労務

逆パワハラの正しい対策方法

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士

2019年の法改正によって、パワーハラスメント(パワハラ)の防止が企業に義務づけられました。
当初、パワハラといえば上司から部下に対して行われる行為という認識が一般的でしたが、近年、部下から上司に対して行われる逆パワハラのトラブルが増加しています。

上司が標的になる逆パワハラでは、相談に至るまで問題が表面化しにくく、また上司としての立場から相談自体を避ける傾向があります。逆パワハラの対策が不十分となれば、組織にとって要の存在である管理職などが離職に追い込まれる可能性もあります。

そうなれば、事業にも大きな影響を及ぼすおそれは十分にあるでしょう。
逆パワハラの防止は企業にとって、非常に大きな課題の1つといえます。

本稿では逆パワハラの正しい対策方法について解説していきます。

逆パワハラの定義について

逆パワハラは、部下から上司へのパワーハラスメントを指します。
一般的なパワハラは上司から部下に対して行われることが多く、部下から上司への行為は、その関係性が逆転しているため「逆」パワハラと呼ばれます。部下から上司に対する行為がパワハラにあたるとは思わず、無意識に行われることも少なくありません。

逆パワハラには反発や指示を無視するなど、様々なケースがありますが、部下が自身の優位性(例えば、専門知識、業務経験など)を利用して行うことが前提となります。

上司に対する言動が、業務の範囲を超えることで、精神的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりすることになれば、部下から上司であっても立派なパワハラとして認定されます。

逆パワハラの具体的な事例

逆パワハラには、部下と上司の個人間で行われるケースだけでなく、周囲の人間が行為者である部下を支持し、集団対個人になることもあります。

特に集団対個人の場合、上司は孤立状態に追い込まれることになり、発覚が遅れる可能性もあります。
逆パワハラの具体的な事例としては、以下のような例が挙げられます。

  • 上司の指示を無視または意図的に遅らせる
  • 大勢の前で上司の意見に反論し、面目を潰す
  • 上司の悪口を言いふらす、不適切な噂を流す
  • 必要な報告や連絡を意図的に怠る
  • 集団で上司を無視する、仲間外れにする
  • 専門知識を盾に上司を見下すような言動をとる
  • 上司からパワハラを受けたなど、ありもしないハラスメントの訴えを行う

上記に該当しない例であっても、パワハラ防止法に定められた「優越的な関係」をもとに、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動をし、「就業環境を害する」場合には、パワハラとして認定されます。

逆パワハラが起こりやすい企業の特徴

逆パワハラが起こる企業の特徴として、部下から上司への行為がパワハラに該当するという認識が低い職場が挙げられますが、そのほか職場環境なども要因になり得ます。
IT化、AI化などデジタルテクノロジーの重要度が高い職場の場合、専門性の高い人材が多く、上司の専門知識が部下より劣るケースもあり得ます。

そのような場合には、実質的なパワーバランスの逆転現象が起き、逆パワハラに繋がりやすいといえます。また、パワハラ防止対策によって、上司が部下に注意しにくいなどの副作用が起こっている職場では、相対的に部下の力が高まることになり、逆パワハラが起こりやすくなります。

そのほか、人事制度の転換によって、成果主義が強くなり、部下が上司の評価を気にしない場合にも、上司の立場を軽視した逆パワハラが生じ得ます。女性管理職の登用などの過渡期も同様といえるでしょう。

逆パワハラの正しい対処方法

逆パワハラが発生した場合、企業は迅速かつ適切に対応する必要があります。
対処方法としては、以下の流れで行うとよいでしょう。

  1. 事実確認:被害者(上司)や加害者(部下)からの話を聞くことはもちろん、周囲の従業員からも話を聞き、客観的に事実確認を行う。
  2. 加害者への指導:事実に基づき、加害者である部下へ注意・指導を行い、改善を促す。
  3. 再発防止策:職場環境の改善や研修の実施など、再発防止策の考案など。

事実確認は、当事者や関係者へのヒアリングやメール履歴など、客観的な事実をもとに判断することが重要です。当事者への今までの評価や先入観など、主観的な判断にならないよう対応は複数名で行うことが望ましいといえます。

