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離婚問題

不貞慰謝料とは 慰謝料相場と請求方法

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士

このページをご覧いただいている方の中には、ご自身・友人・ご家族等の身近な方が不貞に関するトラブルの渦中にいる方もいるのではないでしょうか。このページでは実務上よく問題になる点について概要をまとめていますので、トラブル解決の参考になればとは思います。

しかし、このページを通して一番お伝えしたいのは「慰謝料は決められたものがない」という点です。自分でどうにかしようとせず、専門家である弁護士に相談すべきです。自身の有利な事情を見落としていることも少なくありません。

不貞慰謝料とは

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条、同710条)。

夫婦は「婚姻共同生活の維持という権利又は法的保護に値する権利」を有すると考えられているところ、夫婦の一方が配偶者以外の第三者と肉体関係を持つこと(不貞行為)で他方の配偶者の上記権利を侵害した場合に、不貞をした配偶者が損害賠償責任を負うことは実務上殆ど争いのないところだと思います(最高裁平成8・3・26等)。

不貞慰謝料と離婚慰謝料の違い

上述のとおり、夫婦の一方が配偶者以外の第三者と肉体関係を持つこと(不貞行為)で夫婦の「婚姻共同生活の維持いう権利又は法的保護に値する権利」を侵害した場合には、もう一方の配偶者は「不貞慰謝料」を請求することができます。

また、離婚に至った原因が一方の配偶者にあると認められる場合には「離婚慰謝料」を請求することが出来ます。この場合の原因の代表的なものが不貞行為ですが、不貞行為に限られるわけではありません。

不貞行為に対する慰謝料の相場

精神的苦痛は、本来金銭に置き換えることができない性質のものなので、慰謝料の金額に絶対の基準はありません。個々の事件の悪質性(不貞の期間・回数等)や、生じた結果の重大性(離婚の有無等)等によって慰謝料の額は変わってきますが、一般的には以下のような傾向があるといえます。

不貞慰謝料の相場
離婚の有無慰謝料の相場
離婚も別居もしなかった場合50万~100万円
離婚しなかったけど別居した場合100万~200万円
離婚した場合200万~300万円

不貞慰謝料額の判断基準

上で述べたとおり、慰謝料の額を決める絶対的な基準はありませんが、一般的に裁判所が関心を持っていると思われる事情をいくつか紹介します。

・浮気発覚前の夫婦関係
不貞行為によって慰謝料が認められるのは、「婚姻共同生活の維持いう権利又は法的保護に値する権利」が侵害されたと言える必要があります。したがって、そもそも不貞の時点で婚姻関係が破綻していたのであれば、慰謝料は生じません。これを「破綻の抗弁」と呼ぶこともあります。逆に、長期間円満であった婚姻関係が不貞によって破綻に至ったのであれば、慰謝料の増額事由になると考えられます。

・浮気していた期間
不貞の期間が長ければ長いほど、不貞の回数が多ければ多いほどそれに伴う慰謝料の額も大きくなる傾向があります。ただし、どの程度の期間を「長い」、どの程度の回数を「多い」と評価するのかに明確な基準はありません。

・夫婦に子供がいるのに浮気した
夫婦間に未成熟の子がいることを指摘して慰謝料の増額事由としている裁判例も、未成熟の子ないし子がいないことを減額事由とする裁判例もあります。いずれにせよ、裁判所は、未成熟の子の有無を、具体的慰謝料算定の事情の一つとして考慮することが多いと思われます。

・浮気発覚後の謝罪の有無
不貞が発覚して他方の配偶者を傷つけた場合、不貞をした当事者が採るべき最も望ましいのは真摯に謝罪をすることです。裁判例においても、発覚直後に謝罪したことを減額事由としているものや、逆に、謝罪していないことを増額事由に挙げているものもあります。

不貞慰謝料を請求したい方

不貞慰謝料は誰に請求できる?

学説上異論はありますが、実務上は不貞した者と不貞相手(相姦者)は共同不法行為者の関係に立ち、両者の責任はいわゆる不真正連帯債務(注)の関係にあります。詳しいことは割愛しますが、被害者は不貞をした配偶者と相姦者のいずれに対しても慰謝料請求ができます。

(注)なお、民法改正により、不真正連帯債務という概念自体が不要になり、全て連帯債務に統一されたと評価できる状況となっていますが、改正前民法が適用される事案も少なくないことから、本ページでは、不真正連帯債務という概念を用いておきます。

不貞慰謝料を請求する前に確認すべきこと

不貞慰謝料請求に限ったことではありませんが、①法的に請求が可能か②請求の根拠となる事実を裏付ける証拠があるかを検討する必要があります。例えば、時効が成立していないかどうかは①の問題で、証拠の収集が②の問題といえます。

証拠になるもの

当事者間に争いのある事実は、当事者から提出された証拠に基づいて、事実認定がされます。不貞慰謝料の請求が認められるには、「不貞行為」を立証しなければなりません。以下、証拠に関する考え方を簡単に説明します。

