在宅起訴とは?在宅起訴になる条件や在宅起訴の流れについて
監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長
この記事では、留置施設や拘置所などにおける身体拘束(勾留)を受けないまま、在宅事件として起訴されるケース(在宅起訴)について、詳しく解説します。
目次
在宅起訴とは
在宅起訴とは、留置施設や拘置所などにおける身体拘束(勾留)を受けないまま、在宅事件として起訴されるケースをいいます。これは、全く逮捕も勾留もされない場合と、一旦は逮捕又は逮捕・勾留された上で釈放される場合とがあります。
在宅起訴の場合、勾留されていないので、刑事裁判の公判期日に支障がない限り、通常どおり仕事や通学を続けたり、自由に外出したりすることができます。勾留されている場合(身柄事件)と比較すると、日常生活への影響が少ないといえるでしょう。
逮捕された時の流れについて詳しく見る 起訴について詳しく見る在宅事件のデメリット
在宅事件の場合、身柄事件と比較すると、そもそも捜査が長期化する傾向があります。その理由は、後者については刑事訴訟法上の時間制限が設けられているのに対し、前者については制限が設けられておらず、事件処理が後回しにされやすいためです。
また、在宅起訴された後の刑事裁判についても、裁判所は身柄事件の進行を優先させる一方で、在宅事件については後回しにしがちな傾向があります。
ですから、在宅事件は長期化しやすいというデメリットがあります。
在宅起訴になる条件
軽微な事件
在宅事件となるのは、罪証隠滅のおそれがなく、逃亡のおそれもなく、逮捕又は勾留の必要性もないケースです。
これらに該当するのは、刑事事件としては比較的軽微な事件が多いといえるでしょう。
ただし、過失運転致死傷罪(過失による人身事故)や道路交通法違反については、比較的重大な事案であっても、在宅事件として起訴されることは珍しくありません。
逃亡・証拠隠滅のおそれがない
在宅事件となるのは、罪証隠滅のおそれがなく、逃亡のおそれもなく、逮捕又は勾留の必要性もないケースです。
罪証隠滅のおそれ及び逃亡のおそれについては、被疑者が事実を認めている場合、これらのおそれがないと認められやすい傾向はあります。
ただし、事案の重大性、被害者・目撃者その他の関係者との関係、共犯者の有無、前科・前歴の有無、家族関係や職業関係などの種々の事情が考慮されますので、事案ごとの個別判断が必要です。
身体拘束による影響が大きい
事案の重大性が認められる場合であっても、逮捕又は勾留による身体拘束の影響が大きい場合には、在宅事件のままで捜査が進められるケースもあります。
その典型例は、被疑者が高齢だったり、重い病気にかかっていたり、大きな負傷をしていたり、出産が間近だったりするため、医療又は介護を受ける必要性が高く、逮捕又は勾留に耐えられないというケースです。
在宅起訴されるまでの流れ
まず、捜査機関が何らかの犯罪の手がかり(捜査の端緒)を得ることにより、捜査を開始します。
典型例は、110番通報、被害届の提出、警察官による現認、被疑者の自首などです。
捜査機関は、物的証拠の収集、被害者・目撃者その他の参考人からの事情聴取、被疑者の取調べ等の捜査を遂げます。
そして、警察官が捜査を担当した場合、その刑事事件を検察官に送致(又は送付)し、検察官が起訴又は不起訴を決定します。最初から検察官が捜査を担当した場合、そのまま起訴又は不起訴を決定します。
以上の流れは、在宅事件についても身柄事件についても同じです。
ただし、最初から検察官が捜査を担当する事件は非常に少なく、刑事事件の大部分は警察官が捜査を開始します。
書類送検
前の項目で解説したとおり、刑事事件の大部分は、警察官が捜査を開始した上、検察官に送致(又は送付)します。
そして、在宅事件について検察官に送致(又は送付)することを「書類送検」と呼ぶ場合があります。
これは、刑事訴訟法その他の条文には見られない用語であり、マスメディアが慣例的に用いているようです。
