監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士
寄与分は、自ら主張立証をしないと認めてもらうことができません。もちろん、他の相続人が素直に納得してくれれば、それに越したことはないのですが、遺産の価値が高額であればあるほど、各自の利害関係の対立は先鋭化しがちですし、そもそも感情的に対立しているような相手の場合、理解を得るのは困難でしょう。
そこで、寄与分を主張する方法について解説していきたいと思います。
目次
寄与分の主張に必要な要件
寄与分が認められるためには、寄与した者が共同相続人であること、寄与行為が相続開始前に行われていること、単なる寄与ではなく「特別の寄与」と認められるものであること、その寄与によって、被相続人の財産が維持・増加した、という関係が認められることが必要です。
例えば介護についても、単に身の回りの世話をした、お見舞いに行ったというだけでは、財産の維持増加に対する貢献としては寡少で、親族間の扶養義務を超えるようなものではないと判断される可能性が高いです。
「要介護度2以上で、本来なら介護施設に入所する等、費用を支出しなければならない状況にあった方に対し、自宅で自身が介護を無償で行うことにより、これら費用の支出をなくし、その分遺産が減らないようにした」というように、財産の維持増加に対する貢献が必要です。
特別寄与料について
寄与分は、共同相続人間における各自の取り分の問題ですので、全く関係のない他人がいくら貢献しても、寄与分はありませんが、法改正により、相続人でない者による寄与行為についても、被相続人の一定範囲の親族の場合は、「特別寄与料」の請求が可能になりました(1050条)。
被相続人の息子の嫁が、無償で寄与分が認められるようなレベルの介護をしていたという場合等が典型です。寄与分そのものを認めるものではなく、相続人に対して請求するものです。
寄与分はどう主張したらいい?
寄与分の主張は、自分から行う必要があります。他の相続人が事情を全て理解し、自分から譲ってくれるような場合は多くないからです。どのような行為をしたのか、その結果遺産がどのように維持・増加したのか等を具体的に説明しないと、理解を得ることは困難でしょうし、具体的な金額の話し合いにもつながらないと思いますので、きちんと資料を揃えておくことがとても重要です。
証拠がないと寄与分の主張は認められにくい
寄与分を認めるということは、他の相続人にとっては自分の取り分が減らされるようなものです。寄与によって維持増加した分は、寄与行為がなければ本来遺産として存在しなかったという点を理解してもらうにも、現に存在する遺産と、その人物が主張する寄与行為によって維持増加されたものの区別は必ずしも容易ではありませんし、納得を得るのはとても難しいものです。
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寄与分の証拠になるもの
寄与分を請求しようと考えるなら、その証拠となる資料の確保は、他の相続人の理解を得るにも、裁判所に審判を求めるにも極めて重要です。具体的な資料の内容は事案により異なりますが、典型的なものについては以下に記載しておきます。
介護していた場合(療養看護型)
療養看護型では、要介護認定が2以上であることがまず大前提となりますし、その認定資料には、どのような生活動作に介助が必要か等も記載されている場合が多いので、これらの資料は保管しておくべきです。無償で行っているきたことや、財産の維持増加に貢献したことを示すには、被相続人の預貯金の推移を示す必要もあるでしょう。被相続人のための買い物等で、被相続人の預金から出金する場合は、被相続人のために使ったものであることを証明するために、レシートなどをとっておくことも重要です。自身が行ってきた介護の内容等については、日記などで日々記録をつけておくことも有益です。
事業を手伝っていた場合(家事従事型)
家事従事型の場合、業種にもよりますが、自身が被相続人に代わって事業を行ってきたことを示す資料はもちろんのこと、帳簿や確定申告書類等、自身が代わって従事したことによる利益等を示す資料が必要不可欠です。
お金を出していた場合(金銭出資型)
金銭出資型の場合、自身の口座からの出金や被相続人のための支出に充てた金銭の流れ等を示すことが何より重要です。その他、金銭の流れや、被相続人のための支出に充てたことを示す資料として、例えば不動産の購入であれば購入日や入金予定日との整合性等の確認のため、売買契約書等の資料を併せて示すことが有益な場合もあります。
生活費を負担していた場合(扶養型)
扶養型の場合、生活費を直接負担している場合もあれば、仕送りをしている場合もあるでしょうが、いずれにせよ、その金銭の流れを具体的に示すことは重要です。扶養型の場合、被相続人との関係性から通常期待されるような扶養義務の範囲を超えるレベルでなければ寄与分としては認定されないので、具体的な支出やその金額の大きさ等を示すためには、被相続人の生活費に関するレシート等を保管しておくや家計簿などをつけておくことも有益な場合があります。
寄与分主張の流れ
遺産分割協議での主張
寄与分は、主張すること自体は口頭でも可能ですので、遺産分割協議の場などで主張するという方法もありうるところです。具体的な寄与分の額も含めて、他の相続人全員が納得してくれるなら、これに沿った遺産分割協議を行うということになりますが、遺産分割協議は全員の合意が必要ですので、一人でも反対されると成立しません。
合意が得られない場合は調停で主張する
当事者間の話し合いが困難な場合等は、家庭裁判所の調停手続を用いることになります。寄与分の主張自体は、遺産分割調停の中でも行うことが出来ますが、別途「寄与分を定める処分調停」を併せて申し立てておかないと、調停が不成立となった場合に寄与分について判断する審判手続が行われません。また、寄与分を定める処分調停のみを申し立てることについて、それ自体は可能ですが、遺産分割調停が併せて申し立てられていないと、審判移行時に不適法却下とされます。
調停不成立の場合は審判に移行する
遺産分割調停と寄与分を定める処分調停を併せて申し立てておくと、調停が不成立となった場合に、審判手続に移行し、後者の審判において、寄与分の存否等について裁判所が判断を下すことになります。
寄与分の主張は認められにくいので弁護士にご相談ください
寄与分は、資料の確保や、何をどのように主張すべきかという点はもちろんのこと、その計算方法や資料を整理して相手にわかりやすく提示する場面等でも、専門的なスキルが要求されます。
また、寄与分は立証のハードルも高い反面、当時者間の対立も先鋭化し、早期円満が解決だった事案が長期複雑化するといった場合もありますので、事前に見通しをたてておくことがとても重要ですので、まずは早期段階で弁護士に相談しておくことを強くお勧めします。
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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)