労務

ハラスメントの労働審判で、会社側が主張すべき反論と答弁書

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士

  • ハラスメント対応

労働審判は、個別労働関係民事紛争に関して、3回以内の期日で迅速に処理する制度であるため、訴訟のように長期間の間に主張を行っていくわけにはいかず、短期間で適切かつ全ての主張と証拠を提出することが求められます。

目次

ハラスメントによる労働審判に会社はどう反論すべきか?

セクハラ、パワハラ、マタハラなどのハラスメント事案は、その具体的な内容が、口頭で言ったことであったり、密室で行われたことであるなど客観的な証拠に乏しい場合が少なくありません。また、受け取り手の主観によるバイアスがかかった主張であることも多いものです。

裁判所は客観的な証拠をとても重視します。これは、労働審判でも同じです。当事者だけでなく、目撃者などの関係者への事実確認を行い、メールや勤怠記録、ログ履歴、業務報告などとの整合性を踏まえて、反論を行うことが重要となります。これを短期間で準備しないといけないところが労働審判の難しさです。

労働審判とはどのような制度か

労働審判制度は、労働審判官1名(裁判官)と民間から選ばれた専門的知見を有する労働審判員2名とで構成される労働審判委員会が、個別労働関係民事紛争について審理するものです。審理は、特別の事情がない限り、3回以内の期日で審理を終えなければならないとされています。
実務上は、2回目の期日で終了している場合が多く、次いで多いのが3回目の期日となっており、多くの労働審判は、申立てから3か月以内に終了しているようです。

労働審判の主な流れ

申立てから、原則として40日以内に第1回期日が指定され、相手方は、多くの場合第1回期日の1週間ないし10日前までに答弁書等の提出をしなければなりません。期日は1~3回開かれます。その間、調停成立の見込みがあれば調停による解決が試みられ、そうでなければ労働審判がなされます。労働審判に対して異議申立てがされれば訴訟へ移行します。

通常の裁判との違い

最も大きな違いは、労働審判は普通の裁判に比べて審理期間が圧倒的に短いことです。労働審判は、通常の訴訟とは異なり、原則として3回以内の期日で審理を終えることとされており、通常の裁判では、何度も期日が重ねられ、解決までに1年以上を要することが多いことと比べると、圧倒的に短いです。

また、労働審判では、申立書や答弁書、主張書面・補充書面など文書で主張を行い、証拠も提出しますが、労働審判委員会は職権で証拠調べが可能であり、期日では積極的に調停委員会から主張や証拠に限らず、様々、口頭で聴取されます。審理期間が短い中で、期日の場で色々と聞かれるため、持ち帰って確認しますということが難しいのが実情です。

このように、審理期間が短いことから、準備を短期間で行い、期日で臨機応変な対応が求められることが大きな違いです。

その他、労働審判は、原則として非公開であること、労働審判委員会が審理を行うこと、対象が個別労働関係民事紛争に限られること、取下げに相手方の同意が不要であることなどの違いもあります。

ハラスメントで労働審判を申立てられた際にすべきこと

申立人の主張を把握する

申立人(労働者であることが圧倒的に多いです。)が主張する「事実」を、整理5W1Hに注意して、時系列で具体的に整理するなど、申立人は何があったと言っているのかを正確に把握することが第一歩です。申立書や答弁書等は、ある意味労働審判委員会へのプレゼン資料です。
代理人弁護士がしっかりとしている場合には、比較的綺麗に事実が整理されていますが、特に本人申立ての場合は、事実と評価がごちゃごちゃに記載され、時系列もわからない申立書であることも多く、主張の把握に難儀します。

会社側の反論を記載した答弁書の作成

答弁書の提出期限について

労働審判を申立てられた会社側は、第1回期日の1週間から10日程度前に答弁書等の提出を求められます。原則として、申立てから40日以内に第1回期日が指定されることからすると、ご相談を受けてから提出期限までに10日から2週間程度しかないということもあります。早く弁護士へ相談をされてください。

実務上は、交渉段階から会社に代理人が就いている場合など、裁判所が会社側に代理人弁護士が就く予定であることを把握できた場合には、裁判所から事前に弁護士へ日程調整の連絡があり、40日よりも先に初回期日が指定されることもあります。

答弁書作成のポイント

パワハラの場合

パワハラの具体的事実が申立書で記載されているので、何がパワハラだと主張しているのかを把握した上、事実毎に認否を行います。そのうえで、各事実が職場で行われたといえるのか、優越的な関係を背景とした言動なのか、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものなのか、労働者の就業環境が害されるものであったのかなどパワハラの定義を意識しつつ、会社側の主張をも記載します。
目撃者や関係者など第三者から聴取した内容やメール、勤怠記録、ログ履歴など客観的記録に基づく主張をすることが重要です。
パワハラの場合は、業務上必要かつ相当な範囲の行為は許されるため、どうして行為に至った経緯や理由を証拠に基づいて記載することも重要になります。

