
監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
この記事では、能力不足や問題社員への対応について記載しています。ご参考になれば幸いです。
目次
- 1 能力不足・適格性が欠如していることの問題点
- 2 能力・適格性の欠如は解雇理由になり得るのか?
- 3 企業は解雇回避のために努力する必要がある
- 4 問題社員を解雇する際の留意点
- 5 新卒採用・中途採用の取り扱い
- 6 協調性の欠如による解雇の妥当性
- 7 能力不足である管理職への対応
- 8 よくある質問
- 8.1 改善の機会を与えたにも関わらず、再度重大なミスをした社員の解雇は認められますか?
- 8.2 試用期間中に能力不足であることが判明した場合、解雇することは認められますか?
- 8.3 問題社員への対応がパワハラに該当するのはどのようなケースですか?
- 8.4 社員の度重なるミスで会社が被害を被った場合、損害賠償を請求することは可能ですか?
- 8.5 再三注意しても勤務態度の改善がみられない社員を解雇する場合、解雇予告は必要でしょうか?
- 8.6 能力不足であることを理由に、退職金を減額することは問題ないですか?
- 8.7 会社が問題社員に与えた改善の機会や、指導に関する記録は残しておくべきでしょうか?
- 8.8 問題社員への退職勧奨が違法となるケースについて教えて下さい。
- 9 問題社員への適切な対応について、企業労務に強い弁護士がアドバイスいたします。
能力不足・適格性が欠如していることの問題点
企業や他の社員に及ぼす影響
能力や適格性を欠く社員の存在は、場合によっては、会社の評判の低下、他の社員の労働意欲の阻害等に波及することも懸念されます。業務に対する真摯な取り組みを怠るだけでも、対顧客・取引先の印象の悪化や売上減少等につながるリスクもありうるところでしょうし、指導・管理の徹底が不可欠です。
能力・適格性の欠如は解雇理由になり得るのか?
解雇権濫用法理との関係
日本の労働法制・裁判実務の傾向により、従業員の解雇には「解雇権濫用法理」等の制約が課されています。同法理により、解雇は、「合理的かつ社会通念上相当なもの」でなければ違法と評価されますので、単に能力が低いという程度で解雇に踏み切るのは極めてリスクが高いことを踏まえておくことが必要です。
裁判所による解雇の有効要件
上記の解雇権濫用法理は、普通解雇が有効とされるための要件の一つである「正当な解雇理由の存在」に関わるものです。その他にも、業務災害による治療中等の解雇制限に該当しないことや、解雇予告または解雇予告手当の支払い、従業員への通知等の要件を充たすことも要求されます。
解雇の根拠となる就業規則の規定
解雇には、その根拠規定が必要です。懲戒解雇の場合はもちろん、普通解雇(≒整理解雇)についても、予め要件等を就業規則に具体化して定めておくことが必要です。
企業は解雇回避のために努力する必要がある
改善の機会を与える
解雇は最終手段であり、まずは雇用する側の指導や管理等、改善の機会を与えることが必要です。懲戒処分をするという場合でも、いきなり解雇が認められるのはよほど悪質なものであって、問題行動や欠点が見受けられるというレベルなら、まずは指導や戒告等の処分を積み上げることが肝要です。
適切な教育指導をする
いきなり即戦力、という人材は希少な存在であって、業務に不慣れというレベルから、問題点や欠点が多少存する人材であっても、社員として受け入れた以上は、適切な教育・指導を行うことが求められます。
配転や懲戒処分の検討
当初の想定とは異なるとしても、配置転換によって本来のポテンシャルを発揮できるという場合はありうるところであり、雇用する側にはそのような配慮も求められます。これらを尽くしてもなお、著しく能力を欠き、問題行動が止まないという場合には、戒告等の処分を積み重ねていくことも検討すべきかもしれません。
退職勧奨
能力や適性に合わない仕事を続けることは、従業員自身にとっても有益でない場合があると思います。強要等の違法な態様にならないようにすることには注意しなければなりませんが、「解雇」ではなく、「退職勧奨」をしてみる、というのは選択肢の一つかもしれません。
問題社員を解雇する際の留意点
証拠の重要性
問題社員に対し、解雇を検討する際には、当該問題行動を客観的に立証するに足る証拠を確保しておくことが肝要です。解雇の有効性に対する証明責任は解雇する側にあるからです。この点をおろそかにしてしまうと、本来ならば有効と判断されたはずの解雇が無効とされ、その間の金銭的な補償等、大きな支出にもつながりかねません。
