監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
フレックスタイム制とは、労働者が1か月以内の一定の単位期間において一定時間数を労働することを条件として、始業・終業時刻を自ら自由に選択できるという制度です。フレックスタイム制は、労働者にとって、自己の都合に合わせて自由で柔軟な働き方を促すものであるため、使用者が就業命令を出す場面において注意が必要になります。
目次
- 1 コアタイム外の時間帯に就業命令を下すことは可能か?
- 2 フレックスタイム制における就業命令について
- 3 フレックスタイム制の仕組み
- 4 法定労働時間を超える場合は割増賃金の支払いが必要
- 5 フレックスタイム制の就業命令に関する判例
- 6 フレックスタイム制に関するQ&A
- 6.1 会議の終了時刻がコアタイムを超えてしまった場合、どのような対応が必要ですか?
- 6.2 従業員がコアタイム外の就業命令に応じてくれない場合、懲戒処分を下すことは可能ですか?
- 6.3 コアタイム以外の時間帯に、労働を強制することは違法ですか?
- 6.4 週1の頻度で実施される会議に合わせ、フレックスタイム制を週1日適用除外とすることは可能ですか?
- 6.5 会社の許可なくコアタイムを超えて残業した場合も、残業代の支払いは必要ですか?
- 6.6 会議に参加させるため、コアタイムを繰り上げ・繰り下げることは可能ですか?
- 6.7 必要に応じてコアタイム外の勤務が発生する旨を、就業規則に定めることは問題ないですか?
- 6.8 フレックスタイム制の従業員に対し、休日出勤を命令することは可能ですか?
- 6.9 コアタイム外の就業命令について、あらかじめ労使協定を締結することは可能ですか?
- 6.10 フレックスタイムを導入していますが、特定の曜日のみ始業時刻を指定することは可能ですか?
- 7 フレックスタイム制における就業命令でトラブルにならないよう、弁護士が最善な方法をアドバイスさせて頂きます。
コアタイム外の時間帯に就業命令を下すことは可能か?
労働時間の指定はフレックスタイム制の趣旨に反する
フレックスタイム制においては、労働者が労働しなければならない時間帯(コアタイム)と労働者が選択によって労働をすることができる時間帯(フレキシブルタイム)が定めれます。フレックスタイム制は、労働者が始業・終業時刻を自ら選択できる制度である以上、使用者が労働者に対して、コアタイム外に就業命令を出すことはできません。
労働者本人の同意を得ることができれば可能
使用者が労働者に対して、コアタイム外の就業を依頼し、労働者が同意すれば、使用者が依頼した時間に就業してもらうことは可能です。これは、労働者が会社の指示を受け、自らが始業・終業時刻を選択したと評価されることになります
フレックスタイム制における就業命令について
会議等がコアタイムをまたぐ場合
フレックスタイム制において、労働者は、コアタイムを除き自らの意思で始業・終業時間を選択するため、コアタイム以外の時間については就業義務を負いません。
そのため、会社の会議等がコアタイムをまたぐ場合、使用者は、労働者に対して、事情を説明した上で会議等について就業することに同意を得る必要があります。
フレックスタイム制の仕組み
フレキシブルタイムとコアタイム
フレックスタイム制とは、上述したように、労働者が1か月以内の一定の単位期間において一定時間数を労働することを条件として、始業・終業時刻を自ら自由に選択できるという制度です。
一方で、労働者にすべての労働時間を自由に決めることができるものではなく、通常は、会社において、労働者が労働しなければならない時間帯があり、この時間を「コアタイム」といいます。そして、労働者が自ら選んで労働をすることができる時間帯を「フレキシブルタイム」といいます。
法定労働時間を超える場合は割増賃金の支払いが必要
フレックスタイム制は、労働者に始業・終業の時刻を委ねることになるため、コアタイムを超えて残業しているか否かにかかわらず、清算期間が終わった時点で、実労働時間(実際に働いた時間の合計)が法定労働時間の総枠を超えた分に対して時間外労働を計算し、割増賃金を支払う仕組みになっています。そのため、労働者が法定労働時間の総枠を越えた場合には、使用者に残業代の支払い義務が生じる可能性があります。
フレックスタイム制の就業命令に関する判例
事件の概要
フレックスタイムを採用している会社が「午前9時過ぎに出勤する場合には、会社に電話するように」と指示されていたにもかかわらず、従業員が会社に連絡せずに遅刻を繰り返したことから、会社が従業員に対して「午前9時に遅刻することなく出勤する」という誓約書を書かせたものの、その後も勤務態度が改善しなかったため解雇されたことから、当該従業員が解雇無効を争った事案です。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
裁判所は、従業員に対する解雇を有効と判断したものの、従業員が午前9時までに出勤していないことについては、「コアタイムないしフレックスタイム制を採用している以上、このような誓約項目を記載しても原告(従業員)に無遅刻を義務づけることはできないものと考えられる」と判断し、従業員が午前9時までに出勤しなかったことを理由に不利益な処遇を受けるべきではないと判断しています(東京地裁平成11年12月15日)。
ポイントと解説
本件において、裁判所は、会社がフレックスタイム制を採用している以上、従業員に対して「午前9時に会社に出勤する」と誓約をさせたとしても、その誓約内容に基づいて、従業員を不利に扱うことはできないと判断しています。この裁判例の判断内容に照らせば、会社がフレックスタイム制を採用する上で、労働者が始業・終業時刻を自ら選択できる制度であることを意識しつつ運用したり、従業員を指導することが必要となると考えれます。
フレックスタイム制に関するQ&A
会議の終了時刻がコアタイムを超えてしまった場合、どのような対応が必要ですか?
