労務

働き方改革関連法案:(イ) 第2の柱:長時間労働の是正と多様で柔軟な働き方の実現等

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士

働き方改革を構成する3つの柱のうち、多くの企業に対して最も影響があるといえる「長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等」に関して、ここでは説明します。

目次

働き方改革の基盤となる3本柱について

働き方改革は、3つの柱で構成されています。

第1の柱 働き方改革の総合的かつ継続的な推進(雇用対策法)
第2の柱 長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等(労働基準法、労働安全衛生法など)
第3の柱 雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(パートタイム労働法、労働契約法など)

「長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等」について

第2の柱は、労働時間に関する制度の見直しを行い(労働基準法や労働安全衛生法の改正)、勤務間インターバル制度の普及促進(労働時間等設定改善法の制定)、産業医・産業保健機能の強化(労働安全衛生法の改正)といった、具体的な労働時間や労働者の健康確保などに関する改革です。

労働時間に関する制度の見直し(労働基準法・労働安全衛生法)

長時間労働は、労働者の健康を害するだけでなく、ワークライフバランスを失わせることや、男性の家事育児参加を阻害し女性の就労機会を奪う原因となっており、労働時間を抑制し、労働者にリフレッシュの機会をあたえることは喫緊の課題であったことから、労働基準法や労働安全衛生法が改正され、時間外労働の上限規制などが実施されました。

時間外労働の上限規制の導入

働き方改革以前は、時間外労働の上限は大臣告示によって上限基準が定められていたものの罰則もなく、特別条項付き36協定を締結すれば、上限基準を超えて働かせることが可能であったことから、長時間労働が見逃されてきました。

そこで、労働基準法が改正され、時間外労働の上限が次のとおりとされ、違反すると6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。

(原則)

  • 月45時間
  • 年360時間

(特別条項付き36協定がある場合)

  • 年720時間
  • 時間外労働と休日労働の合計月100時間未満
  • 時間外労働と休日労働の合計が2乃至6か月平均が全て80時間
  • 45時間を超えるのは年6か月まで

中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し

時間外労働の上限規制だけでなく、令和5年4月1日から、中小企業においても、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率が25%から50%に引き上げられ、時間外労働の抑制が図られています。

一定日数の年次有給休暇の確実な取得

年次有給休暇は心身のリフレッシュを図るための労働者の当然の権利といいながら、実際は取得できていない実態がありました。そこで、労働基準法が改正され、平成31年4月から全企業に対して、年次有給休暇を10日以上付与される労働者(管理監督者を含む)を対象に、時季を指定して年5日間取得させることが義務付けられました

労働時間の状況の把握の実効性確保

労働時間を抑制するためには、労働時間を正確に把握することが前提となりますが、労働時間を適正に把握できていない企業もまだまだあります。

そこで、労働安全衛生法が改正され、平成31年4月から、やむを得ない場合を除きタイムカードなど客観的な方法で労働時間を把握することが義務付けられています。

フレックスタイム制の見直し

始業及び終業時刻を労働者の決定に委ねるフレックスタイム制に関しても、より柔軟な働き方ができるよう、労働基準法が改正され、平成31年4月から清算時間の上限が3か月に延長され、月を跨いだ労働時間の調整ができるようになりました。

高度プロフェッショナル制度の創設

書面等による合意に基づいて職務の範囲が明確されていて、年収が一定の水準(平均給与額の3倍を相当程度上回る水準)を上回る労働者に限りますが、金融商品の開発業務やディーリング業務など高度な専門知識等を必要とし、時間と成果との関連性が高くないと一般的にいえる業務に従事する労働者に関しては、一定の手続きをとれば、時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務などの規定が適用されないこととされています。

勤務間インターバル制度の普及促進等(労働時間等設定改善法)

労働者に休息時間を十分与えるために、労働時間等設定改善法が改正され、終業から次の始業までの間に一定時間の休息を確保させる「勤務間インターバル制度」が創設されました。

ただ、法的義務ではなく努力義務であるため、普及しているとは言い難い状況であり、勤務間インターバル制度普及等のための有識者検討会が立ち上げられ、助成金による導入支援、専門家による相談支援、導入事例集や導入手順をまとめた資料の周知など普及促進策が講じられています。

産業医・産業保健機能の強化(労働安全衛生法等)

労働者の健康を確保する施策も強化され、労働安全衛生法及び労働安全衛生規則などの改正により、以下のようなことが明記され、産業医・産業保健機能や長時間労働者に対する面接指導等の強化が図られています。

  • 産業医は、専門的立場から、独立性や中立性をもって必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。
  • 産業医は、知識、能力の維持向上に努めなければならない。
  • 事業主は、産業医の辞任、解任時には、遅滞なく衛生委員会等へ報告しなければならない。
  • 事業主などへ意見を述べることや労働者から必要な情報を収集する権限など産業医の権限の明確化
  • 事業者の産業医に対する健康管理等に必要な情報の提供義務
  • 産業医による勧告の内容等の記録・保存義務や衛生委員会等への報告義務
  • 労働者からの健康相談に応じ、適切に対応するために必要な体制整備
  • 産業医等の業務の内容等の周知

など

労働者の健康情報は産業医に報告すべきか?

