離婚届不受理申出とは|離婚届を勝手に出されないための対策

離婚問題

離婚届不受理申出とは|離婚届を勝手に出されないための対策

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士

夫婦間で離婚について合意ができていないのに、早期に離婚を成立させたい一方が、勝手に離婚届を役所に提出してしまうことが時折見られます。夫婦間で離婚の合意がされていなくても、形式的に離婚届の体裁が整っていれば有効な離婚届として受理され、二人の間に離婚が成立してしまいます。このような事態を防ぐためには、離婚届の不受理申出を行う必要があります。

勝手に出された離婚届は受理されてしまう?

夫婦が作成した離婚届は、市役所に提出することになりますが、市役所は、提出された離婚届に不備がない限り、離婚届を受理します。これは、民法において、夫婦に離婚の届出をする意思があるか否かを重視しており、離婚について合意しているかどうかを重視していないからです。

したがって、離婚届に不備がない場合、勝手に出された離婚届は受理されてしまうのです。

離婚届の不受理申出制度とは

離婚届の不受理申出届出制度とは、市町村長に対し、相手方が行う離婚の届出を受理しないように申し出る制度をいいます(戸籍法第27条の2第3項ないし第5項)。

この申出がなされると、当該申出を行った人物が届出を行わない限りは、離婚届が受理されず、協議離婚が成立しないことになるという、非常に強力な制度です。

不受理申出をした方が良いケース

どのような状況下でも不受理申出をしておくべきなのかと言われると、そうではありません。相手方が離婚届を勝手に提出してしまう危険があるような場合にだけ申出を行えば十分でしょう。以下のような場合には、離婚届の不受理申出を行った方が得策といえるでしょう。

  • 相手型が早急に離婚したがっている場合
    例えば次の交際相手と早く結婚したいと考えている場合には、勢い余って勝手に離婚届を提出することが考えられます。
  • 相手方が親権をどうしても譲らないと強硬な姿勢である場合
    離婚届には親権者を記載する欄があり、その記載に従って親権者が決定するためです。
  • 既に署名等を行った離婚届を渡したが、離婚条件の合意に至らない場合
    相手方の手元に離婚届がある以上、相手方が条件面の協議をしないまま一方的に離婚届を提出する事が可能だからです。

離婚届不受理申出をするメリット・デメリット

メリット

離婚届不受理申出を行うメリットとしては、以下の点が挙げられます。

  • 簡便かつ無料の手続で、離婚届を勝手に出される可能性を封じることができる
  • 離婚条件の合意が成立するなど、離婚届を行おうと思ったタイミングで離婚を成立させられる
  • 不受理申出の期限は無期限であるため、一度申出を行えば、更新など煩雑な手続は不要である)

デメリット

デメリットとして挙げられることがあるとすれば、役所に直接出向いて手続を行う必要がある、ということくらいです。その点では面倒ではありますが、その点を措いても十二分に不受理申出を行うことのメリットの方が上回るといえるでしょう。

離婚届不受理申出の手続き方法

具体的に離婚届不受理申出を行うには、申出書に必要事項を記載し、本人確認書類を持った上で役所にて申出書を提出することになります。もう少し細かく確認していきましょう。

申出ができる人

申出を行うことができるのは、夫婦のみです。夫婦のどちらかの代わりに、その親が提出するということは基本的に不可能です。また、窓口での本人確認が必要ですので、郵送による申出も基本的に認められません。

どうしても役所に赴くことができない場合にどうすればよいかについては、個々の役所の判断となるため、直接申出を行う役所にご連絡ください。

申出先

申出先は、基本的には本籍地の役所に提出することになります。ですが本籍地が遠方にあるなど、本籍地まで赴くことが難しい場合もあるでしょう。そういった場合には、住所地の役所に提出することも可能です。とにかく少しでも早く申出を行うことのできる場所を選びましょう。

本籍地以外の提出は可能?

離婚届不受理申出は、本籍地の役所に提出することになっているのですが、本籍地が遠方の場合には、容易に行くことができません。

そのような場合には、住所地の役所に提出することができますので、一番早く、かつ、容易に提出できる方法を選択するようにしてください。

申出に必要なもの

申出に必要なものは以下のとおりです。

  • 不受理申出用紙
  • 運転免許証やパスポート、マイナンバーカード等の本人確認書類
  • 朱肉を使用する印鑑

申出を行う役所のホームページでは用紙をダウンロードすることができたり、持参すべきものを記載してくれていることがありますので、申出に赴く前に確認するとよいでしょう。

離婚届不受理申出書の書き方

他の役所への提出書類と同様に、所定の欄に必要事項を記載し、署名押印をします。少しでも不安な点があれば、役所の方に問い合わせるようにしましょう。

不受理申出に有効期限はある?

