労務

パワハラの就業規則への規定について|パワハラの程度と懲戒処分の相当性

福岡法律事務所 所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 所長 弁護士

パワーハラスメントなどのハラスメントが許されないことであるとしても、ハラスメント行為者を懲戒処分とするには、就業規則などに定めることなど一定の要件が必要です。
要件を満たさない懲戒処分は違法、不当として無効となってしまうので注意が必要です。

パワハラで懲戒処分を行うには就業規則の規定が必要

懲戒処分は、ある種の懲罰、制裁罰であり、罪刑法定主義の考え方から、どういった行為が懲戒処分の対象となり、どういった懲戒処分をうけるのかを事前にわかるようにしておかないといけないと考えられており、就業規則や雇用契約書などに懲戒事由や懲戒内容などについて明記しておかないと懲戒処分を行えないと考えられています(「フジ興産事件」最二小平15・10・10労判861号5頁)。

懲戒処分を下すための法的要件とは?

労働者が、どういった行為をすれば、どういった罰(懲戒処分)を受けるのか、懲戒の理由となる事由とこれに対する懲戒の種類や程度を就業規則に明記され、これが周知されていないといけないと考えられています。
そして、当該懲戒処分の規定に該当することが懲戒処分の前提となります。

パワハラの程度と懲戒処分の相当性について

労働契約法15条で「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」とされており、懲戒処分の規定に該当するとしても、濫用することは許されていません。

犯罪行為レベル(刑法)のパワハラの場合

パワハラといっても、暴行など明らかに犯罪に該当するような場合は、比較的重い懲戒処分が認められます。
もっとも、その程度や注意を受けたにもかかわらず、繰り返されたものか否かなど諸般の事情を踏まえて判断しなければならず、犯罪だからといって懲戒解雇に出来ると安易に考えることはできません。  

不法行為レベル(民法)のパワハラの場合

犯罪に該当しないとしても、人格非難など精神的な攻撃、過大な要求、過小な要求、人間関係からの切り離し、個の侵害など、パワハラとされるものは多岐にわたります。
懲戒処分を検討にあたっては、行為の内容や程度、繰り返し執拗になされたものか否か、注意を受けたにもかかわらず繰り返されたのか否か、研修を実施していたのか否か、管理職であったのか否かなど、様々な事情を踏まえて判断しなければなりません。
注意が必要なのは、いわゆるパワハラ防止措置義務を適切に講じられていたかどうかは、懲戒処分の検討にあたっては重要な考慮要素となるということです。

職場環境を害するレベルのパワハラの場合

職場環境を害することがパワハラの定義の1つとされていますが、直接の被害者がいない場合もあります。例えば、仕事中にイライラして仕事をするなどでしょう。
パワハラとは、優越的地位を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されるものとされていることから(労働施策総合推進法30条の2第1項)、単に上司がイライラしているだけではパワハラの定義自体には当てはまらない可能性はあります。もっとも、各社の懲戒規定をみていただければ、パワハラの定義に厳密に該当しないとしても、懲戒事由に該当する場合はあります。
パワハラに該当するか否かに拘るのではなく、パワハラに該当しないとしても、服務規律違反などを理由に懲戒処分をすべき場合はあるでしょう。

就業規則の規定があればパワハラ社員を懲戒解雇にできる?

パワハラでの解雇の相当性はどう判断されるのか?

パワハラがあったとしても、懲戒解雇まで出来る場合は少ないです。まず、パワハラ行為があったのか否かの認定が適切にされていなければ、懲戒解雇は認められません。ですから、いわゆるパワハラ指針に基づいて、適切に事実確認が必要となります。
また、パワハラ行為が認定できたとしても、懲戒処分自体が重すぎるとして争われることは多く、相当な懲戒処分であるか否かは慎重に判断することが求められます。

パワハラを理由とする懲戒解雇が有効とされた裁判例

 

事件の概要

「アホ」、「クビ」等の言動や休日のLINEのやり取りの返信の要求等、パワハラ行為を繰り返す従業員を懲戒解雇としたところ、解雇は無効であるとして、当該従業員が会社に対して、労働契約上の地位を有することの確認などを求めて訴えた事案(東京地判平28・11・16)。

裁判所の判断

パワハラ加害者が、会社から厳重注意を受け、顛末書まで提出したにもかかわらず、1年余り後に再度パワハラ行為に及んでおり、短期間に複数の部下に対するハラスメント行為に及んでいたこと、あくまでも部下への指導として正当なものであったとの態度を一貫して変えず、反省の態度が全くみられないことなどを踏まえ、仮に当該労働者を継続して在籍させた場合に将来再びパワハラ等の行為に及ぶ可能性が高いなどとして、解雇を有効と判断しました。

