限定承認とは|相続で限定承認を行うメリットとデメリット

相続問題

限定承認とは|相続で限定承認を行うメリットとデメリット

福岡法律事務所 所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 所長 弁護士

遺産や債務を受け継ぐか、全て放棄するかという選択肢の他に、限定承認という制度が存在しています。ただし、この制度は利用するかどうかを含めて、正しい知識の下、適切に判断する必要があります。結論から申し上げますと、相続人の側にとって、この制度を利用するメリットはほとんどありませんし、相続放棄と比べて、手間も責任も過大になるものです。ごく一部の例外的な場合を除けば、相続が生じた場合の選択肢には入れないほうが無難です。

限定承認とは

限定承認とは、相続によって得た財産の限度でのみ、被相続人の債務等を弁済する義務を負うという制度です(922条以下)。誤解をおそれずに言えば、「プラスの財産の範囲でのみマイナス分を相続する」というような制度ですが、プラスの財産が余ったとしても、直ちにこれを自由に使えるわけではありません。

令和元年度の裁判所の統計をみても、相続放棄の新規申立件数が22万5415件であるのに対し、限定承認の新規申立件数は657件にとどまっているとおり、多くの事案で利用されるような制度ではありません(司法統計・令和元年度家事編参照)。

利用を検討する場合は、相続人にとって、限定承認を利用するメリットがあるのは、ごく一部の例外的な事案に限られるものであることや、煩雑な手続や費用負担の問題に加えて、相続人が負う義務や責任も大きいこと等、極めて使い勝手の悪い制度であることを十分理解しておく必要があります。

限定承認のメリット

限定承認でメリットがあり得るのは、①債権者に対してプラスの遺産の範囲だけでも弁済することについて、それ自体を利点と解しうる場合か、②プラスの遺産の中にどうしても買い取りたい物がある場合くらいです。誤解をおそれず言えば、相続人にとって、これ以外にメリットがある場合は想定しがたいものです。

「プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いか判然としない場合に、限定承認をしておけば、プラスの遺産を超える部分の責任を負わない」という点もメリットとして挙げられますが、プラスの財産が残ったとして、直ちにこれを私的に使うことができるわけではありません。

負債を負うことがない

限定承認をすると、プラスの財産の範囲内という限定の下、これを超える負債は支払義務を負わなくなります。単純承認と比較すると、遺産に属する債務等について手出しをする必要がないというのはメリットのように感じられるかもしれませんが、責任を負わないことを志向するなら、相続放棄をするほうがはるかに簡便です。限定承認は、手間も費用も責任も大きい手続ですので、なぜわざわざそのような制度を利用するのかを明確に説明できない場合は、単純承認と相続放棄のどちらかを選択するほうが穏当です。

被相続人の債務について連帯保証人等になっている場合

限定承認は、「プラスの財産を債権者への支払いに充てる」という点が相続放棄と一番大きく違う点です。 これ自体がメリットになりうる場合の典型例として、被相続人の債務について、自身が連帯債務者や保証人になっている場合が挙げられます。 連帯債務者や保証人の責任は、相続とは関係なくその人自身が負っているものですので、被相続人の債務について相続放棄や限定承認をしても、連帯債務者や保証人としての責任を免れることはできません。 限定承認は一部の債権者だけに支払うような手続ではないことには注意が必要ですが、被相続人のプラスの財産の範囲内だけでも返済するほうが、借金の総額が減り、自身の責任を軽くすることができます。手続費用の問題や、破産とどちらを選択するのか等は検討すべきところですが、限定承認にメリットを見出し得る場合があるでしょう。他にも、相続人を含め、近しい親族が債権者に含まれている場合等にも、いくらかでも相続人のプラスの遺産から返済されるほうが良いという判断はありうるところです。

特定の財産を残せる

相続財産の中に、どうしても取得したい物がある場合も、限定承認を検討するメリットが生じる場合があります。相続財産を売って債務を返済する場合は競売に付さなければならないというのが原則ですが、限定承認者は、家庭裁判所に鑑定人を選任してもらい、その評価額にしたがった価額を支払うことによって、優先的に買い取ることができます(932条)。これは先買権と呼ばれているものです。

あくまで買い取りですので、買取費用は遺産以外から捻出しなければなりませんが、例えば先祖伝来の土地だけは残したいという場合等、単純承認以外の方法で優先的に買い取ることを希望する場合は、確実な方法の一つです。ただし、抵当権が付されている不動産は、この方法による処理が困難です。

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限定承認のデメリット

限定承認は、債権者が相続財産の範囲で弁済を受けるという点や、先買権の他には、相続人にとってほとんどメリットがありません。その割に、申立やその後の手続が極めて煩雑ですし、専門家に依頼した場合の費用も相続放棄とは比べものになりません。公告費用や税制上の問題、財産管理に関する限定承認者の責任等、限定承認は、相続人にとってデメリットのほうが大きい場合がほとんどなのです。

相続人全員が限定承認する必要がある

限定承認は、相続人全員が共同して行わなければならないものです(923条)。同順位の相続人のうち、一部の相続人が単純承認するという場合は用いることができません。相続放棄をした者がいる場合、その者は「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったもの」とみなされますので(939条)、限定承認を行う場合、それ以外の相続人全員で共同して行うことができます。

