薬に関する注意義務
監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
- 薬
医療機関で用いられる医療用医薬品は、ドラッグストア等で陳列・販売されている一般用医薬品よりも、治療効果が高いですが、その一方で、副作用も強く出ます。
そのため、医療機関が患者に対し薬を投与する際には、それ相応の注意を払う必要があります。
薬を投与に関して過失が認定される例としては、時系列を順に並べると、概ね、①投与する前に投与の可否を十分に検討しなかった場合、②投与方法が不適切な場合、③投与後の経過観察が不適切な場合等があります。
投与する前に投与の可否を十分に検討しなかった場合
薬を摂取するとアレルギー症状が生じることがあり、時にはアナフィラキシーショックを起こし死に至ることもあります。特に、造影剤、抗生物質、抗がん剤等の薬はアナフィラキシーショックを起こす可能性が比較的高いとされています。
そのため、これらの薬を投与する前には、アレルギーの既往があるかを問診して、投与の可否を判断する必要があります。
このほか、弊所では、妊婦と知りながら、妊婦には投与してはならない薬を投与してしまったという事件の経験があります。
投与方法が不適切な場合
投与する薬の種類は正しくても、投与する量や間隔といった投与の方法を誤ると、重篤な副作用が生じる場合があります。そのため、薬には、用法用量や使用上の注意等が記載された添付文書というものが存在します。
この添付文書に関しては重要な最高裁判例があります。同判例は、ペルカミンSという麻酔剤を投与された患者の血圧が低下し、呼吸が停止して、手術後に障害が残ったという事案であり、麻酔剤を投与した後の血圧測定が適切であったかについて争われました。ペルカミンSの添付文書には、注入してから10~15分後まで2分間隔で血圧を測定すべきであると記載されていましたが、事故当時の一般的な開業医は5分間隔で血圧を測定していました。このような事実関係について最高裁は、医師が医薬品を使用するにあたって添付文書に記載された注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、注意事項に従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、医師の過失が推定されるとしました(最判三平成8年1月23日民集50巻1号1頁)。
投与後の経過観察が不適切な場合
薬を投与した後、重い副作用が生じることがあり、中には命を落とすこともあります。
そのため、医療機関としては、薬を投与した後には想定される副作用に応じて患者を観察し、異常があれば適切な治療を施す必要があります。
最判二平成14年11月8日民集208号465頁では、医師が薬による過敏症状を認めた場合には、十分な経過観察を行い、過敏症状または皮膚症状の軽快が認められないときは、その薬の投与を中止して経過を観察する等の義務を負っていたと判断されました。
この記事の執筆弁護士
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東京弁護士会所属
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保有資格医学博士・弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:29382)東京弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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