成年後見制度とは|相続における役割と手続

相続問題

成年後見制度とは|相続における役割と手続

福岡法律事務所 所長 弁護士 今西 眞

監修弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 所長 弁護士

成年後見制度とは

成年後見制度とは、認知症、知的障がい、精神障がい等によって判断能力が不十分である者を保護するとともに、そのような者の自己決定権を同時に尊重する制度です。成年後見制度と同種の制度として、保佐人、補助人の制度があり、事理弁識能力の不足・欠缺の程度で後見、保佐、補助が使い分けられています。

成年後見制度等は、1999年(平成11年)12月1日、第146回国会で成立した「民法の一部を改正する法律」により定められました。制度の沿革としては、成年後見制度と同時に施行された介護保険制度が、成年後見制度を必要としたといわれています。
成年後見人は、本人(成年被後見人)の法定代理人として、代理権を有します。この代理権に基づいて、遺産分割協議その他の法律行為を、本人に代わって行うことになります。

相続の場で成年後見人が必要なケース

相続手続で、成年後見人が必要となる代表的な場面は、遺産分割協議をする場合です。遺産分割協議は、複雑な利害得失を踏まえた上で判断しなければなりません。しかし、認知症、知的障がい、精神障がい等によって判断能力が不十分である者は、このような判断を適切に行うことができません。成年後見人の選任が必要となる者は、意思能力がない場合が多いです。このような場合、遺産分割協議自体が無効になりえます(民法3条の2)。そのため、遺産分割を行うために、成年後見人の選任が必要になるのです。
成年後見人は、その代理権(法定代理権)に基づき、被後見人のために遺産分割協議を行います。

相続人が未成年の場合は未成年後見制度を使う

成年後見制度と混同しやすい制度として、未成年後見制度があります。
未成年後見制度は、親権者の死亡等のため未成年者に対し親権を行う者がない場合に、家庭裁判所が、申立てにより、未成年後見人を選任するという制度です(民法840条)。
未成年者は、原則として行為能力がないため、単独で、相続人として遺産分割協議等を行うことができません。未成年が、遺産分割協議等を行うときには、法定代理人が未成年者の法定代理人として行うことが通常です。一方、未成年者に親権者(法定代理人)がいないときは、未成年後見人の選任が必要となります。
なお、未成年者に親権者がいるものの、未成年者と親権者の利益が相反するときや、他の未成年者との間で利益が相反するとき、親権者は、当該行為について、親権を行うことができません。このような場合、家庭裁判所による特別代理人の選任が必要となります(民法826条1項2項)。このような場合に選任するのは、「特別代理人」であって「未成年後見人」ではないので、注意が必要です。
未成年後見人も、成年後見人と同様、代理権を有します。未成年後見人も、その代理権(法定代理権)に基づき、遺産分割協議を行います。

成年後見人ができること

成年後見人の職務には、財産管理事務(民法859条1項)と身上監護事務があります。
財産管理事務として、被後見人の財産調査、財産目録の作成、生活等のための支出金額の予定等があげられます。
身上監護として、被後見人の生活を維持するための仕事や療養監護に関する契約等があります。具体的には、被後見人の住居のための賃貸借契約、介護契約、施設等の入退所の契約、治療や入院等の手続があげられます。これに対し、成年後見人は、医療行為の同意(身体の侵襲を伴う手術等に対する同意)はできないと解釈されています。また、成年後見人は、被後見人のために選挙の投票を代理することもできません。あくまで、被後見人が、選挙権を有し、行使することになります(成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律)。

成年後見人になれるのは誰?

成年後見人には、欠格事由が定められています(民法847条)。特に、成年後見人となろうとする者と成年被後見人となろうとする者との間で、利害対立があるとき、そのような者は、成年後見人になることはできません。成年後見は、あくまで本人(被後見人)のための制度ですので、「本人のためにならないような行動を取るおそれ」がある者は、成年後見人として不適格であるためです。

欠格事由に該当しなければ、誰でも成年後見人になれるというのが建前です。
では、実際には、どのような方が成年後見人になっているのでしょうか。成年後見制度に関しては、最高裁判所事務総局家庭局が、「成年後見関係事件の概況」という統計資料を公表しており、これに成年後見人の内訳が報告されています。
令和2年の統計では、配偶者、親、子、兄弟姉妹その他の親族が成年後見人となったケースが全体の約20%弱となっています。親族以外が成年後見人となる場合、司法書士、弁護士、社会福祉士等が成年後見人になっています。

誰が申し立てすればいい?

