迷惑防止条例違反にあたる犯罪や逮捕された場合について
監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長
迷惑防止条例とは、条例(地方公共団体が自治権に基づいて制定する自主法)のうち、住民や滞在者の生活の平穏を守るために迷惑防止条例や公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例といった名称で制定されているものの総称です。一般的に、粗暴行為、ぐれん隊行為、卑わいな行為、不当な金品の要求行為、ダフ屋行為、押売り行為、不当な客引き行為、ピンクビラ等の配布行為などを禁止しており、違反した場合には罰則が定められています。
内容は、各条例によって異なる部分も多く、ここでは、福岡県迷惑行為防止条例を前提に解説します。
目次
迷惑防止条例とは
迷惑防止条例では、住民や滞在者の生活の平穏を守るために卑わいな行為などが禁止されており、これに違反した場合には、懲役や罰金刑などの罰則があります。
刑罰について
迷惑防止条例の禁止行為に違反した者には、懲役、罰金、拘留、科料といった罰則があります。また、行為者だけでなく、法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。)の代表者、管理人、代理人、使用人その他の従業員が、法人や人の業務に関して違反した場合には、その法人や人に対しても罰金刑が課されることがあります。
時効について
迷惑防止条例違反の公訴時効期間は3年です。
公訴時効とは、一定の期間が経過することによって、公訴できなくなる制度です。公訴時効の期間は、犯罪の種類に応じて定められており(刑事訴訟法250条)、迷惑防止条例違反の罰則は、長期5年未満の懲役若しくは禁固又は罰金であることから、公訴時効は3年となります(刑事訴訟法250条2項6号)。公訴時効期間は、原則として犯罪が終わった時から進行しますので、3年前の行為は処罰されないということになります(刑事訴訟法253条1項)。
時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。 |
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時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。 |
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改正について
スマートフォンの普及や情報技術の進化に伴い、実情に合わなくなったことから、平成31年に福岡県迷惑防止条例の一部が改正され、平成31年6月1日から施行されています。なお、同様の条例改正が全国的に実施されています。
(改正内容)
- 着衣の上からだけでなく、マフラーや膝掛など衣服以外の上から身体に触れる痴漢行為の禁止(福岡県迷惑防止条例6条1項1号)
- 透視機能を有する写真機等での撮影行為等(見る、撮影する、これらの目的で透視機能を有する写真機等を設置・向ける行為)の禁止(福岡県迷惑防止条例6条2項2号、3号)
- のぞき見や盗撮行為等の禁止場所について、公衆が利用できる場所という制限の撤廃(福岡県迷惑防止条例6条3項)
- 嫌がらせ行為の規制対象行為について、住居等の付近をみだりにうろつく行為、ブログ等の個人のページへの書き込み等の行為などの追加(福岡県迷惑防止条例8条)
- 卑わいな行為等、嫌がらせ行為に対する罰則の引き上げ(福岡県迷惑防止条例違反11条、12条)
迷惑防止条例と強制わいせつ
迷惑防止条例では、卑わいな行為等(いわゆる痴漢行為を含む)が禁止されています(福岡県迷惑防止条例6条)。
何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で次に掲げる行為をしてはならない。 |
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何人も、公共の場所、公共の乗物その他の公衆の目に触れるような場所において、正当な理由がないのに、前項に規定する方法で次に掲げる行為をしてはならない。 |
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何人も、正当な理由がないのに、第一項に規定する方法で次に掲げる行為をしてはならない。 |
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また、刑法176条において、13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為を行った場合や、13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした場合に強制わいせつ罪として処罰(6月以上10年以下の懲役)されます。
ともに一定の性的な行為を禁止するものですが、迷惑防止条例が住民や滞在者の生活の平穏を守ることを目的とする一方で、強制わいせつ罪が被害者の性的自由を守ることを目的とするという目的の違いもあって、迷惑防止条例は、強制わいせつ罪よりも広く住民や滞在者の生活の平穏を害する行為を広く規制しているといえます(※迷惑防止条例に反する行為が強制わいせつ罪に該当する行為を包含するというわけではありません。)。
迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪のいずれに該当するのかが顕著に問題となるのが痴漢行為です。
