監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
遺言書を作成しておけば、自身が亡くなったときに、生前の意思によって相続財産を分配することができます。
そのため、遺言書は遺族が相続財産を奪い合うようなトラブルを防止するために有効です。
しかし、遺言書の内容が絶対に優先されるわけではなく、当事者全員の合意があれば、話し合いで異なる分配をすることができます。
また、訴訟によって遺言書が無効となるケースもあります。
この記事では、遺言書が無効となるケースや遺言無効の申立て等について解説します。
目次
遺言書を無効にしたい!どうすれば無効にできる?
遺言書の無効を申し立てる方法は、遺言無効確認調停または遺言無効確認訴訟です。
基本的には、まず遺言無効確認調停を申し立てて、調停が不成立となったら遺言無効確認訴訟に移行します。
申立人は相続人の1人または遺言書で相続財産のうちの一定の割合を贈られることになっている人(包括受遺者)です。
遺言無効確認調停の管轄裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意で定めた家庭裁判所です。
なお、調停を経ずに遺言無効確認訴訟を申し立てる場合の管轄裁判所は、基本的に被告の住所地または相続開始時における被相続人の住所地を管轄する地方裁判所となります。
遺言書の無効の申し立て方法
当事者の話し合いによって、遺言書の内容とは異なる遺産分割協議を成立させられなかった場合には、家庭裁判所において遺言書無効確認調停を申し立てることができます。
調停では、調停委員が解決のための助言をしながら、合意に向けた話し合いを仲介してくれます。当事者が調停で合意することができれば、遺言書と異なる遺産相続が可能となります。
しかし、調停には強制力がないため、当事者が合意できなければ訴訟に移行します。
遺言無効確認調停
調停とは、裁判所で、調停委員に仲介してもらいながら、当事者間で話し合いを進め、合意を目指す手続きです。
遺言の無効を争う場合にも、基本的に、訴訟の前にまずは調停を申し立てなければなりません(調停前置主義)。
しかし、遺言書の無効を争う場合、多くは被相続人の遺言能力や遺言書の偽造が問題となっているため、調停で解決させるのは難しく、調停を経ずに訴訟を提起することが多いです。
遺言無効確認訴訟
遺言無効確認訴訟は、遺言執行者がいる場合には遺言執行者に対して、遺言執行者がいない場合には他の相続人および受遺者の全員に対して提起します。
なお、遺言無効確認訴訟は、家庭裁判所ではなく基本的には地方裁判所に提起します。
訴訟では、当事者による事実関係の主張と主張を裏付ける証拠の取り調べという形で審理が進みます。
遺言書が被相続人の自筆であるかが疑わしい場合には筆跡鑑定を行うことが考えられます。
また、被相続人が認知症であった疑いがある場合には病院のカルテ、あるいは介護記録等を取り寄せる方法が考えられます。
訴訟の提起から判決までは、第一審だけでも1年~2年程度かかることが多く、控訴や上告があれば期間はさらに延びます。
遺言無効確認訴訟について遺言書の無効を申し立てる場合の費用
遺言無効確認調停を申し立てるときには、以下の費用がかかります。
- 収入印紙:1200円程度
- 郵便切手代:裁判所によって異なる
また、調停を弁護士に依頼する場合には、着手金や依頼料がかかります。
遺言書の無効申し立てに時効はある?