なお、相談者様から、「私が問い詰めたら相手は認めましたが、それでも証拠が必要ですか?」と質問されることがあります。一時認めていたとしても、後に否認に転じることは普通にありますので、否認に転じた場合に備えて証拠を準備しておくべきです。言った言わないの争いにならないためにも、できることなら「認めた」という事実を録音や書面に残しておくことは有益です。とは言うものの、それでも否認されることはあります。よくあるのが、「その場をおさめるために認めただけだ。」という言い分です。冷静な話し合いの中で相手が不貞の事実を認めたといえるよう、聞き方にも注意してください。

証明

実務上、裁判官に事実の存在について確信を抱かせることを「証明」といいます。どのような状態になった時に証明出来たといえるかは所説あるものの、「通常人なら誰でも疑いを差し挟まない程度」に至った場合です。「十中八九間違いない」と言える状態だとイメージすればよいでしょう。

●具体例
1.肉体関係を直接推認させる写真等
自宅、ホテル等で性交渉を行ったこと自体を撮影した写真や動画は、肉体関係を直接立証できる証拠です。あまり多くはありませんが、ベッドで一緒に撮影した写真などです。

2.ホテルへの出入りを撮影した写真等
ホテルに入る場面を撮影した写真等は、肉体関係を直接立証することはできません。しかし、特にラブホテル等に2人で入った(出た)ことは、不貞の事実を強く推認させる証拠になります。ホテルに入っておいて、何もなかったというのは一般感覚で理解されないでしょう。「仕事の話をしていた」等の主張がされることもありますが、仕事の話をラブホテルでしなければならない合理的な理由を説明できない限り、不貞の事実が認められる可能性は高いといえます。入ってすぐに出てきたと言われることもあるので、できれば入ってから出てくるまでを押さえるべきです。いわゆる探偵も、入ってから出て来るまで待って出入りを撮影するのが一般的です。

3.不貞相手とのメール・LINE等
「~時にホテル集合ね」「奥さんにばれたら大変だね」等のメールのやり取りから、不貞が発覚することがよくあります。これらも、肉体関係を直接立証する証拠ではありません。しかし、何の関係もない男女が上記の内容のメールを送り合うことは不自然で、不貞の事実を推認させる事実の一つになります。「夫のスマホのLINEを撮影した証拠があります!」と仰る方がいますが、冷静になってみると、誰かのスマホからとあるニックネームの相手へ送られた内容だとしかわからない場合が少なくありません。誰のスマホから、何時、誰から誰に送られたのかを読み取れるように撮影するようにしてください。

4.ホテルの領収証
財布からホテルの領収証がでてきたということもあるでしょう。ホテルに泊まったという事実は、肉体関係を強く推認させます。しかし、ホテルの領収証は、ある日にホテルに宿泊したという事実を推認させるものの、誰が誰と宿泊したのかまではわからないことが多いでしょう。こういった場合に、ホテルの宿泊者台帳を弁護士会照会などで開示を求めることもあります。開示してもらえない場合や、開示されても偽名である場合、1人分の記入しかない場合もあるので必ず不貞の事実や不貞相手が判明するわけではありません。

5.複合的な立証
やはり、探偵による調査や自分で浮気現場へ乗り込んで写真撮影するなどが確実な証拠と言えます。否認されたとしても、単体で立証できる証拠がない場合であれば、他の証拠を積み重ねて立証せざるを得ません。証拠が不十分なまま問い詰めたところ、否認されてしまい、悔しい思いをすることになりかねませんので、思い切った行動に出る前に一度、証拠が十分なのかどうかを弁護士へ確認されてください。

不貞慰謝料を請求する方法

弁護士が依頼を受けた場合には、配達証明付内容証明郵便で請求を行うことが多いと思いますが、慰謝料請求の方法に制限はありません。したがって、書面での請求はもちろん、口頭でもメールでも構いません。

内容証明郵便での請求について
配達証明付内容証明郵便は誰でも利用できます。送った手紙の内容の控えが残ること、手紙が到達した日が特定されることから、後で相手方に「知らなかった。受け取っていない。」と言われるトラブルを防げるというメリットがあります。ただし、当然のことながら送り先(相手方)の住所や就業場所などが分からない場合には、これらを調べるところから始めなければなりません。相手の住所は、相手の車の登録番号、携帯電話番号などから調べることができる場合があるので、諦めずに弁護士へご相談ください。最近では、SNSの投稿などから手掛かりがつかめることも多くなっています。

内容証明郵便に記載する内容

内容証明郵便は、文字数や行数、使用できる記号などの制限がありますが、内容自体は自由に記載して構いません。一般的には、自分が何者で、何を考えて手紙を送るに至ったのか、手紙の受け取り手には何をしてほしいのかは最低限明らかにします。氏名、住所、事情、請求内容、賠償請求であれば振込口座、返答期限です。中には、「会社に伝えるぞ。」、「周囲に話すぞ。」、「○○にバレたら困るでしょ。」などと記載しようとされる方もおられますが、脅迫罪になりかねませんので注意してください。また、敢えて、実家や会社へ送ろうとされる方もいますが、プライベートな事柄で周りに知られたくないのが普通でしょうから、反対に慰謝料請求を受けかねませんのでやめておくべきでしょう。

離婚後でも慰謝料請求は可能?

