監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
人員整理や問題社員など、会社が従業員との雇用契約を維持できない事情が発生することは少なくありません。では、すべて解雇という選択肢が可能かといえば、難しいといえるでしょう。
解雇は、労働者への不利益が大きすぎるため、解雇権濫用法理によって、社会的に見ても解雇が妥当といえるような理由や事実がなければなりません。
解雇が失敗すれば、会社に大きな不利益が生じるおそれもあるため、最終手段とするべきです。
このような法的リスクを軽減させる方法の1つとして、合意退職(退職勧奨)があげられます。
合意退職は、会社が従業員へ退職を提案し、話し合いによって合意による退職を目指す手法です。
では、合意退職を成功させるにはどのようにすればよいでしょうか?
本稿では、合意退職のポイントや注意点について幅広く解説していきます。
合意退職とは?
合意退職とは、会社と従業員が話し合い、双方合意の上で雇用契約を終了させることです。
会社側からの一方的な解雇とは異なり、従業員の意思に基づいた退職となるため、後々のトラブルを避ける上で有効な手段といえます。
経営環境の変化など様々な事情によって、人員整理や解雇の必要性が生じる場面もありますが、解雇は法的なハードルが高く、訴訟リスクも伴います。
そのため、合意退職という形での解決を目指す事例が増加しています。
解雇ではなく合意退職を目指す理由
解雇を行う場合、客観的に合理的な理由や社会通念上相当と認められる背景がなければ、権利の濫用として無効と判断されるおそれがあります。
例えば、業績不振を理由とする解雇の場合、整理解雇の4要件(人員整理の必要性、解雇回避努力義務の履行、人選の合理性、手続きの妥当性)を満たす必要があります。
しかし、これらの要件を満たすことは容易とはいえず、司法の場でも厳しい判断が下される傾向があります。もし、解雇が無効と判断されれば、会社には従業員への未払い賃金の支払いや慰謝料の支払い義務など金銭的な負担も生じます。
合意退職によって従業員の合意が得られれば、これらのリスクを回避できるため、解雇よりも有効な選択肢といえるでしょう。
合意退職のステップとしての「退職勧奨」
退職勧奨とは、会社が従業員に対して退職を提案し、促す行為であり、合意退職に至るためのプロセスの一つとして位置づけられます。
あくまでも退職を「勧める」行為にとどまるため、従業員に退職を強制することはできません。
退職勧奨を行う際には、従業員に十分な説明を行い、納得してもらうことが重要です。話し合いの場では、感情的な対立を避け、冷静かつ丁寧なコミュニケーションを心がけるようにしましょう。
退職勧奨では、その理由や条件などが二転三転してしまうと従業員の信頼を得ることはできません。
まずは、退職勧奨を行う方針を社内で共有し、一貫した対応をとれるようにしておきましょう。
合意退職手続きの進め方
合意退職の手続きは、まず会社側から従業員に対して、退職勧奨の意向を伝えます。
この際、退職勧奨を行う理由を具体的に説明し、従業員の理解を得るよう努めましょう。面談をスムーズに進めるためにも、退職勧奨の理由は事前に整理してメモを作成しておくとよいでしょう。
次に、退職条件(退職日、退職金、再就職支援など)について、従業員と協議を行います。
退職条件については、金銭的側面も予想されるので、あらかじめ社内で予算を設定し、対応できる範囲を明確にしておくべきでしょう。
従業員が退職勧奨を受け入れる意思を示せば、退職合意書を作成し、双方合意の上で署名・捺印します。
退職合意書には、退職日、退職金の金額、その他合意事項を分かりやすく記載しておきます。
最後に、退職の手続きを行い、従業員は退職日をもって退職となります。
合意退職(退職勧奨)を成功させるためのポイント
合意退職を成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。
主なポイントとしては、以下の内容が挙げられます。
- 1. 退職勧奨を行う理由を具体的に明示する
- 2. 就職活動を見込んだ退職日を設定する
- 3. 再就職支援を提案する
- 4. 退職金加算・解決金の支払いを提案する
- 5. 会社都合退職扱いとすることを説明する
これらのポイントを押さえることで、合意退職が円滑に進む可能性を高められるでしょう。
退職勧奨を行う理由を具体的に提示する
退職勧奨を行う際の注意点としてはまず、その理由を曖昧にせず、具体的に説明することです。
「会社の方針転換による部署の縮小のため」「業績不振のため」など、客観的な理由を伝えることで、従業員の納得感を得やすくなります。
