監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
目次
働き方改革第3の柱「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」
働き方改革は、3つの柱で構成されており、そのうちの第3の柱とされるものが、「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」に関する施策です。
第1の柱 | 働き方改革の総合的かつ継続的な推進(雇用対策法) |
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第2の柱 | 長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等(労働基準法、労働安全衛生法など) |
第3の柱 | 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(パートタイム労働法、労働契約法など) |
「同一労働同一賃金」との関係
同一労働同一賃金は、正社員と非正規社員(パートタイム労働者、有期雇用労働者)との間の不合理な待遇差を無くし公正な待遇を確保することであり、雇用形態にかかわらない公正な待遇確保の根幹となるものです。
「公正な待遇の確保」の考え方
不合理な待遇差を無くし、公正な待遇を確保するためには、均衡待遇と均等待遇の観点から判断されることとなります。
均衡待遇
均衡待遇とは、職務内容(業務の内容と責任の程度)、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情を考慮して不合理な待遇差を禁止することを意味します。
均等待遇
均等待遇とは、職務内容(業務の内容と責任の程度)、職務内容・配置の変更範囲が同じ場合は差別的な取扱いを禁止すること(待遇を同じにしなければいけないこと)を意味します。
「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」の内容
雇用形態にかかわらない公正な待遇を確保する施策として、不合理な待遇差をなくすための規定整備、労働者に対する待遇に関する説明義務の強化などが図られています。
不合理な待遇差を解消するための規定の整備
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)、労働者派遣法が改正され、パートタイム・有期・派遣労働者の非正規労働者に関して、均衡待遇・均等待遇が図られるよう統一的に整備されています。
比較対象となる「通常の労働者」とは?
不合理な待遇差があるかどうかは、通常の労働者と比較することとされています。
通常の労働者とは、社会通念に従い「通常」かどうか判断することとされ、一般的には期間の定めのないフルタイム労働者(いわゆる正社員)を意味します。
パートタイム労働者・有期雇用労働者
パートタイム労働者とは、一週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者と比べて短い労働者をいい、パートタイマーだけでなく、アルバイト、嘱託社員、準社員など様々な名称に関係なく所定労働時間の長さで判断されます。
有期雇用労働者とは、期間の定めのある労働者をいいます。
有期雇用労働者かつパートタイム労働者ということもあります。
派遣労働者
派遣労働者とは、労働契約を締結した派遣元の指示で派遣先の指揮命令を受けて働く労働者をいいます。
あくまでも派遣元に採用され、派遣元との間で雇用契約が成立しており、本来は使用者から指揮命令を受けるところ、派遣先の指揮命令を受けて働くところが、一般的な雇用契約とは異なります。
労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
パートタイム労働者や有期雇用労働者を雇入れた際に、賃金・教育訓練・福利厚生施設の利用・正社員転換の措置など労働条件に関して事業主は説明しなければならないだけでなく、パートタイム労働者や有期雇用労働者から求めがあれば、通常の労働者との待遇差の内容だけでなく理由や待遇を決定した際に考慮した事項についてまで説明しなければなりません。
職務内容が異なることによる待遇差でも説明責任はあるか?
職務内容が異なることによる待遇差であれば、まさにそのことを説明することになります。
行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備
行政から事業主に対して報告徴収、助言、指導等を行うことや、行政による裁判外紛争解決手続き(ADR)に関して根拠規定が整備されています。
ADRとは、裁判によらずに中立的な第三者を交えて柔軟かつ早期に解決を可能とする制度で、あっせん、調停、仲裁があります。
不合理な待遇差かどうかは容易に判断ができないことも多く、専門的知識に乏しい当事者らによる解決は難しい場合が多いでしょう。他方で、労働審判や訴訟といった大きな紛争となれば、長期間、熾烈に主張を行うこととなってしまい、労使関係が修復不能な程度まで悪くなってしまいます。
そこで、穏便で柔軟かつ早期な解決を図るべく、様々な手段について規定に盛り込み整備がされています。
どのような待遇差が不合理と判断されるのか?
