過失運転致死傷罪とは?交通事故の刑事処分と対処法
監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長
目次
過失運転致死傷罪とは
過失運転致死傷罪とは、もともと刑法に規定されていた自動車運転過失致死傷罪を抜き出し、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下、「自動車運転死傷処罰法」といいます。)5条に移設されたもので、「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させる行為」がこれに該当します。
自動車運転死傷処罰法
自動車運転死傷処罰法(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)は、交通事故など自動車により人を死傷させる行為等に対する罰則を定めた特別法で、かつて、危険運転致死傷罪及び自動車運転過失致死傷罪など自動車によって人を死傷させる行為も刑法に規定されていましたが、飲酒運転などに対する社会の関心が高まりに伴い、刑法ではなく、特別法として規制すべく制定された法律です(平成26年5月20日施行)。
過失運転致死傷罪の罰則
過失運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法5条)は、自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合、7年以下の懲役若しくは禁固又は100万円以下の罰金に処せられます。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができるとされています。
無免許運転による加重
自動車運転死傷処罰法で定める危険運転致死傷罪などの罪を犯した者が、その罪を犯した時に無免許であることを認識して運転していた場合は、以下のとおり、罰則が加重されています(自動車運転死傷処罰法6条)。
自動車運転死傷処罰法2条の危険運転致死傷罪(3号の場合を除く)
人を負傷させた場合15年以下の懲役➡6月以上の有期懲役
人を死亡させた場合1年以上の有期懲役➡加重なし
自動車運転死傷処罰法3条の危険運転致死傷罪
人を負傷させた場合12年以下の懲役➡15年以下の懲役
人を死傷させた場合15年以下の懲役➡6月以上の有期懲役
自動車運転死傷処罰法4条の過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪
12年以下の懲役➡15年以下の懲役
自動車運転死傷処罰法5条の過失運転致死傷罪
7年以下の懲役若しくは禁固又は100万円以下の罰金➡10年以下の懲役
飲酒運転との併合罪
飲酒運転中に人を死傷させた場合、道交法違反(酒気帯び・酒酔い運転)と過失運転致死傷罪との併合罪となり、2個以上の罪について有期の懲役又は禁固に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものが長期とされます。ただし、長期の合計を超えることはできません(刑法47条)。
また、併合罪のうち2個以上の罪について罰金に処する場合には、それぞれの罪について定めた罰金の多額の合計以下で処断することとされています(刑法48条)。
例えば・・・
酒気帯び運転と過失運転致死傷罪➡10年6月以下の懲役又は150万円以下の罰金
酒酔い運転と過失運転致死傷罪➡10年6月以下の懲役又は200万円以下の罰金
危険運転致死傷罪との違い
アルコールや薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、よって人を死傷させた場合などを処罰する危険運転致死傷罪(自動車運転死傷処罰法2条、同3条)は、故意で行わなければなりませんが、過失運転致死傷罪は、自動車運転上求められる注意義務を怠ったことのよって人を死傷させた場合に成立し、故意によることを要しません。
例えば、前方注視義務、歩行者等の有無に留意しその安全を確認しながら進行する義務、一時停止義務、徐行義務などを怠ったことによって、人を死傷させた場合に成立します。過失のある交通事故であれば広く該当します。
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪
アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上の必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時にアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪として、12年以下の懲役に処せられます。
逮捕後の流れ
過失運転致死傷罪の多くは、一般的なよくある交通事故ですから、逮捕など身柄拘束されることは少ないでしょう。しかし、ひき逃げなどの場合には、逃亡のおそれや罪証隠滅の可能性が高く、逮捕など身柄拘束される可能性が高くなります。また、信号無視により重大事故を起こし場合に不合理な否認をする場合にも同様です。
交通事故は、誰しも起こしてしまう可能性があることから、逃げることなく速やかに119番通報、救護措置、110番通報などの事故処理を適切に行い、不合理に言い逃れをすることなく正直に話をすることが大切です。
逮捕後の対処法
無罪を主張する場合
過失運転致死傷罪は、自動車の運転上必要とされる注意義務を怠ったことによる犯罪ですから、過失がなければ構成要件に該当しません。
車両の損傷部位や損傷状況、信号周期、防犯カメラ、ドライブレコーダーなどの客観的な証拠と供述をもとに過失の有無を推認することになります。客観的な証拠がなく、勘違いによる目撃証言だけがあるという場合もあるでしょう。捜査機関は、真実を究明してくれるとは限らず、言い分を聞いてくれないことも少なくありません。曖昧な供述をすることなく、また、捜査機関の誘導に惑わされることなく、自身の記憶に基づいて話をすることが重要です。
事実関係に争いがない場合
事実関係に争いがない場合、被会社への謝罪と被害弁償を行うこと(行えること)が大切です。そのため、任意の自動車保険に加入しておくことは極めて大切です。ここで注意が必要なのは、任意の自動車保険が示談代行してくれるからといって、交渉を保険会社の担当者任せにしないことです。軽微事故であれば別として、死亡事故など重大事故であれば、損害を賠償するだけでなく真摯な謝罪、反省の態度が量刑に影響します。場合によっては、運転免許の返納なども検討することがあります。
交通事故で死傷させてしまった場合は、弁護士に相談を
交通事故で人を死傷させた場合には、通常、刑事事件としては不起訴とされることが多いですが、死亡事故などの重大事故を起こした場合には、正式裁判となることが多く、自動車保険による損害賠償以外の謝罪などを行うことが必要不可欠です。刑事事件の弁護人を依頼することが必要な場合もありますので、重大事故を起こした場合には、今後予想される事態に対する対応など、弁護士へ相談されることをおすすめします。
この記事の監修
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福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。