単に「あなたには合わない」等といった曖昧な理由だけでは、従業員の納得を得られず、反発やトラブルに繋がる可能性があります。
もし、従業員の問題行動が原因であれば、その詳細のエビデンスを示して説明するとよいでしょう。
具体的な理由を示すことで、従業員は自身の状況を客観的に理解することができるため、退職勧奨について前向きに検討するきっかけとなります。
就職活動を見込んだ退職日を設定する
従業員がスムーズに再就職できるよう、就職活動期間を考慮した退職日を設定することを検討しましょう。一般的に求人が多い時期や、ボーナス支給後などを考慮に入れた退職日を提案することで、従業員の不安を解消できる可能性があります。
また、従業員のスキルや経験、職種などを考慮し、十分な準備期間を設けることも大切です。
退職日までの期間が短く、就職活動を十分に行えないのであれば、従業員は焦りを感じることになり、退職勧奨に応じない可能性が高まるかもしれません。
再就職できるかどうかは、従業員にとって最大ともいえる懸念事項です。
余裕を持ったスケジュールを提示するなど、従業員が少しでも安心できるように努めましょう。
再就職支援を提案する
従業員の再就職を支援することは、合意退職を円滑に進める上で効果的な対応といえます。
再就職支援の内容としては、外部の専門会社へ委託する方法が多いでしょう。
この場合、従業員は支援会社から、キャリアカウンセリング、職務経歴書の作成支援、面接対策、求人情報の提供などのサービスを受けられます。
このような積極的な再就職支援を受けられることで、従業員の退職後の不安を和らげることができます。
費用は全額もしくは一部会社負担となりますが、従業員の前向きな気持ちを後押しできれば、退職勧奨をスムーズに進められる可能性があります。
退職金加算・解決金の支払いを提案する
合意退職の成立を後押しするために、通常の退職金に加えて、解決金等を支払うことも有効な手段の1つです。退職勧奨はあくまでも任意による話し合いですが、解決金等の支払条件は従業員にとってメリットが大きいため、合意に繋がる可能性を高めることができます。
解決金とは、会社と従業員の間で発生した紛争を解決するために支払われる金銭というだけでなく、退職勧奨においては退職の対価としての意味合いも持ちます。解決金の金額は、従業員の勤続年数、年齢、役職、退職理由などを考慮し、会社の予算を踏まえて決定します。
解決金等の支払いがあれば、退職に伴う経済的な不安を軽減することができるので、合意退職に対する大きなインセンティブになるでしょう。
会社都合退職扱いとすることを説明する
雇用保険上の退職の種類は、自己都合退職と会社都合退職の2つがあります。会社都合退職の場合、従業員は失業保険を自己都合退職よりも早く、かつ有利な条件で受け取ることができます。
退職勧奨に応じる場合には会社都合退職として扱う旨とそのメリットを従業員に説明しましょう。
経済的な不安が軽減できれば、退職勧奨を受け入れやすくなります。
ただし、雇用保険の失業保険を受給するには様々な要件があります。従業員が失業保険を受給できる対象であるのかも確認の上、説明するようにしましょう。
合意退職(退職勧奨)でトラブルにならないための注意点
合意退職を進める際には、トラブルを避けるための注意点を押さえることが重要です。
退職勧奨を行う前に、以下の注意点を理解した上で取り組むようにしましょう。
- 1. 退職強要と判断されないよう注意する
- 2. 面談でのやり取りの記録を残しておく
- 3. 合意後は退職と相反する行為をしない
- 4. 退職届を提出させる・退職合意書を作成する
これらの注意点を踏まえた対応をとることが、円満な合意退職に繋がるといえます。
退職強要と判断されないよう注意する
退職勧奨は、従業員の自由な意思に基づいて退職してもらうための話し合いです。
従業員が拒否したにもかかわらず執拗に退職勧奨を行ったり、脅迫的な言動、人格否定といった精神的な圧力をかける行為は、退職強要と判断されるおそれがあります。
もし、退職強要と判断された場合には、退職が無効になるだけでなく、損害賠償請求などの労使トラブルに繋がるリスクがあります。退職勧奨を行う際には、従業員の意思を尊重し、冷静かつ丁寧なコミュニケーションを心がけることが重要です。
面談でのやり取りの記録を残しておく
退職勧奨の面談では、日付、時間、場所、参加者、話し合った内容などを詳細に記録しておくことが重要です。議事録を作成し、参加者全員で内容を確認しておくと安心でしょう。
