労務

近時の法改正制度解説 高年齢者雇用安定法

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士

これまで、60歳での定年が一般的だったのが、様々な国の施策により60歳定年制度が大きく変化し続けています。

働く能力や意欲が高い高年齢者に仕事を継続してもらうことは、労働人口が減少し続けている日本においては重要なことではあるものの、企業側が法改正に応じた対策をとっておかなければ、やみくもに人件費が増加してしまう危険もあります。

ここでは、近年の高年齢者雇用安定法の法改正について、順を追って解説していきます。

高年齢者雇用安定法の改正(平成25年4月1日施行)

法改正の経緯

高年齢者雇用安定法は、1971年に制定された「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」をもとに作られました。

2000年の年金制度の法改正で、老齢厚生年金の受給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられることになり、定年制度にも変化の必要が生じました。

また、企業経営の点からも、少子化による労働人口減少という点、高年齢者の雇用継続は重要となってきています。

これまで、高年齢者雇用安定法は、2012年(平成25年4月1日施行)、2020年(令和〇年〇月〇日施行)と2度にわたる大きな改正がされています。以下、順を追ってみていきましょう。

高年齢者雇用安定法の改正内容

2012年に行われた高年齢者雇用安定法の改正内容で注目すべきは、大きく以下の2点です。

  • 60歳未満定年の禁止
  • 65歳までの雇用確保措置

65歳までの「高年齢者雇用確保措置」

平成25年施行の法改正で、事業主に対し従業員が65歳になるまでの雇用確保措置が義務付けられました。

65歳未満で定年退職とする制度を設けている事業主は以下のいずれかの措置を講ずる必要があります。

  • 65歳までの定年引上げ
  • 定年制の廃止
  • 再雇用制度などの65歳までの継続雇用制度の導入

これまで多くの企業で60歳以下を定年とする制度が導入されてきた歴史的経緯があるため、ほとんどの企業で定年制に関する制度変更が迫られることになりました。

継続雇用制度の概要

継続雇用制度とは、事業主が定年制を採用することを前提として、定年退職する従業員が希望すれば定年後も引き続き雇用を継続することができる制度になります。

継続雇用制度には、一般的には再雇用制度と勤務延長制度のいずれかとなります。

再雇用制度は、定年年齢で、一度退職し退職金等を支払ったうえで、改めて雇用契約を締結します。再雇用する場合には、退職前と再雇用後で役職や雇用形態・労働条件等を変更することができます。

勤務延長制度では、定年年齢でも退職せずに雇用形態を維持したまま雇用を延長することになります。退職金の支払いも、雇用期間の延長終了後に支払われるのが一般的です。

継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止

高年齢者雇用安定法改正前までは、継続雇用制度は限定的であり、労使協定で継続雇用する条件が限定的に定められていました。しかし、法改正により、継続雇用を希望する従業員には、継続雇用をさせなければならなくなり、希望する従業員全員が継続雇用の対象とされることになりました。

義務違反の企業に対する公表規定の導入

高年齢者雇用確保の措置(①65歳以上の定年の引き上げ②継続雇用制度の導入③定年の定めの廃止)を行わない事業主に対して、企業名等が公表される制度が導入されました。

もっとも、突然公表されるわけではなく、必要な指導・助言がされ、さらに当該指導・助言に従わない場合は勧告、この勧告に従わない場合は、企業名等が公表されることになっています。

公表はあまり大きな罰則と思われない方もいるかもしれませんが、インターネット等を通じて行われるため、企業名の検索により容易に表示されるため、法律違反している旨が多くの方に知れ渡ることになります。また、様々な助成金等の申請において不支給の措置が取られる危険があるため、企業経営に対する影響は小さくないため注意が必要です。

「企業の範囲」には子会社や関連会社も含まれる?

継続雇用制度による再雇用を行う場合、再雇用先はこれまで仕事をしてきた自社に限らず、子会社やグループ企業、関連法人など、再雇用制度での雇用先が拡大されました。これは、事業主の負担の軽減が図られた措置となります。ただし、子会社や関連法人については、議決権の所有割合など一定の要件が必要となり、さらに要件を備えている場合にも、継続雇用制度に関して企業間での契約の締結等も必要となるため注意が必要となります。

継続雇用後の労働条件はどうすべきか?