成年後見の申立権者は、『本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官』です(民法7条)。民法の定めの他、老人福祉法32条、知的障碍者福祉法28条、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律51条の11の2により、市町村長に、成年後見の申立権が認められています(ただし、市町村長申立てがされることは多くありません。)。

成年後見制度申し立ての手続

成年後見の手続(後見等開始の審判手続)は、概ね、以下のような流れで進みます。

①申立て準備

②申立て(※申立て後は、裁判所の許可がなければ取り下げることができませんので、注意が必要です。)

③-ⅰ 家庭裁判所における調査
・申立人調査(面接)
・候補者調査(面接)
・本人調査(面接)
・親族への照会
などが行われます。
③-ⅱ 鑑定
→本人の意思能力を判断するための手続です。行われないこともあります。

④後見(保佐、補助)開始の審判

⑤審判の確定

⑥登記

⑦成年後見人による初回財産目録の作成、裁判所への提出

成年後見人の候補者を決める

成年後見開始申立書には、『成年後見人等候補者』を記載する欄があります。
成年後見人になってもいいという候補者がいる場合は、この欄に候補者を記載することになります。
もっとも、必ず候補者がいるとは限りません。成年後見人は、被後見人か成年後見人が亡くなるまで、被後見人のために様々な事務を行わななければなりません。もちろん、成年後見人が、被後見人の財産を勝手に使うこともできません。成年後見人の仕事は、非常に責任の重い仕事です。成年後見人の成り手が、常にいるわけではありません。
そのため、候補者がいなくても、後見開始の審判の申立てはできます。候補者がいない場合、家庭裁判所が、候補者名簿の中から、事案に応じて適任な方を選任することになります。
なお、申立書に候補者として記載された方が、必ず成年後見人に選任されるとは限りません。

必要書類を集める

後見開始の審判の申立てに必要な書類は、申立書、申立書付票、本人に関する質問票、親族関係図、親族同意書説明文、候補者質問票、財産目録、診断書、診断書付票などです(福岡家庭裁判所に申し立てる場合の基本的な必要書類)。本人の戸籍全部事項証明書、本人と後見人候補者の住民票又は戸籍の付票、成年後見等の登記が既にされていないことの証明書等も添付書類となっています。また、福祉関係者(ケアマネジャー)などに作成してもらう「本人情報シート」や、本人の健康状態に関する資料(介護保険被保険者証、療育手帳など)も添付書類です。
以上の他、家庭裁判所により必要書類が定められていることがあります。申立ての際には、必ず申立先の家庭裁判所に、必要書類を確認するようにしましょう。

また、医師に作成してもらう診断書等には、本人の意思能力の程度を適切に判断するために必要十分な内容を記載しなければなりません。記載内容に関し、家庭裁判所から「診断書記載ガイドライン」といったものが公開されています。認知症学会専門医等、後見開始の審判のための診断書に慣れている医師でなかった場合、家庭裁判所が公開しているガイドライン等をお渡しして、適切な診断書を書いてもらえるようにしましょう。

後見・補佐・補助について

後見、保佐、補助は、本人の事理弁識能力の程度で決まります。
後見は『精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者』、保佐は『精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者』、補助は『精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者』と区分けされています(民法9条、11条、15条)。
一般に、植物状態、重度の知的障がい(IQ40以下、療育手帳で最重度又は重度)、高度認知症(改訂長谷川式簡易知能スケール11点以下等)の場合、後見相当と評価されるとされています。これより判断能力がある場合、保佐又は補助となりますが、その境界は流動的です。