消滅時効にかかっていない限り、慰謝料の請求は離婚後であっても可能です。もっとも、離婚成立後に不貞が発覚した場合には、離婚(婚姻関係破綻)と不貞との因果関係が争われることがあります。離婚した原因は別にあるのではないかということです。実は配偶者が不貞関係にあったことを知ったことで、事後的にではあるものの、精神的苦痛を感じたとして損害賠償請求することは一応可能です。

相手が慰謝料を支払わないときの対処法

相手方が金銭の支払いを約束したにもかかわらず、賠償義務を果たさない場合には強制的に払わせたくなるでしょう。いわゆる不動産や動産、預金口座、給与債権を差し押さえるなどといった強制執行です。もっとも、合意書や念書等の私署証書で慰謝料の支払を約束させたとしても強制執行はできませんので注意が必要です。強制執行を行うには、執行認諾文言付の公正証書、調停調書、判決書等の債務名義が必要です。

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不貞慰謝料の請求を受けた場合

慰謝料を請求されたらまず確認すること

慰謝料を請求されたら、少なくとも心当たりがある場合は弁護士に相談することをお薦めします。本当に慰謝料を払うべき状況なのかどうか、請求額が妥当なのかなど確認することで、払うとしても納得して払うことができます。心当たりがない場合でも、放置すれば就業場所に連絡が来たり、訴訟を提起されることも考えられますので、弁護士に相談して適切な対応をするべきです。

方針を決める

慰謝料請求に対してどう対応するかを決めなければなりません。相手の言うことを認めて従うのか、事実関係を争うのか、支払額を争うのか、支払の方法(一括か分割か)をどうするのか等を考えなければなりません。個別の事案でどれを選択すべきか異なります。返事は請求と同じく内容証明で行うべきなのか、電話で対応するのかなど交渉の方法も色々あります。お金がないということもあるでしょうし、ダブル不倫であれば、請求がクロスするので、一挙解決する方が望ましいこともあります。個別具体的に方針を検討すべきところです。

内容証明を無視することは避けるべき

内容証明郵便は手紙に過ぎませんので、無視をしたとしても違法ではありません。しかし、心当たりのある場合、無視をしたことで被害者の感情を逆撫ですることは否定できず、また、裁判所も誠実に対応をしない加害者の態度を非難して慰謝料の増額事由とすることもあり得ます。
心当たりのない場合であっても、無視はせずに回答するようにしてください。

代理人を通して請求されたら

誰からの請求であっても、やるべきことは特に変わりません。ただ、請求する側も弁護士費用をかけてまで請求していること、弁護士倫理の観点から弁護士が無茶な請求をする可能性は高くないことから、何らかの証拠がある場合が少なくないので、慎重に対応すべきではあります。弁護士は、請求する側も請求される側も経験しているので、一度相談されると良いと思います。

請求された慰謝料を減額するには

慰謝料を減額する方法

慰謝料に決まった額はありません。たとえ相場と言われる金額より多いとしても、当事者が納得して合意すれば有効な合意となります。証拠があるかどうかにもよりますが、話し合いで解決に至らない場合には訴訟が提起されることも少なくないです。裁判になれば必ず判決まで進むというものではなく、多くの事案が和解によって解決されています。もっとも、相手が弁護士費用や時間をかけているのであれば、それなりの金額でなければ和解に応じないでしょう。慰謝料請求は、調停で行うことも可能ですが、調停は裁判所で調停委員を介して話し合う場なので、話し合いで解決できる見込みがないのであれば、調停を利用する価値はないといえます。

合意後、慰謝料を支払わないとどうなる?

執行認諾文言付の公正証書、調停調書、判決書等の債務名義が作成されている場合には、強制執行手続が執られる可能性があります。強制執行では、動産・不動産・給与債権等の資産が差し押さえることが可能です。
合意書・念書・覚書等の私署証書で合意した場合には、直ぐに強制執行ができず、判決や調停調書などの債務名義を取得することから始めなければなりません。

不貞慰謝料について悩んだら弁護士に相談してみましょう

不貞慰謝料請求は一般的に多く行われていますが、請求する側も、された側も様々な角度から個別の事案に応じた対応をしなくてはなりません。中には、不貞は夫婦や家族の問題であり、非常にプライベートな内容を含むため、「恥ずかしい」と考えて相談を躊躇う方もいらっしゃると思いますが、決して少ない賠償額ではないので、弁護士へご相談されてください。

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。