監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
2020年度の厚生労働省の人口動態調査によると、父親が親権を獲得しているのは1割程度なのが現状です。
残念ながら、離婚時の親権者争いにおいて、母親が有利とされています。
しかし、「父親が親権者になったほうが子供の利益(しあわせ)になる」と認められれば、父親が親権を獲得することも十分にあり得ます。
本記事では、父親が親権を獲得するために押さえておくべきポイントや、親権を獲得する流れ、父親が親権争いで有利になるケースなど、父親が親権獲得するために役に立つ情報を解説します。
目次
父親が親権を取りにくい理由
フルタイムで働いているため子供の世話が難しい
一般的に父親はフルタイムで働いている方が多く、通勤時間なども含めると、子供が起きている時間に自宅に帰れないケースも多くあり、子供の面倒をみる時間が取れず、親権獲得に不利になりやすいです。
子供への負担を考えると母親優先になりがち
特に子供が乳幼児の場合は、子供が健全に成長するには母親による愛情が不可欠で、母親が親権を持つべきという考え方があります。共働き世帯が増えているとはいえ、未だ母性優先の考え方が根強いのが現状です。
父親が親権を獲得するためのポイント
これまでの育児に対する姿勢
子供の親権を得るためには、これまでどれだけ積極的に育児に携わってきたのか、養育実績があるかどうかが重要です。
しっかりと今までどのように育児をしてきたかが客観的にわかる資料を揃えましょう。
例えば、次のようなこれまでの育児に対する姿勢があれば考慮されるでしょう。
- 毎日、子供と一緒に入浴するようにしている
- 保育園や学校の連絡ノートを書いたり、送迎を行ったりしている
- 学校・習い事などのイベントに必ず参加している
- 洗濯・掃除・食事の支度のサポートをしている
- 子供の健康管理(病院への同行、予防接種の付き添い)を行っている
など
これらを証明できるように、日頃から具体的にどのように子供の育児に携わってきたかを日記に記載しておいたり、写真や動画を撮影していたり、育児を積極的に携わってきたことを知っている親族や知人に証言してもらったりしておきましょう。
離婚後、子育てに十分な時間が取れること
離婚後、子育てに十分な時間が取れるかどうかという点も非常に重要です。
残業や休日出勤を控えたり、不在時は祖父母に子供の面倒をみてもらったりするなど、周囲の協力を得ながら対応できる体制を整える必要があります。
子供優先のライフスタイルを確立できるようにしましょう。
子供の生活環境を維持できるか
子供が安心して過ごせる生活環境を、確保・維持することも重要視されます。
子供は、ただでさえ母親がいなくなったことにより不安に陥ってしまうことが考えられます。加えて引越しや転校等により生活環境が一変してしまうのは、子供にとっては決して良いことであるとはいえません。
引越し先は治安の良い地域にしたり、気軽に周りのサポートを得られるようにしたりして、少しでも子供が安心できる居場所を確保することが大切です。
父親が親権争いで有利になるケース
状況によっては、親権争いで父親が有利になるケースもあります。
具体的に父親が親権争いで有利となるケースは次のような場合です。
- 母親が育児放棄をしている場合
- 母親が子供を虐待している場合
- 子供が父親と暮らすことを望んでいる場合
それぞれ詳しく解説していきましょう。
母親が育児放棄をしている
母親による次のような育児放棄とみられる行動がある場合は、親権者としてふさわしくないと判断され、親権が父親になる可能性は高いでしょう。
- 食事を与えない
- お風呂に入れない
- 掃除・洗濯などをせず、子供の生活環境が不衛生な状態にある
- 学校に行かせない
- 病気やケガをしても病院に連れて行かない
- 子供をほったらかしにして、ギャンブルしたり、夜遅くに外出したりする
など
上記の母親の行動を証明するために、裏付ける資料が必要になるため、日々の妻が育児放棄している状況を記載した日記や写真・動画を残しておくようにしましょう。
母親が子供を虐待している
母親が子供を虐待しているケースもまた、父親が親権を得るうえで有利にはたらくといえます。
身体的暴力、言葉の暴力、性的暴力など、その態様はさまざまです。虐待の事実を証明できる証拠がある場合には、より有利となるでしょう。
例えば、
- 虐待を受けたことがわかる写真や音声データ
- 子供本人や周囲からの証言
- 学校や行政機関への相談記録
などが、有用な証拠になる可能性があります。
子供が父親と暮らすことを望んでいる
子供自身が父親との生活を望んでいることも、親権者を判断するうえでは大きなポイントとなります。
目安として、子供が10歳以上であれば、子供も成長し、ある程度は状況を理解しているので、子供自身の意思が尊重されると感じています。
もちろん、子によって成熟度合も異なるので、年齢だけで判断できません。
なお、家庭裁判所は、15歳以上の子について親権者を定める審判や裁判をするにあたり、子の陳述を聞かなければならないこととなっており、何か事情が無い限り、子の意思のとおりに親権者が決められていると考えてよいでしょう。
ただし、裁判所は、幼い子供に選択させること自体に積極的ではありません。家庭裁判所調査官も、「お母さんと暮らすことになるのはどう思う?」などとやんわりと聞いています。
子供にしてみれば、両親のどちらかを選んで、どちらかを捨てる選択をしなければならず、将来のことも含めて理解のうえ判断できないであろう子供に選択させるような結果は望ましくないということです。
もちろん、親自身も子供に言い聞かせたり、説得したりして、自分を選ぶように仕向けるなどの行為は控えるべきです。「子供のしあわせ」を第一に考えて、子供の意見を尊重してあげましょう。
妻の不貞は父親の親権獲得に有利にはならない
よく、妻側が不貞しているのであれば父親が親権者となるのではというご質問をいただくことがあります。
ですが、実務としては、妻の不貞があるからといって、それが直ちに父親の親権獲得には繋がることはほとんどありません。
妻がすべての育児を放棄してまで不貞に及んでいるのであれば別段ですが、不貞をしていてもお子さんの養育に問題が無ければ、妻の不貞=父親の親権、ではないのです。
日常生活を捨ててまで、不貞に及んでいた事実が無いかを探してください。
父親が親権を獲得した場合、母親に養育費を請求することは可能か?
