監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
相続人でなくとも、親族や身内以上に被相続人のために尽くされている方はたくさんいます。特別縁故者とは、相続人がいない場合やすべての相続人が相続放棄した場合などに、特別に遺産の分与を受けることができる人のことを指します。
被相続人と生計を共にしてきた方や、身の回りの世話を一身に担ってきた方は、家庭裁判所での手続きが必要となりますが、被相続人の遺産を承継できる可能性がありますので、参考にしてください。
目次
特別縁故者とは
当別縁故者とは、被相続人と特に親しい間柄であった者を指しますが、民法上では以下の通りとなっています。
- 被相続人と生計を同じとしていた者
- 被相続人の療養看護に努めたもの
- その他被相続人との特別の縁故があった者
特に3つ目の、その他被相続人との特別の縁故があった者が不透明なため、家庭裁判所に特別縁故者として財産分与の請求を行い、判断を受ける必要があります。
どのような場合に、「特別の縁故があった者」と認められるかは、後述します。
特別縁故者に遺産分割が認められる要件は民法で定められている
特別縁故者として認められるためには、前述の特別縁故者であるだけではなく、相続人が誰もいないことが要件となっています。
相続人がいる場合には、いくら被相続人のために生計を同じくしていたり、身の回りの世話などを尽くしていたとしても、特別縁故者としての遺産分割は認められません。
亡くなった人と生計を同じくしていた(内縁関係など)
亡くなった人と生計を同じくしていた場合は特別縁故者として認められます。
内縁関係などが一般的ですが、異性でなくても構いません。また、配偶者の連れ子で養子縁組をせず一緒に暮らしていた場合などもあります。
「生計を同じくしていた」とは、被相続人と財布や銀行口座等を共有しているイメージをするとよいでしょう。
昨今は同姓でもパートナーとして同棲し、二人の収入を一つとして共同生活をしている場合や、法律上は親族ではなくても、家族同然に一つの生計の中で暮らしている場合もあたり得ます。
亡くなった人の介護をしていた
被相続人の療養看護を務めていた人とは、分かりやすく言えば、看護や介護をしていた人です。相続人ではないにもかかわらず、近所の方や仲の良い方が被相続人の世話をしているというケースは増えてきている印象です。
もっとも、仕事として相当の対価を受け取っている場合には、原則として特別縁故者として認められません。ただし、対価を受け取っていたとしても低廉で通常期待される以上の看護や介護を行っていた場合には認められる余地があります。
亡くなった人と特別の縁故があった
別の家に離れて住んでおり生計を同じくしていない場合や、療養看護をしていない場合にも、特別の縁故があると認められれば、特別縁故者として遺産の分与をうけることができます。
法律上明確な基準が無く、抽象的でわかりにくいと思いますが、基本的には、生計が同一な場合や療養看護を務めていた場合と同程度の密接な関係があり、精神的にも物質的にも関係があった者となります。
また、裁判所は、遺産をその人に分与することが被相続人の意思に合致しているかなども勘案し判断しています。
法人でも認められるケースがある
介護施設が特別縁故者として認められたケースもあります。基本的には、介護施設は報酬をもらい運営していますので、特別縁故者として認められないのが原則ですが、通常のサービスを超えて献身的に介護がされていた場合や、施設料が払われていないにもかかわらず介護を続けてきた場合など、法人であったとしても特別縁故者として認められる場合があります。
取得できる財産の割合は亡くなった人との関係によって変わる
特別縁故者として認められたとしても、遺産のすべてが分与されるわけではありません。遺産の1割や2割など、一部のみが分与されるケースも多くあります。
この分与される割合は、遺産の総額や被相続人と特別縁故者の関係の深さ等によって、裁判所が判断します。
不動産は取得できる?
特別縁故者として不動産を取得することは可能です。登記の移転は、家庭裁判所の審判書をもって行うことになります。
登記に詳しい方は、相続でもないのに、どうやって登記するのか疑問に思われるかもしれませんが、相続財産清算人によって「相続人不存在」を原因とする登記を行うことになります。なお、不動産の分与を受けたい場合には、特別縁故者としてなぜその不動産が分与されるべきなのかを具体的に疎明するべきでしょう。
遺言は分与の割合に影響する?
遺言があれば、被相続人の意思は明確ですので、まずは遺言に従い遺産が分割されます。したがって、遺言がある場合には特別縁故者として認められる余地は通常ありません。
ただし、遺言に不備があり無効な場合や遺言が不十分で全部の遺産について言及されておらず、誰にも帰属することが予定されていない遺産がある場合には、特別縁故者として認められる余地はあります。
このような場合の分与の割合は遺言の内容により、ポジティブにもネガティブにも働きうるので、具体的な状況によるため、弁護士に相談してください。
特別縁故者になるために必要な手続きは?
