採用

多くの企業は、継続的に事業活動を行うことを目的としていますので、経営状況に応じて、労働者との関係を柔軟に変更する必要がありますが、企業と従業員との関係における基本的な部分は、採用する段階で決まってしまい、一方的に不利益に変更することは簡単にできません。また、一度採用すると、簡単には解雇できません。
採用は、企業と労働者の関係を決定づけると言っても過言ではありません。ここでは、重要な「採用」について、基本的なことから解説します。

採用とは

採用するということは、企業と労働者が労働契約を結ぶということです。労働契約法等では労働契約とされる一方で、民法623条では雇用契約とされていますが、同じ意味と考えて差し支えありません。

労働契約に関しては、労働契約法6条において「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」とされおり、労働契約は、①労働者が使用者の指揮命令に従い労働し、②使用者がこれに対して賃金を支払うことを口頭で合意すると成立します。契約書等の書面は必要ありません。

なお、契約は、法令に特別の定めがある場合を除き、申込の意思表示に対して相手が承諾したときに成立するとされており(民法522条)、労働契約も申込と承諾が合致したときに成立します。
この点、使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を書面の交付若しくはFAX、電子メール等で明示しなければならないこととされていますが(労基法15条、同規則5条)、これは、労働契約の成立の要件ではありませんので注意してください。

一般的な採用フロー

(1)募集(労働契約の誘引)

労働者を募集する際には、求人広告や求人サイト、ハローワークへ求人募集を出すことが多いと思いますが、この募集行為は、一般的に、労働契約の申込みではなく、単なる契約の誘引と考えられています。

参考:【職安法4条5項】

この法律において「労働者の募集」とは、労働者を雇用しようとする者が、自ら又は他人に委託して、労働者となろうとする者に対し、その被用者となることを勧誘することをいう。

なお、職安法5条の5は、ハローワークや職業紹介事業者への求人申し込み、自社HPでの募集、募集広告の掲載等を行う際、労働条件を明示することを義務付けており、虚偽の公告や条件の提示をした場合には罰則が設けられています。
また、公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者は、次のいずれかの要件に該当する場合には、求人を受理しないことができます(④~⑥:改正職業安定法5条の5 2020年3月30日施行分)。

  1. 内容が法令に違反する求⼈
  2. 労働条件が通常の労働条件と⽐べて著しく不適当な求⼈
  3. 求人者が労働条件を明示しない求人
  4. ⼀定の労働関係法令違反のある求⼈者による求⼈
  5. 暴⼒団員などによる求人
  6. 職業紹介事業者からの自己申告の求めに応じなかった求人者による求人

このように、労働者の募集に関して様々な規制がありますので、注意してください。

(2)応募(労働契約の申込み)

求人広告やハローワークの求人票を見た採用希望者が、応募書類等を添えて応募してきます。一般的に、この応募行為が、労働契約の申込みです。

労働者は、求人広告やハローワークの求人票に記載された条件で働くつもりで応募(申込)してきます。面接等を踏まえて、求人広告などと異なる内容で採用する場合には、労働者との間で変更点を明確にしておかないと、求人広告などの内容で採用したと扱われるおそれがあります。
求人広告と異なる条件で採用するのであれば、変更点を明確に説明したうえで労働契約書を作成するなど、勘違いが生じないよう工夫してください。

(3)書類選考・面接

応募してきた人を採用するかどうか判断するために、一般的には、紹介状(ハローワーク経由の場合)、履歴書、職務経歴書等の書類を持参してもらい、記載内容をもとに書類選考や面接を行います。

事実上、応募者の人柄や能力を測る機会は、ほぼ書類選考・面接しかなく、ミスマッチを防ぐ方法について頭を悩ませておられる企業も多いのではないでしょうか。

よくあるご相談は、「病歴等を聞いても良いのか」ということです。

個人情報保護の観点から、社会的差別の原因となるおそれのある個人情報の収集は原則として禁止され、業務の目的の達成に必要な範囲内でしか許されていません(職業安定法5条の4、指針平成11年労働省告示第141号)。病歴は社会的差別につながるおそれがある個人情報にあたりますので、フリーハンドに何でも聞いてよいというわけではなく、必要性がある範囲でなければ聞いてはいけません。
仮に聞くとしても、なぜ聞く必要があるのかを丁寧に説明するようにしたうえで、任意に回答してもらうように配慮してください。

もっとも、採用後は、企業には労働者の生命身体の安全に配慮する義務があり、企業が知っておくべき場合もあるのではないでしょうか。

例えば、運転業務で募集している際に、「睡眠時無呼吸症候群」など運転に支障がある病歴を聞くことは問題ないでしょう。また、LGBTQに配慮している企業であれば、適切に配慮したいという目的で性的傾向を聞くことも許される可能性があります。

(4)採用(労働契約の申込みに対する承認)

面接等を踏まえ、労働者を採用することになった場合、採用通知を行います。これが、承諾の意思表示です。承諾の意思表示は文書で行う必要はなく、面接時に口頭で採用すると伝えれば労働契約が成立します。
採用する際には、内定や試用期間を設けることも少なくないですが、いずれも、労働契約が成立していることには変わりなく、労働契約が成立している以上は、労働者に退職してもらうことは「解雇」にあたるため、容易に退職させることはできません。

採用の自由

最高裁は、次のように述べて、誰をどのような条件で採用するかについて、原則として企業の自由だとしています。そのうえで、思想信条について申告を求めることも違法ではないとも述べています。
【三菱樹脂事件(最大判昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁)】
「憲法は、22条、29条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。
それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであつて、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。」

もっとも、最高裁が、採用の自由を広く認めた理由の1つとして、終身雇用制度を挙げていることは興味深いところです。
今後、欧米型のJOB型雇用が浸透し解雇が容易になれば、これまでよりも採用の自由が制限されるかもしれません。

なお、企業には採用の自由があり、基本的には、どのような人をどのような基準で採用するかは自由ですが、労働組合員でないことや組合から脱退することを条件とすること(労組法7条1号)、性別を理由とすること(男女雇用機会均等法5条)、年齢による差別を行うこと(雇用対策法10条)等の一定の制限があります。

内定

採用内定は、始期付解約権留保付労働契約であり、あくまでも労働契約が成立していることを前提に、就労開始時期まで解約権を留保した労働契約だと考えられています。主に大学卒業見込者の採用にあたり、囲い込みの意味もあって内定制度が多く利用されています。

なお、新卒採用には、採用内定時に内定取消事由等を文書で明示しなければならない等、守らなければならないルールがありますので注意してください(「新規学校卒業者の採用に関する指針」(平成5年6月24日労働省発職134号))。

内定取消

採用内定の労働契約が成立している以上(始期付解約権留保付労働契約)、内定取消は解雇(留保解約権の行使)であり、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られています(労契法16条、大日本印刷事件:最判昭和54年7月20日)。

例えば、入社日前研修を欠席したことを理由に内定を取消した事案においては、企業には入社前の研修へ参加することを業務命令として命じる根拠はなく、あくまでも任意の同意に基づき実施されるものであるとして、当該内定取消が無効とされています(宣伝会議事件:東京地判平成17年1月28日労判890号5頁など)。

内定を取消すことは容易ではありませんので注意してください。

まとめ

労働者を一旦採用すると、解雇は容易ではありませんので、企業は、短い採用選考期間で、応募者の能力や性格等の適性をできるだけ把握することが求められていると言わざるを得ません。
なかなか難しいことではありますが、採用は、これからの労使関係を決定づけるものであるので、慎重に進めるようにしてください。

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