監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
人が死亡した場合、その人が有していた権利義務を相続人が相続することになります。民法では、まず、遺言による相続を原則とし故人の意志を尊重し、遺言がない場合に相続人で協議して遺産を分ける方法について定められています。相続と簡単にいっても、誰が相続人になるのか、相続の対象となる遺産の範囲はどこまでなのか、どういった手続きが必要なのかなど知っておかないといけないことが多くあります。
目次
相続人の範囲 (法定相続人)
法定相続人とは、法律上定められた相続人のことをいい、民法で定められています。
配偶者は常に相続人となり、配偶者とともに相続人になる人について、第1順位から第3順位まで定められています。第1順位が子やその代襲相続人といった直系卑属で、第2順位が父母、祖父母といった直系尊属、第3順位が兄弟姉妹やその代襲相続人です。
相続順位 | 相続人 | 相続人が亡くなっている場合 |
---|---|---|
必ず相続人になる | 配偶者 | —— |
第1順位 | 子 (直系卑属) | 孫 |
第2順位 | 父母 (直系尊属) | 祖父母 |
第3順位 | 兄弟姉妹 (傍系血族) | 甥姪 |
配偶者は必ず相続人
民法890条で、被相続人の配偶者は、常に相続人となるとされており、配偶者は常に相続人となります。相続開始時点で配偶者が死亡していた場合は、配偶者以外の第1順位から第3順位の法定相続人が相続人となります。既に離婚している場合も同様です。そもそも独身の場合は、子供がいないため、第2順位から第3順位の法定相続人が相続人となります。
第1順位は子
子供やその代襲相続人は第1順位の相続人となるとされています(民法887条)。配偶者がいる場合には、子やその代襲相続人は、配偶者とともに相続人となり、配偶者がいない場合は、子だけが相続人となります。
子といっても、養子、非嫡出子、異父・異母兄弟(いわゆる腹違いの子)など色々いますが全て第1順位の相続人となります。子の間の法定相続分の割合は同じです。
法定相続分ですが、配偶者と子がいる場合は、配偶者が1/2、子が1/2とされており、子が複数人いる場合には、子の相続分である1/2を子の人数で頭割した分となります。子が2人だと子一人につき1/4となります。
第2順位は親
第1順位の法定相続人である子やその代襲相続人がいない場合、第2順位の法定相続人である父母や祖父母といった直系尊属が法定相続人となります。配偶者がいる場合には、配偶者とともに相続人となります。直系尊属のなかでは、親等の近い者が法定相続人となるとされており、父母が無くなっている場合で、祖父母が生きている場合には祖父母が法定相続人となります。
法定相続分ですが、配偶者が2/3、第2順位の相続人が1/3とされており、第2順位の相続人間では頭割りします。父母がいる場合は、1/6ずつということになります。
第3順位は兄弟姉妹
第2順位の法定相続人がいない場合は、第3順位の法定相続人である兄弟姉妹やその代襲相続人が相続人となります。配偶者がいる場合には、配偶者とともに兄弟姉妹が法定相続人となります。第4順位の法定相続人は定められていないため、第3順位の法定相続人も配偶者もいない場合は、法定相続人はいないということになります。
法定相続分ですが、配偶者が3/4、第3順位の相続人が1/4とされており、第3順位の相続人間では頭割りします。兄弟姉妹やその代襲相続人が2人いる場合には1/8ということです。
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相続人が亡くなっている場合の代襲相続について
相続開始時に既に法定相続人が亡くなっている場合、欠格事由に該当する場合、排除されている場合には、代襲相続人が法定相続人となります。第1順位と第3順位の法定相続人については代襲相続人が法定相続人になるとされていて、子や兄弟姉妹の子が相続人となります。なお、子は、孫、ひ孫と順次代襲相続人となりますが、兄弟姉妹については子までが代襲相続人となれます。
相続人になれない人
法定相続人だからといって必ず相続人となるとは限らず、一定の事由がある場合には、相続人にはなれません。
相続放棄をした相続人の子
相続人は、相続が開始したことを知った後、原則として3か月以内に家庭裁判所に相続を放棄する旨の申述を行うことで、相続人でなかったことになります。これを相続放棄と言います。そもそも、相続人でなかったことになるので、相続放棄をした者に関しては代襲相続が認められていません。
相続欠格になった人
次の欠格事由に該当する相続人は、相続人となることができません(民法891条)。ただし、欠格事由がある場合、代襲相続は認められています。
- 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
- 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
- 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
- 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
- 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
相続廃除された人
次の事由がある場合、相続人から排除されます。なお、代襲相続は認められています。
- 推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があり、被相続人が、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求した場合
- 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示し、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求した場合