遺言書の無効を申し立てる訴訟自体には、時効や期間の制限は設けられていません。
ただし、以下のような理由により、早く訴訟提起することが望ましいでしょう。
- 時間が経過することによって証拠が失われるリスクがある
- 遺留分侵害額請求の期限が基本的に1年以内なので、訴訟提起が遅れると遺留分を請求できなくなる
なお、遺言無効確認請求訴訟を提起するだけでは、遺留分侵害額請求権の消滅時効は中断されません。そのため、訴訟提起のときに、遺留分侵害額請求を予備的に行う必要があります。
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遺言書が無効と認められた事例・判例
遺言書の無効は、訴訟によって認められる場合があります。
訴訟によって遺言が無効となったケースとして、自筆証書遺言と公正証書遺言の事例をそれぞれ解説します。
自筆証書遺言の無効が認められたケース
自筆証書遺言の無効が認められたケースとして、裁判例をご紹介します。
【東京地方裁判所 令和4年4月28日判決】
このケースは、被相続人Aが亡くなったときに兄Xと姉Yと母親Bがおり、「すべてを姉Yに託す」旨の遺言書が存在したところ、兄Xが遺言書は被相続人Aの自筆によるものではないこと等を主張した事例です。
なお、母親Bは被相続人Aの死後に亡くなり、その相続人は兄Xと姉Yでした。
裁判所は、遺言書の筆跡が被相続人Aと同一であるとする筆跡異同診断書の信用性は十分でないとしました。
また、被相続人Aが作成した遺言書を姉Yに直接交付せず、保管場所を正確に伝えなかったこと、特に親しくしていた姉Yの娘やその夫に相続財産を少しも遺さなかったのは不自然であること等から、遺言書を被相続人Aが自筆したと推認できず、他に自筆したと認められる証拠はない旨を判示しました。
そして、原告Xの請求を認めて遺言書は無効であるとしました。
公正証書遺言の無効が認められたケース
公正証書遺言の無効が認められたケースとして、裁判例をご紹介します。
【東京地方裁判所 令和3年12月22日判決】
このケースは、被相続人が亡くなって原告Xと被告Yが法定相続人となったところ、被相続人は自筆証書遺言でXとYにそれぞれ1/2ずつ財産を相続させる旨の遺言をしていたが、その後に公正証書遺言によって全財産を被告Yに相続させる旨の遺言をしていたため、原告Xが公正証書遺言について無効であることの確認を求めた事例です。
裁判所は、被相続人の入院時の言動から、遺言書を作成したときには認知症によって認知機能の低下の程度は重度であったと指摘しました。
また、それに反する医師の意見は、被告側の意向によるものであるおそれが否定できないこと等から採用しませんでした。
さらに、原告Xと被告Yの取り扱いを変更した合理的理由はまったくうかがえないこと等から、公正証書遺言を作成した当時には被相続人の遺言能力は欠如していたと認めました。
そして、原告Xの請求を認めて公正証書遺言は無効であるとしました。
遺言書の無効が認められた後にすること
法定相続人全員で遺産分割協議を行う
遺言書が無効となった場合には、相続人全員による遺産分割協議によって、誰がどの相続財産を受け取るかについて決める必要があります。
これは、最初から遺言書が作成されなかった場合と同様です。
ただし、遺言書が偽造であったことが発覚した場合には、遺言書を偽造した人は相続欠格に該当するため自動的に相続権を失います。
そのため、遺言書を偽造した人は遺産分割協議に参加できなくなります。
遺産分割協議がまとまらなければ別途調停や審判で解決する
遺言書が無効になった結果、遺産分割協議を行ったところ、その協議が成立しなかった場合には、調停や訴訟等によって相続分を決めることになります。
遺言が無効にならなかった場合の対応策
遺言無効確認請求訴訟を行っても、遺言書を無効にできなかった場合には、遺留分侵害額請求を行う方法があります。
遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に保障されている、相続財産の最低限の取り分です。兄弟姉妹に遺留分がないため、兄弟姉妹を代襲相続した甥姪にも遺留分はありません。
遺言書が無効にならなければ、基本的に遺言書の記載に従って相続財産が分配されます。
しかし、遺言書によって遺留分が侵害されている相続人には、侵害された遺留分に相当する金銭を取り戻す権利があります。
遺留分侵害額請求の期限は、次のいずれか早い方です。
- 相続が開始したこと、および遺留分が侵害された事実を知ってから1年
- 相続の開始から10年
遺言書の無効申し立ては弁護士にご相談ください
自身にとって不利となるような遺言書が作成されていたとしても、調停や訴訟によって遺言書を無効とすることが可能です。しかし、明らかに無効となるようなミスがなければ、遺言書を無効とするのは難しいでしょう。
そこで、遺言書を無効にしたい場合には弁護士にご相談ください。
弁護士であれば、遺言書のミスを確認することや偽造の疑い等について確認すること、そして遺言書を作成した時の遺言能力の有無について確認するために必要な資料の収集等についてアドバイスをすることができます。
また、侵害された遺留分の請求等についても併せてご相談ください。

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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
