業務上横領は必ず逮捕される?
横領額と刑の重さは関係あるのか
監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長
業務上横領罪 |
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10年以下の懲役(刑法253条) |
業務上横領罪は、人から委託を受けて、かつ業務として占有する他人の物に対する横領行為を処罰する規定です。単純横領罪との量刑等の差異や背任罪との区別等について、以下説明していきます。
目次
業務上横領罪とは?
業務上横領罪は、「所有権等の権限を有する他者から、委託を受けて占有する物」に対する横領行為という単純横領罪の類型について、その占有等が、業務として行われたものである場合の責任を加重して処罰する規定です。
横領罪の種類
横領と名のつく犯罪は、単純横領罪、業務上横領罪、占有離脱物(遺失物)等横領罪の3種が規定されています。このうち、単純横領罪を中心にした記述については、こちらのリンク先をご覧ください。
横領罪について詳しく見る背任罪と業務上横領罪のちがい
背任罪は任務に背いた行為を図利又は加害目的で行い、損害を与えることを処罰するものです。
業務上横領罪の、「物の占有を業務として委託されている」「にもかかわらず横領する」という関係は、自己の利益のために任務に背いて損害を与えたものという見方もできるように、両罪は重なるようなところがあります。
その区別は刑法上の論点の一つとされており、諸説あるのですが、「財物の領得行為が横領、その他の背信行為が背任」とする見解や、「背任は一般的権限の濫用、横領は一般的権限の逸脱」等と説明する見解等があります。裁判例では、権限の逸脱行為でも侵害の対象が所有権以外の場合は背任罪が成立すると判断される傾向も伺えます。
背任罪となる例
質入れされた物(質物)を質権者から預かっていたものが、質物を勝手に債務者に返還した行為→侵害の対象が所有権ではなく、質権であることから背任罪の成立を認めたと考えられる事案です。
既に抵当権を設定しているにもかかわらず、その登記完了前に別人に抵当権を設定し登記を完了させた行為→抵当権は、複数設定可能ですが、登記はその優劣に関わるものであり、これを奪った行為について背任罪としています。もっとも、抵当権ではなく、不動産の所有権を2重売買して劣後売買に関する登記を完了した場合には横領罪となると考えられています。
窃盗罪と業務上横領罪のちがい
窃盗は人が占有する物を盗むことを処罰するものです。人から委託されて占有している他人の物を自分の物にするとか、処分するという横領とはスタート地点がそもそも異なります。
窃盗罪となる例
データの管理を任されている担当者がコピー目的のため、当該データの入った会社のUSB(持ち出し禁止)を持ち帰った行為。会社が占有するUSBという財物を窃取したとして窃盗罪に該当すると考えられます。
予算管理権限などが認められていない副社長が、会社資金を持ち出した行為では、副社長という肩書があるとしても、占有が会社にあると考えられ、窃盗罪になると考えられます。
業務上横領罪の刑の重さ
10年以下の懲役と規定されています。
業務上横領の時効
公訴時効の期間は法定刑に応じて異なります。10年以下の懲役である業務上横領罪の場合は7年です。
これも業務上横領?ケース別事例
「他の人もやっている」、「金額が大したことない」など軽い気持ちで行わる行為でも業務上横領罪などに該当する行為は多くあります。軽微で悪質ではない場合など、いちいち警察へ通報されないだけであるものも少なくありませんが、立派な業務上横領罪などの犯罪に該当する行為は多くあります。軽い気持ちで行われている行為で多いのは次のような行為ではないでしょうか。
空出張で出張費を着服した
会社に虚偽の経費を請求するというものであれば、成立しうるのは詐欺罪です。経費の管理を任されている経理担当者等が、自分の不正出金の理由付けとして空出張を偽装したというような場合は、業務上横領罪とされる可能性はあります。
交際費を着服した
「会社の交際費を着服」というのが、具体的にどのような行為なのかにもよりますが、上の例と同じく、管理を任されているものが自己のために費消したというような場合は、業務上横領罪が成立する可能性が高いでしょう。
領収書を偽造した
「業務上占有する、財物を領得」するわけではないので、業務上横領罪には該当しないとしても、騙して交付させたというのですから、詐欺罪に該当するといえます。
交通費を着服した
具体的な内容にもよりますが、交通費として多めに支給されて、おつりは返還するというものを私的に使ったというような場合は業務上横領罪に該当する可能性もあります。そもそも交通費はかからないのに、かかると嘘をついて交付させたというような場合に成立しうるのは詐欺罪です。
備品を自分のものにした
業務上横領に該当するようにも思えますが、通常、社内の備品は会社の占有下にあるとみる方が自然ですので、該当する可能性が高いのは窃盗罪です。備品の内容や使用状況等によっては、業務上横領罪に該当する可能性もあるかもしれません。
会社のカードのポイントを私用で使う
カードのポイントは契約者である会社に帰属するものですが、横領罪の客体(≒財物)と言えるかは、微妙なところです。財産的価値を有する点に着目するならば、業務上横領罪に該当する可能性は否定できません。
会社のマイルを私用で使う行為や、自分のカードにマイルを貯める行為
ポイントと同様です。会社が貯めていないマイルを自分のマイレージカードに貯める行為等も、会社が明確に禁止しているような場合は、業務上横領罪に該当する可能性は否定できません。
業務上横領は必ず逮捕される?