従来は不受理申出には6か月間の有効期限が設けられていましたが、平成20年5月1日施行の改正戸籍法により、不受理申出は取下げを行わない限り有効なもの、すなわち無期限の効力を有するものとされるようになりました。

不受理申出を撤回・取り下げることはできる?

相手方の態度が変わった場合や、離婚条件の合意が成立して相手方に離婚届を提出してもらいたい場合など、もう不受理申出の効力が必要ない場合が来ることがあります。そのような場合には、不受理申出を取り下げることが可能です。

申出のときと同様に、所定の用紙に必要事項を記載し署名押印のうえ、本人確認書類を役所に持参して取下げを行ってください。なお、不受理申出を行った方ご自身で離婚届を提出する際には、不受理申出の届出を撤回する必要はありません。

申出が間に合わず離婚届が受理された場合の対処法

相手方が勝手に離婚届を提出しそうだと感じ、急いで離婚届不受理申出を行ったとしても、相手方の動きの方が早く、申出よりも先に離婚届が提出されてしまうこともあるかと考えられます。そのような場合にはどのように対応すればよいのでしょうか。具体的には以下の2つの方法が考えられます。

離婚無効調停

まずは、家庭裁判所に対して離婚無効調停を申し立てることになります。調停とは、裁判所で調停委員会を介した話し合いを行うことをいいます。不受理申出を提出しようとしていた側としては、合意なき離婚であることを主張し、離婚届を提出した側としては、既に形式的な離婚が成立していることを主張するでしょう。

この調停の手続でも離婚に関する合意が成立しない場合には、次のステップとして離婚無効訴訟に移行することになります。

離婚無効訴訟

離婚無効訴訟では、当事者双方の主張立証を踏まえ、裁判所において、当該離婚が有効か無効かを判断し、判決が下されることになります。判決に至る前に、当事者側や裁判所側から和解の提案がなされることもあります。

調停で離婚が無効であることが合意に至った場合や、判決で当該離婚が無効であることが判断された場合には。その結果が確定してから1か月以内に役所に赴いて戸籍を訂正する手続の申請を行います。1か月あると悠長に構えているとあっという間に過ぎてしまうため、確定次第速やかに申請を行うようにしましょう。

離婚届の不受理申出に関するQ&A

不受理申出をしたことが相手にバレることはありますか?

不受理申出を行っただけでは、相手方にはその旨が通知されることは無く、この状態ではばれることはありません。ですが、相手方が離婚届を役所に提出した場合には、離婚届が受理されないという結果になるため、この段階で不受理申出を行っていたことを把握することになるでしょう。

離婚届を勝手に提出することは犯罪になるのでしょうか?

離婚届を勝手に提出すると、以下の罪に問われるおそれがあります。

  • 有印私文書偽造罪(刑法第159条第1項)
    相手方の署名欄押印欄を勝手に埋めてしまうことがこの罪に該当します。
  • 偽造有印私文書行使罪(刑法第161条第1項)
    偽造した離婚届を役所に勝手に提出することがこの罪に該当します。
  • 電磁的公正証書原本不実記録罪
    上記の離婚届によって虚偽の届出を行い、コンピュータ上に虚偽の内容を記録させたことがこの罪に該当します。

不受理申出をしなくても、離婚届が受理されないケースはありますか?

子どもの親権が決まっていない場合や、証人欄の署名押印がない場合、その他にも離婚届の不備がある場合は離婚届が受理されませんが、そのようなことがなく形式面が充足されている離婚届であれば、不受理申出をしない限り離婚届は受理されます

離婚届の不受理申出について分からないことがあれば弁護士にご相談下さい。

離婚届の不受理申出は、一つの手続で望まない離婚を防ぐことができる強力なものとなります。とはいえ、わざわざこの手続をとっておいた方が良いのか、おひとりでは判別しかねる場合も多くあると考えられます。

また、不受理申出を行ったうえで今後どのように相手方と協議していけばよいのかなど、不受理申出の後のお悩みも多くあることかと思います。

弁護士法人ALGでは全国から多くの離婚問題のご相談を頂いております。離婚届不受理申出を含む離婚に関するご相談に専門的知識を有する弁護士が対応させていただきますので、ぜひ一度お気軽にご相談ください。

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。