家事従事型の寄与分が認められるポイントを解説します

相続問題

家事従事型の寄与分が認められるポイントを解説します

福岡法律事務所 所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 所長 弁護士

寄与分とは、複数の相続人の中に、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与・貢献をした人(寄与者)がいた場合、遺産分割に当たり、その寄与者が取得できる遺産を増額させるという制度です。
寄与の方法は、「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法」によることが必要とされており(民法904条の2第1項)、特に「被相続人の事業に関する労務の提供」を行った場合は、「家事従事型」と呼ばれます。
この記事では、「家事従事型」の寄与分について解説します。

目次

家事従事型の寄与分とはどんなもの?

家事従事型の寄与分とは、「被相続人の事業に関する労務の提供」により「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」場合に認められます。
「事業」の内容や「労務の提供」の方法について、特段の制限はありませんが、典型的には、被相続人が農業や商工業を営んでおり、寄与者が無償でその営業に従事した場合が想定されます。

家事=炊事洗濯ではない。家事従事型の具体例

家事従事型の「家事」とは、炊事洗濯といった意味ではなく、「家業」や「事業」を意味します。具体例は、以下のとおりです。

  • 農業を営む父の手伝いをほぼ毎日無償で行い、農地からの収穫を維持できるようにした。
  • 母が開業した喫茶店において、無償で勤務した結果、母は営業収入で生活できるようになった。
  • 配偶者が経営するクリニックで、週5日ほぼ無給で医師として勤めていた。

寄与分を認めてもらう要件

まず、寄与分が認められるための一般的な要件は、①寄与者が相続人であること、②被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により特別の寄与をしたこと、③被相続人の財産が維持され又は増加があったことです。

家事従事型の独自の要件

寄与分の一般的な要件に加えて、家事従事型の独自の要件は、以下のとおりです。

  • 無償又はこれに近い状態で行われていること(無償性)が必要であり、提供した労務に見合うだけの報酬を受け取っていた場合は、寄与分として認められません。
  • 労務の提供が一定期間継続し、かつ労務の内容が相応の負担を要するものでなければ、被相続人の財産の維持又は増加に貢献したとはいえず、寄与分として認められません。

通常の手伝いをした程度では認められない

相続人が、ただ単に被相続人の営む農業や商工業などの手伝いをしたことがあるという程度では、寄与分が認められる可能性は、非常に低いです。
そもそも、親族間には民法上の扶養義務があるため、通常の手伝いや身の回りの世話をしたという程度では、親族としての扶養義務を果たしたにすぎないと評価されてしまい、寄与分は認められません。
「特別の寄与」として寄与分が認められるか否かを判断するためには、被相続人との関係(夫婦、親子、兄弟姉妹等)、労務の提供の内容、これに伴う報酬の有無及び内容等を具体的に検討する必要があります。

家事従事型の寄与分を主張するためのポイント

家事従事型の寄与分を主張するためのポイントを具体的に挙げると、以下のとおりです。

  • 被相続人との同居の有無(特に、同居の場合には、誰が生活費等を負担していたか)
  • 被相続人の事業の内容、性質
  • その事業に関して労務を提供するようになった経緯
  • 労務の具体的内容、時期、頻度、1日のうち労務に充てた時間

これらの事情を総合的に考慮して、「特別の寄与」があったか否かを判断することとなります。

こういったものが証拠になります

まず、労務の提供の証拠として、以下のものが想定されます。

  • 労務の内容を裏付ける日記、業務日報、タイムカード、電子メール、他の従業員の供述等
  • 無償性(又はこれに近い状況)を裏付ける確定申告書、給与明細書、預貯金通帳等

次に、被相続人の財産の維持又は増加の証拠として、以下のものが想定されます。

  • 被相続人の確定申告書、領収書、預貯金通帳、会計帳簿等

家事従事型の寄与分に関する裁判例

家事従事型の寄与分については、具体的な事情を考慮する必要がありますので、その判断の参考となるような裁判例を以下に挙げます。

相続人以外の寄与分が認められた裁判例

東京高等裁判所 平成元年12月28日決定
被相続人の長男Aが中学卒業後農業後継者として相続財産の増加・維持に寄与した事実及びBがAの配偶者として農業に従事し、A死亡後も被相続人らと同居の上、Aの遺志を継いで農業後継者のために農業に従事して相続財産の維持に寄与した事実を考慮し、寄与の期間、方法及び程度、相続財産の額、他の相続人の生活歴及び寄与の有無等一切の事情を考慮して、A及びBの寄与に基づくC及びD(AB夫婦の子)の寄与分を相続財産額の半額と定めました。
(※Bは相続人ではありませんが、特別の寄与が認められました。)

