公正証書遺言の作り方、メリットや費用について解説

相続問題

公正証書遺言の作り方、メリットや費用について解説

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士

公正証書とは、遺言書の種類のひとつです。公正証書遺言は、公証役場で作成します。

大きな特徴として、自筆証書遺言に比べ、無効となるリスクが低いことが挙げられます。本項では、「公正証書遺言」について、概要、メリット・デメリット、作成の流れ等、詳しく解説していきます。遺言書を残すことをお考えの方は、ぜひご参考になさってください。

目次

公正証書遺言とは

公正証書遺言とは、公証役場において、2名の証人立会いのもと、公証人に口頭で内容を伝えて作成してもらい、その後は公証役場で保管される遺言書です。民法969条、民法969条の2に定められています。

公正証書遺言のメリット

公正証書遺言の大きな特徴は、公証人が作成すること、公証人が遺言者の意思確認をすること、作成後は公証役場で保存されること、です。この特徴から、次のようなメリットが生じます。

紛失、偽造、変造のおそれがない

公正証書遺言は、公証人が遺言者の本人確認、意思確認をして作成します。その後、公証役場で保管されます。したがって、遺言者でない者により偽造されてしまう、遺言を作成した後に内容を改ざんされる、遺言を紛失してしまう、といったリスクが低くなります。

遺言書開封時の検認手続きが不要

検認とは、開封前の遺言書を家庭裁判所に持参し、検認時点での遺言書の状態・署名・加除訂正などを明確にし、偽造・変造を防ぐための手続です。

遺言書は、原則として、検認を経る必要があります。検認をしないままで遺言を開封してしまうと、5万円以下の過料に処せられるおそれがあります(民法1005条)。

これに対し、公正証書遺言の場合、家庭裁判所の検認手続が不要です(民法1004条2項)。

自筆できない人でも作成できる

公正証書遺言は、自筆が困難な人でも作成できます。また、病院や施設にいる等、公証役場に行くことができない方の場合でも、公証人が出張して遺言を作成することが可能です。

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公正証書遺言のデメリット

作成に時間や費用がかかる

公正証書遺言を作成するためには、遺言者本人の意思を公証人が聞き取った上で遺言書の内容を作成しなければなりません。そのため、公証役場(公証人)との間での日程調整が必須です。そのため、公正証書遺言の完成までに時間がかかるというデメリットがあります。

遺言者の体調不安等、公正証書遺言作成まで遺言者が亡くなってしまうリスクがある場合、遺言者の意思を確認できるような他の証拠(遺言書記述プロセスの動画撮影等)を残した上で、自筆証書遺言等を作成しておくのが安全なこともあります。

また、公正証書遺言の作成をするには、公証役場に作成費用を納めなければならず、費用がかかってしまうというデメリットがあります。作成費用は、遺言の目的とする財産の金額によって変わるため、目的とされる金額が高い場合は費用も高くなります。

2名以上の証人が必要となる

公正証書遺言を作成する際には、証人が2人以上立ち会う必要があります。

証人は、基本的には誰でもなれますが、2人以上用意しなければならないという手間がかかるというデメリットがあります。

また、証人には、以下の欠格事由があります(民法974条)。

  • 未成年者
  • 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
  • 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

これらに該当しない証人を探す必要があります。

公正証書遺言を作成する流れ

公正証書遺言のメリットやデメリットを踏まえて、公正証書遺言を作成ご希望の方は、以下の公正証書遺言を作成する際の流れをご覧ください。

遺言書に書きたい内容のメモを作成する

公証人が、公正証書遺言書を作成します。そのため、遺言者が、遺言にしたい内容を、公証人に伝える必要があります。遺言者が、遺言書にしたい内容をまとめてメモにしておきましょう。具体例としては、「○○の不動産はAが取得する」、「○○の預貯金はBが取得する」「遺言執行者はBとする」等が挙げられます。財産が多数の場合、登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳等、財産の裏付資料を確認しながら進めていきましょう。

なお、公正役場に行く日程までに、遺言者が不慮の事故等により亡くなり、遺言が作成されないままとなるリスクも0ではありません。そのため、いったん、自筆証書遺言で作成しておき、改めて公正証書遺言の形式にするという方法も考えられます。