均衡待遇、均等待遇なのかから不合理な待遇差かどうかを判断することになるのですが、基準にあてはめたら答えがでるというものでもなく、待遇差を設けた目的や趣旨、待遇の性質、内容や程度、比較対象者の業務内容など様々な事項を考慮する必要があります。
手順としては、以下のようになります。難しいのが、均衡待遇の評価でしょう。
ざっくりとした説明となりますが、待遇差の性質や目的を達成するための待遇差であることが、職務の内容や職務の内容及び配置の変更の範囲、その他事情から合理的に説明できるかどうかということになります。
- 労働者をタイプごとに整理し、比較する対象者を決めます。
- 均衡待遇の問題なのか、均等待遇の問題なのかを峻別
- 待遇差を整理
- 待遇差が不合理なのかを検討
住宅・家族手当の不支給は不合理な待遇差にあたるのか?
住宅手当や家族手当を正社員にだけ認めている企業もあろうかと思います。
例えば、正社員には長期間働いてもらいたいとすると、家族、住居費の増加などライフステージに応じた配慮をすることで、長期雇用に繋がるということは言えるでしょう。
そう考えると、正社員との待遇差は合理的な理由があるとも考えられます。
他方で、転勤で負担が増えることに配慮することが目的・趣旨だとすると、それは正社員だから生じる負担ではないのですから、不合理な差別となる可能性があります。
福利厚生施設の利用を正社員にしか認めていない場合は?
福利厚生施設の利用を正社員に限定した場合はどうでしょうか。
例えば、正社員は長期雇用を前提としていて、雇用の安定のため福利厚生施設の利用を認めているとすると、福利厚生施設の利用と長期雇用とは関係性があるとはいえませんし、業務内容から説明がつく手当でもないといえます。
また、非正規労働者にも福利厚生施設の利用を認めなければならないとされているため(パートタイム有期雇用労働法12条)、不合理な差別待遇となると考えておくべきでしょう。
不合理な待遇差を解消するための企業の取り組み
まずは、自社の労働者の形態やそれぞれの業務内容、待遇などを整理することから始めてください。
そのうえで、比較対象者を設定します。待遇差の性質・目的・趣旨から、当該待遇差が合理的に説明できるかどうかを一つ一つ検討してください。
そうすると、しっかりと検討しないといけないなという具体的な待遇差が分かってきますので、専門家の力をかりながら、一つ一つ対処を考えてください。
処遇改善に取り組まない会社への罰則規定はあるのか?
罰則規定はないものの、もらえるはずの賃金が不当に貰えていなかったとして、過去の翻って多額の請求を受ける可能性があります。
また、当該請求をしてきた労働者だけでなく、多くの労働者に対して翻って支給することにもなりかねません。
改正法の施行期日
大企業:2020年4月1日から施行
中小企業:2021年4月1日から施行
待遇差の合理性が問われた判例
事件の概要
正社員に認めている扶養手当を契約社員に対して支給していなかったことについて、不合理な待遇差だとして、当該契約社員が差額を請求した事案です。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
日本郵便(大阪)事件(最一小判令2.10.15労判1229号67頁)扶養手当は、当該正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものであると認定したうえで、この目的に照らせば、本件契約社員についても、扶養家族がおり 、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給することとした趣旨は妥当するというべきである。そして、契約期間が6か月以内又は1年以内とされ、本件契約社員は、契約期間が6か月以内又は1年以内とされており、本件契約社員らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。
とすると、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情に相違があっても不合理と判断しました。
ポイント・解説
本判決は妥当なものだといえます。
裁判では、本判決のように、詳細に実態を検討して判断されるため、契約社員だからといって長雇用が期待されていないと一律にいえるとはいえないということを前提に、実際の実態をも踏まえて検討が必要になります。
正規雇用と非正規雇用の待遇差の解消を目指すなら、企業労務の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
不合理な待遇差か否かの判断は、判例・裁判例もまだまだ少なく、様々な事情を考慮しつつ判断をしないといけないことから、弁護士など専門家の力をかりて検討することが重要です。
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