このような記録を残すためだけでなく、密室でのトラブルを防ぐためにも面談は常に複数人で行うことをおすすめします。記録があれば、後々、従業員との間で認識の食い違いが生じた場合にも、事実関係を証明することができます。
もし、訴訟などのトラブルに発展した場合には、会社側の対応に関する証拠にもなります。
多少手間ではあっても、面談の記録はすべて残しておくようにしましょう。
合意後は退職と相反する行為をしない
合意退職が成立した後、会社は退職と矛盾する行為をしないように注意する必要があります。
例えば、退職合意書の内容と異なる条件を提示したり、退職日を跨ぐような業務を依頼したりする行為が該当します。このような退職の合意と矛盾する行為を会社が行った場合、合意退職の効力が問われる可能性があります。
もし、退職日を合意していたにもかかわらず、それ以降のシフトを入れるなどがあれば、従業員側が合意退職は撤回されたのだと考えても不思議ではないでしょう。
退職の合意後は、退職合意書の内容を遵守した対応をとるよう心がけなければなりません。
退職届を提出させる・退職合意書を作成する
従業員が退職に合意したあとは、必ず退職届を提出してもらい、退職合意書を作成するようにしましょう。
退職届は、従業員が自らの意思で退職することを証明する書面であり、退職合意書は、会社と従業員の間で合意した退職条件等を明記した書面です。口頭による合意が無効であるわけではありませんが、これらの書面を作成することで、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。
退職に関する個別の条件については漏れなく合意書に記載し、条件の認識に齟齬がないことを双方で確認しましょう。
そのほか、事案によっては口外禁止条項なども盛り込む必要があります。
退職合意書を作成する際には、不足がないよう弁護士へリーガルチェックを依頼すると安心です。
退職の申し入れの撤回は認められるのか?
退職に合意していても、従業員が合意を撤回したいと申し出るケースがあります。
しかし、退職届を提出し、退職合意書に署名した後の撤回については、会社側が承諾しなければ法的に認められません。
もし、合意が口頭によるものであった場合には、言った、言わない等の水掛け論になることでしょう。
従業員が後日、合意の取消を求めることは決して少なくありませんので、退職届の提出や退職合意書の作成は必ず行いましょう。
ただし、これらの書面があっても、退職勧奨時に、退職強要や事実を誤認させるような対応があれば、撤回が有効になる可能性もあります。合意退職の流れは1つずつ丁寧に行うようにしましょう。
従業員が退職勧奨に応じない場合の対応
従業員が退職勧奨に応じない場合、無理に退職を迫ることは避けるべきです。退職勧奨は、従業員の自由な意思に基づいて退職してもらわなければならず、強制は許されません。
強行すれば、退職強要とみなされ、労使トラブルに繋がってしまいます。
従業員が退職勧奨に応じない場合は、退職勧奨を一旦中止し、従業員の意向を尊重しましょう。
必要に応じて、配置転換や職務内容の変更など、別の解決策を検討することも有効です。
ただし、本人の適性にそぐわない不明瞭な配置転換などは、退職勧奨に応じない報復行為とみなされるおそれがあります。パワハラとならないよう、配置転換の理由などは丁寧に説明し、前向きに捉えてもらえるよう努めるべきです。
退職勧奨に応じないのであれば解雇するしかない、と考えるケースもあるかもしれません。
しかし、解雇が有効とされるには様々なハードルがありますので、解雇を検討する場合には事前に弁護士へ相談しましょう。
合意退職を円満に進めるためにも、弁護士に相談することをお勧めします。
合意退職は、会社と従業員双方にとって重要な決断であり、法的な問題も多く含まれています。退職勧奨の流れや退職条件の交渉、退職合意書の作成など、専門的な知識が必要となる場面も少なくありません。
これらの対応が不十分であった場合、退職勧奨をきっかけとした労使トラブルが引き起こされる可能性もあります。合意退職を円満に進めるためには、事前に弁護士にご相談ください。
弁護士法人ALGでは、労務トラブルに豊富な経験をもつ弁護士が多数在籍しております。退職勧奨全般に関するお悩みはもちろん、想定問答へのアドバイスなど事前対策に対するサポートも行っております。
そのほか、退職合意書の作成やトラブルに発展した場合など幅広く対応しておりますので、少しでもお悩みがあれば是非ご相談ください。
弁護士に相談することで、法的なリスクを回避しながら円満な合意退職を目指すことができるでしょう。

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