必要書類を集める

遺言書の内容が固まったら、その内容に応じて必要な書類を用意しましょう。

よくある内容とその必要書類については以下のとおりです。追加の書類が必要となることもあります。必要書類は、必ず、公証役場に確認しましょう。

内容 必要書類
遺言者本人を証明するもの ①印鑑登録証明書と実印
②運転免許証と認印
③マイナンバーカードと認印
④住民基本台帳カード(写真付)と認印
⑤パスポート、身体障害者手帳または在留カードと認印
のいずれか
相続人との続柄が分かるもの 戸籍謄本
不動産がある場合 固定資産税納税通知書又は固定資産評価証明書
登記簿謄本
預貯金がある場合 通帳又はその写し
証人の本人確認資料 免許証の写しなど

2人以上の証人を探す

必要な書類が集まったら、公正証書遺言作成に必要な2人以上の証人を探しましょう。

もっとも、以下に記載する方は、証人になれませんのでご注意ください。

証人になれない人

証人になれない人は、以下のとおりです(民法974条)。

未成年者…遺言の内容を理解するだけの判断能力がないと考えられるため。

推定相続人等…遺言について利害関係を有するため。

公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、使用人…公証証書遺言の公正性を確保するため。

証人と一緒に公証役場に行き、遺言書を作成する

証人が見つかったら、一緒に公証役場に行って公正証書遺言を作成しましょう。

遺言書を作成する公証役場はどこ?

公証役場の管轄は、特に決まっていません。日本全国好きなところの公証役場を選択することができます。とはいえ、公正証書作成の利便性から、遺言者のお住まいの最寄りの公証役場になることが一般的です。

公正証書遺言の作成が困難なケースと対処法

言語機能や聴覚に障害がある場合

公正証書遺言の作成には、遺言者が希望する遺言の内容を公証人に口述し、公証人が遺言の内容を遺言者に読み聞かせ、内容を確認する必要があります。そこで、遺言者本人が言語機能や聴覚に障害があり、上記のような手続を行うことが難しい場合には、以下の対応を行うことが可能です。

言語機能に障害がある場合…通訳人が手話又は筆談で遺言の内容を公証人に伝える

聴覚に障害がある場合…通訳人が手話で通訳して遺言の内容を遺言者本人に伝える

署名できない場合

遺言者本人が病気や高齢によって自分で署名できない場合は、公証人がその旨遺言書に付記することで、遺言者本人の署名に代えることが可能です。

ただし、注意を要するのは、「署名できない」理由が、認知症等による判断能力の低下が原因であるケースです。遺言を有効に作成するためには、「遺言能力」が必要とされています。遺言能力とは、自分の遺言の内容を理解し、遺言によって起こる結果を認識できる判断能力のことをいいます。遺言能力がない場合、公正証書遺言を作成することはできません。

公証役場に行けない場合

遺言者が病気で入院中である、怪我で動けない等の理由で、公正証書遺言を作成したくても公証役場に行けないという方もいらっしゃると思います。

このような場合には、公証人が遺言者の自宅や病院を訪問して公正証書遺言を作成することができます。ただし、公証人が出張する場合は、その分の日当や交通費が必要となるほか、公正証書作成の手数料も加算されますので、ご注意ください。

公正証書遺言の作成を弁護士に依頼するメリット

遺言内容の相談ができる

1つ目のメリットは、遺言内容の相談ができるという点です。

遺言書の作成にあたっては、その内容について法的な問題がないかどうかを確認する必要があります。

法的に問題があると、相続人間でトラブルに発展してしまったり、遺言者の意思が適切に反映されずに遺産分割がされてしまう等のリスクがあります。具体的には、遺留分を侵害するような遺言の場合、遺留分侵害額請求と、それに引き続く紛争、という形で、相続人同士で争いになることがあります。

また、相続人に、予期しない課税が生じてしまうこともあります。

公証人において、遺言書のチェックは行われますが、基本的には方式のミスがないかという観点から行われるます。公証人は、遺言がされた結果、どのようなトラブルが生じるか、どのような課税関係が生じるかといた、遺言の法的効果の帰趨まで検討してくれません。