父親が親権を獲得した場合は、母親に養育費を請求できます。
親は子供を扶養する義務を負います。
離婚して、夫婦でなくなっても、親子である関係は変わりません。
したがって、離婚をして母親が親権者でなくなっても、親として子供を扶養する義務は負いますので、養育費を支払わなければいけません。
ただし、養育費の金額は夫婦それぞれの収入を考慮します。
親権者となった父親の収入が高く、支払う側の母親に支払能力がない場合は養育費の負担が少なくなるケースや免除されるケースもあり得ます。
親権を得られなくても子供には会える
親権を得られなかった場合でも、お子さんに一切会うことができなくなるわけではありません。
「面会交流」といって、お子さんに会うことを求めることは可能です。
面会交流も子の福祉のため、すなわちお子さんの心身の健康な発達のために行われるものです。
離婚したからといって、父親であることが変わるものではありません。父子の交流を充実させることで、お子さんの健康な発達に寄与できるよう、充実した面会交流を求めていきましょう。
子供の親権を父親が勝ち取れた事例
母親が一人で別居を開始し、父親と子どもが二人で生活を始めることになりました。別居をしてしばらくした後、お子さんは、父親との生活が安定しており、今後も父親と二人で生活していきたいと話し始めました。
そのお子さんの意向を母親側に丁寧に時間をかけて説明し、父親側の単独での監護実績も積み上げた上で、親権者を父親とすることに成功した事例があります。
父親の親権に関するQ&A
乳児の親権を父親が取るのは難しいでしょうか?
乳児の親権を父親が獲得することが非常に難しいのは事実です。
乳児はどうしても「母親」の存在が大きく、母性優先の原則が大きく働きます。例えば母乳でなければ育たない子などは、親権者が母親になることが圧倒的に多いです。
ですが、乳児だから必ず母親が親権者、となるわけではなく、上で見てきたように、母親が乳児を虐待しているとか育児放棄をしている事実があれば、当然その要素が大きく働きます。
そのような証拠が無いかを確認してみてください。
未婚の父親が親権を取ることは可能ですか?
未婚の父親である場合には、まずはお子さんの認知をしなければ、母親の単独親権となります。
そのため、何よりもまずは認知の手続を行ってください。そのうえで、親権者について母親側と争っていくことになります。
元妻が育児をネグレクトをしています。父親が親権を取り返すことはできますか?
いったん親権者が元妻となった場合には、親権者変更を行わなければなりませんが、非常に難易度の高い手続であることは否定できません。
ですが、元妻がネグレクトをしている事実があるのであれば、そのままにしておくとお子さんの健康な発達を阻害することになるため、親権者変更が認められる可能性があるでしょう。
事実を証明する証拠をもって戦っていくことになります。
妻は収入が少なく、子供が苦労するのが目に見えています。経済面は父親の親権獲得に有利になりますか?
経済面だけでは、父親の親権獲得が有利になるものではありません。
親権者は養育費を請求することができるため、収入が少ない・無いのであれば養育費を請求することで、経済面への不安を少なくすることができるためです。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
父親の親権争いは一人で悩まず弁護士に相談しましょう
父親側で親権を争うのはどうしても難易度の高い問題になることが分かっていただけたでしょうか。
そのような場合でもすぐに諦めてしまうのではなく、ご自身の実情を踏まえて親権争いをどのように戦っていけば良いのか、どういった証拠を集めていけば良いのか、弁護士に少しでも早くご相談いただくことが重要です。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)