逆パワハラの事実が確認できた場合の対処方法について、以降で解説していきます。

逆パワハラを行う社員への指導

逆パワハラの事実が確認できれば、行為者である従業員に対して、個別面談等で問題行為を具体的に指摘し、指導の上、改善を求めます。

経過観察を行い、改善状況が芳しくなければ再度指導を行うことも必要です。
繰り返し指導を行っても改善されない場合や、逆パワハラの行為が非常に悪質な場合には、就業規則に基づき、懲戒処分を検討することになります。

裁判においても、改善機会の提供は重視されますが、社内の規律を維持できないような状況であれば具体的な処分の検討もやむを得ないでしょう。必要に応じて配置転換や部署異動を行うことも有効です。

管理職に向けたマネジメント研修

逆パワハラの存在を知らない、部下からの行為に悩んでいても上司だから自分で解決しなければならない、など無知や思い込みが逆パワハラを増長させることもあります。

まずは、逆パワハラの理解を深め、上司や管理職であっても相談することが大切であると認識してもらうことが重要です。その一環として、パワハラ防止研修で管理職の意識向上を図りましょう。

もし、平時から上司が部下に対して何も言えないなど具体的な問題点があるのであれば、部下の育成や適切な指導方法に関する研修もあわせて実施すると効果的です。

企業が講じるべきパワハラ防止措置

逆パワハラは被害者である上司が相談することに抵抗感をもっていることも少なくないため、事態が発覚しにくいという特徴があります。

そのため、逆パワハラでは未然防止が通常のパワハラ以上に重要となります。パワハラ防止措置として、パワハラ防止に関する規程を整備し、逆パワハラに関する内容を明確に定め、周知徹底します。

就業規則の改定手続きにおける周知だけでなく、非管理職の従業員に対しても研修を行う等、逆パワハラの啓発活動を行い、全社的に意識向上を図ることが望ましいでしょう。

逆パワハラを行う社員の処分について

改善の機会を繰り返し与えても改善が見込めない場合には、懲戒処分の検討も必要となります。
その場合、就業規則の定めに則って、けん責、減給、出勤停止、降格など処分内容を検討します。

重大な事案であれば懲戒解雇も検討されますが、これは最終手段と考えるべきです。
客観的な証拠に基づき、処分の妥当性を慎重に判断する必要があります。

逆パワハラを理由に解雇できるのか?

逆パワハラを理由に解雇することは、法的には非常に難しいといえます。解雇は労働者側に重大な不利益が生じるため、解雇処分もやむなしといえる状況であることが必要です。つまり、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合にのみ解雇処分は有効となります。

たんに逆パワハラがあったという事実だけをもって、解雇が正当とされるわけではありません。
行為の悪質性や重大性、注意・指導など改善機会の提供、懲戒処分の段階的な経緯などを総合的に考慮して解雇の有効性が判断されることになります。

どうしても解雇を選択する場合には、今までの経緯を記録し、解雇判断に至る流れを明確にしておきましょう。

逆パワハラ対策を行わなかった企業の責任

企業は従業員が安全に働ける環境を提供する義務(安全配慮義務)を負っています。
逆パワハラの事実を認識しながら放置するなどがあれば、企業は従業員に対する安全配慮義務違反や使用者責任として損害賠償責任を問われる可能性があります。

パワハラ相談窓口を設置していれば責任を免れるというわけではありません。相談内容に基づいて、事実関係の調査や、対象者への教育・指導、処分検討、再発防止策などを行うことも求められます。
具体的な対策は社内状況によって異なりますので、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

安全配慮義務違反による損害賠償リスク

安全配慮義務は、企業と従業員間の雇用契約に付随して生じる義務です。企業は、従業員の健康や安全に配慮する義務がありますので、その義務を果たさなかった場合には、安全配慮義務違反に該当します。

もし、安全配慮義務を怠ったことにより、従業員が病気を発症するなど、身体や精神に損害が生じれば、その内容に応じた損害賠償責任が発生します。

逆パワハラは、上司の健康や安全が脅かされる事態です。この状況を改善すべきと知りながら十分な対策を講じなかった場合、企業は安全配慮義務違反による損害賠償リスクを抱えることになります。
逆パワハラを防止することはもちろんですが、問題が発生した場合には、素早く適切な対応をとることが大切です。

