労務

企業がとるべき無期転換ルールへの変更対応

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士

「無期転換ルール」という制度は、平成25年(2013年)4月1日に導入されました。厚生労働省等から周知が図られ、この制度の知識を有する方も増えています。一方、「使用者側の対応としてどのようなことをしたらいいのか分からない」という相談も多くあります。
本稿では、同制度の使用者(企業)側の対応についてご説明いたします。

「無期期転換ルール」とは?

無期転換ルールは、同一の使用者(企業)との間で、①有期労働契約が5年を超えて更新された場合、②有期契約労働者からの申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるルールのことです。
労働契約の内容を変更し、期間の定めのある労働契約から、期間の定めのない労働契約に変更するには、契約当事者(労働者、使用者)の合意が必要です。この合意を必要とせず、一方当事者の申し込みのみで、労働契約の内容を変更し、期間の定めのない労働契約へ変更するのが、無期転換ルールと呼ばれる制度です。

問題社員の無期転換を拒否することは可能か?

労働契約法上、有期契約労働者が、『期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす』と規定されています(労働契約法18条1項)。「問題社員だから」という理由で、無期転換を拒否できる制度とはなっていません。
問題社員への対応は、無期転換となる前に行う必要があります。

無期転換回避を目的とした雇止めは有効か?

前項のように、無期転換拒否ができないことから、無期転換前の有期雇用の契約満了時に、雇止めをしておきたいと考えることが多いです。

この点について、無条件に雇止めが可能なわけではありません。
まず、民法上、『雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する』とされています(民法629条1項)そのため、雇止めをするためには、まず、使用者側から、期間満了前に、期間満了とともに有期労働契約を打ち切る旨の明確な意思表示をする必要があります。
さらに、雇止めの制限法理による雇止めの誓約もあります(労働契約法19条)。「無期転換回避」の雇止めは、合理的な理由がなければ困難であり、相当にハードルが高いとお考え下さい。

懲戒処分に値する行為があった場合は?

無期転換ルールと懲戒処分は別の制度です。有期雇用中に、懲戒処分に値する行為があった場合、懲戒処分を粛々と実施しつつ、必要に応じて、懲戒解雇、普通解雇や、雇止めを検討することになります。

問題社員の無期転換を回避するには

問題社員が無期転換された場合、使用者側のリスクは大きいです。特に、セクハラ・パワハラをしがちな問題社員等、職場の秩序を乱す問題社員が無期転換となった場合、他の従業員への悪影響等を含めた有形・無形の不利益が生じます。このような事態を回避するため、問題社員の無期転換を回避するための方策の検討が必要です。

初めから5年の有期契約社員として採用する

労働契約法の条文上、2つ以上の有期雇用契約が存在し、かつ、契約の通算期間が5年を超えなければ、無期転換の申し込みができないこととなっています(労働契約法18条1項)。
そのため、有期雇用契約の期間をはじめから5年とし、5年で契約満了という方法を採ることが考えられます。

ただし、このような方法は、無期転換ルールの潜脱目的であることをうかがわせてしまう上に、5年間は、有期労働契約としての契約は存続します。ここで、有期雇用契約の場合、解雇には『やむを得ない事由』が必要とされることから(民法628条)、有期雇用契約の雇止めをするよりも、解雇のハードルが高くなる可能性があります。
そもそも、「5年は働いてほしい」というように思えるような労働者であれば、はじめから無期雇用した方がよいのではないでしょうか。
この方法を取るより、試用期間、有期雇用契約の期間満了時の雇止め等をうまく活用し、長期間残ってもらいたい人材を慎重に判断した方が適切のように思います。

クーリング期間について

有期雇用契約が、連続して更新されず、断続的に更新される場合、前の有期雇用契約の終了と、新たな有期雇用契約の締結との間に、一定期間(クーリング期間)の経過があれば、契約の通算期間がリセットされます。

建築現場や農林漁業等で、季節性の有期雇用契約を締結する場合、このクーリング期間を適切に活用して、無期転換ルールの対象としないような方法も考えられます。

その他の対応

無期転換ルールの例外として、①高度な専門的知識等を有する有期雇用労働者及び定年後引き続き雇用される有期雇用労働者に対する特例、②大学等及び研究開発法人等の研究者、教員等に対する特例があります。
これら特例の対象になるかどうかも検討するようにしましょう。
なお、これら特例の適用を受けるには、所轄の労働局長に対し認定申請し、認定を受ける等、個別の手続を要します。

企業が無期転換の対応を取らないことのリスク

無期転換ルールに違反した場合の罰則

使用者が無期転換ルールを無視し、労働者からの無期転換の申し込みに対応しなかったとしても、「そのこと自体」に罰則はありません。
ただし、無期転換を主張した労働者を就労させなかった場合、雇用契約上の地位確認請求、バックペイの請求、損害賠償請求等がなされてしまうリスクがあります。給与未払いは、労働基準法24条に違反し、罰則もありますので(同120条1号)、最悪の場合、このようなリスクが顕在化する可能性があります。

無期転換後の労働条件に関する注意点

無期転換後の労働条件は、期間の定めを除き、有期雇用契約の場合の労働条件と同一です。
有期雇用契約の労働者の労働条件と、はじめから無期雇用契約の労働者の労働条件が異なる場合、管理が非常に煩雑になります。

就業規則を整備する必要性について

有期雇用契約の労働者の労働条件と、はじめから無期雇用契約の労働者の労働条件が異なる場合、人事、総務、経理といった担当者は、「この人の労働条件は、どの規定が適用されるんだろう?」と分からないことがあります。
そのため、労働者の労働条件の推移(有期→無期か、はじめから無期か、等)に関してきちんと記録を下上で、無期転換後の労働者に対して適用される就業規則を作成しておく等、誰から見ても、労働条件が分かりやすいようにしておくことが望ましいです。

有期労働契約にまつわる裁判例

有期雇用契約にまつわる裁判例として、最判平成28年12月1日最高裁判所裁判集民事254号21頁を取り上げます。

事件の概要

この事案は、1年間の有期雇用契約(更新上限は3年間)で、非常勤講師として採用された労働者が、初回の契約更新がなされず雇い止めされたため、雇い止めを争うとともに、雇い入れから3年後には、Y規程に基づき、期間の定めのない雇用契約に転換されたものとして、地位確認を求めたものです。
使用者が、大学を運営する学校法人であることに特徴があります。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

最高裁は、①労働契約を期間の定めのないものとすることができるのは、これを希望する教員の勤務成績を考慮して当該大学を運営する学校法人が必要であると認めた場合である旨が明確に定められており、当該教員(労働者)もこのことを十分に認識した上で当該労働契約を締結したものとみることができること、②大学の教員の雇用については一般に流動性のあることが想定されていること、③当該学校法人が運営する三つの大学において、3年の更新限度期間の満了後に労働契約が期間の定めのないものとならなかった教員も複数に上っていたことなどの事情の下においては、当該労働契約に係る上記3年の更新限度期間の満了後に期間の定めのないものとなったとはいえない、として、雇止めを有効と認めました。

ポイント・解説

上記のとおり、①就業規則や労働契約書における明確な記載、それを前提とした労働者の認識、②使用者が属する業界の実情、③実際の運用等を考慮して、雇止めを有効としたものです。
有期雇用契約に関する制度設計と運用をする際に、非常に参考になります。

問題社員への無期転換対応についてお悩みなら、労働問題の専門家である弁護士にご相談下さい。

問題社員への無期転換対応を誤ると、能力のある社員のモチベーション低下、職場環境の悪化といった事態につながりかねません。無期転換対応については、ぜひ弁護士にご相談ください。

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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