相続人が誰もいない場合はどうなるのか
相続人がいることが明らかでない場合には、相続財産は法人(相続財産法人)となります。その後、利害関係人や検察官の請求があれば、家庭裁判所によって相続財産管理人が選任されます。例えば、法定相続人ではない者で、次の事由に該当するような場合には、その者が利害関係人として相続財産管理人の選任を申し立てることができます。
- 被相続人と生計を同じくしていた者
- 被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者
そして、相続人の不在が確定したのち3か月以内にこれらの者が請求(特別縁故者の申立と相続財産請求)することによって、家庭裁判所は、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができます。
相続財産の範囲
そういったものが相続財産となるのでしょうか。不動産や預金といったものから借金、生命保険など財産的価値のあるものにも様々あります。
プラスの財産
プラスの財産といっても様々あります。一般的には遺産と思われるものでも、実は遺産には含まれないものもありますし、名目や名称だけでは判断できないものもあります。よく問題になるものをご紹介しておきます。
(不動産)
遺産に含まれることに争いはないでしょう。相続が発生すると、相続人の共有状態になり、遺産分割によって分け方を決めることになります。不動産については評価額が常に争になります。
(金銭など可分債権)
相続が発生すると遺産分割をすることなく法律上当然に分割されて、共同相続人がその相続分に応じて権利を取得すると考えられています。
(預貯金)
預金も可分債権ではありますが、預貯金債権については、当然に分割されるのではなく、遺産分割を経て分け方を決めなければならないというのが判例です。
(株式)
相続により、準共有になると考えられており、遺産分割で分け方を決めることになります。株式は特殊で、株式を法定相続分に応じて●株ずつというように当然に分割されるのではなく、それぞれの株式を準共有するという扱いになります。
(社債や国債)
一見、可分債権と同じく当然に分割されるとも思えますが、そうではなく株式のように準共有となると考えられており、遺産分割によって分け方を決めることになります。
(生命保険)
受取人が指定されている場合は、受取人の固有の財産と考えらえており、遺産には含まれません。なお、受取人が指定されていない場合や、受取人が単に「相続人」とされているような場合には、遺産に含まれるので注意してください。
(死亡退職金)
生命保険同様、受取人が指定されている場合には受取人固有の財産として、遺産には含まれません。生命保険と異なるのは、仮に受取人が指定されていない場合であっても、退職金規定や法令によって特定の者の固有の財産だと判断されて遺産に含まれない場合があるので、根拠規定や法令の確認が必要になります。
マイナスの財産
相続開始時までに発生した債務も遺産に含まれます。
(連帯債務)
連帯債務は、可分債務であり、相続人が法定相続分に応じて相続し、相続した範囲について連帯債務者となると解されています。
(不可分債務)
不可分債務の場合は、法定相続分に応じてそれぞれが相続するということができませんので、債権者は、各相続人に対して全額を請求できます。
(葬儀費用)
葬儀費用は、被相続人のための費用なのだから、遺産に含まれるように思いますが、喪主などが葬儀社などと契約することで発生する債務であることから、喪主など契約当事者固有の債務と考えられています。もっとも、遺産分割において、遺産から払うことで合意することが多いといえます。
相続する割合 (法定相続分)
法定相続分とは、法定相続人について法律で定められている相続分のことをいいます。
次の表のとおり、誰が相続人になるのかによって割合が決められています。
相続人 | 相続する割合 |
---|---|
配偶者のみ | 配偶者 全て |
配偶者と子やその最終相続人(直系卑属) | 配偶者 1/2、子1/2 |
子やその代襲相続人のみ | 子やその代襲相続人 全て |
配偶者と父母や祖父母(直系尊属) | 配偶者2/3、父母や祖父母など直系尊属1/3 |
父母や祖父母のみ | 父母や祖父母など直系尊属 全て |
配偶者と兄弟姉妹やその代襲相続人 | 配偶者3/4、兄弟姉妹やその代襲相続人1/4 |
兄弟姉妹やその代襲相続人のみ | 兄弟姉妹やその代襲相続人 全て |
法定相続分は割合で単純に決められていますが、遺産分割によって異なった割合とすることは可能です。なお、実際は、生前贈与を受けた(特別受益)場合に遺産に持ち戻して算定するなど、そう簡単ではありません。
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遺言者の内容が優先されることに注意
民法では、相続について被相続人の意志が尊重されており、原則が遺言による相続です。遺言がない場合に法定相続分の話がでてくると考えておくとわかりやすいと思います。遺言がある場合には法定相続分ではなく、遺留分の問題になります。一般的には法定相続分が原則と考えられているため、遺言書が残されていた場合に、相続人は相続分を奪われたような気になってしまうこともあってか、紛争にmなりがちです。
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そもそも、相続人が誰なのかすら明らかでない場合もありますし、遺産がどこにどれだけ残されているのわからないことも多いのが相続問題です。特別受益、寄与分、遺留分、遺産の使い込みなどややこしい内容も多く、時間も手間も想像以上にかかります。相続については専門家の力を利用して処理することをお勧めします。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)