逮捕や刑事事件は、捜査機関が犯罪事実を覚知することで動き出すものです。日本は捜査機関が全てを監視しているような国家ではないので、横領罪に限らず、被害者が被害を申告して初めて捜査機関が犯罪事実を認知するということは多いでしょう。被害者の意向によっては、そもそも被害申告がされないという可能性もあるかもしれませんが、甘い見通しはお勧めできません。
被害者から被害申告(告訴)により事件化するケースが多い
業務上横領罪は申告罪ではないので、被害者の被害申告がなくても、第三者の通報からも刑事事件に発展する可能性は十分あります。
横領した会社のお金を返済したら逮捕されない?
全額返済していることは、有利な情状として影響しうるものですが、だからといって必ずしも逮捕されないというわけではありません。横領したお金を返還した結果、被害申告はせずに許してもらえる、という場合もないわけではないでしょうが、返したからと言って罪は消えません。
逮捕されてからの流れ
業務上横領罪の疑いで逮捕された場合の、その後の流れについては、こちらで説明します。
逮捕後の流れについて詳しく見る業務上横領に執行猶予はつく?
業務上横領罪は、単純横領罪の責任を加重したものであり、法定刑も詐欺や窃盗と同じく、10年以下の懲役と規定されています。初犯であれば執行猶予がつく事案もありますが、量刑は事案によってそれぞれ異なりますし、会社の経理担当が長年使い込みを続けるケース等、被害金額が高額になる場合もありますので、一概には言えません。
500万円以上なら実刑?横領した額は刑の重さに影響あるの?
横領罪の量刑判断において、被害金額の多寡は大きなウェイトを占めているものと推察されますが、金額だけで一概に言い切れるようなものではありません。行為者の身分関係や、手口の巧妙さ・悪質性、被害者の管理体制等の事情も考慮されますので、○○円以上だから実刑、○○円以下だから執行猶予等と単純に割り切ることはできません。
横領した額が少額の場合
被害金額が10万円、100万円以下というような事案の場合、量刑や執行猶予の判断において、どちらかというと軽微な類型に属するという判断がされる可能性はあります。もっとも、量刑等は、被害金額だけで決まるというわけではありませんので、一概に言い切れるものではありません。
親族間でも業務上横領は成立するの?
業務上横領罪や単純横領罪等、横領罪の規定には、親族相盗例の規定が準用されています。 例えば、「自営業者の父の下で働き、経理全般を任されている息子が事業資金を私的に費消した」、というような場合、業務上横領罪が成立したとしても、刑は免除となります。
業務上横領は弁護士による弁護活動が必要です
業務上横領罪は、犯行に一度手を染めると発覚するまで際限なく横領を繰り返してしまう傾向にある犯罪類型です。被害金額が高額になってしまってからでは、被害弁償も困難でしょうし、事件化される可能性はもちろんのこと、量刑面も厳しい判断となる可能性を高めてしまいます。すでに発覚してしまった、という方はもちろんのこと、まだばれていないという方も、なるべく早い段階で自身の行為を清算する覚悟を決めて、弁護士に被害弁償や示談交渉などを依頼することをお勧めします。
この記事の監修
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福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。