目次
- 1 部下を宗教に勧誘する社員をパワハラとして処分することは可能ですか?
- 2 部下から嫌がらせを受けていると相談がありました。部下から上司に対する嫌がらせもパワハラにあたるのでしょうか?
- 3 パワハラのヒアリングを会社近くのカフェで行うことは問題ないですか?
- 4 パワハラ加害者を解雇する場合も、解雇予告手当の支払いは必要でしょうか?
- 5 パワハラを行った社員に対し、配置転換を命ずることは問題ないですか?
- 6 パワハラの実態を調査するために、社内アンケートを実施することは問題ないでしょうか?
- 7 パワハラ問題について、相談者と行為者の主張が一致しない場合、会社はどのような対応を取るべきでしょうか?
- 8 正当な指導かパワハラかを判断する基準はありますか?
- 9 パワハラの再発防止にはどのような取り組みが有効となりますか?
- 10 パワハラに関する社内ルールを、就業規則に規定することは可能ですか?
- 11 パワハラがあったことを裏付ける証拠にはどのようなものがありますか?
- 12 社内に設置する相談窓口の担当者は、どのような人材を選任すべきでしょうか?
部下を宗教に勧誘する社員をパワハラとして処分することは可能ですか?
パワハラに該当することも考えられますが、懲戒処分を行うことには慎重になる必要があります。
宗教への勧誘は、パワハラ6類型でみると、「個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)」に該当するおそれが強いと思われます。また、部下に私事を命じるのは、明らかに不適当な命令ですし、合理的な理由がないのに、部下に対して仕事以外のことに執拗に干渉することは控えるべきです。
宗教については、特に私事性が高いといえるため、職務上の地位等の優位性を背景として、宗教に勧誘することはパワハラに該当するおそれが高いでしょう。もっとも、いきなり懲戒処分をするのではなく、まずは事実確認を行い、口頭注意等を検討し、それでもやめない場合に懲戒処分を検討することになります。
行為者への処分も重要ですが、被害者に謝罪させて、今後はそのようなことを行わないと約束させる等、人間関係の改善にも配慮してください。
部下から嫌がらせを受けていると相談がありました。部下から上司に対する嫌がらせもパワハラにあたるのでしょうか?
上司に対して、部下が「優越的な関係」にあり、具体的な言動がパワハラに該当するのであれば、パワハラにあたります。
そこで問題となるのが、「会社の部下が上司に対して優越することがあるのか?」ということです。
この点については、パワハラ防止指針の内容が参考となります。「優越的な関係」として、職務上の地位が上位とされている者が挙げられているだけでなく、業務上必要な知識・経験を有しているため、その者の協力を得られなければ業務を円滑に進めることが困難である同僚・部下、さらに集団となった同僚・部下が該当する場合があるとされているのです。
このことから、部下が上司に対して優越する場合があるため、パワハラに該当するケースは存在します。同様に、職場の同僚が集団となった場合の行為(無視する等)も、パワハラに該当するケースがあると考えられます。
パワハラのヒアリングを会社近くのカフェで行うことは問題ないですか?
一連の調査の内容は守秘義務によって守られることが、相談窓口制度の信用性を担保するために重要です。
会社近くでなくとも、不特定多数人が出入りするカフェでパワハラのヒアリングを行うことは、相談者、行為者のプライバシーが守られないおそれがあります。もっとも、相談者がカフェで話をすることを希望する場合もあるでしょう。その場合、個人名を挙げることを控えるよう事前に約束させる、人が少ない店を選ぶ等の配慮をしたうえで行ってください。
パワハラ加害者を解雇する場合も、解雇予告手当の支払いは必要でしょうか?
解雇予告制度の例外として、「労働者の責に帰すべき事由」で解雇する場合があります。
この事由は、即時の解雇を正当化するに足りる事由に限定されるため、労働者に帰責性のある事由に基づく解雇全てが該当するわけではありません。
パワハラ加害者を解雇する場合、労働者の非違行為が、解雇予告制度による保護を否定されてもやむを得ないほど重大であり悪質である場合に限って、解雇予告手当の支払いを要しないことになります。なお、労働基準監督署による除外認定を受ける必要があるので注意してください。
パワハラを行った社員に対し、配置転換を命ずることは問題ないですか?
使用者は、雇用契約に基づき、労働者に対して人事権(配置転換は、企業組織における労働者の地位の変動や、処遇に関する使用者の決定権限として認められます)を行使することができます。ただ、決して無制約ではなく、合理的な裁量の範囲で人事権を行使する必要があり、裁量を逸脱・濫用した場合には、人事権行使は無効となります。
判例では、配転命令の有効性に関して、①業務上の必要性が存しない場合、②業務上の必要性が存する場合であっても、他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき、もしくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときには、権利濫用になると判断されています。
会社は、パワハラがあったと判断できない場合でも、配置転換を行うことで、さらなる関係悪化を防ごうと措置する場合があることも踏まえると、上記の①及び②に抵触しない形であれば、パワハラを行った社員に対し、配置転換を命ずることはできるといえます。
もっとも、配置転換は、それだけで心理的負荷が大きなものですから、無思慮に配置転換を行えば、それによって精神疾患に罹患したとして労災認定されるおそれがあることは注意してください。
パワハラの実態を調査するために、社内アンケートを実施することは問題ないでしょうか?