ポイント・解説

パワハラ行為があったとしても、注意をしたのか否か、譴責などの懲戒処分を実施したのか否かなど、改善の機会を与えにもかかわらず改善がみられないという事情が求められるといえ、就業規則などに懲戒解雇が定められていたとしても、懲戒解雇を即断できる場合は極めて限られた場合だと考えておくべきでしょう。

パワハラの懲戒処分に関する就業規則の規定例

例えば、次のような、規定を就業規則に盛り込んでおくことが考えらえます。

第●条 職場におけるパワーハラスメントの禁止
従業員は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、他の従業員に対して精神的・身体的苦痛を与えたり、就業環境を害したりしてはならない。

第●条 懲戒の種類 
1 会社は、従業員が次の各号のいずれかに該当する場合、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。
(1)譴責
始末書を提出させて将来を戒める。
(2)減給
始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。
(3)出勤停止
 始末書を提出させるほか、●日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。
(4)降格
始末書を提出させるほか、職位を解任若しくは引下げ又は職能資格制度上の資格若しくは等級を引き下げる。賃金もこれらの解任又は引下げに伴い、引き下げられる場合がある。
(5)諭旨解雇
 退職願の提出を勧告する。勧告に応じない場合、懲戒解雇とする。
(6)懲戒解雇
解雇の予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。
2懲戒処分の際、被懲戒者の氏名、所属部署、役職、事案の概要、懲戒処分の対象となった行為及び懲戒処分の内容等を社内公表する場合がある。

第●条 懲戒事由
1 従業員が次の各号のいずれかに該当するときは、情状に応じ、譴責、減給、出勤停止又は降格とする。
(1)正当な理由なく欠勤、遅刻、早退を繰り返す等出勤状況が不良のとき
(2)上司の指示に従わない、部下に対して威圧的である、職場での協調性が欠如している、仕事に対する意欲が欠如している等勤務態度が不良のとき。
(3)過失によって会社又は会社の業務に関連する第三者に損害を与えたとき。
(4)過失によって業務上知り得た会社(子会社・関連会社も含む。)及び取引先等に関する情報(秘密情報に限定されない)又は業務上知り得た個人情報を紛失又は漏洩したとき。
(5)本就業規則その他会社が定める規則、規程、ガイドライン、通達、通知事項及び誓約書等会社に差し入れた書面や会社との間で交わした合意書に記載された事項に違反したとき。
(6)その他前各号に準じる不適切な行為があったとき。
(7)他の従業員又は第三者を教唆又は幇助して前各号までの懲戒事由に該当する行為をさせたとき。
2 従業員が次の各号のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、その情状の程度によっては、諭旨解雇、普通解雇又は出勤停止、降格とすることがある。
(1)重要な経歴を詐称して雇用されたとき
(2)正当な理由なく欠勤、遅刻、早退を繰り返す等出勤状況が不良であって、度重なる注意を受けても改めなかったとき
(3)上司の指示に従わない、部下に対して威圧的である、職場での協調性が欠如している、仕事に対する意欲が欠如している等勤務態度が不良であって、度重なる注意を受けても改めなかったとき。
(4)故意又は重大な過失によって会社又は会社の業務に関連する第三者に重大な損害を与えたとき。
(5)重大な過失によって業務上知り得た会社(子会社・関連会社も含む。)及び取引先等の情報(秘密情報に限定されない)又は業務上知り得た個人情報を紛失し又は漏洩したり、故意にこれらの情報又は個人情報を漏洩したり又は漏洩しようとしたとき。
(6)刑法その他刑罰法規に違反する行為を行ったとき。
(7)本就業規則その他会社が定める規則、規程、ガイドライン、通達、通知事項及び誓約書等会社に差し入れた書面や会社との間で交わした合意書に記載された事項に違反し、その情状が悪質と認められるとき。
(8)その他前各号に準じる不適切な行為があったとき。
(9)他の従業員又は第三者を教唆又は幇助して前各号までの懲戒事由に該当する行為をさせたとき。

パワハラ対策や就業規則の整備でお困りの際は、弁護士法人ALGまでお気軽にご相談下さい。

パワハラ加害者への適切な対応もパワハラ防止措置義務の重要な内容ですが、実際に懲戒処分を行うとなれば、どういった懲戒処分とすべきかは非常に悩ましい問題であり、軽すぎてもよくないですし、重すぎても無効となりかねず、慎重な判断が求められますから、就業規則の作成、見直しから始まり、具体的な懲戒処分の内容まで専門知識を有する顧問弁護士などへ相談されるようにしてください。

福岡法律事務所 所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 所長
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

来所・zoom相談初回1時間無料

企業側人事労務に関するご相談

  • ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
  • ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
  • ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
  • ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。
  • ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込み11,000円)

顧問契約をご検討されている方は弁護士法人ALGにお任せください

※会社側・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受け付けておりません

ご相談受付ダイヤル

0120-406-029

※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。

メール相談受付

会社側・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受け付けておりません