家庭裁判所に申し立てを行う

申立てのための必要書類がそろったら、家庭裁判所に申立てをすることになります。管轄は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。

家庭裁判所による調査の開始

申立て後、家庭裁判所による調査が行われます。本人や、後見人候補者の面談が行われ、家庭裁判所調査官や参与員が、申立てに関する事情を詳しく聞き取ることになります。なお、本人の面談は、本人の体調、精神状態等により実施されないこともあるようです。

成年後見人が選任される

家庭裁判所が、後見開始を相当と認めた場合、後見開始の審判がなされ、成年後見人が選任されます。
前記のとおり、申立書記載の成年後見人候補者がそのまま選任されるとは限りません。親族間の対立が大きかったり、複雑な法律問題を抱えたていたりする場合などには、親族ではなく弁護士、司法書士、社会福祉士等の専門職が選任されることがあります。
後見開始の審判が確定すると、家庭裁判所から、東京法務局に対し、成年後見登記の嘱託がされます。成年後見登記が完了すると、家庭裁判所から、成年後見人に対し、「登記番号通知書」が送付されますので、受領後は、成年後見登記にかかる登記事項証明書の取得が可能となります。

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成年後見人の役割は本人の死亡まで続く

一度成年後見人に就任すると、その任務は、本人若しくは成年後見人の死亡又は家庭裁判所から解任され若しくは辞任が許可さるまで、続きます。成年後見人の仕事は、簡単にやめられないものです。
「相続の手続だけのために成年後見人になる」というのはできません。当面想定されている手続が多くなかったとしても、軽い気持ちで成年後見人にならない方がよいでしょう。

成年後見制度にかかる費用

後見開始の審判申立てのための費用は、印紙代、後見登記手数料、郵便切手代で計1万円かからない程度です。この他、医師の診断書料等の実費がかかります。また、鑑定が必要となる場合、10万円~20万円程度の費用を予納する必要があります。
これらの他、弁護士に依頼をして申立てを行う場合には、弁護士費用がかかります。
なお、交通事故等の不法行為により後見開始の審判が必要となった場合、一定額(10万円前後)の後見開始費用が認められることがあります(東京地判平成16年12月21日交民37巻6号1721頁他)。

成年後見人に支払う報酬の目安

成年後見人から、報酬付与の申立てをすると、家庭裁判所は、報酬額を決定する審判をします。
専門職が成年後見人となった場合の報酬の目安が公開されていますが、基本的な報酬が月額2万円、成年後見人の管理する財産の額が1000万円超5000万円以下の場合月額3万円~4万円、5000万円を超える場合は月額5万円~6万円です。
親族が、成年後見人となる場合には、専門職がなる場合よりも若干減額されることが多いようです。
ただし、上記はあくまで参考となる基準です。成年後見人が特別の行為をした場合には、相当額の報酬(付加報酬)が追加で付与されることがあります。
成年後見人への報酬は、被後見人の財産から支出されます。

成年後見制度のデメリット

成年後見人が就任した場合、被後見人の財産の管理処分は、成年後見人が行います。例えば、後見開始前は親族が事実上本人の財産を処分していた場合でも、成年後見人が就任すると、このような処分ができなくなります。被後見人が、多額の財産を有する場合、いわゆる相続対策を自由に行うこともできなくなります。
このような効果は、被後見人の周囲の方々(親族等)にとって不都合かもしれませんが、そもそも、被後見人の財産を管理処分するのは、あくまで被後見人本人です。被後見人に十分な判断能力がなくなった場合、周囲の方々が、その財産を自由に処分できなくなるというのは、当然の効果として受け入れるしかありません。

成年後見制度についてお困りのことがあったらご相談下さい

以上解説した他にも、成年後見に関しては、多くの法律問題があります。成年後見人が就いたからそれで安心、という簡単なものではありません。
思わぬトラブルを防止するためにも、成年後見制度の利用を検討されている方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

福岡法律事務所 所長 弁護士 今西 眞
監修:弁護士 今西 眞弁護士法人ALG&Associates 福岡法律事務所 所長
保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:47535)
福岡県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。