会社内のパワハラ予防策として、パワハラに関するルールをつくり、従業員にパワハラの防止が重要な課題であることを理解してもらうことと関連して、従業員向けにパワハラに関するアンケート調査を実施して現状を把握することは有益といえます。
パワハラ対策には、想像以上に皆さん消極的です。経営者自身が取組にネガティブな場合もあれば、従業員が嫌々研修に参加するなどです。アンケートは、自社の実態があぶりだしますので、パワハラ対策への動機づけになり得ますし、研修内容に反映させれば、充実した研修になります。
パワハラ問題について、相談者と行為者の主張が一致しない場合、会社はどのような対応を取るべきでしょうか?
相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実関係の確認が十分にできない場合には、第三者からの事情聴取を検討することになります。
この際には、相談者の了解を得ること(相談者のプライバシーを保護するため)、第三者の人数を絞ること、第三者に対し聴取内容について守秘義務を課すことが重要となります。
その他、客観的事実との整合性や矛盾点などを確認することも重要です。
なお、行為者が嘘をついていると決めつけてしまうことは厳に慎むようにしてください。また、真偽不明という事態は決して珍しくないため、白黒つけることに拘ることは避けてください。
正当な指導かパワハラかを判断する基準はありますか?
単なるいじめ・嫌がらせを行った場合だけでなく、行為者が業務遂行上の指導・監督目的で行為に及んだ場合であっても、行為を受ける者に対して心理的負荷等を過度に与え、その人格権を侵害する等の行為は、パワハラに該当し、違法となります。
業務上の指導や監督が違法性を帯びるか否かは、暴力を加えたり脅迫を行ったりした場合等を除き、線引きすることは簡単ではありません。そのため、当該行為の目的や手段、態様、双方の力関係、人間関係等の諸事情を総合的に考慮して判断されます。
この判断の中では、行為者側の指導・指示における業務上の利益と、行為を受ける者の人格的利益とが比較考量されることになり、行為を受ける者が当該行為をどのように受け取ったかという主観的な認識だけではなく、平均的な耐性を有する者であっても当該行為が過度の心理的負荷を生じさせるような行為であったかという客観的判断も考慮されます。
なお、パワハラ防止指針では、パワハラに該当する例、しない例が挙げられていますので参考にしてください。
パワハラの再発防止にはどのような取り組みが有効となりますか?
再発防止に向け、行為者との定期的な面談やアドバイス、社内で再発防止研修を実施することが有益です。また、原因や背景にある問題を取り除くことが重要です。
悪くなった人間関係を改善すべく、両者の間に入って援助することや、行為者からの謝罪、配置転換等を行うことが適切な場合もあるでしょう。また、パワハラ行為者の業務が多く、心に余裕がない場合も考えられます。この場合は、業務改善も検討しなければなりません。
パワハラに関する社内ルールを、就業規則に規定することは可能ですか?
会社内のパワハラ予防策としての、パワハラに関するルールづくりに関連して、就業規則にパワハラの定義及びパワハラを禁止する旨、そしてパワハラがあった場合の処分方法等を規定するのが一般的です。
なお、独立したパワハラ防止規程を定めるという方法もあります。あくまで就業規則の一部なので、労基署へ届け出ることは忘れないでください。
パワハラがあったことを裏付ける証拠にはどのようなものがありますか?
パワハラがあったことを裏付ける証拠としては、①直接の会話、電話での会話等の録音、②パワハラを行った者が作成した文書やパワハラを行った者とのメール・SNSのやり取り等、③防犯カメラの映像、④暴行で傷害を負った場合やうつ病等を発病した場合の診断書、⑤パワハラを見聞きしていた人の証言、⑥パワハラ被害を受けた人自身が社内の相談窓口や警察等に相談した際に作成された記録(友人に相談したやり取りの記録、医師が作成した診療録等も含む)、⑦パワハラ被害を受けた人自身が作成した日記、メモ、備忘録等が考えられます。
社内に設置する相談窓口の担当者は、どのような人材を選任すべきでしょうか?
相談担当者には、相談をした労働者が、担当者の言動によって、さらなる被害(二次被害)を受けることが決してないように、公正かつ真摯に対応することができる人材を選任すべきです。なるべく、複数の者を担当者とすることが望ましいでしょう。可能であれば、性別や年代が異なる担当者にしてください。
また、一連の調査の内容が守秘義務によって守られることが、相談窓口制度の信用性を担保するために重要であり、この点についてしっかりと自覚することのできる人材を選任すべきです。
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