在宅事件の場合、被疑者が逮捕されておらず、捜査書類だけが警察から検察へ送られるので、「書類送検」と呼ぶようです。
在宅起訴された後の流れ
刑事事件の起訴については、公開法廷において公判が開かれる場合と、裁判所の書面審査のみで罰金又は科料の略式命令が告知される場合があります。前者を正式起訴又は公判請求と呼び、後者を略式起訴と呼ぶことが多いです。
以上の流れは、在宅事件についても身柄事件についても同じです。
正式起訴の場合
正式起訴された場合、まず、裁判所から起訴状謄本が送達されます(刑事訴訟法271条1項)。在宅事件については、自宅宛てに郵送で送達されます。
そして、第1回公判期日が指定されます。
その後、何回の公判期日が開かれるかという点は、事案によって異なります。例えば、事実関係に争いがなく執行猶予が相当である事件の場合、第1回公判期日において判決まで宣告されるケースがある一方で、事実関係に争いがある事件の場合、証人尋問や被告人質問などに時間を要するため、多数回の公判期日が実施されることも珍しくありません。
略式起訴の場合
略式起訴については、あらかじめ検察官による告知、被疑者の書面による同意が必要です(刑事訴訟法461条の2)。この書面は、実務上、略式請書と呼ばれます。
その後、略式起訴に対しては裁判所の書面審査のみが行われるため、公開法廷における公判期日は指定されません。
その代わりに、裁判所から略式命令の謄本が送達されます。在宅事件の場合、自宅宛てに郵送で送達されます。
略式命令は、罰金又は科料に限られており(刑事訴訟法461条)、懲役又は禁錮が科されることはありません。
在宅起訴でも前科はつくのか
在宅起訴の場合、勾留による身体拘束はありませんが、裁判所から有罪の裁判を受け、その裁判が確定すると、前科がつきます。
そして、ここにいう有罪の裁判は、罰金または科料の略式命令を含みます。
ですから、略式命令が確定した時点で、前科がつきます。
在宅事件の弁護活動について
在宅事件の弁護活動については、二つの段階に分けることができます。
まず、在宅事件として捜査が進んでいる段階における弁護活動です。この段階では、捜査機関に対し、証拠上・法律上の問題点を明らかにしたり、被疑者に有利な情状を明らかにすることが主です。特に、被害者がいる事件の場合、被害者との示談を成立させられると、被疑者に有利な事情となりますので、不起訴処分の可能性が高まります。
次に、在宅事件として正式起訴(公判請求)された後の弁護活動については、裁判所に対して主張・立証を行うこととなります。具体的には、無罪を主張したり、軽い刑にとどめるように主張したりします。
弁護士に依頼するタイミング
在宅事件の場合、逮捕又は勾留による身体拘束を受けていない上、身柄事件より捜査のペースが遅いため、弁護士への依頼の必要性を感じなかったり、依頼が遅れたりする傾向が否定できません。
しかし、在宅事件の場合であっても、無実を証明できる証拠を収集したり、被害者との示談を成立させたりするためには、早い段階で弁護活動を開始した方が望ましいといえます。
在宅事件として捜査が開始された後、早い段階で弁護士に相談した方が、不起訴処分その他の有利な結果を得られる可能性が高まります。
在宅起訴される前に、早期に弁護士へ相談を
在宅事件は、身柄事件よりも遅いペースで捜査が進行します。
しかし、最終的に在宅起訴されて前科がついてしまうことは、珍しいことではありません。
在宅起訴を回避したり、在宅起訴はやむを得ないものの少しでも減刑することを目指したりするためには、早いタイミングで弁護活動を開始することが望ましいといえます。
在宅起訴されてしまう前に、早期に弁護士に御相談ください。
この記事の監修
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福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。