任意同行とは何か?
求められた場合の注意点
監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長
「任意同行」という言葉について、マスメディアの報道やインターネット記事で見聞きした経験がある方は多いでしょう。小説やドラマや映画の中で、この言葉が用いられる場合もあります。
もし、あなたや、あなたの知り合いが警察官から任意同行を求められた場合、どのように対応すればよいでしょうか?
この記事では、任意同行について詳しく説明した上、任意同行への対応について解説します。
目次
任意同行とは?
任意同行は、警察官が、何らかの犯罪の疑いがある場合に、その関係者である一般人に対し、警察署への同行を要請する行為をいうことが一般的です。その目的は、警察署で所持品検査を行ったり、尿検査を行ったり、取調べを行ったりすることが多いです。
ただし、任意同行は、「強制の処分」(刑事訴訟法197条1項ただし書)ではなく、飽くまで「任意」による「同行」ですので、刑事訴訟法その他の法律に明確な定義は設けられていません。
任意同行の種類
任意同行について、法律上の明確な定義はありません。
参考となる条文として、警察官職務執行法2条2項に「その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。」という規定があり、路上などからの任意同行は、この条文に基づく場合が多いでしょう。
そのほか、警察官が、令状に基づいて自宅などの捜索を実施した後、取調べを実施するために任意同行を要請する場合もあります。
任意同行と任意出頭の違い
任意同行のほかに、「任意出頭」という言葉もあります。
任意出頭については、別の記事で詳しく解説します。
任意同行と任意出頭は、どちらも「任意」によるものですが、警察官が一般人に対し、路上などから警察署への同行を要請する場合を任意同行というのに対し、警察署まで自分で来るように要請する場合を任意出頭ということが一般的です。
ただし、任意出頭については、検察官が検察庁への出頭を要請する場合も含みます。
任意出頭について詳しく見る逮捕ではありません
任意同行は逮捕ではありません。
任意同行は、飽くまで「任意」による「同行」です。
これに対して、「逮捕」は、通常逮捕、緊急逮捕、現行犯人逮捕がありますが、いずれも「強制の処分」に当たるため、その要件、手続、時間制限などが刑事訴訟法に具体的に定められています。
このように、任意同行と逮捕は、任意処分であるか強制処分であるかという法律上の明確な違いがあります。
どんな場合に任意同行の要請があるか
警察官が任意同行を要請するのは、通常、何らかの犯罪の疑いがある場合であり、任意同行の目的は、所持品検査や、尿検査や、取調べを実施することなどです。
例えば、自転車盗の疑いや、近くで発生した痴漢事件やひったくり事件の疑いや、薬物使用・所持の疑いや、空き巣狙いの疑いなどに基づいて、路上などにおいて任意同行を要請される場合があります。
他方で、具体的な犯罪の嫌疑に基づいて自宅などの捜索を実施された後、逮捕はされないまま、取調べ目的で任意同行を要請される場合もあります。
任意同行を求められたら
任意同行は、「任意」による「同行」であり、「逮捕」ではありません。
しかし、いきなり警察官から任意同行を求められた場合、心が動揺することでしょう。
以下の記事では、任意同行への対応について解説します。
拒否できる?
任意同行は、飽くまで「任意」による「同行」であり、強制処分ではありませんので、これを拒否することができます。
ただし、例えばあなたが路上を歩行中や、自動車の運転席に乗車中に任意同行を求められたのに、これを拒否した場合、その当時の具体的な状況によっては、警察官から一定程度の有形力を行使されたり、自動車のエンジンを停止させられたりしても、その警察官の行為が違法とはいえない場合もあります。
また、あなたが自宅で警察官から任意同行を要請され、これを拒否した場合、警察官が逮捕状を請求する可能性もあります。
拒否した場合どうなる?
前の項目で解説したとおり、警察官の行為が適法な職務執行の範囲内である場合、もしあなたが警察官に有形力を行使すると、あなた自身が公務執行妨害罪の現行犯人として逮捕される可能性があります。
また、前の項目で解説したとおり、警察官が任意捜査から強制捜査への切替えの必要があると判断し、逮捕状を請求する可能性もあります。
ですから、あなたが任意同行を拒否することはできますが、くれぐれも冷静に対応してください。また、担当警察官に対して、どのような犯罪の嫌疑で同行を求めるのかということを質問した上、別の日に警察署へ自ら出頭することを提案してもよいでしょう。
任意同行に応じる場合
弁護士の付添は可能?