長時間労働など健康を害するリスクを見逃さないため、産業医を選任した事業者は、次のような情報を産業医へ提供しなければなりません。

  • 健康診断、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックに基づく面接指導後の措置に関する情報
  • 時間外・休日労働が1か月80時間を超える労働者の指名・超過時間に関する情報
  • 産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要と認められる労働者の業務に関する情報

産業医へ提供する情報は、要配慮個人情報を含むものであるため、特に慎重な取り扱いが求められるため、労働者の健康情報等の取扱規定を策定することが望ましいといえます。

第二の柱において企業が取り組むべき施策

労働時間を適切に把握できていなければ、時間外労働の上限規制を遵守することなどは不可能でしょう。

第二の柱で求められるものは、事業主が労働時間を適切に把握することが大前提となります。

まずは、自社の労働者の労働時間を正確に把握することが取り組むべき第一歩といえます。

時間外労働の上限を超えて働かせることは違法

時間外労働の上限規制を超えて労働させると6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。

労働時間を適正に管理する方法とは?

事業主は、労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、 労務を提供し得る状態にあったかを把握する必要があり、事業者が労働時間の状況を把握する方法としては、やむを得ない場合を除き、原則として、タイムカード、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録、事業者(事業者から労働時間の状況を管理する権限を委譲された者を含む。)の現認等の客観的な記録により、労働者の労働日ごとの出退勤時刻や入退室時刻の記録等を把握しなければなりません(記録は3年保存)。

労働時間に関する裁判例

事件の概要

造船作業に従事する従業員が、所定労働時間以外(始業時刻前、終業時刻後、休憩時間中)に更衣室で作業服への着替え、資材等の受け出し作業、散水作業、昼食時の一次着替えなどを行っていたところ、これらの時間も労働時間だとして賃金を請求した事案で、争点は、賃金を支払うべき労働時間とは何かが真正面がから争われ、実労働時間についてのリーディングケースとされています。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる。

労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うこととされている場合であっても、特段の事情のないかぎり、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるなどとして、各行為は労働基準法上の労働時間に該当するとしました。

ポイント・解説

賃金を支払うべき実労働時間は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間であって、これは客観的に判断されることとされています。

使用者が意図していなかったとしても、業務の性質上避けられない準備行為であるとか、黙示的に義務付けられていると行為であったなど、実態として義務付けられている行為があれば実労働時間となってしまいます。

時間外労働の上限規制は、この実労働時間を対象とするものですから、労働時間を把握するということは、この実労働時間を把握しなければならないので注意してください。

2023年の割増賃金引き上げに向けて中小企業がすべきこと

中小企業に対する猶予期間が終わり、令和5年4月からは、中小企業にも60時間を超える時間外労働については、割増賃金率が25%から50%に引き上げられています。

見落としている実労働時間があれば、実労働時間が60時間を超えてしまうということがあるかもしれません。上限規制を守っていたとしても60時間を超える時間外労働があれば残業代が増加することになります。

そこで、やはり、実労働時間を適正に把握できているかは再度確認すべきでしょう。

働き方改革における「中小企業」の定義

「中小企業」の定義

引用元:厚生労働省働き方改革関連法の主な内容と施行時期

各改正法の施行期日について

働き方改革関連法の主な内容と施行時期

引用元:厚生労働省働き方改革関連法の主な内容と施行時期

働き方改革の実現に向けて、何から取り組んでいいのか分からないとお悩みなら、労務分野に精通した弁護士にご相談下さい。

働き方改革といっても、様々な法律の改正が絡み、何をどのように取り組んだらいいのか、まずは何をすべきなのかわからないということも往々にしてあります。

政府もリーフレットや解説資料などを作成して公開しているものの、実際に各制度に対応することは容易ではないでしょう。

特に中小企業においては、労務分野に精通した弁護士など専門家に一度ご相談いただくのが、働き方改革への第一歩といえるのかもしれません。

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福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長
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