セクハラの場合

セクハラの具体的事実が申立書で記載されているので、何がセクハラだと主張しているのかを把握した上、事実毎に認否を行います。そのうえで、各事実が、職場で行われたのか、労働者の意に反した性的言動なのか、労働者の対応により労働条件について不利益を与えた若しくは与えるような行為なのか、性的言動により職場環境が害されたのかといったセクハラの定義を意識しつつ、会社側の主張をも記載します。
目撃者や関係者など第三者から聴取した内容やメール、勤怠記録、PCログ履歴など客観的記録といった証拠に基づく主張をすることが重要です。
相手が嫌がっていなかった、コミュニケーションの一部だなどと時代遅れの発送のセクハラ行為者がいますし、セクハラ被害者が過剰に反応している場合もありますが、主観的な評価よりも、できる限り、経緯や関係性などを客観的な証拠に基づいて記載することが重要です。

労働審判において会社側が主張すべき反論とは

被害者が主張するようなハラスメントの事実は存在しない

そもそも、事実がなければ申立人の請求は認められませんので、申立人の主張する事実を整理し、その有無について主張することは必須です。

会社側は法的責任を負わない

行為自体は存在するものの、業務上必要かつ相当な範囲の言動なので違法性がない(パワハラに該当しない。)、合意・同意があったとして違法性がない(セクハラに該当しない。)など、客観的な行為自体はあるものの法的責任を負わないという主張もあり得ます。

ハラスメントによる労働審判を未然に防ぐための対策

労働審判になるような個別労働関係紛争が生じないよう、まずは法令や通達、ガイドラインなどに沿った運用を行うことです。万が一、労働者と紛争になりそうな状況になった場合も、間違った知識や感情的な対応を行わないことです。
最近では、Google検索、社労士・弁護士ユーチューバーの動画などで労働者も簡単に法的情報を得られるようになっていますので、誤った対応は簡単にわかってしまいます。顧問弁護士など専門家に日頃から相談できる体制を作っておくというのが望ましでしょう。

よくある質問

労働審判では、必ず代理人を選任しなければならないのでしょうか?

代理人を選任することは必須ではなく、本人で対応することも可能です。特殊性から、労働審判については代理人を選任されることを強くお勧めします。

労働審判の代理人を弁護士に依頼した場合、会社関係者は出席しなくても良いのでしょうか?

期日に様々質問がされ、持ち帰って回答するということでは3回の期日に主張すべきことを主張し尽すことは困難です。事情を知る、また、判断のできる会社関係者の方は期日にお越しいただくべきです。

ハラスメントによる労働審判は、解決までにどれくらいの期間がかかりますか?

多くの事案で申立から3ヶ月以内にしています。裁判所のホームページでは、平均審理期間80.6%,67.6%の事件が申立てから3か月以内に終了しているとされています(平成18年から令和3年)。

労働審判でも合意に至らなかった場合、会社は異議申し立てをすべきでしょうか?

合意できなかった場合には、審判がなされます。主張と証拠を尽せずに審判がなされた場合や、裁判所で立証が可能だと考えられる場合には異議申し立てをすべきでしょう。

ハラスメントが業務と無関係である場合でも、会社が責任を負うことになりますか?

負う場合もあります。

ハラスメントの原因が被害者側にもあったのですが、この点について主張すべきでしょうか?

過失相殺を主張できるようであれば主張すべきでしょう。ハラスメントに被害者にも原因があるというのはあまり多くはなく、感情的な対立を生みかねず、調停での解決が困難となる可能性が高くなる場合もあります。

答弁書が期日までに提出できない場合、どうしたらいいでしょうか?

避けてください。どうしても難しい場合には、事前に裁判所へ連絡を入れてください。

精神疾患の発症が、ハラスメントではなく別の原因によるものであった場合、会社は慰謝料を支払う必要がありますか?

ハラスメントではなく、また精神疾患がその他会社の業務と関係ない(安全配慮義務違反がない。)ということであれば、会社は慰謝料を含め損害賠償義務を負いません。

ハラスメントの労働審判において、会社側は可能な限り反論すべきです。答弁書の作成などでお悩みなら弁護士にお任せください。

労働審判は、短期間に多くの対応を求められるため、専門的な知識がないと適切な対応は困難です。弁護士への相談を強くお勧めします。

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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