのか、特定の財産を引き継がせたいのか、割合的に多くを与えたいのか等、自身の希望を整理して、これに応じた記述をしましょう。
縦書き・横書きを選ぶ
縦書き・横書きは特に制限がありませんので、お好きな方法を選択しましょう。ペンは消えないものを使うべきですが、紙にも制限はありません。もっとも、重要な書類ですので、チラシの裏等に書くのはお勧めできません。市販の便せん等で良いので、遺言書であることが一見して明らかな形にしておくほうが良いでしょう。
代筆不可、すべて自筆しましょう
自筆証書遺言は(財産目録以外は)全文自筆しなければなりません。自筆が困難という場合は、作成することはできません。その場合は、公正証書遺言の作成を検討しましょう。
誰にどの財産を渡すのか書く
「遺言者の財産のうち、別紙財産目録1記載の土地は長男○○に相続させる。」というように、どの財産を誰に渡すのかを具体的に記載することが必要です。
日付を忘れずに書く
遺言書を作成した日付は、形式的要件の一つですので、自筆証書遺言には必ず自筆で記入しなければなりません。〇月吉日というように、具体的な日付が特定できないものはダメです。年月日を正確に自筆するようにしましょう。
署名・捺印をする
遺言書には署名押印しなければなりません。これがない場合、形式的要件を欠くことになってしまい無効とされてしまいます。シャチハタは必ずしも無効とされるわけではありませんが、余計なリスクを生じさせかねません。念のため、きちんとした印鑑を使うようにしましょう。
遺言書と書かれた封筒に入れて封をする
遺言書は必ずしも封筒に入れる必要はありませんが、一見して遺言書とわかるようにしておかないと、発見されないままとなってしまうことや、発見者が誤って捨ててしまうこと等も危惧されます。
また、封筒に入れて封印しておくことで、偽造・変造を一定程度防止することも期待されますので、「遺言書」という表書きや、封筒を二重にして、遺言書は裁判所の検認まで開封しないよう注意書きをしておくこと等の工夫と併せて検討しておくことをお勧めします。
自宅、もしくは法務局で保管する
自筆証書遺言は、遺言者自らが自宅等に保管する以外にも、2020年7月から始まった制度として、法務局に保管してもらうこともできます。遺言者自身が申請しなければならない等、手続の負担はありますが、偽造・変造や紛失・破棄等のリスクを回避することができます。また、関係相続人への通知といった制度もありますので、発見されないままとなるリスクも軽減されるでしょう。
自筆証書遺言の注意点
自筆証書遺言は、自分一人でも作成できるものですが、形式的要件や記載内容等、注意を払うべき点もありますので、以下記載します。
遺留分に注意・誰がどれくらい相続できるのかを知っておきましょう
遺言書は、遺産の行方を遺言者が指定するものですが、分配の偏りを大きくする場合は、遺留分を考慮した内容にしておかないと、相続人間で紛争となるリスクを高めてしまいますので、留意した内容にしておくことをお勧めします。
訂正する場合は決められた方法で行うこと
自筆証書遺言は全文自筆で作成することが求められます。そうなると書き損じや訂正等を行う場合も想定されますが、文章の削除や訂正等の変更は、遺言者自身が二重線で消した上で訂正部分に押印し、さらに変更箇所について指示し、これを変更した旨を記載した上で署名しなければ、当該訂正等は無効とされてしまいます。よくわからないという場合は、全文書き直すことをお勧めします。
自筆証書遺言の疑問点は弁護士にお任せください
自筆証書遺言は、形式的要件の問題はもちろんのこと、どのような内容にするのか、遺留分への配慮は必要か、誰がどのような形で保管するのか等、色々な判断をしなければならないものです。自ら手軽に作成できるというメリットだけに着目するのではなく、まずはどのような内容にするべきか等について、弁護士等の専門家に一度相談してみることをお勧めします。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)