相続財産に手を付けることができない

限定承認の手続では、債権者に対する公告・催告(927条)や弁済(929条)等を行いますが、公告期間内に申出をしなかった債権者も、残余財産(残った遺産)の範囲では権利を行使することができます(935条)。限定承認者は、財産を管理する責任を負いますし(926条)、限定承認をした後も、相続人は相続財産の私的な消費について、単純承認とみなされる危険を負っています(921条3項)。限定承認をした場合、プラスの遺産が余ったとしても、ただちにこれを使うのはリスクが伴うということです。

公告期間内に申出をした者以外に、相続債権者がいないという確信があれば問題ないのでしょうが、そんな確信があるなら単純承認で十分とも言えます。

税金がかかってしまう場合がある

限定承認による相続の場合、実際には売却していなくても、税務上、相続時に売却したものとみなして所得税(税率20%)を課税するという取扱いがされます。

預金等は問題になりませんが、不動産や株式のように時価額が変動するものの場合、含み益に対して「被相続人に対する所得税」が課税されます(所得税法59条1項)。あくまで被相続人の所得税ですので、相続人が行うのは「準確定申告」です。これは相続開始後、4ヶ月以内に行わなければなりません。

このみなし課税分についても、限定承認者はプラスの遺産の範囲でしか責任は負いませんが、プラスの遺産とマイナスの債務がギリギリという事案では、この税金の問題を考慮すると、そもそも相続放棄をすれば十分だったという場合もあり得るでしょう。

申請までに手間や時間が掛かる

限定承認は、家庭裁判所に申述受理の申立てを行う方法によって申請します。相続放棄の場合と大きく違うのは、財産目録の作成・提出が申立ての要件とされている点です(924条)。したがって、申立てを行う前に、どのような資産があるのかについて、調査をしなければなりません。調査には限界がありますが、ここを疎かにしてしまうと、相続財産の隠匿等の誹りを受けてしまい、最悪の場合、単純承認をしたものとみなされてしまう危険もありますので注意が必要です。

受理された後も、更に手続きがある

限定承認者は、限定承認の申述が受理された日から5日以内(相続財産管理人が選任された場合は選任後10日以内)に、すべての相続債権者と受遺者に対し、限定承認をしたこと及び2ヶ月以上の一定期間内に請求の申出をすべきことを公告しなければなりません(927条1項)。公告は官報に掲載して行いますが、官報掲載は申し込みとのタイムラグがありますので、これも考慮した上で、裁判所と調整しなければなりません。すでに知っている債権者については公告だけではなく、個別に催告をしなければなりません(同)。公告や催告を怠った場合、限定承認者自身が賠償責任を追及される危険があります(934条1項)。

限定承認者は、相続財産の管理責任を負います(926条1項)。限定承認者が複数いる場合は、そのうち一人が財産管理人として家庭裁判所に選任されます(936条1項)。預金の解約や、債権回収を行う他、不動産等は全て競売に付して換価しなければなりません(932条)。先買権の場合を除き、競売以外の方法は禁止です。

これら遺産は、公告期間の満了後、限定承認者が債権者に対し、債権の割合に応じて弁済しなければなりません(929条)。不当な弁済をした場合、限定承認者自身が賠償責任を追及される危険があります(934条1項)。

公告期間内に申出をしなかった債権者は、残余財産に対する権利行使ができます(935条)ので、プラスの財産が残っている場合は引き続き管理をしなければなりません。

限定承認の手続き方法

限定承認の申出は、財産目録を作成の上、家庭裁判所に提出し、申述受理を申し立てる方法により行います。一般的な提出書類として、①申述受理申立書、②当事者目録、③財産目録一式、④その他添付書類の4つが挙げられます。④の典型例としては、被相続人の出生~死亡までの戸籍や住民票の除票、申述人全員に関する戸籍謄本等が挙げられます。

限定承認も相続放棄と同じく、相続開始を知った時から3ヶ月以内に行う必要があります(915条1項)。この期間を徒過した場合は単純承認をしたものとみなされます(921条2項)。限定承認を行う場合、財産目録の作成が必須ですので、遺産の調査が不可欠です。調査には期間を要しますので、まずは家庭裁判所に申述期間の伸長を申し立てた上で、その期間内に申立てを行う必要があります。

限定承認についてご不明な点はぜひご相談ください

限定承認は、遺産調査~申立て~官報公告等、その手続きを自身で行うことは危険が大きすぎます。専門家に依頼した場合、相続放棄の数倍の費用がかかりますし、官報への公告費用等も負担しなければなりません。お世辞にも使いやすい制度ではありませんが、これらを踏まえても、限定承認を利用するメリットがある場合もありますし、3ヶ月という期間制限がありますので、どの方法を用いるべきかという点の相談はもちろんのこと、その判断の前提となる遺産調査等も含めて、早期段階で弁護士等の専門家に相談されることを強くお勧めいたします。

福岡法律事務所 所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 所長
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。