相続財産人清算人の選任の申立てが必要
特別縁故者として認められるには、家庭裁判所への申し立ての手続きを行う必要があります。
ただ、初めから特別縁故者の申し立てを行うのではなく、まずは、特別縁故者と認めてもらいたい方が、相続財産清算人の選任の申し立てを行います。
裁判所から相続財産清算人が選任された後、相続財産清算人が相続人や相続財産を調査します。その後に、特別縁故者と認めてもらいたい方が改めて、家庭裁判所に相続財産の分与の申し立てを行います。
したがって、特別縁故者として相続財産の分与を受けたいと考える方は、
まず、相続財産清算人の選任申し立てを行い、その後に特別縁故者への相続財産の分与の申し立てをしなければならないと覚えてください。
特別縁故者の申し立てができるようになるまで6カ月はかかる
相続財産清算人の選任の申し立てを行ったとしても、すぐに特別縁故者への相続財産分与の申し立てができるわけではありません。
相続財産清算人は、相続人の捜索の公告や債権者が現れた場合に相続財産等について清算を行わなければなりません。
令和4年に相続法が改正されるまでは、相続財産清算人の制度について、相続財産管理人とされ相続人の捜索や債権者や受遺者の請求申出を求める期間が合計10ヵ月とされていましたが、法改正により手続きの期間は6か月と短縮されました。
したがって、相続財産清算人の選任申し立て後、特別縁故者の申し立てを行うには、少なくとも6か月待つ必要があります。
特別縁故者の申し立て方法
特別縁故者の申し立てをするにあたり、まずは、相続財産清算人の選任が必要となります。
(相続財産清算人の選任に必要な資料)
相続財産清算人の選任の申立てに必要な資料は以下の通りです。
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の兄弟姉妹で死亡している方がいらっしゃる場合,その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 代襲者としてのおいめいで死亡している方がいらっしゃる場合,そのおい又はめいの死亡の記載がある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
- 財産を証する資料(不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書),預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し,残高証明書等)等)
- 利害関係人からの申立ての場合,利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書),金銭消費貸借契約書写し等)
- 相続財産清算人の候補者がある場合にはその住民票又は戸籍附票
また、申し立てをするに際し、収入印紙や官報への公告料が必要となります。
さらに、相続財産清算人を選任するにあたり、裁判所から予納金の納付を求められるのが通常で、概ね50万円~100万円程度予納を求められます。
なお、この予納金は相続財産が換価され余剰金が残った場合には返金されます。
(特別縁故者に対する相続財産分与の申し立てに必要な資料)
特別縁故者に対する相続財産分与に必要資料は以下の通りです。
- 申立書(必要に応じて証拠等も)
- 申立人の住民票又は戸籍附票
特別縁故者だと証明するために必要なもの
特別縁故者だと証明するために必要となるものの定型書類はなく、主張・立証したいことに応じて証拠資料を用意する必要があります。
例えば、内縁関係があり、生計を同じくしていたことを証明したい場合、住所が同じであれば住民票を提出するだけで済みますが、同居しているにもかかわらず住民票上の住所が異なる場合には、郵便物の宛先を証拠として同居していることを立証することがあります。
療養看護をしている場合であれば、病院や介護施設の緊急連絡先として記載されているものや、日記・手帳・領収書などをもって立証する場合などがあります。
自身がどういった点が特別縁故者なのかということを主張し、そのストーリーに真実味を与える証拠を添付する必要があります。
申立先
申立先は、被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所となります。
被相続人の最後の住所地は被相続人の住民票や戸籍の附票から調べます。
特別縁故者の申し立て期限は?
特別縁故者の申立ては、特別縁故者の申立ては、相続財産清算人の選任手続きの中に内包されており、相続財産清算人の選任及び相続権主張の催告の公告満了後3カ月以内に行わなければなりません。一方、相続財産清算人の選任手続きに期限は設けられていないため、いつでも申し立ては可能です。
すなわち、基本的には特別縁故者の申立てに期限はなく、ただし、相続財産清算人の選任を申し立てた後は、公告満了後3カ月以内の期間内に行わなければなりません。
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特別縁故者にかかる税金
特別縁故者にかかる税金は、相続税となります。そのため、受け取る財産の総額3000万円以下であれば相続税はかかりません。3000万円を超えるような場合には、相続税の申告が必要となります。
また、相続人以外の者が遺産を受け取ることにあるため、通常の相続税の2割増しとなります。
特別縁故者に関する裁判例
財産分与が認められた裁判例
- 被相続人の従兄弟が長年にわたり交流を続け、被相続人を精神的に援助してきただけではなく、入院時には遠方からか駆けつけ、被相続人が亡くなった際にも、親族に連絡し葬儀を執り行う等した者を、特別縁故者として認められました(高松高裁平成28年4月13日決定)。
- 知的能力が不十分で身寄りがない被相続人に生前から雇用し、被相続人が脳梗塞を発症してからも15年にわたり援助を続けてきた者を、特別縁故者として認め、相続財産4120万円のうち2000万円の分与が認められました(大阪高裁平成31年2月15日決定)
特別縁故者だと認められなかった裁判例
療養看護等を行っていたとしても、被相続人の財産を管理するにあたり、使途不明金や使い込み、遺言書の偽造を試みる等不当な利得が認められるような場合には、特別縁故者として認められない傾向にあります。
不当な利得が認定され、特別縁故者として認められなかった裁判例は複数あります(さいたま家裁川越支部平成21年3月24日審判、東京高決平成25年4月8日決定等)。
特別縁故者の申し立てをお考えの方は弁護士にご相談ください
特別縁故者の申立ては、裁判所に否定されることもあり簡単なものではありません。
特に同居や生計を共にしていない場合には難易度は高く、下手をすれば費用倒れになってしまいます。
特別縁故者として認められるには、裁判所に対し、ストーリーに真実味を持たせて主張立証することが欠かせません。弊所では、特別縁故者の申立てを複数行っており、多くのケースで特別縁故者として認められています。
身寄りのない被相続人の晩年にずっと介護や世話をしてきて葬儀代も立て替えたが何とかならないかという相談も増えてきています。ご自身が特別縁故者かもしれないとお思いの方は、ぜひ弁護士法人ALG&Associatesへご相談ください。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)