新卒採用・中途採用の取り扱い
新卒採用の場合
新卒採用は、社会経験の未熟な者に対する教育や、長期の雇用を想定して行われるのが通常です。いきなり即戦力となるほうが稀有なのであって、能力的に物足りない面があったとしても、雇用する側の指導や改善の機会を十二分に与えることが要求されますので、解雇の判断は極めて慎重に行う必要があります。
中途採用の場合
中途採用の場合、即戦力であることを前提に、具体的な活用場面を特定した形での採用もありうるところかと思います。具体的な雇用条件等にもよるところですが、実際の能力がかけ離れていたという場合に、解雇が有効と評価される場合もありうるところです。
協調性の欠如による解雇の妥当性
単に協調性がない、という抽象的な理由での解雇は無効と評価される危険が極めて高いです。他の従業員を退職に追い込む等、「職場環境を著しく悪化させ、会社の業務にも支障を来す程度に至っている」と評価された事案で、解雇を有効とした裁判例を前提としても、この点での解雇は慎重に行うべきでしょう。
能力不足である管理職への対応
管理職としての権限や待遇が与えられている者について、能力が不足しているという場合にも、いきなり解雇というのは危険です。管理職としての能力を期待されての中途採用のように、当該役職や待遇を前提とした雇用契約となっている場合でもなければ、まずは降格処分等を検討しましょう。
よくある質問
改善の機会を与えたにも関わらず、再度重大なミスをした社員の解雇は認められますか?
事案によるとしかいいようがありません。一般的には、改善の機会は一度きり、というのは少々酷だと思います。
試用期間中に能力不足であることが判明した場合、解雇することは認められますか?
就業規則にその旨の規定が存することは大前提として、能力不足の程度等によっては、解雇(本採用拒否)が有効とされる場合もあります。本採用後の解雇よりは有効性が認められやすいとはいっても、一般を下回る、というような軽微なものでは足りないでしょう。
問題社員への対応がパワハラに該当するのはどのようなケースですか?
業務に必要かつ相当な範囲を逸脱するようなものは、指導の名目でもパワハラと評価される可能性が高いです。
社員の度重なるミスで会社が被害を被った場合、損害賠償を請求することは可能ですか?
人を雇用して利益を得る以上、そのことによる損害も基本的には雇用する側が負うべき、というのが裁判実務の考え方です。故意や重過失というような場合は格別、単なるミス(≒過失)というレベルでは、従業員に対する損害賠償は認められないでしょう。
再三注意しても勤務態度の改善がみられない社員を解雇する場合、解雇予告は必要でしょうか?
勤務態度不良、という内容で解雇が有効とされるかは横に置くとして、懲戒解雇等の場合であっても、解雇予告は原則必要です。例外として、「労働者の責めに帰すべき事由」による場合に、労働基準監督署の除外認定を受けるという方法はあります。
能力不足であることを理由に、退職金を減額することは問題ないですか?
就業規則に予め規定している場合、懲戒解雇等の場合には、一定程度は有効とされる場合がありますが、「長年の功労を抹消するに足りる信義に反する事由」という観点で判断されますので、単なる能力不足を理由とした場合、有効性が争われると違法の評価を受ける可能性のほうが高いと思います。
会社が問題社員に与えた改善の機会や、指導に関する記録は残しておくべきでしょうか?
必ず残しておくべきです。懲戒処分等を現時点では想定していないとしても、将来的にこれらを検討する場面はありうるからです。
問題社員への退職勧奨が違法となるケースについて教えて下さい。
心理的圧力や名誉感情の侵害等、相当な範囲を超えてしまうと違法と評価されてしまいます。本人の自由な意思決定を尊重する、との姿勢が肝要です。
問題社員への適切な対応について、企業労務に強い弁護士がアドバイスいたします。
解雇や退職勧奨を含む、問題社員への対応は極めて慎重な判断が要求される点です。自身での判断や対応に不安を感じたら、早期に弁護士に相談することをお勧めいたします。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
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