任意同行は、飽くまで「任意」による「同行」ですので、あなたがその場で弁護士に連絡を取ったり、警察署への付添いを求めたりすることは可能です。
ただし、弁護士といえども、警察官の許可なくパトカーなどの警察車両に乗り込むことはできませんし、警察署内の取調室などに無断で立ち入ることもできません。
また、任意同行の現場に弁護士が偶然居合わせるということは、現実的には想定できません。
実際上、弁護士が、任意同行を求められている現場にいる人に対してできることは、電話でその状況に応じたアドバイスをしたり、任意同行後に逮捕された場合に早期に接見を行ったりすることでしょう。
録音は可能か
任意同行を要請されるのは、路上にいるときに制服警察官から職務質問を受けたり、自宅に訪問してきた私服警察官から要請されたりすることが大半であると考えられます。
このような場合に、所持品のスマートフォンなどで録音をすることは可能です。
ただし、録音目的でスマートフォンを作動させる場合、スマートフォンを振り回すなどすると、警察官に対する暴行であるかのように誤解されかねませんので、注意してください。飽くまで冷静に行動してください。
取り調べはどれくらい時間がかかるか
任意同行の実施後、警察署において取調べが実施されることが通常です。
取調べに要する時間は、嫌疑の内容及び重大性の程度、所持品検査・薬物検査の実施の有無などに左右されますが、数時間程度かかる場合もあります。
一般的には、取調べの結果として嫌疑が晴れると、早めに取調べが終了します。また、近隣に定まった住居があり、迎えに来てくれる家族や知人がいると、なおよいでしょう。
その反対に、警察署における所持品検査や薬物検査の結果として、禁制品の所持、違法薬物の使用又は所持が発覚した場合、そのまま現行犯人逮捕される場合もあります。
身に覚えがない場合の対応
あなたが、何ら身に覚えがないのに、路上を歩行中や、自転車又は自動車に乗車中に制服警察官から職務質問され、警察署への任意同行を求められた場合、警察官に身分証を提示した上、かばんやポケットの中などの所持品を見せ、自分が何も犯罪を犯していないことを知らせた方が、警察官とのやり取りを早く終わらせられるでしょう。
これに対して、あなたの自宅や職場までやってきた私服警察官から、警察署への任意同行を求められた場合、あなたにかけられた犯罪の嫌疑は、より具体的です。
このような場合であっても、あなたが、その嫌疑について身に覚えがないのであれば、任意同行後の警察署における取調べの際、あなたに不利な供述調書には絶対に署名せず、身の潔白を強く訴えてください。
任意同行に関するよくある質問
任意同行されやすい時間帯はあるの?
路上において、歩行中や、自転車又は自動車に乗車中に制服警察官から任意同行を要請されるのは、自転車盗、痴漢事件、ひったくり事件、違法薬物の使用・所持の疑いであることが大半です。そして、このような理由で任意同行を要請されるのは、夜間であることが多いでしょう。
これに対して、私服警察官から急に自宅を訪問されたり、令状に基づく捜索を実施されたりした上で、警察署への任意同行を要請される場合、出勤・外出前の時間帯である早朝であることが多いでしょう。
職務質問から任意同行となるのはどのような場合?
これまでの記事で解説したとおり、路上において、歩行中や、自転車又は自動車に乗車中、制服警察官から職務質問を受け、そのまま警察署への任意同行を要請されるというパターンは、任意同行の典型例の一つです。
これらは、自転車盗、ひったくり(窃盗又は強盗)、痴漢(強制わいせつ、条例違反又は暴行)、恐喝などの街頭犯罪の犯人確保や、違法薬物の使用・所持の早期検挙が目的とされます。
不安な場合は弁護士への相談が有効です。
任意同行は、警察官から突然に要請されるものであり、心の動揺が大きいと考えられます。
また、正確な法的知識がないために、適切な対処ができない場合も多いと思われます。
任意同行については、事前でも事後でも、弁護士に御相談ください。弁護士が、法的に適切なアドバイスをすることができます。
この記事の監修
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福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。