フレックスタイム制を採用している場合、使用者は、労働者に対してコアタイム以外の時間について、就業義務を課すことはできません。
そのため、会議の終了時間がコアタイムを超えてしまった場合には、労働者にきちんと事情を説明して、会議に参加するように依頼し、同意を得る必要があります。
この点、使用者が労働者に対して、居残り命令をすることができるかについては議論が分かれており、業務上の必要がある場合には、会社が労働者に居残り命令を出すこともできるとする見解もあります。
従業員がコアタイム外の就業命令に応じてくれない場合、懲戒処分を下すことは可能ですか?
フレックスタイム制は、上述したように、労働者は、コアタイムを除き自らの意思で始業・終業時間を選択するため、コアタイム以外の時間については就業義務を負いません。
そのため、労働者がコアタイム以外の就業命令に応じないとしても、懲戒処分を下すことは難しいと考えられます。
コアタイム以外の時間帯に、労働を強制することは違法ですか?
フレックスタイム制は、労働者に始業・終業時刻の選択を委ねることを本質としているため、使用者は、労働者に対してコアタイム以外の時間について、原則として、就業義務を課すことはできません。
しかし、業務上の必要性がある場合、使用者が労働者に対して早出・居残り命令を出すこと自体は、業務命令権を濫用するような場合でない限り可能であると考えられます。もっとも、フレックスタイム制の趣旨は、労働者に自由な選択によって労働時間を選択できることにあるため、労働者が明確に拒否しているにもかかわらず、労働を強制する場合には違法となる可能性があります。
週1の頻度で実施される会議に合わせ、フレックスタイム制を週1日適用除外とすることは可能ですか?
フレックスタイム制は、上述したように労働者に始業・終業時刻の選択を委ねることを本質としているため、1週間に1日でもフレキシブルタイムをなくし、適用除外とすることは労働者に始業終業時刻の選択を委ねるという方の趣旨に合致せず認められないと考えられます。
会社の許可なくコアタイムを超えて残業した場合も、残業代の支払いは必要ですか?
フレックスタイム制は、労働者に始業・終業の時刻を委ねることになるため、コアタイムを超えて残業しているか否かにかかわらず、清算期間が終わった時点で、実労働時間(実際に働いた時間の合計)が法定労働時間の総枠を超えた分に対して時間外労働を計算し、割増賃金を支払う仕組みになっています。そのため、労働者が法定労働時間の総枠を越えた場合には、使用者に残業代の支払い義務が生じる可能性があります。
会議に参加させるため、コアタイムを繰り上げ・繰り下げることは可能ですか?
フレックスタイム制は、労働者に始業・終業時刻の選択を委ねることを本質としているため、使用者は、労働者に対してコアタイム以外の時間について、原則として、就業義務を課すことはできません。
もっとも、就業規則に定めている場合、あらかじめ労使協定を締結している場合、事前に使用者が労働者に事情を説明して同意を得た場合には、コアタイムを変更することは可能であると考えられます。
必要に応じてコアタイム外の勤務が発生する旨を、就業規則に定めることは問題ないですか?
上述したように、使用者は、労働者に対してコアタイム以外の時間について、原則として、就業義務を課すことはできません。もっとも、業務上の必要性がある場合、使用者が労働者に対して早出・居残り命令を出すこと自体は、業務命令権を濫用するような場合でない限り可能であると考えられます。
使用者が労働者に対し、必要に応じてコアタイム外の勤務が発生する根拠を就業規則に定めておくことは可能であると考えられます。
フレックスタイム制の従業員に対し、休日出勤を命令することは可能ですか?
就業規則において、休日についてフレックスタイム制を適用するかどうかを定めておく必要があり、就業規則の中で、「休日においてはフレックスタイム制を適用しない。」との定めを置いている場合には、休日出勤を命じることは可能です。
その場合、通常勤務の休日労働と同様に、総労働時間の枠とは別に休日労働の割増賃金等の支払い義務が生じる可能性があります。就業規則に定めがない場合には、休日出勤を命じることは、難しいと考えられます。
コアタイム外の就業命令について、あらかじめ労使協定を締結することは可能ですか?
フレックスタイム制におけるコアタイムを設けている場合には、原則としてコアタイム外の就業命令をすることはできません。もっとも、あらかじめ労使協定を締結することによって、該当日のコアタイム外の就業命令を課すことも可能となります。
フレックスタイムを導入していますが、特定の曜日のみ始業時刻を指定することは可能ですか?
フレックスタイム制の制度趣旨としては、労働者に柔軟な働き方を認めることにあり、コアタイムを設ける日と設けない日があっても特段問題はありません。
そのため、特定の曜日のみ始業時刻を指定することも可能となります。
フレックスタイム制における就業命令でトラブルにならないよう、弁護士が最善な方法をアドバイスさせて頂きます。
フレックスタイム制は、労働者自身に労働時間の選択を委ね、労働者の自由な労働を促し、労働者にとっても有利な制度といえます。
使用者にとっても、フレックスタイム制を採用することは労働者の自由な働き方を推進し、多様な人材の確保に寄与する一方で、コアタイム以外の時間帯の就業命令を下すことができず、運用が難しい側面があることも事実です。
このように、フレックスタイム制を導入する際には、制度の趣旨や目的を正確に理解した上で運用していくことが求められます。そして、導入にあたっては、フレックスタイム制の利点・欠点を理解し、将来的な紛争の予防を行う観点からも専門的な知識が必要となります。
もし、フレックスタイム制の導入を検討している場合や運用している中でお困りの際には、是非、弁護士までご相談ください。

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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
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