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相続問題

相続人に未成年がいる場合の遺産分割協議

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長 弁護士

遺産分割は相続人全員で行わなければ有効なものと認められません。法定相続人の範囲に含まれている場合、未成年者であっても相続人には変わりありませんし、遺産相続を受ける権利がありますので、遺産分割を行う場合はその未成年者も含めて手続を行わなければなりません。もっとも、未成年者は自身で法律行為を行うにつき制限があるため、通常とは異なる注意点も存在しています。

未成年者は原則、遺産分割協議ができない

未成年者は、原則として、法定代理人の同意なくして有効な法律行為をすることができません(民法5条1項参照)。同条但し書きには、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為(※贈与を受けること等)はその限りでないとも規定されていますが、遺産分割は自分の取り分について、割合や取得する財産の具体的内容等を取り決め合う複雑な法律行為ですので、単独で行うことはできません。

成年年齢の引き下げについて(2022年4月1日以降)

平成30年6月13日の改正により、成人年齢は20歳から18歳に引き下げられました。この改正は,令和4年4月1日から施行されています。成人年齢の引き下げによって、以前は20歳からとされていたものの一部は18歳から行うことができるようになり、遺産分割も18才から自身で行えるようになりました。成年年齢引き下げに伴う変更の詳細については、以下の法務省の記事もご参照ください。

民法改正 成年年齢の引下げ

成人になるのを待って遺産分割協議してもいい?

相続人の一部に未成年者が含まれているという場合、法定代理人や特別代理人選任の問題がありますので、その者が成人するまで遺産分割は行わないというのも選択肢の一つではあります。もっとも、相続税の申告期限と納税の問題や、改正法による特別受益や寄与分の主張に対する期間制限の問題もありますので、その判断は早期段階で専門家に相談の上、慎重に行うことをお勧めします。

相続人に未成年者がいる場合は法定代理人が必要

遺産分割を行う相続人の中に未成年者がいる場合、未成年者単独では有効な法律行為ができませんので、その法定代理人(又は特別代理人)を手続に関与させることが必要になります。

法定代理人になれるのは親権者(親)

未成年者の法定代理人は親権者というのが通常です。両親ともに健在という場合、共同親権者である両親の同意が必要になります。離婚等で単独親権の状況となっている場合は、その親の同意が必要です。死亡等で親権者が全て欠けてしまった場合は、未成年後見人の選任が必要になります。

親も相続人の場合は特別代理人の選任が必要

親権者が法定代理人の場合、未成年者が相続人となっている相続について、親権者自身も相続人というケースがありうるところです。遺産分割は被相続人の遺産を相続人でどのような割合で、どの財産をだれた取得するのかを話し合う、いわば限られたパイを分け合うようなものですので、相続人同士の利害は対立する関係にあります。法定代理人自身と未成年者の利害が対立するような場合は、法定代理人の同意ではなく、特別代理人の選任が必要です。

未成年の相続人が複数いる場合は、人数分の代理人が必要

相続人となる未成年者が複数という場合、特別代理人は各自にそれぞれ選任されなければなりません。遺産分割は相続人同士で利害が対立する関係にあるのですから、一人の人間が複数の未成年者の特別代理人となるのでは、未成年者同士の利害対立が生じてしまうからです。

特別代理人の選任について

特別代理人の選任は、家庭裁判所への申立てが必要です。その手続きについて解説します。

特別代理人とは

特別代理人というのは、親権者等の法定代理人が、自身の利害とその未成年者の利害が対立(利益相反行為)する場合に、法定代理人に代わって未成年者の立場で手続に関与する者のことです。選任には、家庭裁判所に申立書や各種資料、手数料等を納付して選任を申し立てることが必要です。

申立てに必要な費用

特別代理人の選任には、裁判所に納める収入印紙(800円)と予納郵券(裁判所によって異なりますが、概ね500~1000円前後です)が必要です。さらに、特別代理人の報酬も必要な場合があります(専門職の特別代理人が選任される場合は必須です)。

必要な書類

申立書の他、申立ての標準的な添付書類として、以下のものが挙げられます。
①未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
②親権者又は未成年後見人の戸籍謄本(全部事項証明書)
③特別代理人候補者がいる場合、その者の住民票又は戸籍附票
④利益相反に関する資料
⑤利害関係人からの申立ての場合は、利害関係を証する資料

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未成年後見人の選任について

死亡等の事情により、親権者が全て欠けてしまった場合、その未成年者には法定代理人がいないという状態になります。現実の監護は親戚等が事実上行っているという場合もあると思いますが、未成年者自身が当事者となる法律行為を行う場合には、法定代理人が欠けたままでは支障があります。そのための制度として、未成年後見人というものがありますので、以下説明していきます。

未成年後見人とは

未成年後見人は、親権者を欠いた状態にある未成年者に選任され、法定代理人として活動する者です。申立ては未成年者自身(※意思能力が必要です)の他、未成年者の親族やその他利害関係人も行うことができます。

申立てに必要な費用

未成年後見人の選任も、家庭裁判所に申し立てる必要があります。そのための費用として、少なくとも裁判所に納める印紙代(800円)と予納郵券(裁判所により異なりますが、概ね3000円前後)が必要です。

必要な書類

申立書の他、申立ての標準的な添付書類として、以下のものが挙げられます。
①未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
②未成年者の住民票又は戸籍附票
③未成年後見人候補者がいる場合、その者の戸籍謄本(法人の場合は商業登記簿)
④親権を行うものがないこと等を証する書面(親権者の死亡の記載された戸籍等の謄本等)
⑤未成年者の財産に関する資料
⑥利害関係人からの申立ての場合,利害関係を証する資料
⑦親族からの申立ての場合,自身と未成年者の親族関係を証する戸籍謄本等

未成年の相続人が既婚者の場合は代理人が不要

改正前の民法では、成年年齢よりも婚姻可能年齢が異なっていたため、未成年者を成年とみなす、いわゆる成年擬制という制度がありました。改正後は、どちらも18才に統一されているため、もはや成年擬制という場面自体がなくなり、条文も削除されました。

親が未成年の相続人の法定代理人になれるケース

親権者が存在する事案でも、常に特別代理人の選任が必要というわけではなく、選任が必要なのは自身の相続人の一人であるというような利害対立(利益相反)が存する場合だけです。

親が相続放棄をした場合

親権者が未成年者とともに法定相続人という事案でも、すでに親権者自身は相続放棄をしているという場合には、もはや利害対立はありません。相続放棄は撤回できませんし、放棄後は相続開始時にさかのぼって相続人の地位を失うからです。

片方の親がすでに亡くなっており、未成年者が代襲相続人になった場合

下の図のような代襲相続の事案では、被相続人(父A)と血縁関係にない親権者(長男の妻E)は、Aの相続について相続人の地位を有しません。したがって、長男Cの地位を代襲相続した孫Fが父Aの相続について遺産分割協議等を行うに際し、Eが法定代理人として活動することができます。

未成年者を含む遺産分割協議を弁護士に依頼するメリット

相続人に未成年者を含む相続の事案では、誰と話し合いをするべきか、特別代理人等の選任は不要か等、判断に迷う場面も多いと思います。また、親権者の立場からみても、法定代理人として活動すると言っても、子供にとっての最善を求めようにも、親族同士の話し合いにどのように主張していけばよいのか等の判断は容易ではないと思います。いずれの立場からも、専門家の関与は不可欠に近いものと思いますので、早期に弁護士に相談されることを強くお勧め致します。

福岡法律事務所 副所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 副所長
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
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