療養看護型の寄与分とは

相続問題

療養看護型の寄与分とは

福岡法律事務所 所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 所長 弁護士

療養看護型の寄与分とは

例えば、被相続人が自分の費用で看護人を雇う必要があったはずのところを、相続人が代わって療養看護したために、被相続人が看護人の費用の支出を免れたような場合、療養看護型の寄与分が認められる可能性があります。

療養看護型の寄与分を認めてもらう要件

療養看護型の寄与分を認めてもらうには、前提として、以下に挙げた寄与分の要件をすべて満たす必要があります。

  • 相続人による寄与であること
  • 被相続人の財産が維持または増加していること
  • 特別の寄与であること
  • 寄与行為と被相続人の財産の維持または増加に因果関係があること
  • 被相続人に療養看護が必要であること
  • 近親者による療養看護が必要であること
  • 無償ないしこれに近い状態で行われていること(無償性)
  • 療養看護が長期間継続していること(継続性)
  • 療養看護の内容がかなりの負担を要するものであること(専従性)

特別の寄与とはどんなもの?

特別の寄与とは、被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待されるような程度を超える貢献のことをいいます。具体的には以下のような場合が想定できます。

  • 歩行に常に介助を要する状態の被相続人と同居して、家事の他に、排泄介助や失禁の後始末、入浴介助、転倒時の助け起こしといった介護を、深夜も含めて24時間行っていた
  • 認知症があり、寝たきり状態の被相続人と同居して、訪問看護等のサービスは利用していたものの、日常的に食事の介助や摘便、素人には難しい痰の吸引といった介護を行っていた

要介護認定が「療養看護が必要であること」の目安

介護保険における要介護度は、被相続人の当時の症状を知る上で貴重な資料の一つであると考えられています。通常、「要介護1」程度の症状であれば、特別の寄与に相当するほどの介護は必要ないと考えられますので、寄与分が認められるには、要介護度2以上の状態にあることが一つの目安になると考えられています。

要介護とはどのような状態をいう?

介護保険法7条1項において、「要介護状態」とは、身体上又は精神上の障害があるために、入浴、排せつ、食事等の日常生活における基本的な動作の全部又は一部について、厚生労働省令で定める期間にわたり継続して、常時介護を要すると見込まれる状態であって、その介護の必要の程度に応じて厚生労働省令で定める区分(以下「要介護状態区分」という。)のいずれかに該当するもの(要支援状態に該当するものを除く。)をいうと定義されています。具体的な要介護状態は以下のとおりです。

要介護1 日常の複雑な動作を行う能力が低下しており、部分的に介護を要する状態。問題行動や理解力低下がみられることがある。
要介護2 日常の基本動作にも部分的に介護を要する状態。問題行動や理解力低下がみられることがある。
要介護3 日常の基本動作にほぼ全面的に介護を要する状態。いくつかの問題行動や全面的な理解力低下がみられる。
要介護4 介護なしでは日常生活を送ることがほぼ困難な状態。多くの問題行動や全面的な理解力低下がみられる。
要介護5 要介護状態のうち最も重度な状態。介護なしでは日常生活を送ることができず、意思の疎通も困難。

要介護認定がない場合、諦めるしかない?

被相続人に療養看護が必要だったかどうかを判断するひとつの目安として、被相続人が要介護2以上の状態であったことを挙げましたが、要介護1以下では絶対に特別の寄与と認められないというわけではありません。 被相続人の生前の状態や療養看護の内容、費やした時間等が考慮されて、寄与分が認められることもあります。

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寄与分を認めてもらうには主張する必要がある点に注意

寄与分は、自ら主張立証をしないと認めてもらうことができません。もちろん、他の相続人が素直に納得してくれれば、それに越したことはないのですが、各自の利害関係が対立しているような場合、理解を得るのは困難でしょう。

療養看護型の寄与分の主張に有効な証拠は?

事案によって異なるとは思われますが、一般的には以下のようなものが考えられます。

①被相続人の健康状態がわかるもの
診断書、カルテ、要介護認定結果通知書、介護ヘルパーの利用明細書・連絡ノート等

②介護をした期間、一日のうち介護に費やした時間、介護の内容がわかるもの
介護日記等
介護のために仕事を休んだ場合は、その日付や欠勤による減収分がわかる記録

療養看護型の寄与分の計算方法

療養看護行為の報酬相当額に看護日数を乗じ、それに裁量割合を乗ずるのが一般的です。

付添介護人の日当額の決め方

介護保険制度の施行後(平成12年4月以降)は、介護保険における「介護報酬基準」が用いられることが多くなっています。要介護者の受けた介護サービスの内容、居住地等を考慮して介護報酬を算定したものを参考に療養看護の寄与分を算定しています。

裁量的割合とは

介護報酬基準や家政婦等報酬基準は、看護又は介護の資格を有している者(プロ)への報酬を前提としており、介護者自身の報酬額とは異なります。一般的には、0.5~0.8程度の間で適宜修正されており、0.7が平均的な数値と扱われることが多いと言われています。

療養看護型の寄与分に関する裁判例

相続人Aは被相続人宅の隣の家に住んで、被相続人の妻が入院して以降、相続人Aの妻と共に被相続人の家事全般の世話をしていました。 その後、被相続人の妻が死亡し、被相続人に認知症の症状が顕著に出るようになってからは、被相続人は常時見守りが必要な状態となりました。相続人Aは被相続人に毎日3度の食事を相続人A宅でとらせるようにしたほか、排泄の介助をする等、約3年間献身的に介護を行いました。
裁判所は、被相続人が認知症となるより前の被相続人に対する日常生活上の世話については、親族間の扶養義務の範囲内であり、特別の寄与とまではいえないと判断しました。しかし、被相続人が認知症となった以降の約3年間の介護については、親族による介護であることを考慮したうえで相続人Aの寄与分を認めました(大阪家審平成19年2月8日)。

寄与分が認められなかった裁判例

被相続人は、平成14年に2か月程度、平成15年に20日程度、入院生活を送ったが、その際、相手方は、「毎日病院に通って、差し入れなどをした。自らの負担で、被相続人Gの夕食を作るなどした。」旨述べるが、これをそのまま信用することはできないし、一定の介護的な援助をしたことが認められるとしても、それは親族間の協力にとどまり、寄与分が認められるほどの療養看護とまで評価できるものではない(広島家審呉支部平成22・10・5)

療養看護型の寄与分に関するQ&A

義両親の介護を一人で行っていました。寄与分は認められますか?

大前提として、民法上は、寄与分権利者を相続人に限定しています。したがって、相続人でないものは寄与分権利者にはなり得ません。
しかしながら、相続人以外の者の寄与であっても、その寄与が共同相続人の寄与と同視できるというような場合には、当該共同相続人がその結果生じた財産の維持増加に対する寄与をも含めて自己の寄与分として請求する余地があります。

介護できない分、介護費用を全額出しました。寄与分は認められますか?

貢献内容が療養看護行為に基づくものではないので、「財産給付型」の一態様として捉えた方が適当であると思われます。

介護だけでなく家事もこなしていた場合、寄与分は増えますか?

どのような介護や家事をこなしていたかによるでしょう。特段の事情により家事の援助が必要である場合には、家事援助を理由にして寄与分が認められる可能性があります。

療養看護型の寄与分について不明点があったら弁護士にご相談ください

寄与分は、資料の確保や、何をどのように主張すべきかという点はもちろんのこと、その計算方法や資料を整理して相手にわかりやすく提示する場面等でも、専門的なスキルが要求されます。まずは早期段階で弁護士に相談しておくことをお勧めします。

福岡法律事務所 所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 所長
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。