個別具体的な事情によって異なりますが、女性の臀部を撫でる行為について、厚手の着衣の上から撫でても強制わいせつ罪にはならない可能性が高く、スカートの中に手を入れ下着の上から撫でる、下着の中に手を入れるなどした場合に強制わいせつ罪になる可能性が高いと言われています。
迷惑防止条例違反となる主な犯罪
痴漢等
電車や道端において、抱きつく、お尻や胸を触るなどいわゆる痴漢行為が禁止されています(福岡県迷惑防止条例6条1項1号)。また、道端で通行人に卑わいな言葉を投げかけ下半身を露出するなどの卑わいな言動も禁止されています。
なお、痴漢という文言は条例にはなく、次のように規制されています。
何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で次に掲げる行為をしてはならない。 |
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盗撮・のぞき
駅やデパートなどのエスカレーターといった公共の場所、公共の乗物において、衣服の中の体や下着をのぞき見る行為、スマートフォンなどで撮影する行為、透視機能を用いて衣服の上から体や下着を見ることや撮影することが禁止されています。また、公共の場所や公共の乗物でなくても、住居、便所、浴場、更衣室など通常衣服の全部又は一部を着けない場所における、のぞき行為、盗撮行為も禁止されています(福岡県迷惑防止条例6条2項、3項)。
上記行為をするためにカメラやビデオカメラを設置したり、他人の体に向けただけでも処罰されることに注意してください。
例えば、女性トイレに隠しカメラを設置することは当然ですが、スポーツ選手のユニフォームの中を撮影しようと考え、観覧席から望遠カメラ、ビデオカメラを設置した場合も迷惑防止条例違反に問われます。
何人も、公共の場所、公共の乗物その他の公衆の目に触れるような場所において、正当な理由がないのに、前項に規定する方法で次に掲げる行為をしてはならない。 |
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何人も、正当な理由がないのに、第一項に規定する方法で次に掲げる行為をしてはならない。 |
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嫌がらせ行為(つきまとい行為など)
正当な理由なく、特定に人に対して、つきまとい、待ち伏せ、進路に立ちふさがる、住居等の付近において見張る、住居等に押し掛ける、住居等の付近をみだりにうろつくなどの行為を行うことが禁止されています(福岡県迷惑防止条例8条)。なお、ストーカー規制法(ストーカー等の規制等に関する法律)のつきまとい等を除くこととされており、ストーカー規制法で補足されない行為であっても、住民や滞在者の生活の平穏を守る目的のために規制するものといえます。
また、性的羞恥心を害する事項を告知する、動画を送り付けるといった、性的な嫌がらせ行為は、公共の場所や公共の乗物において行われないとしても、福岡県迷惑防止条例8条8号に該当する場合があります。
何人も、正当な理由がないのに、特定の者に対し、次に掲げる行為(ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成十二年法律第八十一号)第二条第一項に規定するつきまとい等を除く。)を反復して行ってはならない。 ただし、第一号から第四号まで及び第五号(電子メールの送信等(同条第二項に規定する電子メールの送信等をいう。 第五号において同じ。)に係る部分に限る。)に掲げる行為については、身体の安全若しくは住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。 |
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その他
迷惑防止条例は、住民や滞在者の生活の平穏を守ることを目的とすることから、痴漢、のぞき、盗撮といった性的な行為だけでなく、次のような行為も禁止しています。福岡県では、迷惑防止条例という名称でなく、福岡県押売り等防止条例の名、福岡市独自の規制もあります。
- 乗車券等の不当な売買行為(ダフヤ行為)の禁止(福岡県迷惑防止条例2条)
- 座席等の不当な供与行為(ショバヤ行為)の禁止(福岡県迷惑防止条例3条)
- 景品買行為の禁止(福岡県迷惑防止条例4条)
- 不当な客引き行為等の禁止(福岡県迷惑防止条例5条)
- 粗暴行為の禁止(福岡県迷惑防止条例7条)
- 模造爆発物等を置く行為等の禁止(福岡県迷惑防止条例7条の2)
- 水泳場等における危険行為の禁止(福岡県迷惑防止条例9条)
- 自動車等の暴走行為の禁止(福岡県迷惑防止条例10条)
- 押売り等の禁止(福岡県押売り等防止条例2条)
- ピンクちらし等の禁止(福岡市ピンクちらし等の根絶に関する条例)
など
迷惑防止条例違反で逮捕されたら
迷惑防止条例違反であっても、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれがある場合といった逮捕の要件を満たせば当然逮捕されます。もっとも、速やかに対処すれば勾留を避けられる可能性が高い犯罪類型も多く、最近では、痴漢行為について逮捕されたとしても、勾留請求却下若しくは即時抗告が認められ釈放される事案が増えています。