逆パワハラに関する裁判例

逆パワハラに関する裁判例としては、逆パワハラを理由とした懲戒処分を不当として行為者が会社を訴えるケースと、被害者が逆パワハラによって発生した損害を請求するケースに大別されます。後者の場合、行為者である部下に対してのみならず、企業に対しても損害賠償を請求することが一般的です。

逆パワハラを申告したにもかかわらず、適切な対応が行われなかったとして損害賠償請求されたアンシス・ジャパン事件をご紹介します。

事件の概要

コンピュータのソフトウェア開発や販売を主とするY社で、技術部に所属していたXは正社員としてエンジニア業務に従事していました。Xは訴外Aと二名体制でインストールサポートを行っていましたが、訴外Aの顧客対応に問題があり苦情も発生していたため、Xは訴外Aへその旨指摘し、上司へ報告しました。

これに対し、訴外AはXによるパワハラを受けたと申告し、社内調査が行われました。
調査の結果、パワハラの存在は認められませんでしたが、Xは訴外Aとこれ以上共同して業務を行うことはできないとして上司へ繰り返し訴えました。
1年以上、改善を訴えましたが何ら進展はなく、部長との面談では、このまま仕事をするか、辞めるかであると言い渡されたため、Xは退職することになりました。

その後Xは、パワハラの嫌疑をかけられたことに対して適切な対応を怠り、会社が放置したことは安全配慮義務違反にあたるとしてY社を訴えました。

裁判所の判断(平成25年(ワ)第16709号・平成27年3月27日・東京地方裁判所・第一審)

訴外AがXによるパワハラを受けたとして、社内調査が行われましたが、結果としてパワハラの存在は認められませんでした。しかし、このことによってXは非常に強い恐怖を感じ、一緒に働くことはできないことを上司に繰り返し訴えました。

裁判所は、本事案のように二人体制で業務を担当する中で、他方の同僚からパワハラを訴えられるという出来事は、両者の対立が大きく、非常に深刻であるとしました。
また、客観的にもXへの心理的負荷は相当強いと考えられ、X自身も苦痛を繰り返し訴えていることからすれば、Y社は適切な対応をとるべきであったとしました。

適切な対応例として裁判所は、訴外Aを他部署へ配転しXと完全に業務を分離するか、少なくとも業務上の関わりを極力少なくすべきだったと判示しています。Y社はXからの繰り返しの訴えに対し、適切な対応をとることなく退職させたとして、Y社の損害賠償責任が認められました。

ポイント・解説

本事案では、いわれのないパワハラを訴えられるという逆パワハラによってXが精神的に追い込まれる事態に陥りました。Y社はパワハラ調査を行っていますが、その後の状況改善などは行っていません。
特に、本事案のような二名体制の部署では、よりきめ細やかな対応が求められると考えられます。

Xは「パワハラ」という言葉は用いていないものの、訴外Aからの、指示を無視する、命令するなと暴言を吐かれる、ありもしないパワハラの訴えなどの行為をすべて上司へ報告し、対応を願い出ています。

しかし、いずれも改善することなくXが退職を余儀なくされたことは、会社として尽くすべき義務を怠ったことにほかなりません。調査後の対応にこそ苦心すべきといえるでしょう。

会社内の逆パワハラ問題でお困りなら、ハラスメント対策を得意とする弁護士にご相談下さい。

逆パワハラは、上司が誰にも相談できずに抱え込んでしまい発覚が遅れる傾向にあります。
行為者である部下自身も、部下から上司に対する行為がパワハラにあたると認識していないケースも多く、不適切という感覚のないまま行われていることもあります。

まずは、逆パワハラの存在を周知し、上司であっても早めに相談して欲しいという方針を明確にする必要があります。また、通常のパワハラと同様に逆パワハラに対しても毅然として対応していく姿勢を示すことも重要となります。しかし、逆パワハラへの対応は経験がなければ難しいといえるでしょう。

逆パワハラ問題でお困りの場合は、ハラスメント対策を得意とする弁護士へご相談下さい。
弁護士法人ALGでは、様々な企業で予防法務としてのハラスメント対策や、ハラスメント発生後の対応を行った実績があります。

経験豊富な弁護士が全国の支部に常駐していますので、貴社のお悩みに応じて柔軟に対応することができます。逆パワハラ問題に少しでも不安があれば、まずはお気軽にご相談下さい。

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福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長
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