家事従事型の寄与分が認められなかった裁判例

札幌高等裁判所 平成27年7月28日決定
相続人Aは、被相続人の求めに応じて被相続人の経営していた簡易郵便局に夫婦で勤め、2人で月25万円から35万円の給与を得ていましたが、この給与は、当時の賃金センサスによると、大卒46歳時の平均給与の半分にも満たない低い金額でした。
しかし、被相続人が引退するまでの間の業務主体は被相続人であったこと、給与水準は事業の内容・企業の形態・規模・労働者の経験・地位等の諸条件によって異なること、A夫婦は被相続人と共に住んでおり、家賃や食費は被相続人が支出していたことをも考慮すると、Aは郵便局の事業に従事したことにより相応の給与を得ていたというべきであると判断され、寄与分は認められませんでした。

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家事従事型の寄与分の額はどのように決めるか知りたい

家事従事型の寄与分は、裁判例上、全遺産に対する割合で額を定めたり、労務の提供を金銭的に評価して額を定めたりする例が見られます。
後者については、「標準的な賃金×(1-生活費控除割合)×寄与年数-現実に得た給付額」で計算することができます。ここにいう「標準的な賃金」は、被相続人の事業と同種同規模の事業に従事する寄与者と同年齢層の年間給与額であり、賃金センサス等を参考にすることが多いです。また、寄与者が被相続人との同居により家賃や食費の支払を免れた場合、「生活費控除割合」として控除し、更に少額であっても「現実に得た給付額」は控除することとなります。
そして、例えば遺産総額1000万円、被相続人の子A、B、Cが相続人、Aの寄与分が100万円の場合、寄与者Aの取得額は(1000万円-100万円)/3+100万円=400万円となり、Bの取得額は300万円、Cの取得額は300万円となります。

家事従事型の寄与分に関するQ&A

以下の記事では、家事従事型の寄与分について具体例に基づいて解説します。

夫の飲食店を無償で手伝っていたが離婚しました。寄与分は認められますか?

寄与分が認められるのは、法定相続人(民法で定められた相続人)に限られます。
被相続人の配偶者は法定相続人ですが、相続開始前に離婚していた場合は法定相続人ではないため、寄与分は認められません。
婚姻中に夫の飲食店を無償で手伝っていたという事情については、離婚時の財産分与において清算を図ることが望ましいといえますが、少なくとも、相続において清算することはできません。

長男の妻として農業を手伝っていました。寄与分は主張できるでしょうか。

被相続人の長男の妻(被相続人の子の配偶者)は法定相続人ではないため、寄与分は認められません。
ただし、無償で農業を手伝うことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合、相続人に対し特別寄与料(民法1050条1項)の支払を請求できる可能性があります。

夫の商店を手伝いながら、ヒット商品の開発にも成功しました。寄与分を多くもらうことはできますか?

単に被相続人の事業を手伝うだけでなく、ヒット商品を開発するなどして、被相続人の財産の維持又は増加に大きく貢献したような場合、その貢献の程度に応じて寄与分が認められる可能性があります。
ただし、寄与分の具体的な金額については、その貢献の程度や、遺産の総額に左右されます。

父の整体院を給与無しで手伝っていました。小遣いを月4万円もらっていたのですが、寄与分は請求できるのでしょうか?

被相続人の整体院を無給で手伝うことが日常的であり、長期間にわたっていた場合、その整体院従業員の標準的な賃金に相当する額が、寄与分として認められる可能性があります。
ただし、小遣いを月4万円もらっていたという点については、その総額が現実に得た給付額として控除されます。

父の会社に従業員として勤めて経営を支えていた場合、寄与分は認められますか?

従業員として勤めることにより給与又は報酬を得ていたことが通常ですので、寄与分は認められません。
その給与又は報酬の額が、同種同規模の事業に従事する同年齢層の標準的な賃金額より著しく低い場合には、寄与分が認められる可能性が一応あるものの、実際には、これが認められる可能性は非常に低いです。

無給で手伝っていましたが、たまの外食や旅行等に行く場合は費用を出してもらっていました。寄与分の主張はおかしいと言われましたが、もらうことはできないのでしょうか。

親族間では、時々の外食や旅行等にかかる費用を一部の人のみが負担するというケースが散見されます。
被相続人の事業を無給で日常的に手伝っていた寄与者が、被相続人から時々外食代や旅行代等を支払ってもらっていたという程度であれば、寄与分の算定において控除すべき対象と評価される可能性は低いと考えられます。
ただし、寄与者が被相続人と同居し、家賃や食費をほぼ被相続人に負担してもらっていた場合は、寄与者の利益として控除されます。

ご自身のケースが寄与分として認められるか、弁護士へ相談してみませんか?

寄与分とは、 相続人が被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与・貢献をした場合に、遺産分割に際して、その相続人が取得できる遺産を増額させるという制度であり、公平の見地から認められているものです。
しかし、 「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付」により「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」という要件を満たす必要があり、単に被相続人の事業の手伝いをしたという程度では、寄与分は認められないことが大半です。
このように、寄与分の具体的な主張・立証方法については、判断が困難な面があります。
寄与分が認められるか否かという判断に迷ったり、生前の被相続人の事業への貢献を遺産分割にどのように反映させるべきかを悩んだりしたときは、弁護士にご相談ください。

福岡法律事務所 所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 所長
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
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