労働条件の決まり方

労使双方が納得していたとしても、全て合意のとおりに労働条件が決まるわけではありません。法令や就業規則、労働協約等が合意よりも優先される場合があり、思わぬ労働条件となっていることがあります。
そのために、使用者側が労働者の労働条件を勘違いしてしまい、知らない間に多額の未払残業代が発生したというケースは、想像されているよりも多いです。そのような事態に陥らないためにも、労働者の労働条件を適正に把握することは、労務管理において極めて重要です。
ここでは、労働条件の決まり方について解説します。

労働条件を決める要素

労働条件は、次の要素により決まります。

(1)合意

労働契約をどういった内容とするのか、また、どういった内容に変更するのかは、使用者と労働者が合意で定めることが原則であり、労働条件は、使用者と労働者が合意によって決定することを基本とします(合意原則)。

法律上も、労働契約の成立(労契法6条)、労働契約の内容の変更(労契法8条)について合意によりできることとされており、合意原則が明確にされています。

もっとも、どのような内容でも合意によって自由に定めることができるわけではなく、たとえ労使双方が納得していたとしても、法令(強行法規)や就業規則の水準を下回ることができない等、合意原則に一定の制限を設けて労働者の保護が図られています。

(2)労使慣行

労使慣行とは、明示的な合意や就業規則、労働協約といったものがないものの、使用者と労働者があたりまえのように反復継続してきた事実上の慣習のことです。

民法92条では、一定の慣習について、当事者がその慣習による意思を有している場合には、その慣習に従うことを規定しています。そのため、労使慣行が同条における慣習と認められるならば、その労使慣行は、労働契約の内容となります。

ただし、労使慣行が労働契約の内容となるためには、単に慣習として行われているだけでは足りず、「当事者がその慣習による意思を有している」ことが必要です。そのため、当事者が何ら異議を述べていないだけではなく、規範として意識し従ってきたことが必要と考えられています。

判例では、「同種の行為又は事実が一定範囲において長期間反復継続して行われていたこと、労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことのほか、当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要する。」(商大八戸ノ里ドライビングスクール事件・最判平成7年3月9日労判679号30頁)とされています。

(3)就業規則

就業規則とは、各事業場において労働者が守らねばならない職場規律や、労働条件について使用者が定めたものです。一定の要件を満たせば、労働者との個別の合意を要することなく、就業規則に定める労働条件が労働契約の内容となります(労契法7条)。

また、就業規則の水準を下回る労働条件は無効となり、就業規則の水準の労働条件が労働契約の内容になります(最低基準効 労契法12条)。

更に、一定の条件にあてはまっていれば、就業規則を変更することで、労働者の労働条件を不利益に変更することも可能です(労契法9条、10条)。

(4)法令

民法90条で「公の秩序又は善良な風俗に反する法律行為は、無効とする。」とされており、この公序良俗に関する強行法規に反する合意は無効です。
この点、労基法は強行法規であるため、労基法の基準に反する労働契約を締結することは認められておらず、これに反する部分は無効となり、労基法で定める基準が適用されることとなります(労契法13条)。

(5)労働協約

労働協約とは、労働組合と使用者又はその団体との間で締結する、労働条件等に関する協定であり、書面で作成され双方が署名又は記名押印したものをいいます。
労働協約は、原則として、その協約を締結した労働組合の組合員にしか適用されません。そのため、就業規則に労働協約と同じ内容を盛り込み、組合員ではない労働者にも、適用できるようにする場合もあります。

労働条件の決まり方

労働条件の決まり方については、次のようなルールがあります。

労働条件の決まり方

(1)法令に反することはできない

労働条件は、上記の要素(合意等)によって決まることは、お分かりいただけたかと思いますが、上記の各要素により定めた労働条件がお互いに矛盾する場合の優劣関係は、やや複雑です。

まず、法令(強行法規)が最も優先されます。民法90条「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」により、強行法規に反する合意等は無効となるからです。これは、合意、労使慣行、就業規則、労働協約の全てにあてはまることです。

(2)就業規則より不利にはならない

就業規則に定めた内容を使用者が失念してしまい、労働者も覚えていなかった場合には、就業規則よりも労働者にとって不利な条件で合意してしまうかもしれません。

このような場合には、労契法12条によって、就業規則で定める基準に達しない部分については無効となり、その部分は就業規則の基準となります。

一方で、労働契約を就業規則よりも有利にすることを禁じている法令等は存在しません。そのため、就業規則よりも有利な労働契約が、就業規則の水準まで引き下げられることはありません。

(3)労働協約には逆らえない

労組法16条において、労働契約の内容のうち、労働協約に定める労働条件等に反している部分を無効とし、その部分は労働協約の定めによるとされています。使用者が労働組合と労働協約を締結している場合において、その適用を受ける労働者が、使用者との間で労働協約と矛盾する合意をした場合には、労働協約に定めた条件が適用されます。

ここで注意すべきなのは、就業規則の場合とは異なり、有利か不利かにかかわらず、労働協約の内容が適用されるということです。つい混同してしまいそうになるかもしれませんが、労働協約の内容は最低基準ではないと覚えておいてください。

それでは、労働協約と就業規則が矛盾する場合はどうなるのでしょうか?

この場合には、労基法92条により、労働協約が優先されます。

労働条件の変更

労働条件は、次の方法で変更することが可能です。

(1)変更合意による方法

労働条件は、使用者と労働者との合意によって変更することができますが(労契法8条)、法令(強行法規)に反することができない、就業規則の最低基準を下回ることができない、労働協約に反することができないといった制限があります。

また、労契法3条においては、「労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。」と定められています。このように、当事者が対等の立場で合意することによって契約が成立することを「合意原則」といいます。

そして、「合意原則」は、当初の合意を変更する場合にも適用されます。そのため、労契法8条において、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」とされています。

(2)就業規則の作成、変更による方法

労働者と合意できない場合であっても、就業規則を作成することや、変更することによって、労働条件を変更できるケースがあります。

原則的には、就業規則の作成・変更によって、労働条件を労働者にとって有利となるように変更することはできますが、不利となるような変更はできません(労契法9条)。
しかし、就業規則の変更が合理的なものであること、及び、変更後の就業規則を労働者に周知することによって、例外的に、変更後の就業規則が労働条件として適用されます(労契法10条)。
なお、就業規則を変更することが合理的であるか否かは、労働者がどの程度の不利益を受けるか、労働条件を変更する必要性はあるか、変更後の就業規則の内容は妥当か、労働組合等とどのように交渉したかといった点に加えて、その他の諸事情を考慮して判断されます。

(3)労働協約締結による方法

労働協約に定められた労働条件等と異なる労働契約は有利不利にかかわらず無効となり、労働協約に定められた条件となるため(労組法16条)、労働協約を締結することで労働条件を変更することが可能です。
なお、労働協約は、原則としてその協約を締結した労働組合の組合員にのみ適用されるものであって、その他の労働者に関しては、同じ事業場に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が1つの労働協約の適用を受ける場合等、例外的に適用されるだけです。
全労働者の労働条件を一律に変更できるわけではないことに注意してください(労組法17条、18条)。

また、労働協約の有効期間として3年を超える期間を定めることはできず、有効期間が満了してしまった場合等には失効しますが、慣行的な効力は残ると解されています。

まとめ

以上のように、労働条件は、必ずしも合意どおりに決まるわけではなく、様々な要素が考慮されて決まります。
労働者が納得しているからと安心していると、想定外の紛争を招きかねませんので、法令や就業規則、労働協約などと共に労働条件を確認されてみてはいかがでしょうか。

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