監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
DVを理由として離婚する場合、DVを立証する証拠が非常に重要です。「殴られた」「蹴られた」と主張するだけでは、DVの事実を認めてもらうことは困難です。①DVがあった事実(暴行、暴言)と、②DVにより負傷した事実の双方を、適切な証拠により立証できる状態にしておくことが非常に重要です。
本稿では、主に②の立証のために重要な証拠である診断書について説明します。
目次
離婚するときにDVの証拠になるもの
DVの証拠として最も有効なのは、上記①②を直接的に立証できる証拠です。
例えば、①については、DVを受けている間の録音、防犯カメラ、隠しカメラ映像など、②については、DV直後の怪我の画像、動画等です。
診断書の記載内容と重要ポイント
何科の病院でDVの診断書をもらえるのか
「DVによる負傷の診断書は、〇科の医師が書いたものでなければならない」という決まりはありません。多くの方が、通常の病気、けがの場合、心身に不調があったときは、どの診療科だったら適切に治療してもらえるか考えて病院に行くと思います。それと同じで、DVで負った心身の不調について、適切に治療してもらえる病院を選びましょう。診断書をもらうために病院へ行くのではありません。治療のために行くのです。
典型的な例では、切り傷、痣、打撲などの場合、近所のかかりつけの町医者に行くこともあります。重症の場合には、整形外科や形成外科を勧められるでしょう。また、DVにより心的外傷後ストレス障害等に罹患した場合には、心療内科等を受診することになります。
DVの診断書があると離婚のときに有利になること
裁判で離婚請求が認められるには、裁判上の離婚原因(民法770条1項各号)が要件となります。
単なる性格の不一致で裁判上の離婚が認められる事例もありますが、不貞、DV等の明確な有責行為があると、離婚が認められやすくなります。DVの診断書がある場合、離婚が認められる可能性が高くなる他、慰謝料が認められる可能性も高くなります。
慰謝料の増額
婚姻関係の破綻にもっぱら責任のある配偶者には、慰謝料の支払いが命じられることがあります。不貞を原因とする離婚が典型例ですが、DVの場合にも、慰謝料の支払いが命じられることが多いです。DVの診断書があると、慰謝料が認められる可能性が高くなります。
また、DVによる負傷により、長期間入通院をした場合や、後遺障害が残存した場合、交通事故等の事案に準じた入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益等が認められることがあります。なお、このような重い負傷、後遺障害の場合、診断書1枚だけで立証することは困難と考えられます。診断書のみならず、診療録等から診療経過まで適正に立証できるのか、十分な検討を要します。
子供の親権
子の面前でDVがあった場合、いわゆる面前DVとして、子に対する心理的虐待にもあたります。このような場合、心理的虐待をする親は、親権者として不適格と判断される可能性が高くなります。逆に、DVをされた側が、親権者となる可能性が高くなります。
ただし、親権者としての適否は、このような心理的虐待の点だけで判断されるわけではありません。監護状況等から、総合的に判断されます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
DVの診断書の提出先
調停離婚を申し立てたとき
離婚調停を申し立てた場合には、診断書を証拠として提出します。原本は手元に残したまま、写しを提出することが一般です。原本確認をしてもらうため、原本は大切に保管しましょう。
警察に行くとき
警察へ診断書を提出することで、警察から、加害者に対し警告を出してもらえることがあります。都道府県警察にはDV専門の相談窓口がありますので、相談するようにしましょう。
また、あらかじめ警察に相談しておくと、DV保護命令の申立や、シェルターへの避難がスムーズに進みます。
DVの診断書の有効期限
診断書には特に有効期限はありません。不法行為の損害賠償の時効の問題等はありますが、過去の診断書であっても、証拠となります。
ただ、「〇か月前にDVを受けたので、打撲で診断書を書いてほしい」といったような、医師が現に診察できない症状については、診断書を書いてもらえません。診断書は、治療や経過観察が必要な状態で、病院へ行って初めて書いてもらえるとお考え下さい。
離婚のときに提出するDVの診断書についてのQ&A
DV加害者の弁護士からDVの診断書の提出を求められたのですがコピーしたものでもいいですか?
コピーを渡すようにしましょう。原本の方が証拠価値が高いため、これを第三者に渡してしまい、廃棄等されてしまうと、有力な証拠を失うことになりかねません(※診療録等の記載を基に、診断書を再発行してもらえることはあります。)
DVによって擦り傷ができたときも病院で診断書をもらっておくべきですか?
ちょっとした怪我でも、DVを受けてできた怪我なら、診断書をもらっておくことをお勧めします。診断書がなく、DVによる怪我か、例えば転んでしまった怪我か分からないような状態の怪我の場合、画像等を証拠として提出しても、DVによる怪我と認定されない可能性があります。
DVの診断書がない場合は離婚が難しいですか?
診断書がなくても、DVが認められ、離婚(協議離婚、調停離婚、裁判離婚)に至るケースも少なからずあります。そもそも、婚姻関係を続けることが困難な事情があれば離婚が認められるため、「DVの診断書がなければ離婚できない」というわけではありません。
とはいえ、DVを理由として離婚する場合、診断書があれば有利であることは確かです。また、慰謝料の請求には、診断書その他の客観的な証拠があるに越したことはありません。
DV加害者と離婚をする際に診断書があると有利になることがあります。詳しくは弁護士にご相談ください
DV加害者と離婚交渉は、被害者にとって大変なストレスです。交渉窓口が弁護士に代わるだけで、被害者にとって非常に楽になります。また、弁護士のサポートにより、適切な証拠を得たり、法的手続をとることが容易になります。
DVにお悩みの方、DVを理由として離婚することを考えている方は、悩まず弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)