継続雇用制度において、労働者側の希望に応じた労働契約を義務付けるものではないため、雇用条件の提示について事業主の一定の裁量があります。そのため、事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、高年齢者雇用安定法の違反となるものではありません。

しかし、継続雇用後の労働条件の変更で、労使間で争いになることは少なく、再雇用者の人件費の負担を抑えたい企業が再雇用後の賃金を大きく引き下げ様々な裁判が起こされています。

労働条件で合意できず継続雇用できなかった場合

事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、高年齢者雇用安定法の違反となるものではありません。従業員側の希望と事業主の合理的な範囲内での条件が合致しない場合にまで、事業主が雇い続けなければならない義務があるわけではありません。会社側が再雇用後の労働条件を合理的な範囲内で提示していれば、高年齢者雇用安定法違反とはなりません。

継続雇用先が遠隔地の場合について

継続雇用制度において、労働者側の希望に応じた労働契約を義務付けるものではないため、雇用条件の提示について事業主の一定の裁量があります。そのため、事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、高年齢者雇用安定法の違反となるものではありません。

ただし、必要性等がないにもかかわらず、遠隔地のみを継続雇用先とする場合には、合理的な裁量の範囲の逸脱であり継続雇用制度の潜脱として高年齢者雇用安定法違反と判断される恐れがあります。

継続雇用制度の経過措置について

継続雇用制度については、平成25年までに労使協定により制度を導入している企業に対し、継続雇用制度の対象者を一部限定できる経過措置が設けられていました。

しかし、2025年3月31日をもって、経過措置が終了しますので、継続雇用制度を導入しているすべての企業で、継続雇用制度の対象者が全従業員になります。

法改正に伴う就業規則の整備

法改正により、事業主に高年齢者雇用確保の措置が義務付けられているため、制度導入に際して、多くの企業で就業規則の変更、整備が必要となります。

定年退職制度を設けておらず、就業規則にも定年退職規定がない場合には、就業規則の変更が必要ありません。

2021年4月からは70歳までの就業機会確保を努力義務に

高年齢者雇用安定法が、さらに法改正され、2021年4月からは、努力義務ですが70歳までの就業機会確保が企業に求められるようになりました。

あくまでも現時点では努力義務ですが、①定年廃止②70歳までの定年引上げ③70歳までの継続雇用制度の導入が求められています。

改正により企業に示される7つの選択肢

2021年4月施行の高年齢者雇用安定法の改正では、①定年廃止②70歳までの定年引上げ③70歳までの継続雇用制度の導入の他にも、以下のような様々な選択肢が提示されています。

  1. 他の企業への再就職支援
  2. 高齢者へのフリーランスとしての業務委託
  3. 起業する高齢者への業務委託
  4. 事業主が実施や委託する社会貢献活動への従事支援

⑤~⑦の事業は、創業支援等措置(雇用によらない措置)であり、過半数労働組合もしくは労働者の過半数代表者の同意を得て導入する必要があります。

高年齢者の継続雇用をめぐる判例

高年齢者の定年後再雇用をめぐる争いは多数あります。

その中でも、再雇用後の賃金引き下げをめぐる争いは多く、令和5年7月20日には、再雇用に関する賃金格差についての初めての最高裁の判例も出ていますので紹介します。

最高裁判所第1小法廷 令和4年(受)第1293号 地位確認等請求事件

名古屋自動車学校の社員2名が、定年後に嘱託社員として再雇用されたが、仕事内容が定年前とほとんど変わらなかったにもかかわらず、基本給が4~5割ほど減ったことに対して、減額分の差額の支払いを求めた事件となります。

本件では、名古屋地裁、名古屋高裁とでは定年時の6割を下回る基本給を設定することは不合理と判断されていました。

これに対して、最高裁は、「嘱託社員の基本給は、正社員の基本給とは異なる性質や支給の目的を有しているとみるべきであり」、「正社員の賞与と嘱託社員の一時金の相違についてもその性質や支給の目的を検討せず」、「労使交渉の具体的な経緯も勘案していない」として、定年時の6割を下回る基本給を設定することは不合理と判断した、名古屋高裁の判断を破棄し、差し戻しました。

判決のポイント

この最高裁判決は、定年後再雇用を行った際に定年時の6割を下回る基本給を設定することができるのか、できないのかについての具体的な判断はされませんでした。

しかし、6割を下回る基本給を設定することが不合理だと判断した名古屋高裁の判断を破棄したことからすると、正社員の基本給の性質・支給目的、嘱託社員の基本給の性質・支給目的、さらに労使交渉の具体的な経緯によっては、6割を下回ることが合理的であると判断される余地がありうることが示唆されていると考えられます。

これまでも、再雇用後の賃金が何割までであれば合理性があるのかという点は議論されてきましたが、今後は、支給される給与の目的に応じてより厳密な議論がされていくのではないかと考えられます。

もっとも、上記最高裁判例においても、定年後再雇用をした嘱託社員の給与を手放しで6割未満でも不合理ではないと判断されたものではないので、注意が必要です。

高年齢者雇用安定法の改正について不明な点がございましたら、企業法務に詳しい弁護士にご相談下さい。

高年齢者雇用安定法の改正により、継続協制度の設計について悩んでいるという企業からの相談は多数あります。また、個別の従業員ごとにおいても、やる気と能力の高い従業員から会社の求めるパフォーマンスを発揮していない従業員まで様々であり、継続雇用制度の取り扱い方法に苦慮されている方も多いのではないでしょうか?

労務問題を常にアップデートできている弁護士はあまり多くはありません。労務問題でお悩みの方は、是非ALG&Associatesにご相談ください。

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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