逮捕された場合に、身柄解放へ向けた活動を早期に開始すべきであることは多くの犯罪で言えることですが、迷惑防止条例違反は、比較的釈放されやすい犯罪類型だといえます。身柄拘束が続けば、職場に発覚し、職を失いかねず、最終的に起訴猶予や執行猶予判決となったとしても、その不利益はとても大きなものとなります。特に身柄解放に向けた活動が求められる類型だと思います。
逮捕の流れについて詳しく見る取り扱った迷惑防止条例違反の事例
痴漢のケース
通勤中の電車内で前にいた女性から痴漢と手を摑まれ、駅員へ突き出された事案でした。その後、駅長室で事情を聞かれることになり、ご依頼者は、一貫して犯行を否認していたものの、しばらくして警察官が来て、結局、逮捕されてしまいました。被害者の言い分だけを信じて、ご依頼者の話には全く耳を傾けてくれなかったようです。ご親族から弊所へご相談をいただき、ご依頼者様が明確に無実を訴えていたことから、黙秘も辞さず否認を貫く方針としました。痴漢事犯では、通常、手に被害者の衣類の繊維が付着していないか微物検査が実施されます。例えば、スカートの上から臀部を触ったのであれば、触った手の部分からスカートの繊維が検出されます。
速やかに身柄解放に向けた活動を開始して釈放されたことで職を失うリスクを最小限に抑え、取り調べにおいては、認めることは認め、否認すべきことは明確に否認していただきました。結局、犯行態様とされる行為に整合する部分から繊維片が検出されなかったのだと思いますが、不起訴となりました。当然の結果ではありますが、警察に誘導される形で、「●●かもしれない。」、「●●だとしてもおかしくない。」などと被害者の話と整合する都合の良い供述調書が作成されることは少なくないので、適切な取り調べ対応も奏功したといえるでしょう。
盗撮のケース
スポーツ競技会場内で、女性選手のユニホームの中を撮影しようと、透視可能といわれる赤外線撮影が可能なカメラに望遠レンズを取り付けて観客席から構えようと準備していたところ、主催者に通報されました。ご本人は、まだ撮影を開始していないかったことから、犯罪にならないと思っていたようです。当該会場には、関係者による撮影など、正当な理由のない撮影を禁止する掲示がされており、盗撮目的による立ち入りは、建造物侵入罪に問われますし、透視機能を利用して着衣等の中を撮影しようとカメラを設置、向ける行為は迷惑防止条例に違反します。本件では、カメラの撮影データに盗撮画像が残っておらず、まだ準備段階であったことから、迷惑防止条例に問い難い状況にあったのだと思われますが、不起訴となりました。
迷惑防止条例違反でよくある質問
カーテンが開いており隣家の住人が下着姿でいるところを覗いてしまいました。
福岡県迷惑防止条例6条3項1号では、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で住居・・・その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所で衣服の全部又は一部を着けない状態の人の姿態をのぞき見することを禁止しています。
目に入ってしまったという程度であれば、故意とはいえませんので、迷惑防止条例違反には問われないでしょう。しかし、この機を利用して、覗こうと考えて覗いてしまったということであれば、該当すると考えられます。カーテンを開いて見えるようにしていたのが悪い、自分の部屋から窓の外の景色をみているのと何ら変わりがないのではないかなどと思ってしまうかもしれませんが、そういうわけではありません。
電車内でつり革を掴もうとしたところ誤って女性の胸に手が当たってしまいました。
つり革を掴もうとして当たってしまったというのですから、故意がなく、迷惑防止条例に違反しません。
旦那の浮気相手に何度も電話をしましたが迷惑防止条例に違反するのでしょうか。
福岡県迷惑防止条例8条5号で、正当な理由がないのに、特定の者に対し、身体の安全若しくは住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下「住居等」という。)の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により、電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすることとされています。
浮気相手という特定の者に対して行っていますが、身体の安全などが著しく害される不安を覚えさせるような方法であるかどうかで異なるといえます。何回かけたらダメだということではなく、具体的状況にもよりますが、昼夜を問わず、執拗に無言電話をかける、罵声を浴びせるなどすれば、迷惑防磁条例に違反する可能性が高くなるでしょう。
なお、執拗に無言電話をかけることなどし、人を精神的に追い詰め、精神疾患に罹患させた場合には傷害罪に問われる可能性もあります。
迷惑防止条例違反を犯した場合、すぐに弁護士へご相談下さい。
いわゆる迷惑防止条例は、都道府県、市区町村ごとの実情に応じて制定されていることから、概ね同じ内容の規定もあれば、異なる部分もあります。社会の変化に応じて改正が行われることも多いですし、迷惑防止条例という名称以外の名称で規制がされていることもあります。このため、自身の行為がどういった規定に違反しているのかを把握できないことも少なくなく、警察官でも誤って理解している可能性も否定できませんので、弁護士へ相談することをおすすめします。
この記事の監修
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福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。