遺言者の意思を適切に反映しつつ、各種の法的リスクを慎重に検討したい方は、弁護士に依頼することをおすすめします。

書類準備などの手間が省ける

2つ目のメリットは、必要書類の準備などの手間が省けるという点です。

上記のとおり、公正証書遺言を作成する際には、さまざまな必要書類が必要となりますが、戸籍謄本等の必要書類については、弁護士でも取得することができますので、遺言者の手間が省けます。

遺言執行者として選任できる

3つ目のメリットは、弁護士を遺言執行者として選任できるという点です。

遺言書を作成する際には、遺言の内容を実現するためにも、遺言執行者を選任した方が良いです。遺言執行者とは、遺言者が作成した遺言書に記載されている内容での相続が実現できるように、遺言者が亡くなった後、相続手続を進める人のことをいいます。

相続人自身が遺言執行者となることも可能ではあります。しかし、遺言執行者の事務手続は非常に複雑であり(民法1007条以下)、仕事や日常生活と両立することは容易ではありません。

弁護士が遺言執行者となっていた場合、遺言内容を適切に実現できます。

任意後見契約などの財産管理契約を結ぶことができる

4つ目のメリットは、弁護士と任意後見契約などの財産管理契約を締結することができるという点です。

任意後見契約とは、被後見人が、判断能力が十分なうちに後見人になってほしい人を事前に選び、被後見人が後見を必要とする状態となった場合に、事前に選任した後見人に財産管理等を行ってもらうという契約で、公正証書によって締結することが必要です。 遺言書を作成される方は、高齢であることが多く、将来的に判断能力が不十分となってしまう可能性がありますので、公正証書遺言と併せて任意後見契約を締結することもおすすめです。

任意後見契約の他、家族信託契約なども考えられます。

公正証書遺言に関するQ&A

公正証書遺言にすれば確実に効力がありますか?

上記のとおり、公正証書遺言を作成する際に、公証人が方式(書式)の不備についてチェックしますので、方式不備によって遺言書が無効となることは考えにくいです。
もっとも、公証人は、内容の有効性についてまでチェックをするわけではありませんので、公正証書遺言にすれば必ず有効になるとは限りません。
また、公正証書遺言が作成された場合でも、遺言者に遺言能力がないとして、遺言が無効になった裁判例などもあります。
公正証書遺言を作成する場合でも、弁護士に相談することをおすすめします。

一度作成した公正証書遺言の内容を変更することはできますか?

公正証書遺言を作成した場合でも、内容の変更は可能です。
内容の異なる公正証書遺言を作成した場合、基本的には最終的に作成された公正証書遺言が優先されます。
なお、公正証書遺言の内容を変更するためには、最初に公正証書遺言を作成したときと同様、必要書類、手数料、証人等を準備しなければなりません。

公正証書遺言があることは死亡後通知されますか?

公正証書遺言を作成した場合でも、遺言者が亡くなった後、公証役場から公正証書遺言が作成されていること等を相続人に通知されることはありません。
そのため、せっかく公正証書遺言を作成しても、その存在を知られることなく、相続人間で遺産分割がされてしまうこともあります。
公正証書遺言を作成された方は、事前に、公正証書遺言を作成したことを信用できる方に報告しておいた方がよいでしょう。

遺言書を見せてもらえません。公証役場で開示請求はできますか?

遺言者が亡くなった後、相続人から公正証書遺言を見せてもらえない場合は、ご自身で公証役場に開示請求を行うことができます。
どこの公証役場で作成したか分からない場合は、最寄りの公証役場で遺言検索の申出を行うことで、どこで作成したか調べることができます。
開示請求をする際には、遺言者が死亡した事実を証明する除籍謄本等、遺言者の相続人であることを証明する戸籍謄本等が必要となります。

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以上のとおり、本記事では、公正証書遺言にはさまざまなメリットやデメリットが存在すること、公正証書遺言を作成するまでの流れ等について解説しました。

自筆証書遺言ではなく公正証書遺言で作成した方が、メリットが大きいと思われた方も多いのではないでしょうか。

とはいえ、公証人のチェックはあくまで方式の不備がないかどうかを確認するものであり、内容面の確認はしてもらえません。自分自身の意向を適切に遺言書に反映させたいとお考えの方は、ぜひ弁護士に相談することをおすすめします。

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。